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294/338

その294

 ジニーさんのお店に0点を叩きつけ開店を延期させ、囚われていたメイドさんを三人救出してきたその翌日の朝、いつもの様にシアさんに着替えさせてもらってから部屋を出るとそこには……。


「おはようございますシラユキ様」


「おはようございまっす! 結構朝遅いんすね」


 キャロルさんとノエルさんの喧嘩友達コンビと、


「おはようございます。ふふ、まだ少し眠そうですね。可愛らしいです」


「おはようございますシラユキ様! 今日から改めてよろしくお願いします!」


 ソフィーさんタチアナさんの仲良し姉妹と、


「おはようございます」


 寂しい事に相方となる人がいないヘルミーネさん、五人のメイドさんズが横一列に並んで待ち構えていた。


 ……何があった! まあ、今タチアナさんが言ったとおりに初日の挨拶だと思うけどね。

 しかし……、ふふふ、綺麗なメイドさんがこんなに大勢揃ってるとは朝から縁起がいいじゃないか。自分で言っておいて意味不明だけど!


「みんなおはよー。三人は今日からよろしくね! それじゃ私は朝ご飯食べてくるからまた後でねー」


 シアさんが見ているので飛びついていきたいのはぐっと堪えて、まずはお仕事の前に朝ご飯っと。お手紙仕事が終わったら三人の働きっぷりを見学にでも行こうかな? 楽しみ楽しみだ。


「あ、ちょ、待ってくださいよ。シラユキ様からご指示を頂かないとアタシらも何していいのやらさっぱりで……」


「あの、わたしはできたらシラユキ様の身の回りのお世話を……。本当に何でもしますから! 何でもさせてください!」


「まずは朝食の間にどこで何をしていればいいのかだけでもご指示をお願いします。……食後の薬草茶の準備でもしておきましょうか? フフフ」


 私も軽く挨拶だけ返し、後は後の楽しみだとその場を離れようとしたら新人メイドさんズ三人に止められてしまった。どうやら私から仕事の指示を貰いたいそうだけど……?


「え? な、なんで私から? とりあえず薬草茶はいらないからね!」


「畏まりました。フフフ……」


 忘れてたけどヘルミーネさんも調合関係のお人だった。こ、これはシアさんとペアを組ませるべきなのか……? いや、ただでさえフリーダムなメイドさんなシアさんなのにさらに手が付けられない事になってしまいそうだ。それだけはやめておこう。


「何故と仰られますが……、姫様、お忘れですか? この三人は責任を持って預かるとご自分で可愛らしく宣言していらしたではありませんか。思い返すだけで頬が緩んでしまいそうです」


「確かに言ったけどそんなニヤニヤするような……、え? 私が全部のお仕事の指示を出さないといけないの? 三人とも!?」


 な、なにそれ大変すぎる。と言うか絶対無理だ!

 メイドさんズのお仕事なんて殆ど把握してないし、まずは何をさせたらっていうその最初の一歩目すら頭に浮かんでこないよ。掃除? 洗濯? 料理? どどどどどうしよう! どうしたら!?


「っと、落ち着いてくださいよシラユキ様。バレンシアさん今のは意地が悪すぎっすよ? シラユキ様はまだ子供なんすから仕事の細かい指示なんて無理っすよね、それはさすがに分かってるんすよ」


「あ、やっぱアンタらからだとそう見える? でもシア姉様はシラユキ様をからかうのが生き甲斐だから多少はね」


 なぬ? からかわれてただけなのか!? まったくシアさんはー!!


