その300
今回はちょっと会話文が多めです。久しぶりのスーパー雑談タイムですね。
「みんな一週間お疲れ様ー! 開店前は色々と大変だったけどその後は大きなトラブルもなくこの日を迎えられてよかったね! 元々の三人への感謝は勿論の事として、特にキャロルちゃんとソフィーちゃん、お手伝いホントにありがとね! 二人が居なかったらもっと妥協しないといけないところが出てきてたと思うから……。ふふふ、とりあえず最初の山場は抜けた感じだけど、これからもまだまだ忙しい毎日が続くと思うからよろしくね!!」
日は秋祭りの最終日、所は『踊る妖精』の店内。そして行われているのはお店を貸しきっての打ち上げパーティーの様なもの。全員が関係者だから貸しきるというのも変な話か? まあそれは置いておこう。
今日は最終日という事もあり殆どのお店がお休みになっている。特に決まりがある訳ではなく店主さんたちが何となくそうしているだけで、勿論今日も開いているお店は普通にある。
『踊る妖精』はお祭りの初日に開店、連日大賑わいの大忙し状態で本当に休む暇も無かっただろう。そこでジニーさんが今日明日と急遽お店を閉め、まずはお疲れ様、今後も宜しく、と言った感謝の催し、打ち上げパーティーを開いたのだった。
最終日にお店がお休みになるのは、お祭り騒ぎの一週間の間働きに働いて、どのお店の人だって超お疲れな筈だもんね。特に初日に合わせて開店したこのお店の忙しさたるや筆舌に尽くし難い物がある。……まあ、実際は初日と三日目の二回しか顔を出せなかったからあまり詳しく把握してないだけなんだけどね。
「はーいみんな、飲み物は行き渡ってるかなー? それじゃ、ウルギス様みたいに長々と話すのもなんだから早速始めちゃおー!! カンパーイ!!!」
全員がそれぞれ手に持ったグラスを上に挙げ、カンパーイ!! と叫んでそれに続く。結構な大人数での大声量だったが、両隣のお店も今日はお休みなのでご近所迷惑になる事もないだろう。
そして本日集まったメンバーは……
「二人ともお疲れ様。今改めて言うのも変な話だけどこれからもよろしくお願いするわ。今日はゆったり控えめに楽しんで明日は一日泥のように眠りましょう」
「おうよろしく。アタシはまだまだ平気だけどな! ああ、タチアナは座ってろよ? 料理ならアタシらが持って来てやるからさ。やっぱ病み上がりすぐにアレはキツかったよなあ……」
「ありがとう、それとごめんなさい、体力が無くて……。でも、忙しかったけど毎日本当に楽しかったです。姉さんとも一緒でしたしね。ふふ」
表面上は分からないけれどどうやらかなりお疲れらしいヘルミーネさんと、見た目からも表情からもまだまだ余裕を感じさせているノエルさんと、もう誰がどう見ても疲れてますという雰囲気を醸し出しているタチアナさん。
「私とソフィーティアが手伝いに来てなかったら倒れてたんじゃないの? ま、これからは昨日までと比べたら格段に楽になるだろうから程々に手を抜いてサボんなさい。力がいる仕事はノエルの馬鹿に押し付ければいいから」
「私でも結構疲れてしまいましたからね。タチアナ、今日はお風呂でもベッドの上でもお互い全身マッサージし合いましょうね。ふふ、楽しみです。ふふふ」
さらに、いきなりお手伝いをお願いされたのもかかわらず嫌な顔ひとつ見せずに応えてくれたキャロルさんと、どう見てもお疲れには見えないどころか元気が有り余っているように怪しく微笑むソフィーさん。
まずは今日の主役と言ってもいいメイドさんズの五人だ。
今は五人仲良く一つのテーブルを囲んで笑顔で楽しくお喋りをしているみたいだった。早速この一週間の間に起こった出来事について話に花を咲かせているんだろう。
タチアナさんはさすがに秋祭りの大賑わい状態からのスタートは体力的に辛く、そして案の定すぐに体力に限界がきてしまっていた。
実はキャロルさんは初日だけのお手伝いのつもりでいたみたいだが、それを見るに見かねて毎日のピーク時には必ずヘルプに行くようにしていたのだ。キャロルさん心優しくて立派すぐる天使か。
ちなみにライスさんからの情報によると、メイドさん人気はキャロルさんが断トツで一位、ほかの四人は大体同じくらいで大差はないんだとか。
メインの三人を差し置いてヘルプさんが一位を取ってしまうとは……。多分アンケートを取ったのが男女混合で、一番可愛いのは誰? とかそんな感じの質問だったんじゃないかなと思われる。私に簡単に教えたところからするときっとそうなんだろう。
裏アンケートが存在している事は確定的に明らか。今後のシアさんからのメイドさん情報に期待しよう。
おっと、お店関係で忘れてはいけない縁の下の力持ち、厨房の料理担当の人たちも勿論誘ったんだけど、私とシアさんも参加すると聞いたら遠慮されちゃったんだよね。残念で申し訳ない気持ちでいっぱいです。
ジニーさんが言うには料理上手なだけの冒険者さんたちらしいからそれも仕方のない事なのかな? シアさんが怖いから来たくないとかそんな理由じゃないよね……?
