その317
とりあえず目に悪すぎる女神様本気モードはお願いしてやめてもらい、見慣れたいつもの姿、私と同じ白髪青眼で固定してもらった。これで私の目は守られた。
何故かそれくらいの事でみんな驚いていたが、神様なんだから何でもできて当たり前、この程度で一々驚いていたらこの先身が持たないと思う。早く慣れてもらわなければいけないね。
「このまま可愛がってあげててもいいけど、やっぱりソファーに移動しましょうか。シラユキは私の膝の上でいいわよね?」
ソファーまではほんの目と鼻の先の距離、でも女神様は私をひょいと抱き上げて歩き出す。
ふむ、女神様の膝の上で甘えまくりの可愛がられまくり。それはなんとも魅力的な申し出なのだけど……。
「私は母様の方がいいなー」
「ええ? そうなの? やっぱり本物の母親には勝てないわね……」
「お、おいコラ!」「ちょっとシラユキ!?」
「ははは」「ふふふ」
まさかの拒否に兄様と姉様は驚き大焦り、けれども父様と母様は余裕の微笑みだった。
それではこの後お昼寝の時間も控えている事だし、早速気になる本題へ! というところでまた一悶着始まってしまった。……主な原因は私なんだけどね。
女神様には悪いけど、女神様か母様のどちらの膝の上に乗りたいかと問われれば……、それは考えるまでもなく母様なんだよね。むしろ折角母様に甘えるチャンスなのに邪魔するんじゃないと文句を言いたいくらいだ。
「ふふ、まったくこの子ったら……。シラユキ? 今は女神様に甘えていなさい。私たちはまだ大切なお話の続きがあるのだから、ね?」
「はーい!」
「あらいいお返事、可愛いわ。ふふ、ありがとうねエネフェア」
母様にお礼を言いながらソファーに腰掛ける女神様。そしてそのまま頬擦り攻撃を再開し始めた。
大切なお話の続きには女神様も加わる、というか女神様がメインだと思うんですがねえ……。でも文句は言わない! 言いにくい!! 母様とは比べられないだけで女神様の膝の上も充分に幸せだからね。
「やべえ、もう部屋に戻りてえ……」
「私も……。お父様とお母様はどうしてあんなに余裕でいられるのかしら?」
女神様が優しい人、これくらいの事で怒り出すような人じゃないってちゃんと分かってるからだと思うよー、と思うだけで言わない私。ふふふ。
母様が自分の椅子に座り、兄様と姉様も向かいのソファーに腰を下ろした。でも父様だけは母様の隣で立ったまま待機している。まあ、手近な所に椅子が無いだけで特別な理由がある訳ではないと思う。
「大切なお話の続きって言っても、実は一番重要なところはシラユキが来る前に済ませちゃってるのよね」
「え? もしかして女神様結構前からいたの? すぐに呼んでくれればよかったのにぃ」
どうやら時既に時間切れ、大切なお話とやらの肝心な部分は終わってしまっているらしい。残念。
それならばどうして私を呼んだんだろうか? いや、呼ばれなかったらそれはそれで困るのだけど。
「いや、まだ十分二十分くらいしか経ってないんじゃないか? シラユキが来る前に父さんと母さんが質問倒しにしちまっててな……。と言うかなんで俺たちが正面に座らせられるんだよ! 勘弁してくれよ……」
「ううう、お父様もお母様もだけど、シラユキも完全に気を抜いちゃってるわよね……。あんまり身構えすぎるのも失礼だと思うけど……、シラユキ分かってるの? その人、あ、その方は女神様なのよ?」
「う? うん、女神様は女神様だよ?」
「そうなのよ! そうだけどそうじゃないのよ!! ああもう本当にどうしたらいいの……」
一体何を困ってるんですかねえ姉様は……。面白いじゃないか。
兄様も姉様も、私の前だというのに珍しく情けない面持ちを見せてしまっている。相手が相手だから無理もないのかもしれないが。
私も姉様の言いたい事は理解している、つもり。だけど女神様は神様である前に、私のもう一人の母様であり大好きなお友達なのだ。こればかりはもう考えを改めるのは難しい、と言うか普通に無理なのでどうしようもない。
私が来る前に聞きたい事は全部聞いてしまったのか、父様と母様は特に口を挟まず笑顔でこちらを眺めてきている。つまり兄様と姉様に後は任せた、という事なんだろうか?
