その297
グリニョンさんを新たに仲間に加え、午後からも張り切ってキノコ狩り散策を続けよう! と思っていたのに、小雨がパラついてきてしまったせいで残念ながら帰宅する事になってしまった。
シアさんが、私の髪が雨に濡れて傷んでしまったら世界的規模の損失だ! と意味不明な主張を押し出してしまったのでこの結果となった訳だ。いつもの事である。
まあ、私としてもお風呂以外で髪が濡れるのはあんまり好ましくない、シアさんの主張の半分は受け入れよう。二人を差し置いて私とシアさんだけ傘をさしてるのもなんだからね。
本当に残念だがこの楽しみは次の機会まで取っておくとしよう。次回は家族やお友達を引き連れてもっと大勢で向かい、お昼はキノコや山菜づくしのバーベキューと洒落込もうではないか。
「おかえりなさいませシラユキ様!」
「あれ? タチアナさん? あ、ただいまー」
家に帰ると何故かタチアナさんに迎えられた。今日はソフィーさんと一日デートの筈だったのにどうして?
疑問に思いながらもまずは部屋に戻って着替え、話を聞こうと談話室に行くとそこにはタチアナさんとヘルミーネさんと、さらにジニーさんの姿があった。ほかのメイドさんズは何らかのお仕事に出て行ってしまっているんだろう。
なるほど、お店の様子を見に行ったらジニーさんに捕まった訳だね。仲良し姉妹のデートの邪魔をするとは許されざるよ! でもジニーさんが遊びに来てくれたのは嬉しいから何も言わないけどねー。ふふふ。
ちなみにキャロルさんとノエルさんも既に戻って来ているらしい。二人してずぶ濡れになってしまったので今は仲良くお風呂に入っているんだとか。こんな小雨程度の雨でずぶ濡れに……? そちらも少し気になるね。
さらにグリニョンさんも帰宅途中にふらっといなくなってしまった。先に帰って来ているのか、それとも外を元気に飛び回っているのかは分からない。
「シラユキちゃんシアちゃんおっかえりー! 今さっき聞いたけどタベタラシヌを見つけたんだってね、凄い凄い! あれって美味しいんだけど大抵朝には誰かに採り尽くされちゃってるからね、採った者勝ちだから朝の弱いお姉ちゃんは滅多に食べられなかったの……。だからね……、ね?」
わざとらしくちらちらとこちらに視線を送りながら言ってくる。が、しかし!
「あのキノコはグリニョンさんが持って行っちゃったよ。ヘルミーネさんからそこまでは聞いてなかったの?」
「聞いてなーい!! グリーはどこ!?」
知りませーん。行き先も分かりませーん。
さっき私と一緒に帰って来たばかりのシアさんとヘルミーネさんが知っている訳もなく、同じくタチアナさんも知らなかった。お昼の後の休憩時間にヘルミーネさんと私から質問攻めに遭っていたから、多分一人になれる場所で件のタベタラシヌを齧っているんじゃないかと思われる。
グリニョンさんはいざ会おうと探しても中々見つからない人で、それは家の中ですら例外ではないのでキノコは諦めるしかないだろう。
「うぐぐ、グリーのやつぅ……」
おお、見るからに悔しそう。しかし、ここまで悔しがられるともの凄く惜しい事をした気になってきてしまうじゃないか! 早く採った者勝ちで私も今まで食べた覚えはないから本当に凄く美味しいんだろうね。それとは知らずに食べてるっていう可能性もあるけど……、それは後でフランさんに聞いてみよう。
「ふう。ジニーさん今日はどうしたの? 三人とももう立派なメイドさんだから何も心配要らないよー」
私も席に着いて、ヘルミーネさんの淹れてくれた紅茶を飲んで一息ついてから話を切り出す。
一瞬薬草茶か!? と思って身構えてしまったのは秘密だ。そして相変わらず家事全般が壊滅的なままなのも当然内緒だ。紅茶は淹れられるのに不思議だね……。
