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その322

 そんなこんなで同行人をさらに二匹加え、ようやく本当に出発することができた。次々と入った邪魔者のせいで結構な時間を取られてしまったではないか。……と、大好きなお姉さんとこんなに可愛い二匹に対して邪魔者はなかったか。反省反省。


 右手はジニーさんと繋ぎ、左手はルシアとクラリスを撫でるために空けている。今日は二匹とも怖い怖いシアさんがいないからと少しテンション高めで、たまに体を摺り寄せてきたりもする。何も言わずとも私の歩く速度にしっかりと合わせてくれているのが嬉しい。マリーさんの教育の賜物なのか、なんて頭のいい子たちなんだろう。


「あー、アタシが手繋いで隣を歩く筈だったのになあ……。姉御ー、もうちょっとしたら代わってくださいよー?」


 ノエルさんが恨みがましく言う。わざとらしくだが。


「えー! お姉さんだってたまにしかシラユキちゃんを構ってあげられないのにい。いっつもシアちゃんが、シアちゃんがいなくてもほかの誰かが邪魔してくるんだから!! なんでみんなしてお姉さんに意地悪するんだろうね……。ねえ!?」


 グリンッと勢いよく顔をこちらに向け、大きな声で聞いてくるジニーさん。ちょっとビックリしてしまったのは内緒だ。


「な、なんでだろうねー? ふしぎだねー?」


 そんな大声で聞かれても私には分かりません! 多分日頃の行いのせいなんじゃないかなーと思うけど言わないでおこう。


「うざいからじゃない?」


「ひっどいひどい!! って今のグリー? ちゃんとついて来てるんだ? めっずらし」


 グリニョンさんからの辛辣なお答えにジニーさんが振り向いて驚く。驚くと言うよりかは、おお、いたんだ? 的な反応に近い。


「そうなんすか?」


「あ、うん。グリニョンさんは自由な人だから……」


 とりあえずグリニョンさんの生態について簡単に説明をすると、何故かあっさりと納得してくれた。

 しかし、まだ出発して間もないからというのもあるけれど、グリニョンさんがこうして大人しく私たちの後ろについて歩いているのは珍しいことかもしれない。


「へえ……。シラユキ様置いて勝手にどこか行っちまうなんて信じられねえな。アタシにしたら小躍りしたくなるくらい嬉しい事だってのに」


「そうだよねー。こーんなに可愛いシラユキちゃんとのお散歩なのにねー」


 不思議そうに首をかしげるノエルさんと、私の頬をつつきながらそれに同意するジニーさん。どちらもくすぐったい。


「んー? 散歩って言ってもシラユキ足おっそいし。別に構おうと思えばいつでも構いに行けるじゃん」


 めんどくさそうにしながらもしっかり反論? 説明をするグリニョンさん。今日は珍しく口数が多い気がする。


「いや、行きたいときに行けないからこういうたまにの機会が……、あ! そういやお前はバレンシアさんに気に入られてるからだろ! アタシらには邪魔ばっかりしてくるんだよあの人!!」


「そうそれそれ!! お姉さん毎回いい膝貰っちゃってもう大変なんだから!!」


(そうだそうだー!!)


(ばれんしあこわいー!)


 きゃいきゃいと仲良くシアさんへの不満をあらわにする二人と二匹。

 シアさんだから仕方がない、といつも納得していたが、毎回ジニーさんとノエルさんの邪魔をするのはどうしてなんだろうか? ルシアとクラリスの場合は私が毛だらけ涎まみれになるのが嫌なだけだと思うんだけど……。


 あ、キャロルさんに意地悪をするのは多分、キャロルさんが可愛いからついつい意地悪をしてしまうだけなんだよね? そこから考えるとジニーさんにする態度もそれに近いのかもしれない。つまりやはりシアさんはツンデレさんだということになる。自分で考えて結構納得。

 しかしノエルさんを嫌うのはどうしてなのか……、未だにコレガワカラナイ。


「うっさいなあ……、ジニーは特に」


 おっといけない、このままにしておくとグリニョンさんのストレスがマッハ、いつもの様に戦線から離脱してしまうかもしれない。


「それじゃノエルさんはこっちと繋ご? ルシアとクラリスは広場まで我慢できるよねー?」


 左手をフリフリ、ノエルさんを誘ってみる。

 グリニョンさんを呼んでもよかったのだけれど、ジニーさんとの間に挟まれるのは不安の方が勝ってしまった。


「あ、はい! でも、いいんすか? そいつら素直に退きますかね」


「うん、大丈夫。二匹ふたりとも少しだけ離れてねー」


(えー)(えー!)


