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285/338

その285

 左手をシアさんと繋いでからその場にしゃがみ、空いている右手をタチアナさんの右足首より少し上、例の骨の繋がりに異常があるらしき部分へ軽く触れる。痛みがあるかもしれないので本当に軽く触る程度だ。

 特に詠唱や掛け声も無く癒しの魔法を発動。私の手かタチアナさんの足なのかどちらかは分からないがほんのりと光る。そして三、四、約五秒で光が消えた。これで治療は完了、の筈。

 これはいつでも魔力全開状態で魔法を使うのではなく、治したい部分を完治し終えたら勝手に効果が消えるようにとアレンジを加えた結果だ。それでも治りきるまでは変わらずガンガン魔力を消費してしまうので、結局魔力が足りなければ同じ事なのだけど。


 今回の様に、外見ではどうなっているのか分からない部分を治す、というのはどれくらいの時間が掛かるか予想できないのでそうしてみたのだが……、五秒か。思った以上に重症だったみたいだね。


「ふう、終わったよー。立ってみて」


「お疲れ様です、姫様。少し失礼を致しますね」


 シアさんに手を引いてもらって立ち上がり、祈るように両手を組んで目を瞑っていたタチアナさんに終了の報告をすると、そのままシアさんに全身撫で回されるようにチェックされてしまった。触りすぎでしょう……。


「え!? あ、も、もうなのですか!?」


 驚きに目を見開かれて聞き返されてしまった。その気持ちは分かるよ。


 あはは。私の治療を受けた人はみんなそんな反応をするね。あっさりしすぎててすみません! 拍子抜けかな?


「うんうん、もう終わりだよー。大丈夫だと思うけど一応気を付けて立ってね」


「は……、はい」


 笑顔だがやや不安そうに返事をすると、タチアナさんは恐る恐る椅子から立ち上がった。私も絶対大丈夫だという確信を持つには至っていないので、実際見ていてドキドキものなのだ。

 杖を床から離し、その場で軽く足踏みを繰り返すたびにどんどんと表情が驚きに満ちてくる。


「う、嘘……、痛みも何も……。ほ、本当にこんなに簡単に……? 夢じゃありませんよね?」


「ふふふ、夢じゃないよ。あ、歩いてみて歩いてみて」


「は……、はい!!」


 タチアナさんはゆっくりと、少し離れたところで待機していたソフィーさんに向かって歩き出した。勿論杖はつかずにだ。


 おお、よかったよかった。言葉は同じだったけど、さっきの不安半分な返事と違って本当に嬉しそうで元気な返事だったね! さーて、次の患者は私だ……。


 近くに座っていた姉様に歩み寄り、倒れ込むようにして抱きつく。


「ユー姉様ー、お膝に乗せてー」


「かか可愛いわ! あ、もしかしてこの子……。シア?」


「ええ、そこまで重くはないと思うのですが……。はあ、まったく、毎度心臓に悪すぎますねこれは」


 ため息をついて呆れる、いや、安心したシアさんに持ち上げられ、姉様の膝の上に座らせてもらった。


「ありがとシアさん。……つ、疲れたー!」


 でも達成感がある疲れだから気持ちがいいね! いい気分、ってやつかな? ふふふ。



 昨日の今日で早速タチアナさんの足を治す事になった。まあ、結果は見てのとおり大成功だったんだけどね!


 立会人は私のお付の三人とお姉さんであるソフィーさん、あとは姉様のおまけつき。しかし兄様にはもうちょっとだけ会うのを我慢してもらう。

 その理由は、何事も足が治ってからの方がいいよね? というだけの事だ。兄様が急に胸に手を伸ばして、それに驚いて転んじゃったりしたら危ないもんね。うんうん。私も少し触らせてもらったけどあれは……、と、話が逸れるところだった。


 決行はおやつの時間の少し前、そろそろいいでしょうとシアさんからのお許しが出た。

 実際のところ、まだー? シアさんまだー? と朝起きてからずっと言い続けていたから、いい加減嫌になっただけかもしれないが……。まあよしだ!


