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その276

 夏休み明け、お手紙仕事が再開されてから早一週間ほど、またねと別れたジニーさんはあれから一度も顔を出しに来ていない。あんなにも元気に毎日遊びに来ていたというのにどうしてしまったんだろうか?

 メイドさんズ予想では、私のお仕事の邪魔になるから遠慮しているだとか、遊びまくったツケが回ってきて仕事部屋に缶詰になっているだとか、それとも夏風邪でもひいたんじゃないか、などなど、答えが出ない事をいい事に言いたい放題だ。いつも正解を知っていてニヤニヤ眺めているシアさんも今回ばかりは把握しておらず、結構楽しそうに噂話に加わってきている。夏風邪や食あたりなどのちょっとひどい予想をしているのはシアさんだけだ。


 私としては、一ヶ月遊びに遊びまくった分のしわ寄せがやってきているだけだと思うけどね。毎日の様に遊びに来ていたお友達がぱったりと来なくなってしまったからちょっと物足りない感じ。なので近い内にこちらから会いに行こうと思っていたのだけど……。




「シラユキちゃんシラユキちゃーん!! 遊びに、じゃなかった、お姉ちゃんが会いに来たよー!!」


「あ、ジニーさんいらっしゃーい」


 今日も朝のお手紙仕事を終え、シアさんとのんびりと休憩していたらジニーさんが普通にやって来た。残念ながら遊びに来た訳ではないらしいが、特に体調などに変わりはないみたいなのでまずは一安心だ。


「こんにちはジニーさん。とりあえずもてなす気はありませんので、その辺りで適当に横になっていてください」


「その辺りって……、床!? シアちゃんがまた意地悪になっちゃったー!!」


 今までのサービス期間は終了してしまったのか、私と二人きりの時間を邪魔されて少々不機嫌なシアさん。でも問答無用で追い返さないので充分友好的とも言えるかもしれない。


「まあいいや、今日はちょっとシラユキちゃんにお話があってね。よっこいしょっと」


「椅子に座っていいからね!」


 そして言われたままにその場で横になろうとするジニーさんを慌てて止める。本当に色々な意味で打たれ強い人だ。



 ジニーさんは笑顔でお礼を言いながら私のすぐ近くの椅子に座り、改めて話を続ける。


「えーとね、実はシラユキちゃんに聞きたい事が沢山あってね。うーんとぉ、何からお話しよっかなー。ふふふ」


「私に聞きたい事? な、何かな」


 ふんふーん、と鼻歌を歌い出しそうなほどに上機嫌なジニーさんにちょっと警戒心が沸いてきてしまう。一見するとただの明るいお姉さんだけど、シアさんのお姉さん的な存在なだけにやはり油断はできない。

 が、だからと言って大切なお友達であり森の家族でもあるジニーさんをぞんざいに扱う訳にはいかない。まずはその質問とやらを聞くだけ聞いてみようではないか。


「私もまだ考えが纏まってないから、うん、思い付いたところから聞いていっちゃおうかな! それじゃねシラユキちゃん、おっぱいパンとカレードーナツと、あとハンバーガーを考えたのってシラユキちゃんなんだよね? 実際形にしたのはフランちゃんだと思うけど、原案はシラユキちゃんなんでしょ?」


 おっぱ……、こほん。メロンパンとカレーパンとハンバーガーか、確かに三つとも私が考えた事になってるね。この世界では、だけど。


「う、うん、そうだよー。でもおっぱいパンはルー兄様が勝手にそう呼んでるだけだからね! メロンパンが本当の名前だからね!」


「ふふふ。うんうん、凄い凄い可愛い可愛い。まったくシラユキちゃんはおっぱい大好きなんだからー! お姉ちゃんあんまり大きくなくてごめんね! でも誰も見てない所でなら吸わせてあげるからね!!」


「吸いませんー!」


 ジニーさんも私を赤ん坊扱いするのか! これは許されざるよ……。

 まあ、でもシアさんがニコニコしてるからあまり激しく反論はしないであげようじゃないか。……今日の私はちょっと偉そうだな……。お仕事のすぐ後だからかな? ふふふ。


 今さらっと出てきたハンバーガーは、普通にサンドイッチと大差はないのでそこまで大好評は頂けていません。ハンバーグを挟んでるからハンバーガーという安直過ぎる名前は大いにウケたけど……。

 ちなみに薄く切ったチーズを追加したチーズバーガーの名前はさらに大ウケでした。普通だと思うのに何故だ!!