「あ、そうなの? たった三、四日でシラユキちゃんからお墨付きを貰っちゃったんだ? へー、それはそれは。ふーん……」
むむむ? 何やらジニーさんらしくない反応だね。まさか信じてないんじゃ……? 言いたい事があるなら言ってくれればいいのにねー。
私の言葉が信じられないのか、タチアナさんとヘルミーネさんをジロジロと眺めて何か言いたげにしている。なんて失礼な人なんだまったく。
「むう、本当なのにー。もういつお店に出ても大丈夫なくらいなんだからね!」
「ありがとうございます! 嬉しいです……」
私に褒められて嬉しそうにお礼を返すタチアナさん。ヘルミーネさんもニンマリとした笑顔を見せている。
タチアナさんはずっと私の右隣で待機しているが……、手を出すとシアさんに睨まれてしまうので本当に待機しているだけだ。たまに肩に手を置いたりで軽く触れてきたりはしてるけど。
「ふふ、膨れちゃってかーわいい! それじゃ、三人とも今日連れて帰っちゃうからね? いやー、シラユキちゃんのその言葉を聞いてお姉ちゃん安心しちゃったなー!!」
私のほっぺを無言で突っついて幸せそうにしたりもしてるし、シアさんよりカイナさんに似てきてる気が……、うん?
「えっ」「えっ」「えっ」
私、タチアナさん、ヘルミーネさんの声が見事にハモった。
なにそれこわい……、じゃなくて!
「ジニーさん今なんて……、え? 今日!?」
「そんな! わたしはまだシラユキ様のお側にいたいです!」
「店の改装が終わるまではシラユキ様のメイドを続けていいのではなかったですか? 折角森の散策の許可を頂けたというのに……」
そうそれ! お店の改装が終わるのは秋祭りが終わってさらに一、二週間くらい掛かるって話だったのに!
……ちなみにタチアナさんは私に抱きつこうとしてシアさんにやんわりと止められています。やはりカイナさん化が進んでいる……!?
「うん、だからね? もうお店の改装は終わったの。当初の予定通り秋祭り初日、明後日に開店するから、今日と明日一日を使って最終的な確認とか調整をやっちゃわないといけないの。ノエルちゃんがお風呂から上がったらすぐ帰るから、悪いけど荷物を纏めておいてくれるかな? 急でごめんね、分かってね?」
「もう終わっちゃったんだ……。それなら仕方ないよね。うん……」
「はい……。あ、あの! 姉さんに、フランさんとメアリーさんにも挨拶をして来ます!」
「こ、今晩からの分類と実験の楽しみが……。フ、フフ……、フフフ……」
いつもの明るく元気なお姉さん風ではなく、真面目口調のジニーさんの言葉には反論できない! できにくい! さすがはギルド長さんだの一言だね。
タチアナさんは涙を拭いながら、ヘルミーネさんは暗い笑顔(?)で談話室から出て行ってしまった。
「まあ、お休みの日とかに遊びに来られるように取り計らってもらってるんだけどね! ふふふ」
「それを先に言ってあげないと!! ジニーさんは正座正座!!」
「いやーん! あ、お姉ちゃんのお膝に乗る?」
「ではこの花瓶をどうぞ。水が入っているのでそれなりに重いですよ」
「おっも! いやいや、重しが欲しい訳じゃないからね!?」
相変わらず全く悪びれないけれどなんでか憎めない人なんだよねジニーさんって。お仕置きもできた事だしこれ以上は責めないであげようじゃないか。ふふふ。
その後すぐにキャロルさんとノエルさんがお風呂から上がって来て、ジニーさんから話を聞くと驚いてはいたが、またいつでも遊びに来られると聞いて安心していた。私も安心だ。
「しっかし姉御、やけに早く改装が終わったみたいっすけど、一体どういう手品を使ったんすか?」
「あ、それは私も気になる。あんな大きな窓の取り外しと、その穴埋め? それがたった四日で終わっちゃったの?」
手配とか準備の期間などを入れると実際はもっと短い日数だっただろう。これは気になる気になる木。