「まずは開店と一週間の盛況ぶりにおめでとうございますの言葉をお送りさせて頂きます。しかしこの盛況をこのまま維持していくというのは中々に難しいもので、……は、これは失礼を、ジヌディーヌ様には要らぬ心配で御座いました。それに祝いの席でするお話でもありませんでしたね。申し訳ありません」
「ハーヴィーちゃんかったい! そーんなビシっと姿勢よく立ってないで座って座って。まあ、まだやっと一歩目を踏み出した辺りだからね。でーもだいじょぶだいじょーぶ! お姉さんこのお店のためにずっと頑張ってきたんだから、ね! 勿論先の考えも……、と、まずは軽く十年くらい様子見だけどねー。ふふふ」
「その頑張りのせいで周りがどれだけ迷惑を被っていたのかもちゃんと覚えててくださいね。特にガトーさんなんて今じゃ普通にギルド長扱いなんですよ?」
「ごっめーんね! まだ何年か先の話になると思うけど、ちゃんと次のギルド長を誰にするかも決めてあるからね! ふっふっふー」
ふむふむ? ジニーさんはまだ何か企んでいるのか……。でも軽く十年様子見って、大人のエルフは気が長いなあ。次のギルド長さんも誰が指名されるか気になるところではあるね。
こちらは大人(?)組。関連店舗や各ギルド関係の人も集まる予定だったのだけれど、実際に来てくれたのはハーヴィーさんとミランさんの二人だけだった。
ヨアンさんやミミフリーさんは今日もお店を開けているみたいだし、ジニーさんがここにいる限りショコラさんも気軽に席を離れる訳にはいかないんだろう。
とても残念だけど、大好きなミランさんが来てくれているからよしとするべきか。できたらショコラさんにも来てほしかったんだけどそれは求めすぎ、我侭になってしまうかもしれないね。
「男は俺とハーヴィーだけかよ、ヨアンは逃げたんじゃないか? これ。ま、俺としちゃ眼福ものでいい目の保養になるからいいんだけどな。しっかし、なんで肉があって酒が無いんだよ……」
「もう、お兄様ったら! 私とシラユキがいるのにあの三人の胸ばっかりジロジロと見て! ほーらシラユキ、こんなエッチなお兄さまなんて放っておいてお姉ちゃんの膝の上におーいで?」
「はーい! ふふふ。シアさんシアさん、苺のショートケーキおねがーい」
「畏まりました可愛らしいです。ルーディン様、お酒その物ではありませんが例のブランデーケーキならあちらに御座いましたよ?」
「肉料理とケーキを合わせて食えって言うのかお前は……。でもまあありがとな、後で二人で食うか」
言われてみれば男女比がもの凄いことになってるね、ヨアンさんはもういいお歳だし間違いなく逃げたんだと思うよ……。ジェーンさんも娘さん二人も連れて来てよかったのになー。お誘いの仕方が悪かったかな? 今度個人的にお礼に行くとしよう。うん。
そして私たちの……、何だろ? 森の家族組? でもジニーさんもキャロルさんもソフィーさんもそうだし、あの三人だって私のメイドさんなんだからもう家族と呼んだっていいんだよね。
……ふむ、まあ、私たち組、という事にしておこう。だって今日は……
「やっぱりハーヴィーさんの作るケーキにはどうやっても勝てそうにないね。色々聞いてみたいけどハーヴィーさんって何か怖いイメージがあるんだよね……。シアみたいなさ」
「あはは、確かに確かに。一応軽いジョークを飛ばせるくらいのユーモアさは持ってるみたいだけど今日はルーディン様とユーネ様がいるからねえ」
「お二人の前ではさすがにな。しかし私たちは何か手伝いをした訳でもないのにこの場にいていいものなのか?」
「私らもレシピ提供したじゃない。クレアのスープパスタは簡単にアレンジが効くし日替わりの看板メニューになってるらしいよ? 全メニュー含めるとおっぱいパンが一番人気みたいだけど」
ほう、やはりおっぱいパンが一番人気であるか。別に私はおっぱいパンの美味しさをアッピルなどしていないのだが、それでも美味しそうと感じてしまってる人は本能的に長寿タイプ。