しかしその二人がこの様子では話が上手く進みそうにない。となればここは私が頑張るほかは無いか……!
「私はお話の続きの前に、私が来るまでに何を話してたのか気になるなー」
話を進める前に話を戻してしまうという暴挙に出る私。気になるものは気になるんだからしょうがないよね。
「ん? ああ、お前の話だよお前の。父さんと母さんが何を置いてもまずこれは、っていうのはシラユキ関係に決まってるだろ?」
誰に投げ掛けた質問でもなかったが、兄様がすぐに答えてくれた。
「私関係? それってどんな?」
女神様しか知らない私についての情報……? なんだろそれ、全く思い付かないんですけど! さらに気になる気になる木。でもこういう時はどうせ……
「ええとね、その……、何て言ったらいいかしら?」
「何とも説明し辛いよな。まあその、あれだよ、んな細かい事気にすんな」
やはり教えてもらえなかった! まあ、そうなるだろうとは思ってたさ。ふーんだ。
兄様の言い方からすると、教えられないと言うよりかは説明するのが面倒くさいの方が近いっぽいかな? それなら父様と母様に後で聞けばいいか、今は諦めよう。
「シラユキは可愛い子ね、ってみんなで話してただけよ? さ、神様があんまり長居するのも何だから早く終わらせちゃいましょ」
「うん。……え? 女神様お話が終わったら帰っちゃうの?」
「そのつもりだけど……、嫌? もっといてほしい?」
「うん……」
むう、夢の中でちょくちょく会ってるとは言え、生女神様が私の家に来てくれるなんて初めて……? い、一応初めてなのに!! 一緒にお昼寝したりお風呂に入ったりするつもりだったのになあ……。
ちょっとだけ寂しい気持ちになってしまった。私的おっぱいランキングの対象外だが、母様にも匹敵する女神様の胸に頬擦りして癒されよう。
「あらあら可愛い。シラユキはホントにおっぱい大好きよね。ふふ」
優しく私の頭を撫でてくれる女神様。声色が凄く優しい。
「し、シラユキ? 私たちには何を言ってもいいけど、女神様には我侭言っちゃ駄目よ? ごめんなさい女神様、この子凄く寂しがりやで……」
「今日は忙しいところをシラユキのために時間を割いて来てくれたみたいだからな。ま、その分俺たちが構ってやるから我慢しとけ。まったく目の前で羨ましい事しやがってコイツ」
「はーい。ごめんね女神様」
「いいのいいの、可愛いからね。また今度遊びましょ?」
確かに生女神様に甘えられる機会は珍しいけど、実際本気で会おうと思えばいつでも会えるから今回は大人しく引き下がろう。
しかし……、忙しいところを時間を割いて? どういう意味? あまりに暇すぎていつもゲームばかりしてる女神様が忙しい?
ちょっと気になったので、今日は忙しかったの? と顔を見上げてみると、黙ってなさーい、という意味が込められたとてもいい笑顔で応えられてしまった。女神様も一応体裁は気にするお人らしい。和むわ。
「気を取り直して本題ね。シラユキってちょっと能力を使うとすぐ魔力疲れを起こしてるでしょ? あれって実は能力の使い方を少し間違えてるのよ」
「うん、私はまだ子供だから魔力が足りな……、間違ってたの!?」
驚きの今更過ぎる新事実!! 女神様に甘えまくりで幸せだったから反応が遅れてしまったじゃないか。
「それはどういう……。すまない女神よ、詳しく説明を願えないだろうか?」
「私からもお願いします。さっきのお話より余程大事よこれは……」
にこやかに静観していた父様と母様も、さすがにこれには反応を返さざるを得なかったみたいだ。声に少し焦りが見える。
反対に兄様と姉様は黙ってしまった。多分女神様の説明の邪魔をしないようにしているんだと思う。大人だね。
本当に今更過ぎる情報だなー。もっと早く教えてくれればよかったのにね。
……? でもさ、そう言われてもいまひとつピンとこないんだけど?
