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283/338

その283

 ジニーさんから指示を受けた二人の行動は早かった。早かったのだが……、残念ながらそのジニーさんが指示を出すのが少し遅かった。


「お待たせしましたシラユキ様!」


「シラユキ、遊びに来ていたなら何故私を呼ばん。……ん? 見かけん顔がちらほらと、いや、そっちは見覚えがあるな。あー、誰だったか……」


 テーブルと椅子の追加を取りに部屋を出ようとしたノエリアさんとヘルミーネさん、そして私に呼ばれてやって来たミランさんとショコラさん。その二組が見事にドアの所で鉢合わせしてしまったのだった。


「うわ! が、ガトーショコラ!!? なんでアンタがここに!?」


「ガトーショコラ? ……『閃光』の!?」


 おお、さすがショコラさん有名人! ふふん、ちょっと誇らしいと言うか、何となく嬉しい気分。


 ノエリアさんが驚いてショコラさんの名を叫び、その名前に驚いたヘルミーネさんは後ずさって露骨に距離を取った。


 なんでそこで距離を置こうとするのかなあ、ショコラさんは凄く優しい人なのに! まあ、これから沢山お話して知ってもらえばいいか。


「なんでと言われてもな、それはこちらのセリ……、まあいい、名前は忘れたが久しぶりだな。その右目はどうした?」


「あ、ショコラさん待って待って。三人がここにいる理由とかその怪我の事とか、これからみんなでお昼を食べながらお話するの。ショコラさんも参加してほしいなー」


「そうだったのか、なるほどな。シラユキの頼みを私が断る訳がないだろう? 楽しみにしているようだし私からは聞かんでおいてやるか。まったく、何をしていても本当に可愛いなこの子は」


 ショコラさんは笑顔でそう言いながら私の目の前までやって来て、私を抱き上げると一緒に椅子に座って早速可愛がりを始めた。なんという自然な動作……!!


「ショコラさんはノエリアさんのこと知ってるの? お友達?」


「いいや? まあ、前に色々あってな、顔見知りくらいの間柄だな。ほら、もっと甘えてこい」


 いやいや、甘えてこいと言われましてもね……。私もそうしたいのは山々なのでありますが……。


「スッゲー……、ガトーショコラ本気ですっげえわ……。あ、あの方シラユキ様だぜ? ハイエルフなんだぜ?」


「え、ええ……。さ、さすがは『閃光』のガトーショコラ、これを見せ付けられると最強と称えられるのも納得ね……」


 二人の興味だか尊敬だかよく分からない視線が私にもちくちく突き刺さってきてるんです! もっと仲良くなってからじゃないと目の前で甘えられないよ……。


「さ! シラユキちゃんが可愛いから見惚れるのも分かるけど……、二人が動かないとお昼が食べられないでしょ!! あ、ミランちゃんもお手伝いよろしく! 二人に倉庫の場所教えてあげてねー!!」


 ジニーさんが何度か手を叩いて二人の意識をあちらに戻してくれた。この流れは本日何度目だろうか……。


「す、すんません! すぐに持って来ます!!」


「はっ!? くっ、なんという失態を」


「はい? 倉庫ですか? あ、お二人ともこちらです。うう、私もシラユキ様とお話したいのに……」


 ミランさん今日は完全に巻き込んじゃってごめんねー! 今度メアさんに何かお菓子を作ってもらって、改めてお礼とお詫びに来るからね!




 すぐにテーブルと椅子が運び込まれ、お昼(と言うよりお茶会?)の準備が整えられていく。私はシアさんにお出かけ用のバスケットを手渡した以外何もしていなく、ずっとショコラさんの膝の上で可愛がられていた。


 まあ、特に何かお手伝いをしたいという訳でもないんだけどね。何となく初対面の人の前で偉そうに座って見てるだけなのは落ち着かなくて……。いや、私はお姫様だからこれで正しいんだけどさ。