 そして、やっと許しが出たか! 封印が解けられた! と意気揚々として癒しの魔法を使い、恐らくは完治させる事ができただろうと思うのだけれど……。


 くぅ~、疲れました。これにて治療完了です! 久しぶりの魔力疲れ発症だ。

 しかし、このみんなの笑顔を見られたのなら魔力疲れ程度何の問題にもならないね! なった甲斐があったというものだよ。



「確かに少し時間が掛かってた気がするわよね、いつもはもっとパパッと治しちゃうのに。それだけ治すのが難しかったっていう事なのかしら……。シラユキ? 大丈夫? ほら、もっとこっちにもたれてきていいのよ。ふふふ」


「うん、息切れまではしてないから大丈夫。でもちょっとぐったりしたい気分かも。ありがとユー姉様ー!」


「ふふ、可愛い。無茶はしなかったみたいね、安心したわ」


 体の力を完全に抜いて姉様に身を委ねる。姉様はメイドさんズに比べるとクッション性がやや弱いが、そんな事は気にならないくらい幸せだ。


 姉様がいてくれてよかった! とりあえず魔力の代わりに幸せエネルギーを補給させてもらおっと。うーん、姉様大好きすぎる!


――お姉ちゃん! 歩けます! 痛くないんです! 杖が無くてもこんなに早く歩けるんです!! お姉ちゃ……、姉さん?


――歩ける事が嬉しくて感動するのは分かります。私も自分のことの様に嬉しいですからね。……でも、私に報告するよりまずはシラユキ様にお礼を申し上げるのが先ですよ。シラユキ様、本当にありがとうございます。


――あ! ご、ごめんなさ、申し訳ありません!! ありがとうございます! 感動です!!


「あはは、いいよいいよー。ふふふ、喜んでもらえて嬉しいなー」


「姫様、ご立派です……! しかしあまりご無理をなさらないでくださいね。数日は魔法の使用をお控えになって、どんな些細な事でも私どもに全てお申し付けください」


「はーい! ふふふふー、ユー姉様ー」


「ああもう嬉しそう! 可愛い! ほら見てシア、この可愛い笑顔!!」


 恥ずかしいからやめてくださいませんかねえ……。でももっと可愛がって! ……やっぱり見ないで!!


――ね、姉さん!? これ! これ見てください! み、右足一本で立てますよ! こんな……、こんな事って……!!


――こらこら、嬉しいのは凄く伝わってくるけどいきなり無茶しちゃ駄目だって。急に動かして痛めたら元も子もないよ? まずは歩くだけにしときなさいって。


――あはは、タチアナはまだ子供っぽさが抜けてないみたいで面白いね。ソフィーのことは本当はお姉ちゃんって呼んでるの? 年は幾つなんだっけ?


――は……、あ、今年成人したばかりなんです。お、お恥ずかしい真似を……。


――まだ成人したばっか!? それは納得だわ。ってそれでいきなり働くの? 大丈夫? 私はウェイトレスよりここでメイドした方が絶対いいと思うよ? シラユキも絶対喜ぶし。


 !? うんうんはいはい喜びま、す!? 見られたっ!!


「さて、私はそろそろおやつの準備へと……。フラン、メア、お二人のことは頼みましたよ」


 よ、よかった。また変に嫉妬されるかと思ったよ……。


――あ、うん、りょうかーい。シラユキはユーネ様に任せておけばいいね、今日一日は魔力疲れで動き回れないだろうから。


――ひーめ、今日のおやつはシアの特製アップルパイだからねー。


 なななな、なんですって!? シアさん特製アップルパイとな! 私の一番の大好物ではないか!! 週に一回は必ず食べてるけど未だに全く飽きる気配すらないね。

 私の魔力回復にはアップルパイ、これが一番効くんですよ。うんうん、さすがシアさんよく分かってる。素晴らしい心遣いだと関心はするがどこもおかしくはないね。凄いなー、憧れちゃうなー。