そしてノエルさんがのんびりとしているのは荷物が全く無いからです。メイド服が数着と後は手荷物程度なんだとか。何となく分かる気はするね。
「ふっふふー! それは見てからのお楽しみ!! シラユキちゃんは明後日にエネフェア様と一緒に来てくれるんでしょ? その時にね!」
「えー。それじゃ気になるけど楽しみにしてるからね! 多分私と母様と、カイナさんとクレアさんの四人で行く事になるかな? シアさんはまだ?」
「ええ、申し訳ありませんが例によって陰ながら、という事でお願い致します」
「陰ながらっすか?」
「うん。シアさんはね……」
毎年の秋の二月の第三週、秋祭りの初日には母様が広場の特設ステージの壇上で開催の挨拶をする……、のだが、何故か私も十歳になった頃から一緒にステージ上に上げられる事になってしまっている。
色々な種族の人で賑わう広場は中々に圧巻ものだがそれだけに少し怖くもある。それなのにどうしてシアさんが私の側にいられないかと言うと、一応失踪中で姿を隠しているかららしい。
一応とからしいが付いてしまうのは、シアさんは普段町中でも平気で目立つ行動に出るからね……。ライナーさんとノエルさん、勿論シアさん大好きなキャロルさんにも一目見られただけでバレてしまっているし、実際のところ隠れる気があるのか無いのか未だにはっきりしないのが困りものだよ。
「へー。あ、いや、服装がメイド服なだけで誰がどっから見てもバレンシアさんじゃないっすか……。まあ、人混みが嫌なだけなんすよね多分」
やっぱりそうなんだ……。毎年全く見つけられないけど、かなり近くで見守ってくれてるみたいだからあんまり強く聞いたり突っ込んだりはしないであげるけどね。
「当初の予定のままですと、お二人でまずは『踊る妖精』へ。そして暫くの休憩の後に大通りを通ってご帰宅となっていましたね」
「うん。初日は人がいっぱいだもんねー。楽しむのはまた三日目以降になるかな」
ノエルさんは無視ですかそうですか。別にいいけどさー。
「そこをエネフェア様とシラユキ様のお二人でっすか? 今まで何も無かったみたいっすから大丈夫なんだと思いますけど、やっぱ心配っすよね」
「だいじょぶだって。カイナとクレアがぴったり側にいるし、私とシア姉様も隠れて見てるし、自警団の連中も付かず離れず付いてるし、ついでに森の連中もかなり出て来てるからね。ああ見えても、あ、アンタはまだ見た事ないか……。まあいいや、そうは見えないけどかなりガッチガチに固めてあんのよ。あれを全部突破してお二人に何かできるのって……、ウルギス様くらいなんじゃないの?」
「そりゃ世界中の誰でも無理って事じゃねえか。あー、やっぱこの国すっげえなあ……」
お祖父様とお祖母様なら多分無傷余裕で全突破して私を攫って行けそうなものだけど、これはさすがに言わないでおこうかな。早く会いたいなー。
もっとお話を続けたかったのだけれど、タチアナさんとヘルミーネさんの荷物整理が終わったところでお別れの時間がやって来てしまった。
開店初日に行くからね! 頑張ってね! と激励の言葉を送ってお見送りだ。別れ際に揉んで揉んでとせがまれてしまったがそれもまた今度。
二人ともまたいつでも遊びに来られると聞いて本当に嬉しそうだったね。
でも、タチアナさんは私分が切れたらどうなるのかちょっと心配だね……。ソフィーさんと相談して何か考えておかないといけないかな?
まあ、それもまた明後日以降に考えよう。今は秋祭りを楽しみに待つとしようじゃないか。ふふふ。
苦労して(?)手に入れたメイドさんが……!!
最近例の掘ったり建てたりするゲームのせいで書く時間があんまり取れていませんね。さらに寝不足です。
でもやめられない! やめにくい!