「あ、そうだ。ショコラさんショコラさん、こっちの人はタチアナさんって言ってね、ソフィーさんの妹さんなんだ、よ?」


「なに? あ、アイツの妹か……、? なんでそんなに距離を取ってるんだ?」


 ただ待っているだけというのもなんなので、この時間を利用してタチアナさんを紹介しておこうと思ったのだが、タチアナさんはいつの間にか壁の方まで避難してしまっていた。椅子ごとだったのでそこだけは安心だ。


「あ、わ、わたしのことはお気になさらずにどうぞ。お邪魔にならないようにここで大人しくしていますから」


「別に邪魔になど思わんさ、私からシラユキを奪おうとするのなら容赦はしないがな。まあなんだ、ソフィーティアの妹というのには色々な意味で興味が沸くな。ほら、こっちに来い」


「あ、やっ、え? あああぁぁ……」


 ショコラさんは私を抱えたまま立ち上がり、タチアナさんの座っている椅子の背を片手で掴んでズルズルと引き摺ってきてしまった。なんというパワー、そして強引さ。



 さすがにここまで連れて来られてしまってはどうしようもないので、観念して簡単な自己紹介をしてもらった。私はその間にケーキとパイの箱を次々と取り出してシアさんたちに渡しておく。この特技を驚かれるのも久しぶりでいい気分だ。


「ジニーの店でなあ……、苦労させられるだけだと思うぞ? どうせならシラユキの所でメイドでもやればいいだろうに」


 うんうんうんうん! ……はっ!? 頷きすぎた!! だ、誰も見てないよね……? シアさんに見られていたら意味不明な嫉妬をされて苛められてしまうところだった!


「いえ、こ、この足のせいで今まで運動も何もできませんでしたから、まずは何でも経験してみたいんです。この機会を与えてくださったジニーさんにご恩返しもしたいですし」


「ほー、それは殊勝な心掛けだな。ソフィーティアの妹と聞いてどんな奴かと思えば随分と真面目な性格をして……。よし気に入った、何かあったら私を頼ってきてもいいぞ」


「あ、ありがとうございます……。?」


 頭を下げてお礼を言うタチアナさんだったが、上げたその顔はハテナ顔だった。


 あはは、いきなりよく知らない竜人種族の人に頼れと言われても困惑しちゃうよね。ソフィーさんから詳しく聞くといいよ。ふふふ。


「そこは私を頼ってきてほしいんだけどなー。それじゃそろそろ準備も終わりそうだし、右足を先に治しちゃおっか」


「は……、はい! お願いします……!!」


 テーブルを見ると、後は紅茶を並べるだけというところまで準備は進んでいた。ジニーさんが足を引っ張りまくったのか、シアさんとしては随分と時間が掛かったような気もする。


 シアさんが紅茶に集中している今がチャンス! でも今までの勝手な行動を反省して、ほんの少し、試しにかるーく癒しの魔法を使う感じで……、む? むむむ? 動けない……。


「あ、あれ? しょ、ショコラさーん?」


 ショコラさんの膝の上から降りようとしたら全く身動きが取れない事に気が付いた。まさかここでショコラさんに邪魔されるとは!!


「あ・と・で・な? シラユキは普段は聞き分けのいい子なんだが、これだけは本当に言う事を聞かんなあ」


「ありがとうございますガトー。そのまま姫様を捕まえていてくださいね」


「任せておけ。むしろ望むところだ」


 あ……、ああ! シアさんがまだ私の側を離れられないとか言ってたのはそういう事だったのか!? ぐ、ぐうぅ、私ってば信用ないね! 自業自得かあ……。


「タチアナさんごめんねー。でも絶対に治してあげるからね!」


「はい! ふふ、可愛らしいです……。ふふふ」


 タチアナさんが笑顔なので、まあよしだ! さーて、お昼ご飯にしよー!




