その323
またかなり間が空いてしまいましたすみません!
本当にくだらなさすぎるお話のせいでまた随分と時間を取られてしまった。いい加減休憩はこれくらいにして、次にどこへ向かうかを早く決めなければ。
自分から聞いておきながらなんて失礼な言い草なんだ私は……。でも反省はしない。あそこまでくだらない内容だと誰が予想できようか!
早速次なる行動を開始。ジニーさんの膝の上から降り、まずは大人しく並んでお座りをして待っていたルシアとクラリスの元へ。
私が近付く気配を見せると尻尾をブンブンと振り回し、全力で歓迎と喜びの意を表す二匹。可愛すぎる。
「やっぱ変にでかいよなそいつら」
「そりゃ見た目は犬でも一応魔物指定されてる奴ららしいからなー。しっかし、姫と並ぶとそのでかさもさらに際立つな」
「むむ?」
また何か失礼なことを言われているような気が……? ま、まあ、気のせいだろうね。うん。
背後から聞こえてきた声に振り向くと、すぐ後ろにエンリクさんとレミジオさんの二人が立っていた。
どうやら今度は興味の矛先が私に向いたらしい。さっきのくだらないお話といい、今日は二人とも暇なんですね分かります。
そういえば、結構忘れがちだけどルシアとクラリスは魔物なんだったね。私から見たらただの大きな、いや、大きすぎるだけの犬だから忘れてしまっても仕方がないことだと思う。
実際魔物なんて呼ばれるのは人に害を与える生き物の筈。そしてルシアとクラリスは、私かマリーさんが命令するか、家族の誰かが襲われでもしない限り人を攻撃しようなんて思いもしないとてもいい子たち。つまりこの二匹は誰が何と言おうとただの犬なのだ!
「今更かもしれないっすけど、飼い主はシラユキ様じゃなくてマリーなんすよね? でもコイツら明らかにシラユキ様の方に懐いてないすか?」
二匹の頭をわしゃわしゃと荒く撫でながら、本当に今更過ぎる疑問を口に出すノエルさん。その気持ちは分からないでもない。
ふふ、二匹とも気持ちよさそう。私もあんな風に撫でられてみたいなー。と、それはそれとして。
「な、なんでだろうねー?」
いやあ、さすがに意思の疎通が可能だからとか、普通にお話ができるからとか言ったらどん引きされそう。なので適当に誤魔化しておこう。
「シラユキちゃんだからじゃない?」
「姫だからか」「姫だから仕方ないよな」
「なるほどさすがシラユキ様っすね!」
「何がさすがでどういう意味!? まったくもうみんなしてー!」
それに何が仕方がないんですかねえ……。
実際二匹の頭の中では飼い主なんていうカテゴリは存在していなく、マリーさんの事はお姉さんのように思っているらしい。キャンキャンさんは更にもう一つ上のお姉さんかな?
強いて飼い主的な人物を挙げるとしたら、それはアリアさんなんじゃないかなと思う。何と言ってもマリーさんのお母さんなんだし。
私も一度会ってみたいけど一体いつになることやら……。それ以前に実現するかも怪しいところだね。
「魔物ねえ……。そう改めて見てもやっぱでかいだけの犬だよなホント。そういやなんて名前の魔物なんだ?」
「名前って、種類? ストレイドッグとかいう犬の魔物じゃないの?」
ストレイドッグは確か、野生に生きる大型犬みたいなそんな感じの魔物だったはず。規模の大きい群れを形成していたりするとかなり危険なんだとか。
「んな訳あるか! こんなでかいのがワラワラいたら今頃とんでもない事になってるって。姫って魔物の図鑑は全然見せてもらってないのか? 一月くらい平気で引きこもるくらい本好きなのに」
「う、うん。怖い事が沢山書いてあるから読んじゃ駄目って言われてて……」
魔物自体にあんまり興味がないから進んで読もうとも思わないけどね。どうせ可愛くないのばっかりだろうし。
しかし、ルシアとクラリスはストレイドッグじゃなかったのか……。言われてみればこんな規格外すぎるサイズの野犬の群れがあったら大問題だよ。あはは。
「そもそも女の子が魔物の図鑑なんて読まないだろ。んー、犬型の魔物って結構いるよな? この辺にはさっき姫が言ってたストレイドッグくらいしか出ないだろうけどさ」
「ああ、確かに多いっちゃ多いなあ。種が近いと交配して新しい奴らが産まれてくる場合もあるんだよ。こいつらもその類じゃないのかーって俺は思うぞ」
「へー。そういえばマリーさんの所に貰われてきた時はまだ小さな子犬だったらしいし、そうなのかもしれないね」
思い返してみると、実は魔物なんですの、とは言われていたけれどその種類までは教えてもらってなかった気がする。本当に新種なら魔物と種別しなくてもよくなるのではないだろうか!?