「はいそれじゃ次ねー! シラユキちゃんは全く知らないエルフが困ってたら助けてあげようって思う? それこそ名前も顔も知らないどこかの誰かさんくらいの人なんだけど。例えば他所の国で冒険者からドロップアウトしちゃったとかそんな感じ」


 ええ? 食べ物のお話からまた一気に別方向に飛んだ質問だねそれは。うーん……?


「実際に会ってみないと分からないかなー。ジニーさんのお友達とかそれくらい近い人ならいいかもだけど、それでもちゃんとお話を聞いてからじゃないと難しいと思うよ? すぐに助けてあげたい! なんて風にはならないと思うなー」


 何か真面目なお話っぽいのでちゃんと考えて答えてみる。

 例に上げられた他所の国の冒険者だったエルフの人が、怪我やその他のどうしようもない理由で冒険者を続けられなくなってしまった場合で考えてみると……。いくらエルフとは言ってもどこの誰とも知らない人だし、どんな理由があってどうして辞めるまでに至ったのか、という経緯が分からなければ考える以前の問題だと思う。実際に会ってお話してみても、その人自身の自業自得だったりするとそこまで親身になる事はないんじゃないかな。


 私はお姫様でも世間の厳しさというものを知らないただの子供だし、まずは父様と母様、それにシアさんやショコラさんみたいな頼りになる大人に相談するのがベストだろうね。


「そうは仰いながらも目の前で助けを求められればつい手を差し伸べてしまう、というのが姫様なのですけどね。ふふ、お優しすぎるというのも困り者です」


「あはは! うん、シラユキちゃんならきっとそうしちゃうよねー。ふっふふ。いい子いい子」


「むう、否定できない……」



 その後も前後の繋がり、関連性が全くない質問が幾つか続いた。『転ぶ猫』のメニューの中で一番のお気に入りは何か、ミランさんとショコラさんのどっちがしっかり者だと思うか、月々のお小遣いは幾らぐらいなのか等、本当にその場の思い付きで質問をしているみたいだった。

 ちなみに各質問の答えは、開店当初からあるという苺のショートケーキ、ミランさん、上限なし、です。そんなに無駄遣いはしてないと思いたい。


「さってと、怖いから後回しにしてたけどそろそろ聞かないとね! えーっとぉ、シアちゃん怒らないでね?」


「ほう、私が怒りのあまりジニーさんを手に掛けてしまう程の問いですか、それは楽しみですね」


「シアちゃんこわっ! お姉さんを信じてー!!」


 はっ!? シアさんの顔から笑みが消えた……!?

 言い方こそいつもの冗談半分のやり取りに聞こえるけどこれはやばい! 既に怒り掛けていらっしゃるわ……。ガクブル。


「し、シアさん落ち着いてね? いきなり手を上げたりしちゃ駄目だよ?」


 やんわりとそう言ってはみたけれどシアさんからの返答はなく、視線は完全にジニーさんにロックされている。

 これはもう私にはどうしようもない、成り行きを見守るしかないだろうね。一応いつでも止められるようにシアさんの右手を握っておこう。


「あら? どうされました? 姫様。ふふ、申し訳ありません、ジニーさん如きを構いすぎてしまいましたか。ご安心くださいね、私は何よりも誰よりも、姫様を第一と考えておりますので……。ふふふ」


 すると途端に表情が笑顔に変わり、繋いだ私の手を撫でまくってくるシアさん。

 急に態度がコロリと変わりすぎィ! あーもう、怒ってるのかそうじゃないのか、はたまた内心ではジニーさんをどうしてくれようかと企んでいるのか全く分かりません! 怒ってたけど手を繋いだら機嫌が直ったという事にしておこう……。


「……ふう、シラユキちゃんありがとね。シアちゃんシアちゃん、聞くだけだからね! お願いとはまた違うから! ね!!」


「はいはい。そろそろメアもフランも戻って来ますので手短に済ませてくださいね」


「はーい! シラユキちゃんって癒しの魔法使えるよね? それってどれくらいまで」


「姫様に何をさせるおつもりですか……!!」


「シアさんストーップ! 落ち落ち、落ち着いて!! きゃ、キャロルさーん! グリニョンさーん! 誰か来てー!!」



 結論から言ってしまうと、残念ながらキャロルさんは助からなかった。


 ……はい、助からなかったのはジニーさんではなくキャロルさんです。間違えた訳ではありません。


 私の救援要請を耳にしたキャロルさんは、談話室に飛び込んで来ると即座に状況を理解してシアさんを止めに入ってくれた。そこまではよかったんだ、そこまでは……。問題は、ジニーさんの発言に対するシアさんの怒りがそれほどでもなかったという事。

