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313/338

その313

おおおおお久しぶりです。(震え声)

「バレンシアさんのスカートをめくる。言葉で言うのは簡単だけど絶対無理だと思うんだよなアタシは。何回向かって行っても返り討ちに遭うのが目に見えてる。ってか既に遭った」


 自分の目の前のおやつ、トマトシャーベットをつっつきながら神妙に話を切り出したノエルさん。内容はともかく真剣そうだ。


「何がどうしてそうなったのかは深く聞かないけど……、まあ確かにレンのは無理よね。シラユキには何度もめくられてるけど」


 半分呆れながらもふむふむと頷き、それに同意するフランさん。私がスカートめくりの常習犯みたいに思われてしまうのでおかしな事は言わないように!


「だからそんなの姫以外には無理だって。それより姫、どう? 美味しい? こういうのは初めて出すよね」


「うん! 甘くて冷たくて美味しいね! 見た目普通のトマトなのにふっしぎー」


 さらに一言で切り捨てるメアさんと、初めて食べるタイプのおやつに夢中な私。はて何の話だったか……。



 この場、談話室にいるのはその四人。そして時間はおやつの時間。


 お昼もとうに過ぎ、おやつタイムに突入してからもノエルさんは、ああでもないこうでもない、とシアさんのスカートに思いを馳せていた。……嫌な表現だな……。

 一方その話題の人物シアさんはと言うと、ノエルさんに痛烈な膝蹴りをお見舞いした罪でお仕置き期間が目出度く延長、今は一応洗濯物を取り込んだり畳んだりしている。と思う。

 シアさんのことだから隠れて様子を伺っている可能性も無きにしも非ずなので、あくまで一応であり思っているだけである。


 ちなみにこのおやつのトマト、ウルリカさんが砂漠向こうから持ち帰ってきた種が育った物であったりもするのだが……、それはまた別のお話。



「そこでアタシは考えたんだよ、無い知恵を絞りに絞ってさ」


「無い知恵って自分でアンタ……。で、何を? そこまで言うからには何かいい手が浮かんだんでしょ?」


 ノエルさんは近距離パワー型の人だから仕方が無いね。主に中距離だけど実際は何でもあり系のシアさんとは相性が悪いんだよ。うんうん。


「ふう、ごちそうさまー。美味しかったー! うーん、もう一個食べたくらい」


「ふふ、気に入ってくれて嬉しいけど……、お腹が冷えちゃうから今は一個だけにしておこっか? またお風呂上りに出してあげるから。ね?」


 私の頭を撫でながら小さな子をあやす様に言うメアさん。なんという子供扱い。


 むう、それは残念。子供扱いすぎるのも気になるところだけど私の体を考えてくれてのこと、文句を言わず聞き入れようじゃないか。


「はーい。お風呂の時間くらいでシアさんも許してあげようかなー」


 と言うよりもシアさんとのお風呂は日課みたいなものだからね。今日はほかのメイドさんと入るっていう手もあるけど、まあ、あんまり我慢させすぎると反動が怖いからねシアさんは……。お風呂で揉みくちゃにされそうだわ。


 さて、私の心を掴んで放さなかったおやつも無くなってしまった事だし、そろそろノエルさんのお話に耳を傾けるとするかな。シアさんのスカートをめくるためのいい案が浮かんだみたいだけれど……?


「正攻法で、正面からで駄目なら後ろからってね。つー訳であれだよ、バレンシアさんの弱点を探そうと思う!」


「後ろ向きに前向き!!」


 なんて卑怯な手を思いつくんだノエルさんは……、はっ!? つい突っ込んじゃったじゃないか!


「あっははは! 確かに姿勢は前向きなのに実際は卑怯な手だもんね。あー、おっかし」


「ノエルのおかげで姫のツッコミがまたよく見られるようになって嬉しいね。姫って最近は全部マリーに任せてたからさ」


「マリーのツッコミって言や、こう、キレがあっていいよな。シラユキ様はシラユキ様で一言で上手く纏めるのがホントすげえよ」


 そう、同じツッコミでも私とマリーさんにはそんな違いがあるんですよ。ツッコミ能力だけで言うなら間違いなくマリーさんの方が何枚も上手だけれどね。……いやいや! ツッコミの話じゃなくて!