 残るお仕事はケーキとパイのホールを切り分けるだけなので、シアさんとミランさん以外のみんなには席に着いてもらった。お姫様と同席なんて! と恐縮されてしまったが、話が進まないのとお腹がペコペコなので無理矢理に座ってもらう。このやり取りも久しぶりで懐かしい。

 ちなみにミランさんがお手伝いに回っているのはシアさんが有無を言わさず任命してしまったからです。やはりミランさんは私のメイドさんになるべき人だと何度目かの再確認をしてしまったね。


 八人という結構な人数でのお茶会になってしまったが、私の興味は新人さん三人組に完全に向いてしまっている。ミランさんとショコラさんとももっとお話したいけれど、やはりまずはこちらの三人を優先だね。


 ショコラさんがここにいる理由や各自の簡単な自己紹介、さらに今日の集まりについての説明などなど話題は盛り沢山。とても楽しいお昼となってくれた。

 ある程度話題を消化したところで気になっていた疑問をぶつけてみる。これは私じゃなくても誰だって気になる事だろう。


「えっとね、ノエリアさんとヘルミーネさんの二人に聞きたいんだけど、怪我が治ったらまた冒険者に戻りたいって思わないの? ノエリアさんはAランクだったって言うし、勿体無いなーって思うんだけど」


「ああ、はい、冒険者にはもう未練も何もないっすよ。この目でも続けていこうと思えば続けていけましたっすけど、もう張り合いがなくなっちまってましたから丁度よかったっす」


「私も同じく。元々そこまでやる気があった訳でもありませんでしたので。冒険者でなくとも私の望みは……、フフフ」


 だからなんで怪しく笑うの!? ま、まあいいや、追々慣れていく事にしよう。


「アタシは許可さえ頂ければそれだけで充分っす。シラユキ様はまだ子供なんすから強すぎる能力を使うと倒れちまうかもしれないっすよ」


「ええ、接客で人前に出る事を考慮に入れると傷跡を消して頂ければとも思いますが、私は袖を長くするだけで済む話なので……」


「そうなの? 治してもらうつもりだった訳じゃないんだねー」



 ノエリアさんは目の所に縦に一本10cmほど、ヘルミーネさんは右手の平から肘の内側の辺りまでという大きな傷跡が残ってしまっているらしい。

 怪我は二人とも完治しているがその傷が元で、ノエリアさんは視力が極端に低下し、ヘルミーネさんは握力が殆ど無くなってしまったんだとか。失明や麻痺までいかなくて本当によかった。



「とにかく三人とも絶対に治して見せるから安心してね! 時間は掛かるかもしれないけど……」


「へ? あ、ありがとうございます!! ってかそれって……」


「あ、肝心な事を言ってなかったね、三人とも採用だよー。ジニーさんが選んだ人たちなんだから考えるまでもなかったんだけどね。ふふふ」


「よっしゃ……!! やっぱ姉御はすげえなあ……」


「ありがとうございますシラユキ様。ジヌディーヌさんは王族の方、シラユキ様からここまでの信用を得ているとは……。フフフ、とてもそうは見えないというのに」


 一言多いです! ヘルミーネさんは面白そうな人なのかまだよく分からないなー。


「杖無しで自由に歩けるようになるかもしれないなんて本当に夢のようです! わたし、シラユキ様のためでしたら何でも致しますから!」


 おお、タチアナさんは笑顔が凄く可愛いなー、ん? 今なんでもするって言ったよね? やったー!! 今日家に連れて帰っちゃって膝の上に座らせてもらおっと! ふふふふふ。


「しっかし、お前がウェイトレスなあ……。私よりはるかにガサツな奴だと思ってたんだがな。どういう心変わりだ?」


 あ、そうだった、ショコラさんとノエリアさんは顔見知り? だったっけ。


「いや、まあ、ガサツってのは否定しないけど、女らしい事もしてみたいと思うくらい別にいいじゃねえかよ。アタシから言わせりゃアンタの変わりっぷりの方が驚きだぜ? それとバレンシアさんも随分とお淑やかな人になっちまって……、正直気味が悪いっすよ」


 さすがにそれは言い過ぎじゃないかな! でも、シアさんの昔を知ってる人はみんなこんな反応なんだよね……。


「失礼な……。姫様、やはり不採用という事で放逐してしまいましょう」


「ちょやめっ! やっぱ口調以外なんにも変わってねえ!!」


「あはは。はいはいそこまでそこまで。お姉さんの言った事忘れちゃったかなー?」


「え? あ! す、すんませんっす!! ちょ、ちょい黙ってます……」


 ……なるほど。もしかしてさっきテーブルと椅子を取りに行ったときに、シアさんの昔については話すなとか言われちゃってたかな? ちょっと下がってたジニーさんの信頼度が元に戻ってきました!



