その266
いつものスーパー雑談会、です?
「それで、レンはなんて? まあ、予想は付くけどね。どうせいつも通りの答えでしょ?」
「うん、いつも通り申し訳ありませんと畏まりました、だって。どうすればいいのかなー」
「だからどうもしなくてもいいってば、こういうのは時間が解決してくれるっていつも言ってるのにまったく……。ほーら姫、キスしてあげるから元気出して! ふふ、かーわいい!!」
メアさんのキス乱れ撃ちによって私の元気ゲージがみるみる回復していく……!
むむむ、それはつまり私は少し元気が無かったと言うか暗い表情をしちゃってたのか……。これはいけない反省反省。
ただシアさんと森の住人との仲をどうにか、本当に少しでもいいから良くしたいと二人に相談してただけなんだけどね。
どうやら第……、ええと、何回だったかな? とりあえず今回のシアさん対策会議も何の成果もなく終わってしまいそうだ。まあ、これもいつもの事と言えばいつもの事なのだけど。
シアさん対策会議とは、どうしようもなく自由すぎるシアさんをどうにかできないものかとみんなで知恵を出し合う場の事である。でもいつもはシアさんも同席しているのでどちらかというとお説教会に近いかもしれない。
今日の議題は人間関係、エルフ関係? についてという少々デリケートなお題目、こういった場合は本人抜きでの話し合いになる事が多い。今回の参加者はメアさんとフランさんの二人だけなので後で仲間はずれにされたと嘘泣きされる事もないだろう。
ちなみにシアさん以外にも困ったちゃん的な人物の対策会議は結構開かれていて、その個人回数は私が断トツでトップらしい。そんな馬鹿な……。
シアさんにはついこの間の出張お悩み相談が終わって家に帰る間に、森のみんなに対してあんな言い方は駄目、もっと仲良くするようにと厳重注意をしたのだが、対するシアさんの反応は、申し訳ありませんでした、と、畏まりました、の反省といいお返事。
しかし実はこの返事は毎回同じ、それはつまり、返事だけはしっかりとしていてもその実今まで全く改善はされていないという訳なのだ。
それでもシアさんが私の言葉を聞くだけ聞いてちゃんと返事もしておいて、その上であんな態度を取り続けるとは思えないんだよね……。うん? もしかしたら、シアさんにとってはあれでも最大限友好的に接しているつもりなのかもしれない!? ……いやいやそんなまさか、あはは……。
「ふふ。何回も言うけどまだシアが森に来てからまだ四十年くらいなんだし、生まれ育った町っていう訳じゃないんだからしょうがないって」
私を膝の上に乗せて上機嫌なメアさん。確かにこれは毎回みんなに言われている気がする。
誰一人知らない土地でいきなりメイドさんとして、家族として生活するのは難しい話だろうね。でも……
「二人からするとまだ四十年なの? 私としてはもう四十年以上も経ってるのにって感じなんだけどなー」
「ん? ああ、シラユキからするとそうかもね。生まれてから成人するまでが百年でしょ? それくらいは見ておかないといけないかなってね。勿論私らからしても四十年はそれなりに長い年月だけどね」
「ウルギス様とかリリアナさんからするとたった四十年くらいでなんだ、って感じなのかもしれないよね。とりあえず私は姫が成人するまでは様子見でいいと思うよ。それだけ経てば今よりかは多少はマシになるんじゃない?」
うんうんそうだね、とフランさんも同意してしまう。
そこで自然と会話が途切れ、何回目かも忘れたシアさん対策会議はお開きとなったのだった。
やっぱり今回も駄目だったよ。まあ、私も普通なら百年も経てば大丈夫だろうって思うんだけどね……、だってシアさんだよ? 私に関係する事以外には全く興味を持たないあのシアさんのことなんだよ? 普通の人と同じに考えちゃ駄目なんだと思うんだよねー。
「大体レンはね、森に、この館に住むようになってすぐの頃なんて私らとも殆ど会話すらしてなかったんだから。その頃に比べたら今のレンなんて可愛いもんだって。ねえ? メア」
「あー、うん。来てすぐの頃のシアは怖かったね、私一回泣かされたし。まさに姫以外は眼中に無いって感じでさ」
むむ? まだ会議は続いてる? いや違うか、ちょっと昔を思い出しちゃってるだけかな。しかし昔のシアさんとは、それは気になる話題ではあるね……。兄様が言ってたみたいに冒険者時代のお話じゃなければ聞いてもいいんだよね?