 いや、根本的な問題はそちらではなく、その時私はシアさんに抱きつくようにして制止していたのだが、キャロルさんが来てくれたので交代するように体を離してしまったのだ。これがいけなかった。


 シアさんの怒りが……、有頂天になった!!


 多分全部私のせいなんだけど、シアさん理不尽すぎるでしょう……。



「いたっ! ちょ、やめっ、痛いですシア姉様! いっ、たたたた、ああー!!!」


 そんな訳で今現在は落ち着いているのだが、キャロルさんはシアさんに捕まって両耳をグイグイと引っ張られてお仕置きをされている。

 私も一度エレナさんにされた事があるから分かるんだけど、あれはとても痛い! エルフの耳は弱点(?)なので決して引っ張ってはいけません!!


 ちなみに一応グリニョンさんも来てくれたのだけど、お仕置きされるキャロルさんを見てニヤリとし、そのまま無言でどこかへ行ってしまいました。分からない人だ……。


「ご、ごめんねキャロルさーん……。ううう、痛そう……」


「でも何となく嬉しそうだねキャロルちゃん。ふふふふー」


 うん、痛い痛いと言っている割に口元はニヤけちゃってるんだよね……。だから止めていいものかどうか分からずにこうして見守っている事しかできない。お仕置きでもシアさんに構ってもらえて嬉しいんだね、きっと。


「あっちの仲良し姉妹はとりあえず置いといて、どう? シラユキちゃん。例えばここ、この辺りからスッパリ切られて無くなっちゃってたりしてもあっさり治せちゃったりするの?」


 ここ、と自分の右腕の二の腕辺りを、左手で切るような動作をしながら聞いてくるジニーさん。何やらキャロルさんが一際大きな悲鳴を上げた気がしたが、恐らく気のせいだろう。


 これはさっきの癒しの魔法の質問の続きだよね。失った体の部位の再生は可能か? って事か。ううむ……。できると言えばできるけど、できないと言えばできないね。


「できると思うけど……、多分魔力が足りないと思うから今はできないんじゃないかなー。古い傷跡を綺麗に消す事くらいなら今でもできるんだけどね」


 女神様に聞けば今の私の魔力でどれくらいの怪我が治せるか、とか教えてもらえそうなものだけど、失った腕どころか指一本すら治しきれないと思うな。あと治す人の体にももの凄く負担が掛かりそうな予感もするね。現状だと限りなく100%に近い確率で無理だと思う。


「そっかそっかー、いきなり変な事聞いちゃってごめんね! シアちゃんとキャロルちゃんもごっめんねー! 色々参考になっちゃたかなー。ふふふ」



 その後すぐにキャロルさんは解放され、そのまま理不尽に談話室から追い出され、メアさんとフランさんが戻って来たところでジニーさんは帰ってしまう事になった。今日もこれから一緒に遊んでくれるんだとばかり思っていたのでとても残念だけど、お仕事が待っているのならば仕方がない。

 ジニーさんが言うには、これから暫くの間かなり忙しくなりそうだからあんまり遊びに来れなくなるんだとか。という事はこちらから遊びに行くのも控えなくてはならない。さらに残念だ、寂しくなるね……。


 まあ、兄様も姉様もメイドさんズも森のみんなもいるし、今年は結構遅めになってしまったけどもうちょっとしたらマリーさんたちも遊びに、いや、帰って来るから、寂しいなんて思う暇もないと思うけどね。ふふふ。






 忙しくなるから遊びに来れなくなる、と言っていたのは誰だったか……。まあ、ジニーさんなんだけど、あの質問攻めの日から一週間と経たない間にまたやって来た。


「シラユキちゃんシラユキちゃーん!! あのね! 聞いて聞いて!! お姉ちゃんギルド長さん辞めるんだー!!」


 ……はい? え? あの……、なんですって!?


「ええー!?」







続きます。



キャロルは犠牲になったのだ……。(無意味)

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