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271/338

その271

 私の家に遊びに来たいと言うジニーさんのお願いを聞き入れ、いつもより大分早いが家に帰る事になった。今はもう町の外、シアさんと手を繋いでゆっくりと森の中を進んでいる。ジニーさんも私と手を繋ぎたさそうにしているが、手を伸ばす度にシアさんに阻止されてしまっていた。勿論軽い一撃のおまけ付きで。


 私も午前中でデートは充分に楽しんだのだけれど、シアさんは本当に怒ったり企んだりしていないんだろうか? こうして手を繋いで歩いていても表情はにこやかで、特に機嫌が悪そうな空気は伝わってこない。私の考えすぎなんだろうと思うけどシアさんのことなのでやはり油断しきる訳にはいかない。



「どうですか? 久しぶりの故郷は」


 シアさんがジニーさんに軽く問いかける。変な話だがそんな程度の事に結構驚いてしまった。


 あのシアさんがこんななんでもない風に、日常会話の様に質問をするとは……。やっぱりシアさんとジニーさんはかなり仲が良いお友達なんじゃないかな。これはもう変に構えずに安心して見ていられそうだね。


「久しぶりって言ってもねー、一応あのギルドのギルド長になった時の挨拶で一回入ってるしねえ……。ま、あの時はシアちゃんピリピリしてたもんね」


 ピリピリしてた? あの時って言うと……、ああ、私が泣いちゃってその後色々あったアレの事だね。思い返すと私的には中々に恥ずかしく、冒険者ギルド的には結構な大事件だったんだろうなー、と他人事の様に思い出す。実際は他人事どころか事件ど真ん中の当事者なんだけどね。

 あれからもう三十年以上経ってるのか……。うん? ジニーさんはそれからずっと森に入ってなかったっていう事なの? しかも今の言い方からするとそれにシアさんが関係してる?


「ええ、まあ、恥ずかしい話ですがあの頃の私は全くと言っていい程心に余裕が無かったもので……。帰郷の邪魔をしてしまっているのでは? という考えも確かにほんの少し程度はあったのですが、ジニーさん如きのことですしどうでもいいですか、と結論付けて頭の隅に追いやってしまっていましたからね」


 なにそれひどい! もしかしてシアさんが脅して森に入らせないようにしてたとか?


「シアちゃんひっどーい! でも会いたいのもシラユキちゃんくらいしかいなかったから別によかったんだけどね。ふふふ、ガトーちゃんもそうだったけど、シアちゃんもシラユキちゃんの前だと随分大人しくしてるよね?」


「そうですか? ガトーは確かに姫様の前では猫をかぶっていますが、私はいつもこんなものでしょう?」


 ひっどーい、と言いながらも全然気にせずに話を続けるジニーさんと、さらっと受け答えをするシアさん。


 あー、なんだろこれ、ニヤニヤしちゃう。なんだか嬉し楽しい気分になってきちゃったから私も話に加わらせてもらおっと。


「ショコラさんが猫かぶってるっていうのは分からないけど、シアさんはいっつも優しいよ? 今日は逆に暴力的なところを見て驚いちゃったけどねー。ふふ」


「ええー? シラユキちゃんにはいっつも優しいんだー? 私にはいつもあんな程度じゃ済まないくらいな仕打ちなのに!」


 あの鋭い膝蹴りがあんな程度? いつもは一体どんな仕打ちを……? マジ震えてきやがった……、怖いです。


「何を言いますか失礼な、姫様におかしな事を吹き込まないでくださいね。姫様もジニーさんの仰る事など間に受けてはいけませんよ? この方は不真面目不誠実という言葉が服を着て歩いているような方なのですからね」


「シアちゃんひどい!」「シアさんひどーい」


「酷くありません。お二人してまったく……。ふふ」


 あ、シアさん笑ってる笑ってる! たったそれだけの事なのにジニーさんがとんでもなく凄い人に見えてしまう不思議。こうなってくるとどうしても二人の関係が気になってしまうね。