 ショコラさんとノエリアさんの関係(?)は、前にライナーさんとノエリアさんが勝負をした事があって、その立会いをショコラさんが任された、という事だけは教えてもらえた。

 何故かノエリアさんからそれ以上聞かないでくれと懇願されてしまったのでそこまでしか分からなかったが、シアさんがもの凄くいい笑顔だったのでその内白状させられてしまうだろう。楽しみだ。



「はあ……、皆さん本当に羨ましいです。私もせめてもう少しだけあればシラユキ様にもっと甘えて頂けるんですけどね」


 む? ミランさんどうしたんだろ? 家に遊びに来てくれた時には結構全力で甘えにいってると思うんだけどなー。……もう少しだけあれば?


「ええ、妬ましい限りですね。まさかこのサイズが一度に三人も加わるとは……、ランキングの変動も気になるところではありますね」


「シラユキちゃんが幸せそうなのはいいんだけどねー。お姉ちゃんもこればっかりはどうしようもないの! でも甘えてね!!」


「あ、う、うん。……ランキング?」


 ああ、わ、私的おっぱいランキング事か! 今日初めて会った三人の前でそれを話すのはまだ早すぎると思うんですが! やめてもらえませんかねえ……。


「シラユキ様は大きな胸に甘えるのがとてもお好きなんですよね? 姉からの手紙にもそう書かれていました。わたしの胸でしたらいつでもいくらでもお好きにしてくださって構いませんから。ふふ」


 ひい! そういう意味じゃないよね? ソフィーさんの妹さんだからってそっち方面では完全オープンとか……? 後で確かめなければ!


「アタシのもどうぞ!! いやまさか、この無駄乳に感謝する日が来るなんて思いもしなかったぜ」


 無駄乳ですって!? そんな素晴らしい物の何を無駄だと言うんだ! 真に遺憾である。


「ガトーショコラ、いい加減シラユキ様を降ろして差し上げたらどう? 私たちと胸の差もそこまでないでしょうに貴女だけ……、ずるい」


 あら可愛い。やっぱりヘルミーネさんの性格は掴めないなあ……。


 なんか三人とも私が大きなおっぱい好きっていう事に疑問も何も持ってないみたいなんですけど……。ま、まあ、いい事だと捉えようじゃないか。これで甘えやすくなったかもね。

 まったくもう、まだ年は分からないけどみんなやっぱり大人のエルフだね。王族でも子供と見たら甘やかしたいの可愛がりたいであるか。嬉しいけど私ももうすぐ五十歳になるんです! そこまで子供じゃないんです! 甘えやすいとか考えてる限り説得力も何もあったもんじゃないけどね……。


「ふん。最近はジニーのアホのせいで中々構ってやれなかったからな、まだまだ放す気はないぞ。どうしてもと言うのなら力ずくで来い。できればの話だがなあ?」


「無理に決まってんだろ! あ、バレンシアさん頼んますよ、やっちまってください」


「なっ!? 卑怯だぞ!」


「そうですね、と言いたいところなのですが、貴女の言葉で動くというのも何となく癪なのでお断りします」


「なんでっすか!?」



 あはは、みんな楽しそうで何よりだね。さーて、聞いてるだけでも凄く楽しいんだけど、私ももっとお話に参加していかないとね!


 ああそうだ、三人の膝の上に座らせてもらうのはタチアナさんの足を治してからにしようかな。足に負担が掛かるかもしれないし、だからと言ってタチアナさんだけ仲間外れにする訳にもいかないもんねー。

 フフフ、この胸を見せ付けられては俄然やる気が沸いてくるというものではないか……!!



 とりあえず……、タチアナさんはお持ち帰り決定ね!







一応新キャラ三人の顔見せ回はこれで終わる……かもしれません?

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