 あたふたと慌てていたらノエルさんからフォローをもらってしまった。指示を出す側なのに我ながらなんて情けない……。


「む、からかっていた訳ではなかったのですが……。申し訳ありません。では姫様に代わりまして私が簡単に……」


 シアさんがてきぱきと三人にそれぞれ指示を出していく。私の朝食前なので本当に一言二言程度の簡単さだ。


 落ち着いた今だから分かるけど、確かにさっきのはからかってたんじゃなくて、慌てふためく私の様子を充分に堪能したらフォローに入るつもりだったんだろう。まあ、どっちにしたってたちが悪い事には変わりはないんだけどね。この意地悪メイドさんめ! でも大好きです。ふふ。




「あはは、それは確かにシアが悪いね。いつもの事と言えばいつもの事なんだけどさ、慣れてない三人から見ると意地悪く、うーん? いじめてる様にも見えちゃうのかもしれないね。私たちもちょっと気を付けないといけないかな?」


「うーん、そうかもね。レンの性格の悪さなんて私ら皆はもう完全に慣れちゃったもんねえ」


「う、失礼な。しかしあの時本当にからかいの気持ちはなかったのですよ? 慌てる姫様に目と心奪われ、その後の反応が遅れてしまったのは事実ですが」


 三人に指示を出し終えた後の朝食の時間、フランさんとメアさんに今さっき起こった出来事を話してみた。

 結果はメアさんもフランさんも同意見。でもシアさんからするとただ普通に、何気なく私の疑問に答えただけらしい。それはつまり、私が慌てすぎてしまったせいでシアさんにあらぬ疑いをかけてしまった訳だ。

 でも今の言葉をどこまで信用していいものやら。ただの言い訳かもしれないという可能性も……、と言うかそうとしか聞こえません! まあ、それならそれでいいけどね。


「別にただそういう事があったんだよーっていうだけだからね? 私は嫌な思いはしてないし。だから気にしないでねシアさん」


「はい。ありがとうございます、お優しい姫様。ふふ」


 私の言葉ににっこりと嬉しそうな笑顔でお礼を返すシアさん。

 ちなみに会話の間も私の食事の世話をする手は一切止まっていなかった。さすがの一言だね。


 さて、食べ終わって少し休憩したらお手紙仕事だ。様子を見に行くのも楽しみだけど、まずは毎日のお仕事をしっかり片付けてからにしておかないとね。

 シアさんが三人に出した指示は、ノエルさんはキャロルさんと、タチアナさんはソフィーさんと一緒に行動するという単純明快なものだった。そしてヘルミーネさんは……。


「本当にお優しい方ですねシラユキ様は、私もタチアナではないですがこのままお仕えさせて頂きたいものです。私程度に何ができるかと聞かれると何ともお答えし辛いのですけれど」


「家事ができなくとも貴女には薬草茶の茶葉の調合という素晴らしい特技があるではないですか、それだけで充分すぎる程ですよ。姫様もお喜びに」


「なりませーん!!」


 案の定と言うか何と言うか、今日はシアさんに付いてお仕事のお手伝いをする事になった。なってしまった。あの想像が現実となってしまった訳だ。


「たった二、三週間でどこまで教えられるか分からないけど、とりあえず料理関係は私かレンに聞いて。クレアでもいいかもね」


「掃除洗濯ならキャロルとソフィーかな? シアとカイナは何でもできるからそれ以外で困ったらどっちかに聞くといいよ。私は姫のお世話で手一杯だからさ。ふふ」


「私も姫様の……、まあ、いいですか。クレアとカイナ、あとリリアナさんもなのですが、三人とも普段は執務室に篭っていますからね。何かを聞きに行くというのも難しいでしょう」


「はい……、はい。なるほど」


 どこからかメモ帳を取り出し、書き込みながら頷きを返すヘルミーネさん。真面目な人だ。


 実はヘルミーネさん、家事の一切が壊滅的らしい。見た目と調合が特技というところからすると逆に得意そうに見えるのだけど、本当に何をやっても上手くいかないんだとか。

 家事どころか自分の着替えすら一人でできない私には何も言えないし言うつもりもない。言える資格が無いとも言う。ぐぬぬ。

 どちらにせよ、我が家の頼りになるすぎるメイドさんズに任せておけばそれも自然と解決してしまうこと間違いなし。なので特に気に掛ける必要も無いだろうね。


 ああ、一応問題はあった、が、それは既に解決している。


 ヘルミーネさんがシアさんに付いて回るという事は、イコール私の側にいられるという意味でもあるので、タチアナさんが、ずるい! 私も! と涙目で抗議の声を上げてしまったのだ。