「能力の使い方って、ええと、間違えられるものなの? 私はこの使い方しか知らないよ?」
新しい魔法を作る。言葉にしてみるとたったこれだけで済んでしまう能力だ。
実際のところ能力なんて自分の体の機能の一つ。例えるなら獣人種族の人が自分の尻尾を動かす様な感覚の筈なのに、一体全体何をどう間違えられると言うんだろうか? 謎すぎる。
女神様は私たちからのお願いと質問に少し困った顔を見せ、
「うーん……、能力の使い方としては正しいのよ、正しいんだけれど、やっぱり少し間違えてるのよね」
などと意味不明な供述を述べた。
「なにそれ。合ってるの? 間違えてるの?」
「合ってるけどー、間違えてるのよー」
「うにゅにゅにゅ……」
今度は笑顔で似たような返答を返されてしまった。さらにほっぺグニグニのおまけ付だ。
合ってるけど、正しいけど、やっぱり少し間違えてる? さっぱり意味が分かりません!
「ふぅむ……。ならば放置して、いや、シラユキが自分で気付くまでこのまま使わせておいても問題は有るのか無いのか、それだけでも教えてもらいたいのだが」
「無いわ。有るとしたら度々魔力疲れを起こしてしまうくらいかしらね。でももうそれも早々ある事ではないでしょう? だから答えその物を教えてあげるような事は私はしないの。前にも言ったでしょ? シラユキ。憶えてるかしら?」
ううむ、女神様は私と家族とでは対応の温かみが違うな……。と、前に言われたことね、うん。
「答えを貰ってしまったらそこで終わり、その先はもう無いんだったね。答えを知るその過程を楽しめるくらいがいいんだよね?」
まあ、寿命の長い私たちと、何でも知ってる女神様だからこそ言えて、さらに説得力のあるセリフだと思うけど。
「はいよくできました。シラユキはホントにいい子ねー? ふふふ」
いい子いい子と撫でられまくってしまった! くう、嬉しくて顔がにやけちゃう……!!
「……つまりはだ、先の話と今のこの子の能力の話。要するに俺たちの不安を取り除くために降臨されたと言うのか。これはもう、感謝の言葉も見付からん……」
「ええ、何てお礼を申し上げればいいのか……。本当にありがとうございます」
まずは父様が頭を下げ、それに続いて席を立ち、同じくお礼を言いながら深々と頭を下げる母様。
「俺たちは……、だ、黙っとくか」
「そ、そうね。何となく色々と台無しにしてしまいそうだし……」
それでこそ私の自慢の兄様と姉様だよ! 空気を読んだだけかもしれないけどね。
「べ、別にあなた達のためじゃなくて……、全部この子のためよ? この子が幸せに育ち過ごしていくためにあなた達の不安を取り払う必要があったというだけであってね? そこのところは……、か、勘違いしないでよねっ!!」
「そこでツンデレ!? 女神様が台無しにしてどうするの!?」
「ええ? だって今の建前でも何でもないただの本心よ? 大袈裟に感謝されて気恥ずかしくなって少し悪乗りしちゃったけど……」
「本心を言うのはいいけど、女神様は女神様なんだからもっと神様らしくしないと!」
「え? 光る?」
「まぶしい! やめてー!!」
だから本気モードは目に悪いんです! いい加減にしてくださいませんかねえ……。
「め、女神様にも普通にツッコミを入れるのねこの子……。もうお話は終わりかしら?」
「あ、ああ、多分な。しっかし、やっぱ色々とぶっ飛んでるなシラユキは。父さんじゃないが自慢できないのが惜しすぎる」
「ふふ。今日ここでの出来事は他言無用よ。……シラユキは喋っちゃうかしら?」
「まあいいんじゃないか? それで何が起こるでもなし。世界を巡り歩いた身だが、ここまで驚いたのも緊張したのも初めての事かもしれんな。ははは」
いつの間にか父様と母様も向かいのソファーの近くまで来ていて、私と女神様のやり取りを目を細め、楽しそうに眺めていた。恥ずかしい……。
その後すぐ女神様は忽然と姿を消してしまったのだが、父様と母様が今日のお仕事をお休みにして、私を全力で構ってくれたのが嬉しすぎてすぐに忘れてしまった。ごめんね女神様。
どうせまた一月もしたら夢で呼び出されて一緒に遊んだりするだろうからね。その時に今日の事について、改めてツッコミを入れてあげなければなるまい!
とりあえずは……、またね、女神様。ふふふ。
謎は深まるばかり?
自分で書いていて今ひとつすっきりしない終わり方になってしまいましたね。
50歳編はまだまだ続きますが、次回投稿はまた少し時間が空いてしまうかもしれません。