正式名称はメロンパンなんだけどなー……。メニューの表記だって『おっぱいパン(メロンパン)』だし。
こういう商品の名前にはインパクトが大事だっていうのは分かるよ? でもやっぱり、あのお姫様は料理にも名前を付けてしまうくらいのおっぱい好きなんだなあ、とか思われたらちょっと……。
ま、まあ、それは頭の隅に追いやってなるべく思い出さないようにしよう。
私がメイドさんズ五人組やミランさんの所に甘えに行かず、こうして姉様の膝の上で大人しくしているのは、いや、姉様の膝の上が幸せすぎるっていうのも勿論ある。それとは別に今日はなんと、メアさんとフランさんが森から出て来ているからなのです! あとクレアさんもね。おまけみたいに言ってごめんねー。
フランさんとはかなり前に一度だけ一緒に町を歩いた事はあるけど、メアさんとは今日これが初めて。一応私が生まれるより前に何度か来た事はあるらしいけれどそれは好奇心旺盛な子供の頃の話。様変わりした町並みをキョロキョロと眺めて驚いていたのが面白かったね。
これで全員、総勢十四名という大人数です。十四人中メイドさんが九人もいるというのはまさに私関係と言ったところかな?
みんな各テーブルに並べられた料理に思い思いに手を伸ばし、グループになったりバラけてみたりとそれぞれパーティーを楽しんでいる。
勿論私もある程度お腹が膨れたら動き回るつもりで、まずは誰の所へお話に行こうかと地味に悩んでいたりもする。
とりあえずメアさんとフランさんにくっついて行動しようかなー。帰りも二人と手を繋いで露店を見ながらの予定だからそれも超楽しみだね! ああもう顔がニヤついちゃうよ。ふふふ。
帰ったら帰ったで怒りと悲しみと嫉妬が有頂天状態のカイナさんのご機嫌取りもしないといけないけど、それはまあ、またその時になったら考えよう。
「どしたの姫? ニコニコしちゃってかーわいい! メイドさんに囲まれてるのがそんなに嬉しいのかな?」
「メイドさんにって言うよりメアさんとフランさんと一緒にお出かけできたのが嬉しいかなー」
「うわ、また凄い可愛い事言ってるわこの子……。ユーネ様ユーネ様、ちょっと抱き上げさせて」
「ふふ、はいはい。それじゃ私はお兄様が誰かの胸に手を伸ばさないか監視してるわ。シラユキのことお願いね」
「信用ないなあ俺。シラユキとユーネが見てるのに手ぇ出す訳ないだろ……」
「お、シラユキ様、フランに甘えてるんすか? やっぱバレンシアさんも凄えけどフランとメアリーも大概だよなあ」
「三人とも一緒に住んでてちょっと特別だからね。まあそれは私もソフィーもなんだけど、フランとメアリーはシラユキ様がお生まれになった頃からのメイドさんだしね。シア姉様は二歳になられた頃からでしたっけ?」
「ええ二年、その二年間もお側に参るのが遅れてしまったのを今でも悔やんでいますよ」
「まだ言ってるのそれ? シアさんはそういう変な事気にしすぎ!」
「最初の挨拶がさ、お待たせして申し訳ありません、とかまず謝るところからだったからねシアは」
「なにそれこわい。普通に変な人だよそれ……」
「う。ま、まあ、私のことなどどうでもいいではありませんか。やはりこの二人がいると何ともやり難さを感じてしまいますね……」
「シラユキ様ー! うふふふふふ。シラユキ様? うふふふふ」
「なにこれこっちもこわい。タチアナさん酔っ払っちゃってるの? お酒なんて用意してなかった筈なのにどうして?」
「多分あのケーキを食べたからだと思います。タチアナは子供の頃から飲むとすぐこうなってしまうんですよね……。でもこんな風に明るくなるだけでおかしな行動をとる事はありませんのでご安心くださいね」
「あのケーキそんなにお酒強いんだ……。タチアナさんは笑い上戸かな? 面白いかも」
「シラユキ様可愛らしいですー。うふふ、うふふふ、うふふふふふふ」
「はいはい、お水飲んで座ってなさい。姫は食べちゃ駄目だからね!」
「はーい。美味しそうなのになー」
「……それで毒のある植物でもしっかりと毒抜きを施せば食材としての使用も可能という訳なのです。如何ですか?」