 しかし今言った通りにそれは解決済み。シアさんがその場で機転を利かせて、では一日交代でローテーションを組みましょう、とあっさりと収めてしまった。本当に頼りになるメイドさんだよシアさんは。タチアナさんはソフィーさんに怒られたりしてないといいんだけど……。


「そんなに根を詰めたり頑張らなくてもいいからね。ジニーさんのお店で働くだけなら紅茶さえ淹れられればいいんだし」


「はい、ありがとうございます。本当にいい方ばかり……。ふふ」


 あ! 今普通に笑った!? くう、見逃したー!!




 いつもより少しだけ会話が多めだった朝食の時間は終わり、さらに食後の少休憩も終了。カイナさんが手紙の束を持って来てくれたところで本日のお楽しみ第一弾、お仕事の時間がやって参りました!


「ええと……、これは?」


 私の前に置かれた手紙の束とシアさんが広げた筆記用具を見て、ヘルミーネさんが率直すぎる疑問をぶつけてきた。


 ふむ、こうやって素直に質問してきてくれるのは嬉しいね。ミランさんとキャロルさんは恐れ多いとか言って遠慮気味だったもんねー。ふふふ。


「これはね、私の毎日のお仕事なんだ。森のみんなから相談事みたいなお手紙を貰ってそれに返事を書くの。本当は母様のお仕事なんだけど無理を言って手伝わせてもらってるんだよー」


「姫様可愛らしいです……」


 半分お遊びみたいなものなんだけどね、とはまだ言わないでおこう。


「そうなのですか? まだ五十にもなっていないというのにもうご公務を……。でしたら私は席を外した方がいいのではないでしょうか?」


「う? どうして? これのお手伝いもメイドさんのお仕事なんだからそのままいてくれていいよ? いてほしいな。ヘルミーネさんも冒険者の頃の経験とか知識とかで私にアドバイスしてくれると嬉しいなー」


「あぁぁ、可愛らしすぎます姫様ぁ……」


「は、はい。微力ながらお手伝いをさせて頂きます」


 むむむ、公務の手伝いと聞いて少し気構えさせてしまったかな? 失敗失敗。でもまあ、手紙の中身を見れば、なんだこんな物か、と気を抜いてくれるだろうからフォローの必要はないね。


 しかし何と言うか、ヘルミーネさんって本当に元冒険者さんなのかな? 礼儀正しいし立ち振舞いも落ち着いていて余裕があるよね。さっきから私を撫で回しまくっているカイナさんを完全スルーできる辺り相当な度量、心の広さをも併せ持っていると見た。


 これってもう、家事以外は教わる事は無いんじゃないのか? 家事全般が壊滅的なのはメイドさんとしてちょっとアレだけれど、それさえ克服してしまえばもう一人前のメイドさんとして胸を張ってもいいレベルだと思う。その大きな胸を。

 今は緊張からなのかいつものニヘラ笑いが出てきていないからそう見えるだけかもしれないけど……。お店で働くメイドさんとしてならもう私から言う事は何も無いね。うん。



「さて一通目、と。まずは誰からかなー? ふふふ」


「姫様、あの、今日も膝抱きにさせて頂きたいのですけれど……」


「うん、いいけど……。カイナさんは私分が切れるのが早すぎ!」


「ありがとうございます! 申し訳ありません! ああ、幸せすぎます……」



「私分? シラユキ様を膝抱きにすると何か特別な効能が? ……唇にキスを!?」


「ふふ、貴女にもすぐに理解できる日がやって来ますよ。ああ、見習いの間は膝抱きもキスも姫様から許可を頂いてからにしてくださいね」


「は、はい。これはやはり私の思った通りの……、フフフ……」



 そ、そんなメモ取らなくていいから! 怪しい笑顔でどんな事を書いているんだ……。ガクブル。







結構日数が空いてしまいました。

これからはまた元通りの投稿ペースに……戻るといいですね。(?)

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