 渋々ながらに場所を空ける二匹を見て、ぱあっと花を咲かせたように笑顔になるノエルさん。


「すっげ! んじゃ失礼してっと。へへ、シラユキ様小っこいなあ、可愛いなあ……」


 ノエルさんはすぐさま私の左隣へやって来て左手を取る。その表情はにへーっと緩みきってだらしなく見えるがとても幸せそうだ。






 ゆったりだらだら楽しく歩き、一先ずの目的地である大広場へとたどり着いた。ここで軽く休憩しながら今日はどこへ行こうかと話し合う予定だ。つまり今現在完全にノープランである。


「それじゃあの椅子の置いてあるとこ行きましょうか。シラユキ様疲れてないっすか?」


「広場まで来ただけなのに疲れないよ! 私そこまで体力無さそうに見える?」


 ノエルさんにふっつーに心配されてしまった。これでももう五十歳になったんですがねえ……。


「え、はい」「うん!」「実際ないじゃん」


 三人から揃って真顔で、さも当然とばかりに言われてしまった。


 三人とも正直すぎい! ぐぬぬ。

 私ってそんなに体力ないかな? 同じ年代と言うか、比べる人が周りにいないからはっきりと否定もできないね。

 でも、ここまで当たり前のようにみんなから言われ続けてるとやっぱりそうなんだろうね。もっともっと外で遊ぶ時間を増やすべきなのか……。


「むう。行こ、ルシア、クラリス」


(はーい)(はーい!)


 私が歩き出すと、両隣にぴったりとくっ付く様にしてついて来る二匹。

 さすがに夏場は少しだけ暑苦しいが、それを補って余りあるこのモフモフさと可愛さ。全く気にならない。


 ……ふむ。こうやって挟まれると二匹ふたりの大きさがよく分かる。って、周りから見たら私って完全に隠れちゃってない? これ。

 あれー? 二匹ふたりともいつの間にここまで大きくなっちゃったんだろう……。初めて会った頃はちょっと大きめくらいだったのに、今ではすっかり超巨大犬に……!!

 まあ、見た目大きいだけで中身はのほほーんとしたいい子達だから別にいいんだけどね。ふふ。


「あ、拗ねられちゃったんじゃないすか? 今バレンシアさん来たら三人とも殺されちまいますよ……」


「いんや、わたしは大丈夫。ジニーは間違いなく死ぬだろうけど」


「なんで!? いくらシアちゃんでもいきなり殺そうとしてきたりなんて……、普通にしそう!! 絶対する!!!」


 拗ねてませーん! まったくもう……。でもシアさんについては私も強く否定できません。はい。


 さっきも思ったことだけど、今日のグリニョンさんは口数が随分と多いね。これって多分ジニーさんがいるからだよね?

 そう考えるとこの二人って、やっぱり普通に仲が良いんじゃないだろうか! お互いツンデレ同士なのではないだろうか!?


「いちいち叫ぶなうっさい」


「はいはい。ごめーんね!!」


「うざっ」


 あ、たまに聞く物凄く不機嫌そうな声。仲が良いなんて全然そんな事はなかったぜ!




 むむむ!


 私たちの向かった先、屋根のある休憩所のような場所には先客が何人かいた。

 先客と言ってもみんな森の家族なのだから、いつもみたいに普通にその輪に入ってしまえばいい……、のだけれど今日はそういう訳にはいかなかった。

 人数は三人、エンリクさんとレミジオさんとスティーグさん。揃って真剣な表情で何かを相談しているのか、話し合っているところだったからだ。


 エンリクさんまで珍しく難しい顔をしちゃってどうしたんだろう? とりあえず邪魔をしないように少し離れた所に座るとするかな。


「どうしたんすか?」


 足を止めた私を不思議に思ったのか、ノエルさんが追いついて来て右隣、クラリスの背中の上から覗き込むようにして聞いてきた。


「あ、うん。みんなで何か相談してるみたいだからお邪魔かなって思って」


「シラユキ様を邪魔とか思う奴なんている訳ないじゃないっすか。そいじゃアタシがちょっと行って蹴散らしてきましょうか?」


「蹴散らしちゃ駄目! キャロルさんみたいなこと言わないの!」


「うへえ可愛い。あ、す、すんません」


 なんで怒られてるのに顔がニヤけてるんですかねえ……。


「ノエルじゃ逆に蹴散らされるのがオチ」


「は!? マジで!?」


「マジで」「うんうん無理無理」


「マジすかー、この国ホントやべえな。自分では結構やれる方だと思ってたのがちょっと恥ずかしくなってきたわ……」


 グリニョンさんとジニーさんが言いたいのは、メンバーの中に巡回のスティーグさんがいるから、さすがにあの人には勝てないよっていう意味だと思うんですけど……。まあいいや、面白そうだからノエルさんには色々と勘違いをさせておこう。くふふ。


「お? マリーが縮んだのかと思ったら姫じゃん! おーい姫、そんな所に突っ立ってないでこっちこっち!」


「ん? あ、姫いたのか。あのでかい犬に完全に隠れてて気付かなかったな」


 今何か失礼なことを言われたような……? いや、きっと気のせいだろう。うん。


「こんにちわー。そっち行ってもいいの? 何かお話してたみたいだけど」


「いいに決まってるだろ? なんで遠慮なんか……、ああ、今日はバレンシアが一緒じゃないからか」


「アイツは了解なんて取らずにズカズカ入ってくるからなあ」


 シアさんはどこでもひどい言われ様だなー。誠に遺憾である、が、事実なのでやっぱり反論できません!