 私のツッコミに大ウケなフランさんと、にっこり笑顔で満足そうなメアさん。まあ、二人とも嬉し楽しそうなのでこれにも文句は言わないでおこうじゃないか。ぐぬぬ。



「んー……? レンの弱点ねえ……。ねえ、メアは何か思いつく事はある? 私はこれといって何も思い浮かばないんだけど」


「私もぜーんぜん。ちょっと恥ずかしがりやなくらいであからさまにこれに弱い! っていうのなんて無いんじゃないの?」


 食器類を片付け終えたところでお話の続き、シアさんの弱点探しが始まった。

 まずは手始めに付き合いの長いメイドさん仲間の二人に聞いてみたものの、返ってきた答えはいまひとつ、何も分からないも同然だった。


「は? 恥ずかしがりや? バレンシアさんが? あのバレンシアさんが? 何だそれ、全く想像すらできねえよ……」


 ノエルさんは弱点が分からなかった事より、シアさんが恥ずかしがりやと言われて頭を抱えてしまった。


 おや、意外な反応。ノエルさんは冒険者時代のシアさんしか知らないからかな? 昔のシアさんって何事にも動じない人とか思われてたみたいだし。

 しかし、『踊る妖精』で働くようになってもう何年も経つっていうのに、実はシアさんとはあんまりコミュニケーションが取れてないんじゃないだろうか? 私の見てない所だと露骨に無視されてたりしてそう。

 気にはなるけどそれは一先ず置いておいて……、シアさんの弱点か。私も少し考えてみようかな?



 初めに強さの面では父様以外どうしようもないと思うから考えないとして……、今メアさんが言った恥ずかしがりやなところを突いてスカートをめくる……? スカートをめくられたら恥ずかしがるとは思うけど……。あ、これは駄目だね次に行こう。

 次って言ってもあと私の知ってる範囲だと、不意打ち的に笑わされるのに弱いくらいかな。でもこれはシアさんの笑いのツボっていうのが本気でよく分からないし、勿論それでスカートをめくるなんて事も不可能だと思うのでこちらもアウト。……いや、笑わせて隙を作るくらいはできるかもしれない。こちらは有効な手段になり得そうだ。


 ふむ、そうなると問題は……、シアさんの笑いのツボを知ることだね、ってやっぱり無理じゃないか!

 まったくもう、シアさんは色んな意味で困りものな人だね。ふふふ。



「うし、ここでこうして悩んでても何も始まらないし足を使うか! と、シラユキ様も一緒にどうです? なんかさっきから暇そうにしてますよね?」


「う? 足? あ、聞き込み調査に行くの? なにそれ面白そう、行く行くー」


 黙って考え込んでいたら暇そうだと認識されてしまったが、私としてもシアさんの弱点には興味がありまくるのでそのお誘いは大歓迎、同行を申し出よう。


「やっべえ可愛すぎる。んじゃ二人はバレンシアさんの足止めしててくれよ、こんな事頼めるのはメアとフランの二人しかいないからな、頼む」


 そうかな? ……そうかも。メアさんとフランさんはやはり凄いメイドさんであった。誇らしい。


「えー、面白そうだから私もついて行きたいのに。メアだってそうでしょ?」


「うんうん。でもなんか痛い目見るオチが待ってそうだから私はやっぱりいいや。あ、姫を連れて行くなら館の外には出ないようにね。暗くなるまで連れ回すと命の保障はできないから」


 なにそれこわい。


「お、おう……、了解。まあ、そんなに時間掛けるつもりも無いんだけどな。それじゃシラユキ様」


「うん! 二人ともまた後でねー」


「ふふ、いってらっしゃい」「いってらっしゃーい。転ばないようにね」


 差し出された手を取って椅子から立ち上がり、もう片方の手を振り二人に別れを告げ、いざ聞き込み調査へ! 家の中限定なのがちょっと残念だけど。




「お? シラユキ、とノエルか。これから出かけるのか? あんまり遅くならない様にしろよ」


「あ、ルー兄様。ううん、違うよー」


「ルーディン様! どもっす!」


 談話室から出てすぐに第一村人、ではなく第一家人と遭遇。

 私が一緒にいるからなのかノエルさんの胸を凝視したりしていない。安心して聞き込みを開始しよう。


「ルー兄様ルー兄様、ちょっと聞いてもいーい?」


「ん? 俺に用事だったのか。それじゃ丁度いいし談話室で聞くか。ほら、こっち来い」


 私はノエルさんと手を繋いでいるのに、そんなの関係ないとばかりに抱き上げてくる兄様。ノエルさんの残念そうな、あっ、という小声が聞こえてしまったじゃないか。


「わっと。多分すぐに終わると思うからここで大丈夫だよ。はいノエルさん聞いて」


「アタシがっすか!? あ、はい、ええとですね……。いやー、いきなりルーディン様に尋ねるのは想定してなかったぜ……。さすがシラユキ様っす」


「何の話でどういう意味だよ……。まあいい、何かは知らんがどうせ今は暇だからな」


 ふふふ。さすがに兄様には聞きづらいかな? でも私は兄様に甘えるのに忙しいからノエルさんよろしくねー。


「あ、ありがとうございます! あのー、いきなり変な話ですんませんすけど、バレンシアさんの、何か弱みとか苦手な物とかに心当たりってありませんっすかね。ホント何でもいいっすから」