いい加減話を切り上げて次の目的地について話し合わないといけないんだけど、色々な意味で興味が沸いてきてしまったじゃないか。
「白って言うか、銀色のでかい狼ならランケールフだろうな」
「あ、スティーグさんは知ってるの? ……え? LANケーブル!?」
いつの間にやら近くへ来ていたスティーグさんから、衝撃的で懐かしすぎる名称が飛び出してきた。
な、何? 一体何と何を繋げるの!? それ以前にこの世界にインターネットやらパソコンなんて物が……、ある訳ないね。うん。その前にルシアもクラリスもれっきとした生き物だよ。
「ルフっすよシラユキ様。ランケールフ」
「ら、ランケールフ、だね」
普通に聞き違えてしまった。恥ずかしいわ……。
「あ、それ俺知らね」
「俺も初めて聞く名前だな」
おや? レミジオさんとエンリクさんは知らない、と。勿論私も初耳で全く知りません。
「でもさすがにランケールフはあり得ないっすよ。ランケールフなんてもう絶滅した筈……っすよね? 姉御」
軽く笑いながら完全否定してしまうノエルさん。でもジニーさんに確認を取ってしまう辺りが微笑ましい。
なーんだ違うのか。しかも悲しいことに絶滅種。それってつまり、本物なら大発見なんじゃ……?
銀色の大きな犬、じゃなくて狼? 世界は広いんだしそれくらい似た特徴の生き物程度、普通にゴロゴロいそうだしそれはないか。
「うん? あ、その子たちの事ならランケールフで合ってる合ってる。ごめんねー、お姉ちゃんちょっとよそ見しちゃってて……」
!? なんですって?
「は!? いや、とっくに絶滅したんじゃ、ってなんでそんな離れてるんすか姉御……」
「だって私が近付くとクラリスちゃんが唸るんだもん! ルシアちゃんはそこまで露骨に嫌がらないのにー!!」
微妙に3m程度離れてきゃいきゃい騒ぐジニーさん。
ルシアも感情を表に出さないだけで普通に超嫌がっている、のだけれど言わないでおいてあげよう。
ううむ、二人の反応からすると別に大発見って言うほどの事でもないのかな? でもそれはそれとして……。
「ねえねえスティーグさん」
「ん? どうした姫。そろそろお腹空いたか?」
「違うよ!? もう!」
ツッコミは控えめに。私の好奇心はもう限界の全開なのです!
グリニョンさんは……、寝ちゃってるのか机に突っ伏してる。よし、もうちょっとくらいお話してからでも大丈夫そうかな? ふふふふ。
「ランケールフはさっきも言ったとおり、いや、この二匹を見てのとおり馬鹿でかい銀の毛の狼の魔物で……」
「……う? 魔物で?」
スティーグ先生のランケールフ解説が、始まったと思ったら一分も経たずに止まってしまった。スティーグさんもクレアさんとまではいかないけれど、あんまり表情に変化が表れない人なので理由は全く察することすらできない。理由も続きも気になる気になる木。
「どしたんすか?」
私に続いてノエルさんも首をかしげ、何故か丁寧語で問いかける。
多分自分よりずっと強くて、さらに年上の人だからだろうと思う。
「なあ姫、こいつら今何歳くらいだ? 十年は軽く経ってるよな確か」
「え? あ、何歳だろ……? ちょっと待ってね」
質問に質問で返されてしまった! 私はそれくらいの事で怒ったりしませんけどー。
ええと、初めて二匹が森にやって来たのは……、あれ? いつだっけ? まだ普通の大型犬サイズの頃だったのは覚えてる。
マリーさんが犬を飼い始めたとか嬉しそうに語っていたのは……、うーん……? 忘れました! お友達になってから何年か経った頃だっていうのは覚えてる。
「えーっと、多分二十歳くらい? だと思う」
「多分ってなんだよ……」
うう、普通に呆れられてしまった。ぐぬぬぬう。
思い出そうとして気付いたけど、二匹ともいつの間にやら結構なお年に……。内面の声は無邪気な子供みたいなのにね。
「うんうんそれくらいだね。ふふふ」
おお、よかった合ってた。ジニーさんは自分にあまり関係のないことなのによく覚えてるね。やはりできる人は違うわ。
「姉御も知ってるんなら先に答えて差し上げりゃいいじゃないっすか……」
「あ! 確かに!」
そうだよ! できる人とか思っちゃ駄目だよ私!! 今のはシアさんがよくやるちょっとした意地悪に似てる気がする。
さすがシアさんのお姉さん的なお人なだけあるね。悪い意味でのさすがだけど!