「毒素を完全に抜くというのは中々に難しいものなのではないでしょうか? しかし毒を持つ物はそれだけ美味とも聞きますからね……」
「森の植物に関してなら私の知っている範囲だと父様とグリフィルデが詳しいです。ハーヴィーさんでしたら森への進入許可も簡単に出るのではないかと思います。それと、ヘルミーネはこんないかがわしい店なんて辞めて父様の手伝いでもしたらどうだ? いや、館のメイドになれば姫様がお喜びになるな」
「うんうん喜んじゃう。でもこのお店はいかがわしくなんてないよ!」
「も、申し訳ありません。口が過ぎました……」
「確かに毒キノコも下ごしらえ次第で美味しく頂けるからねえ。それでもやっぱり素人にはオススメできないかな」
「私が神聖な森に立ち入るなどと恐れ多いです。しかしありがとうございます、視野を広げるにあたっての良き参考となりました」
「毒が?」
「毒です」「毒ですね」
「なにここもこわい」
これだけ色んな人物が集まると話題もそれだけ多くなって面白いね。父様と母様へのいいお土産話ができたかも。ふふふ。
さーて次は、と……。よし、ミランさんとジニーさんの所に行ってみようかな。ミランさんとは暫く会えてなかったし超楽しみにしてたんだよね。
「ミランさんジニーさー」
「無理ですよう! どうして私なんですか!! どう考えてもガトーさんの方が適任じゃないですか!! 皆さんもうそのつもりだったんですよ? それがなんで私に……」
うわぉう! ビックリしたわー。
今まさに話しかけようとしたその瞬間、ミランさんがテーブルに両手を叩きつけて立ち上がった。見た感じ怒っているという訳ではないみたいだけど……?
騒がしかった店内もしんと静まり返ってしまってた。あまりの急な出来事にみんなどうしたらいいのかと口を開きかねているんだろう。
「このタイミングでお話してしまったのですか。しかしまだ少し気が早いかと思いますが……。少なくとも一年は待つべきだったでしょうに」
「いやー、ついついね! ついポロッと口に出しちゃってねー。お姉さん大失敗! ミランちゃんミランちゃん、このお店がその在り方を確立できた後の話だからね? まず負けは無いと見てるけどどう転ぶかなんて誰にも分かんない事だから。一応そのつもりでいてね? っていうだけの」
「だからそこでどうして私なんですか! 私はただの受付なんですよ? ガトーさんなら誰だって納得じゃないですか……」
私とメイドさんズの接近に気付いたのか、声を抑えてまた椅子に腰掛けるミランさん。やはり表情を見ると怒っているのではなく、多分困ってしまっているんだろう。
何かは分からないけどジニーさんがつい口を滑らしてしまって、それを聞いたミランさんが困ってる、っていう事なのかな? シアさんも知っているみたいな口ぶりだったのが気になるね。
「どうしたのミランさん? ジニーさんにまた無茶なお願いでもされたの?」
まったくジニーさんめ、私の大切なお友達であり家族のミランさんを困らせるとは許されざるよ!
「シラユキ様……。あの、ええとですね、ジニーさんが降りた後の後任のギルド長に私を、と。そんなの無理に決まってますよう」
「え? え!? ミランさんがギルド長さんに!? おめでとう!!」
「おめでたくありませーん!!」
「わぅ!」
「驚いてる驚いてる、可愛い可愛い。ミランさんがギルド長にねえ」
「ふふ、ホントに可愛いんだからシラユキは。まあ、私らには関係なさそうな話だね」
「姫様を連続で驚かせるとはさすがはミランさんです。確かに私たちは力になれそうもありませんね。実を言うと興味もあまり……」
「なにそれひどい」
ああそっか、それで困ってるんだったね。これは失礼しました。でも受付から一気にギルド長までなんて大出世じゃないですか!
……あれ? そうなるとミランさんがますます遊びに来れなくなるんじゃ……!?
反対はんたーい! どちらかと言わずとも大・反・対です!! こ、この話は早くも終了ですね。
ミランさんの運命や如何に!