「なんだあ? また危なっかしい事してんなお前らは……。だが面白そうでもあるな。ははっ」


「大丈夫っす! 何かされるとしたらアタシとキャロルだけっすから! んで、どうっすか?」


 家族の弱点を探ろうとしているのにこの反応、当たり前の話だけど兄様もノエルさんのこともちゃんと家族扱いしてくれているね。ちょっと嬉しい気分なので抱きついて頬擦りしちゃおう。


「っと、こら、くすぐったいぞシラユキ。この可愛いやつめ」


「ふふふー、ルー兄様ー」


「うっはあ、か、可愛すぎる……。アタシも後でやってもらお」




 残念ながら兄様からはこれと言った情報は得られなかった、が! たっぷり甘えられたのとちょっとした心当たりを教えてもらえたのでよしとしよう。


「あら? シラユキ様にノエルさん。私に何か御用ですか? それともバレンシアさんをお探しでしょうか? バレンシアさんでしたら今さっきメアリーさんに呼ばれて厨房へ行かれましたけれど」


 兄様と別れた少し後、物干し場に通じる廊下で第二家人、兄様から教えてもらった心当たりであるソフィーさんを発見した。

 ソフィーさんはもう完全に非の打ち所の無いメイドさんとなっている。いや、あるにはあるのだけど、慣れのせいもあってそこまで気にならなくなっているだけかもしれない。


 そんなソフィーさんにどうして会いに来たのかと言うと……。

 シアさんの弱点なんて普通に探したり考えたところで分かる訳もない。しかしそれならば最初から普通じゃない人に聞けば、答えそのものを教えて貰えるとまではいかなくとも何かしらのヒントを得られるのではないだろうか? と兄様に言われたからだ。なんとなく納得してしまった。


「バレンシアさんじゃなくて、ちょいとお前に聞きたい事があってな。悪いけど少し付き合ってくれ」


「はい、構いませんよ。もう洗濯物の取り込みも畳むのも済ませましたから」


 今のセリフ悪役っぽい! 攫われるメイドさん! 攫う方もメイドさん! なにそれ面白そう。


「あ、ではシラユキ様に椅子を……、と、ここにはありませんね。では私の背中にお座りください」


「え?」「あん?」


 ソフィーさんはそう言うとその場で四つん這いになり、とてもいい笑顔で、どうぞ、と自分の背中を勧めてきた。


 ふむ、人間、いや、エルフ椅子であるか。膝の上には何度も座らせてもらってるけど背中はさすがに初めてだね……。


「……ど、どうしよう?」


 これは一体どうしたらいいんだろうか。折角の申し出だし素直に座る? それともおかしいと止めるべき? ツッコミを入れてから止めるべき? でもソフィーさんはきっとボケてる訳じゃないんだよね……。


「い、いや、アタシもコイツの対処にはまだ慣れてないんでどうしたもんか……。とりあえず本人もこう言ってる事ですし座っときましょうか?」


「う? うん。いいのかな……?」


 別に性的な事でも変態的な事でもない筈だから大丈夫……、だと思う……、よね?


 ノエルさんに手を引かれて即席の椅子(ソフィーさん)に座らせてもらう。温かくて柔らかいがふらつく事もなく安定している。悪くはないと思う。


「ありがとうございます! ああ、シラユキ様の愛らしいお尻の感触が背に……。感動です! あ、跨って頂いてもいいんですよ? それと丁度よくここに布団叩きがありますのでこれで私の臀部を殴打しながらお話を」


ケツ振んな!! やっぱ止めるのが正解だったわ畜生!!」


「わぅ!」


 そうはさせるかー! というくらいの勢いで抱き上げられて救出してもらってしまった。ちょっとびっくり。


 や、やはり、やはり罠であったか……!! 私も慣れた筈なのに、いや? もしかしたらその慣れが原因で危険察知アンテナが働かなかったのかもしれない! これは今後危うい展開が待っていそうで怖い。


「背中ではお気に召しませんでしたか……、残念です。ではお腹の上ではどうでしょう?」


「綺麗なブリッジ!」


「にに、逃げましょうシラユキ様! コイツはアタシの手に負えません!!」


「え? うん。ソフィーさんまた後でねー」


「はい、それではまた後ほど」


 ブリッジはもうやめてもいいんだよー?




 結局何のヒントも得られる事なく撤退する破目になってしまった……。どうしてこうなった! あ、全部兄様のせいだ!! でも兄様なら仕方がない、おやつ一つで許してあげようではないか。

 さーて、心当たりも無くなっちゃったし次は誰に会いに行こうかな。とりあえず家の中をうろうろしてみよう。







続いてしまいます!



なんか物凄く久しぶりな投稿になってしまいましたね。ここまで遅れてしまった理由についてはまた別の機会に……

次回の投稿も今は何とも言えません。すみません!

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