「いやいや何言ってんだ。姫が考え込むところとか可愛いだろ? それを見てからでも遅くないんだよ」
「ちょっと失敗するところとかも見てて楽しいしな。そんなんじゃ姫のメイドとしては失格だぞー」
「なにそれひどい。ノエルさんはこんな人たちの言葉無視しちゃっていいからね!」
「はい! あー、いやその、ですね……。アタシもシラユキ様の可愛らしいところが見れるなら見たいって言うか……。あはは」
あははじゃありませーん! まあ、私のメイドさんとしてはそれで合格かもしれないけどさ。ふんだ。
それよりそろそろ、いい加減お話の本筋に戻ってもらえませんかねえ……。
「二十歳過ぎてるならもう充分に成体か。姫、こいつらのどっちか伏せさせてくれ」
「あ、うん」
会話が途切れたのをいいタイミングと見たのか、スティーグさんから何やらお願いをされてしまった。
スティーグさんは、よく言えば物事に動じない落ち着いた大人の人なんだけど、実際のところ今のは面白そうだからと黙って見ていただけだったりする。
それが嫌という訳ではないのだけれど、ちょっとくらい注意してくれてもいいんじゃないか! ともやもやしてしまう。
勿論ジニーさんについては完全に諦めています。この中で一番の年長さんなのだけれど、それがジニーさんの魅力だからね。ふふ。
「ルシアルシア、ちょっと伏せて」
(はーい)
軽く背中の辺りを撫でながら言うといい返事を一つ、即座にその場に伏せるルシア。
とりあえずいい子いい子と頭を撫でてあげよう。尻尾フリフリが激しくなってしまうが気にしない。
(くらりすも! くらりすもー!)
「う? おいでおいでー。クラリスはこっちね。ルシアの隣」
(はーい!)
二匹並ぶようにしてクラリスも伏せさせ、同じように頭をウリウリ撫でてあげる。尻尾が巻き起こす土埃が二倍になったがやはり気にしない。
「シラユキ様すっげえなあ……。にっこにこして可愛いなあ……」
「ホントに何で姫の言うことは素直に聞くんだろうな?」
「マリーちゃんなんていっつも四苦八苦してるのにね!」
尊敬やら疑問やら微笑ましいやら、そんな視線がちくちくと突き刺さってくる。ただ二匹に伏せをさせただけなのに何故なのか……。コレガワカラナイ。
「ありがとな。どれどれ……、とその前に、こいつら俺が触っても大丈夫なのか?」
「うん、森の家族なら誰でも触って大丈夫だよ? ジニーさんとライスさんに撫でられるとちょっと不機嫌になっちゃうけど、それでもいきなり吼えたり噛んだりなんてしないから安心して触っていいよー」
「だからなんで!? なんでお姉ちゃんそんなに嫌われてるのー!?」
「わぅ!」
おおう、ビックリした! いきなり大声出さないでよもう……。
「姉御、いい加減黙ってましょうよ、さっきから説明が全くって言っていいくらい進んでないじゃないっすか……」
「あ、ごめんねごめんねー。お姉ちゃん反省!」
にっこり笑顔で謝るジニーさん。
あれは絶対反省してないし悪いとも思ってない顔だ! 別に邪魔とは思ってないからいいんだけどね。
「どれだ? お、この辺りか?」
(くすぐったーい!)