 気になったら即実行! と二人の関係について聞こうとした丁度その時、近くの木の上から男の人が一人降りてきた。


「姫、バレンシア、おかえり。……ん? そっちは確か冒険者ギルドの……」


「た、ただいまー。いきなり降りてくるとビックリしちゃうよ、もう」


 私は驚かされてしまったので文句交じりに、シアさんは何も言わずに軽く会釈のみで、ジニーさんも無言だが表情は笑顔で手を振ってそれぞれ挨拶を返した。


 私たちをお出迎えしてくれたのは、巡回のお仕事をしている内の一人でスティーグさん。ライスさんの同僚(?)だね。喜怒哀楽がちょっと薄かったりするけど、こうして私を驚かせて楽しむ普通にノリのいいお兄さんだ。


「悪い悪い、見かけないのが一人混じってたからな」


 スティーグさんは謝りながら私に近付くと、ポンポンと頭を撫でながらジニーさんに向き直る。

 どうやら私が部外者らしき人を連れて来てしまったせいで少し警戒させてしまったらしい。スティーグさんはジニーさんが森の住人だっていう事は知らないみたいだ。でもエルフだから警戒度は低めなんだろうね。


「こんにちわはーん」


「わはーん!? あ、えっとね、ジニーさんはねむぐっ! むぐぐ?」


 な、なに? あ、シアさんか。どうしたんだろう?


「どうした姫? バレンシア何やってんだ」


 いきなり口をつぐんだ私にどうしたのかと振り向くスティーグさんだったが、一目見て納得して呆れたようにシアさんを見ている。

 それもその筈、シアさんは何故か私の後ろから両手で口を押さえてきているのだ。いきなり過ぎる予想も付かなかった行動に私も何をどうすればいいか分からず、とりあえず大人しく成り行きを見守る事にした。


「そちらの方、ジヌディーヌさんと仰るのですが……」


「ああ、冒険者ギルドのギルド長だろ? それがどうした」


 なんだ、シアさんが代わりに紹介してくれるんだね。まさか自分のお友達だから自分で紹介したかったとか? シアさんも中々可愛い事を考えるじゃないか。ふふふ。


 シアさんはたっぷりと数秒間溜めた後……


「侵入者です」


「えっ?」「は?」「んぐ?」


 とんでもない紹介をした。



「いやいやいやいやいや! 私帰って来ただけだし!! シアちゃんどうしたの!?」


「なんだ? 侵入者なのかコイツ。姫の友達なんだろ?」


「ん!」


 そう、お友達で森の家族! シアさんに騙されないで!! 騙される訳もないと思うけどね。


「違う、知らない、勝手について来て困っている、と仰られています」


「んー!?」


 そんな事言ってませーん!!


「思いっきり否定してるんだが……、ま、面倒だし捕まえとくか。おいアンタ、抵抗すんなよ? 抵抗する場合骨の一、二本は覚悟しとけ」


 きゃー! ジニーさん逃げて! あ、やっぱり逃げないで!!


「ちょちょちょ、ま! 抵抗はしないから落ち着いて!! な、なんで私が捕まるの!?」


「慌てているのは貴女だけですよジニーさん。さ、姫様、私たちは一足先に館へと戻っていましょう。スティーグさん、後はお任せします」


「ん?」


 え? あ、先に帰っておくの?


「あ? ああ、なんだか分からんけど館に連れてきゃいいんだな? とりあえず縛るか」


「なーんでー!? あ、お姉さんそういうのは初めてじゃないけど優しくお願いね! し、シラユキちゃんまた後でねー!」


「んんー」


 ま、また後でー! スティーグさんもお手柔らかにお願いね! ……どうしてこうなった!!