「勿論姫様には食後に薬草茶をご用意致しております。そちらも特製ですのでどうぞご期待くださいね」


「そんなー!!」


 まあ、そんな事だろうとは薄々感じていたさ……。これも毎度の事だと諦めて従おうじゃないか。ぐぬぬ……。




 アップルパイはあーんして食べさせてもらい、紅茶もカップを口元まで運んでもらって飲ませてもらった。なんという幸せお姫様待遇。……これも毎度の事だけど実際お姫様なんだからいいんだよ。

 姉様は私の世話を焼きながら可愛がれて、私も姉様に可愛がられて幸せという好循環。タチアナさんの目の前なので少し恥ずかしかったが、魔力疲れだから仕方がない、と言い訳をしておいたので安心だ。


「さ、姫様。姫様お楽しみの食後の薬草茶のお時間がやって参りましたよ。お覚悟くださいね」


「なんで毎回覚悟して飲まないといけないの!? 楽しみにしてたのはシアさんだけなのにー」


 にっこり邪悪な笑顔でカップを差し出され、幸せ絶頂から一気に不幸のどん底に落とされてしまった。……さすがに少し言い過ぎか。

 薬草茶はとにかく苦いので大嫌いなのだが、シアさんの好意から出されている物なので断れない! 断りにくい!!

 この邪悪な笑顔を見ると、純粋な好意ではなく悪意、悪戯心も込められていそうなのが気になるところではあるけれど……。


 シアさんからカップを受け取り、まずは恐る恐る匂いを嗅いでみる。


「うっ……」


 た、例えるならそう……、例の秘密の広場でゴロゴロ転がった後のグリニョンさんの様な香り。草っぽいけど何故か嫌な匂いではない。


「怯んでる怯んでる、ふふふ。レンの淹れた物だからって別に無理して飲まなくてもいいのに……。歯磨いてお昼寝してきちゃいなさい、それが一番だって」


「だよね。でもさ、今日はいつもより魔力を多めに使っちゃったみたいだし、一応飲んでおくに越したことはないんじゃない?」


 フランさんは助け舟を出してくれたがメアさんは飲めと言う。まあ、どちらにせよ最初から飲まないという選択肢は無い訳でありまして……。


「わ、わたしが代わりに飲みます! 少しでもシラユキ様のお役に立ちたいんです! わたし、シラユキ様のためでしたら本当に何でもしますから!!」


「いやいや、意味ないからねそれ。シラユキ、我慢してぐっと飲んじゃいなさい」


「はーい……」


 むむう、姉様に言われては仕方が無い、いい加減覚悟を決めるとしよう。しかしタチアナさんは意外と面白い人なんだなー。ふふふ。


「タチアナ? そこは代わりに飲むのではなく口移しで飲ませて差し上げるのが正解ですよ。うふふ、まず私がお手本を見せますから続いて貴女も」


「自分で飲めます! すぐ飲みます!!」


 は、早く飲まないと大変な事に……!! シアさんもその手があったか! っていう顔しないの!!




 口直しにお砂糖たっぷりの紅茶を飲んで本日のおやつタイムは終了。何か私だけひどい目に遭ってしまったような気がするけれど、まあ、いつもの事だと気にしないでおこう。

 タチアナさんはこれからソフィーさんと一緒に散歩に行くんだととても嬉しそうにしていたので、これでよかったんだと素直に思えるね。いい事をした後は気持ちがすっきりとしていて本当にいい気分だ。


 さてと、私はお腹いっぱいで眠気も出てきた事だしお昼寝お昼寝っと。散歩にもついて行きたかったからちょっと残念だけどね。

 シアさん予想だと、多分また明日の朝まで起きられないかもしれないらしいので、申し訳ないけれど後の事は全て姉様とメイドさんズに任せてしまおう。


 残るお仕事はノエリアさんの右目とヘルミーネさんの右腕だね。数日ゆっくりと休養して、魔力が全快したら早速治しに行こう! 今回ので随分と自信が付いちゃったかもね? ふふふ。







もう9月ですかー

本編も丁度秋に入ったあたりで丁度いいですね。


次回はまた一週間以内に。

もう少しペースをあげたいところですね。

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