むむむ、くすぐったい?
クラリスの悲鳴(?)にそちらを見ると、スティーグさんが首の付け根の少し後ろ、肩の辺りを毛を掻き分けて何かを探っていた。
あそこは二匹最大のモフモフポイントではないか! 周りより少し毛が長め、柔らかめでフサフサしてるんだよね。
(くすぐったい! くすぐったい!! くすぐったーい!!!)
首を左右にブンブンと振って、くすぐったさを最大限に表現しているクラリス。なにあれ可愛すぎる。
「ふふ。クラリスがくすぐったいって」
「へ? あ、悪い悪い。俺も実物は見た事なくてな。何でこういう時に限ってバレンシアを置いて来るんだよ姫は」
パッと手を放して謝るスティーグさん。ついでに理不尽な理由で文句を言われてしまった。
今、少し気になる一言が……。シアさんを連れて来なかった云々の話ではなくてね。
「実物? ランケールフはそこに何か付いてたり隠れてたりするの?」
なんだろ? あそこは最高のモフモフポイントだから毎回触りまくってるんだけどなー。特にこれと言って目立つ何かは無いと思うよ?
「姫鋭いな。おいジヌディーヌ、俺よりアンタの方が詳しいだろ」
「え? やっぱり? お姉ちゃんそんなに頼りになりそうに見える? まったくスティーグちゃんってばしょうがないんだからー!」
「やっぱ帰っていいぞ」
「帰りませんー! お姉さん今日はシラユキちゃんと一日中遊ぶんですー!!」
「……姫、コイツちょっと殴ってもいいか?」
「だ、駄目だよー?」
「ちょちょ、ちょっと! 待って!! ごめんね!!! スティーグちゃんってば意外とノリ悪い!? あとシラユキちゃんはもっと強く止めてー!!」
「マリーちゃんがこの人嫌うの何となく分かる気がするな」
「そうか? 俺はジニーさんのノリは結構好きな方だけどなー」
「姉御はまあ、合わない奴はとことん合わない性格の人だからなあ……。でも実際森の外ではすっげえ頼りになる人なんだぜ?」
ノエルさんがフォローを入れたけれど、二人とも全く信じていない顔を見せるだけでした。切ない。
「ランケールフはね、ほらここ、ここのもっさもさしてる所の毛がね」
(うあー!)
ジニーさんがルシアの肩の毛を、両手で一掴みずつ乱暴に握る。ななななんて酷い事を!
「ルシアー! ジニーさんもっと優しくしてあげて! あとそこはもっさもさじゃなくてフサフサしてるの!」
「その表現は結構拘るんすね」
やっと、何とかどうにか、長く険しい苦労の末、ここまで時間が掛かってようやく、ルシアとクラリスがどんな魔物か教えてもらえるところまで漕ぎ着けることができた。この後のお散歩はもう諦めてます。はい。
しかしジニーさんめ、ルシアの素敵モフモフ毛をあんなに乱暴に扱うとは許すまじ! 帰ったらブラッシング担当のキャロルさんと、さらにシアさんとリリアナさんにも言いつけてやろうと心に決めた。
「びろーんと伸びるの。ほらこんな」
両手に毛を掴んだそのまま、勢いよく手を上に挙げるジニーさん。
「え? ……ええっ!?」
(どうしたのしらゆきー? びっくり?)
(おー! のびてる! びっくり!!)
ジニーさんの手からは銀色の細い紐状の物が垂れ下がり、その先はルシアの肩に繋がっている。長さは1mくらいだろうか?
そのルシアが何も反応しないところを見ると、引っ張られている本人は何も感じていないのかもしれない。
いやいや、冷静に観察してる場合ではなくてですね!
で、でもどうしようこれ。あまりにも思い掛けない出来事過ぎて何をどうしたらいいものやら……。
「伸びっ……? はあ!?」「マジか何だそれかっけえ!!」
「カッコいいか? あれって触手だぞ」
「うねうね動くらしいっすよアレ」
「うねうね触手!?」
ななななにそれいやらしい!!!
うねうねしそうなところで続きます。
次回こそ早めに投稿できたらいいなあ。(願望)