 了解を貰った、と言うか普通においでおいでと誘われたので、私も近くの席に少しお邪魔をさせてもらう事にした。

 私はジニーさんに膝抱きにされて座り、ノエルさんはその後ろで直立待機。ルシアとクラリスもすぐ近くでおすわりをして大人しく待っている。

 しかしグリニョンさんだけは、口をへの字ならず△の形にして離れた席へ行ってしまった。なにあれ可愛いけど超嫌そう。


「なんかアイツすげえ不機嫌じゃね? 俺らなんかした?」


「いいのいいの放っといてあげて。グリーは猫みたいな奴だから」


 言い得て妙すぎる!! グリニョンさんって野良猫っぽいよね! ふふふ。


「ねえねえ」


「ん? 姫どしたー? 可愛いぞ」


「ふふ、何それ。えっとね、さっき何を話してたのかなーって」


 とりあえず一番近くに座っていたエンリクさんに聞いてみた。

 自分たちの次の目的地も決めないといけないのだが、このメンバーが真剣に何を話してたか気になってしまったから仕方がない。気になる気になる木。


「何って……、まあ、くだらない事だから気にすんなって」


 ふいっと斜め上へ、露骨に目を逸らされてしまった。怪しい。

 気にするなと言われると逆にもっと気になってしまう訳でありまして……。


「気になる気になるー。聞いちゃ駄目なお話?」


「あらら、シラユキちゃんの興味を引いちゃったみたいだね。お姉さんも何話してたかちょっと気になってきちゃったかなー!」


「俺は別に話してもいいと思うけどな。姫もジニーさんも暇ならちょっと話してくか?」


「うん! あんまり長居はできないかもだけどねー」


「ふふ、嬉しそう。可愛い可愛い」


 さすがレミジオさんは話が分かる落ち着いた人ださすが。三人の中で一番年下の筈なのが不思議。

 スティーグさんも聞かれても特に問題はないとのこと。簡単に教えてもらってから、こっちはこっちでこの後どこへ行くか相談しないとね。



「鶏肉でさ、もも肉とむね肉ってあるだろ? 他にも全身色々と食べられるけど主流はその二つだよな」


「うん。よく分かんない」


 ほほう、お肉の話であったか。勿論さっぱり分かりません。


「はは、姫は食べる専門だもんなー? んで、よくある話なんだけどそのどっちが好きかって話になったんだよ」


「あるある! お姉さんどっちも好きだけど……、どっちかって言うともも肉の方かなー。ノエルちゃんは?」


「アタシもそうっすね。むね肉って上手くやらないとパッサパサでどうも……」


 ああ、棒棒鳥とか鶏サラダに使われる部位ね。確かにパサパサであっさりしてるかも。

 私はお肉の部位とか関係なく、メイドさんズが作ってくれる料理ならなんでも好きかなー。ふふふ、ふ?


「え? 真剣にお肉の話してたの? なにそれ」


「最初はな。途中からさ、もも肉とむね肉じゃなくて、腿ど胸のどっちが好きか? って聞いたら誤解されそうだよなって話になったんだ。姫なら普通に胸が好きって答えるよな」


「……う、ん? そ、それで?」


 とりあえずノーコメント。まずは最後まで聞いてから考えよう。


「それでって……、それだけなんだが」


 終わりなの? それはそれは。へえ。ふーん……。


「それだけの話をあんな真剣に話してたの!?」


「だからくだらない事だって先に言ってただろー?」


 ああ、確かに言ってたわ……。でもあの表情からこんな本当にくだらない話をしてただなんて思える訳がないじゃないか!


「くだらないにも程があるわ! なんかすっげえ時間を無駄にした気がする……」


「え? お姉さん結構楽しかったけど? シラユキちゃんおっぱい大好きだもんねー! ほらほら」


「うにゅにゅにゅにゅ……」


 くう、どちらかと言うとノエルさんのおっぱいに甘えた……、はっ!? な、なんでもありません!


 自分で聞いておいて勝手な言い草だけど、私もすっごく時間を無駄にした気がする! 休憩しに来た筈なのに反対に疲れてしまったじゃないかまったくもう。

 もうさっさと目的地を決めて再出発しなければ! グリニョンさんはもう途中離脱確実かな……。







長くなりすぎてしまったので続きます!

暫くはこんな感じで本当に何でもないようなお話が続く予定です。

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