 シアさんは器用にも私の口を塞ぎながら抱き上げて、すぐにその場を離れてしまったのでどうする事もできなかったが、家に着くまでの間にどうしてあんな真似をしたのか問い詰めてみると……、時間稼ぎがしたかった、とのこと。どういう事なの……。


 色々と突っ込んで聞いてみたいが私は家に帰ってすぐに部屋着に着替えさせられ、準備が整うまでお部屋で待っていてくださいと置いていかれてしまった。ご丁寧にキャロルさんを監視に付けて。

 まあ、監視という名目で毎日お疲れのキャロルさんが休憩できるのならそれでもいいかな、と一時的に納得はしよう。だがその休憩ついでにちょっとお話しくらいはしてもいい筈。そのお話の内容がジニーさんについてでも何も問題はない筈だ。


「はいはいキャロルさーん、シアさんが何を考えてるか教えてほしいなー?」


 途中まで歩いて帰って来て少し疲れてしまったので、はしたないとは思うのだけどベッドに寝転がりながら聞いてみる。この程度でキャロルさんが怒る事もないだろうからね。


「シラユキ様、可愛らしいですけどはしたないですよ? それに、シア姉様が何を考えているかなんて私にはさっぱりです」


 普通に怒られた! 怒られたと言うより軽く叱られた感じかな。ちょっと嬉しい。

 キャロルさんは呆れ半分苦笑気味に私を抱き上げて、そのままベッドに腰掛けると後ろからギュッと抱きしめてくれる。シアさんがいないので完全にお姉さんモードだ。


「ふふふ、ごめんなさーい。キャロルさんはジニーさんがどういう人か知ってるの? シアさんのお友達なんだよね?」


 私の勝手な予想だけどこれは間違っていないと思う。それもかなり親しい仲なんじゃないかと推測しているんだけど?


「そういえばアイツ、ジニーさんについては特に口止めもされていないんですよね。シア姉様がシラユキ様に会わせない様にしてたのと、私も何となく面白そうだったので黙ってたんですが」


「なにそれひどい」


 あ、キャロルさんもジニーさんにはさん付けなんだ? やっぱりギルド長さんになれるくらいなんだからかなりの実力者なんだろうか……。全くそうは見えないんだけどなー。


「ふふ、すみません。あー、どこまで話していいんだろ……。とりあえず私が知ってるのはシア姉様が昔お世話になっていた人っていうくらいで……、私を弟子に取る前、いや、もっと前の話だと思いますよ」


 後ろから頬擦りをしまくりながら話してくれるキャロルさん。

 くすぐったいけど幸せ! もう自然体で私を可愛がる事ができるようになったね。


「へー……。あ! もしかして……、ジニーさんって前に言ってたシアさんの先生みたいな人なの?」


 確かシアさんも一時期先輩冒険者に師事していて、でも教わる事が殆ど無くてあっさり離れたとかなんとか言っていたような……。


「いえいえ、あんな奴がシア姉様の師匠な訳ないじゃないですか。そっちは口止めされちゃってますから秘密です」


「ええー? むう、キャロルさんずるい!」


「うわ可愛い! っと、拗ねないでくださいよシラユキ様。ふふふ。アイツが館に招かれるのは癪だけど、おかげでシラユキ様を可愛がれるなら大得かな。さーて、キスしまくっちゃいますよー?」


「きゃー! ふふ、ふふふ」



 その後もメイドさんズが個別に、代わる代わる様子を見に来てくれて退屈させられる事は無かったのだが、私を可愛がりまくってたキャロルさんはシアさんにお仕置きされることが確定してしまった。なんという理不尽。

 メアさんシアさんフランさんの三人からなにやら美味しそうな匂いがしていたので、恐らくジニーさんを歓迎するための料理を作っているんだろう。でもそれならジニーさんも談話室で一緒に待ってていいと思うんだけれど……?


 ちなみにジニーさんは連行されてすぐに客室の一つに閉じ込められてしまっているらしい。ソフィーさんが見張りに付いているみたいだけど、セクハラされたり襲われたりしていないかと心配になってしまう。


 私に余計な事を吹き込まれないための措置だと思うけど、ちょっとやりすぎな気もするよねえ……。今日のシアさんはなんとなくテンションが高めなのも気になるところではあるね。







まーだまだ続きます!



数話前からもそうですが、暫くこんな会話ばかりのゆったりペースでの進行になると思います。

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