「二人はどうやって仲良くなったの? 今はもう仲良し三人組だもんねー」
もしかしたらここに突破口が隠されているかもしれない!
「なにその恥ずかしい呼び名は……。確かにもうメイド仲間って言うより友達とか家族に近いよねレンは。でもどうやってって聞かれてもね……」
「うーん……? 自然と? 毎日顔を合わせて一緒に姫のお世話してたから自然と口数も増えて仲良くなっていったのかもね」
「あ、やっぱりそうなんだ? 時間が必要、かー……」
なるほどなるほど、やはり付き合いの長さとその密度が重要なんだね。シアさんみたいに頑なな心の持ち主でも、毎日顔を合わせて一緒にお仕事をしていれば自然と会話も増えていくことだろうしね……。そうなると私は二人とシアさんの間を知らず知らずの内に取り持った事になるのか、それはなんだか嬉しいね。ふふふ。
「さっきまで浮かない顔してたのにもうにこにこしちゃって可愛い。メア、そろそろ代わってよ」
「えー? まだキスし足りないなんだけど……、しょうがないなあ」
メアさんはひょいっと私を持ち上げて椅子から立ち上がり、フランさんに手渡す。
「ありがと。もう一日一回はシラユキを膝に乗せないと生きていけない体になっちゃってるからね私らは。ふふふ、シラユキー? おっぱい吸う?」
「吸いませーん! 赤ん坊扱いはやめて!!」
「あはは、可愛い可愛い。だって姫って全然背も伸びないし、相変わらず寝てる間はおっぱいに吸い付いてくるからしょうがないよね? 多分だけど背はもうずっとこのままだから、姫には悪いけど私は嬉しいよ?」
「私は嬉しくありませーん!!」
「内心ではいつまでも甘えられるぞって喜んでるくせにー。あーもう、可愛いなあ……。ねえフラン、やっぱり返してよ」
「ええ!? 今座らせてあげたばっかりなのに! ダーメ駄目、まだ私の番ね」
何故バレたし!!
身長が伸びなくなってしまったのは確かに悲しいけれど、それも裏を返せばいつまでもこうやって膝の上に乗せてもらえるっていう意味だからね、実は私も少し嬉しかったりもします。
甘えん坊から卒業できるまではこのままでもいいけど……、将来きっと背の低さを嘆く毎日がやってくるんだろうなあ……。しみじみ。
フランさんの極上柔らかクッションに持たれかかって甘えていたら、ふと思い出し、気になった事が一つ心に浮かび上がってきた。
「そういえば私の身近な人の中で、ソフィーさんだけまだ膝の上に座らせてもらってないねー」
うーんと、頭を撫でられたり手を繋いでお散歩したりは、ある。膝の上に乗せてもらったり一緒にお昼寝は、ない。お風呂もまだ一回も一緒に入ってないね。ふむふむ?
「え? ソフィーの膝の上に座りたいの? でもソフィーとシラユキはあんまり密着させたくないのよねえ……」
「やめとこうよ、多分全身弄られまくるよ? ソフィーってたまに私たちを飢えた獣みたいな目で見てくるし……、ちょっとね」
「飢えた獣って……、ああ」
なんとなくは分かるかな……。ソフィーさんにはメイドさんズに何かしたら絶対許さないって言ってあるからね、多分もの凄く我慢してるんじゃないかな。ソフィーさん的には、こんな美人揃いのメイドさんズを前にして何もできないなんて! とまさにお預けを食らった獣状態なんだろうね。
なんだかおかしな話だけどソフィーさんだから仕方がない。うん。シアさんとは別な方向で仕方がない人なんだよ。
「一応シアがキャロルにだけはセクハラを許可しちゃってるから私たちにはまだ被害がきてないからいいんだけどさ、それでもやっぱり身の危険を感じちゃうよね」
被害って! 身の危険って!
そんな事を言いながらも二人ともソフィーさんとは普通に仲良いよね? まあ、ソフィーさんはちょっとズレてるだけで一応はギリギリ常識人の範囲に納まってるしね。
「シラユキみたいな子供でも全然OK! って感じだからくっ付いたり二人っきりにさせたりするのはさすがにね。甘えんぼのシラユキには辛いかもだけどその分私らに甘えてくれればいいから。あ、今日は私と一緒にお風呂入ろうか? メアもどう?」
「いいねそれ。お風呂はもうシアだけの特権っぽくなっちゃってるからねー。グチグチと文句は言われそうだけどたまにはいいよね。ね? ひーめ」
「うん!! でも露骨に話を逸らそうとしてきたね……」
二人と一緒にお風呂に入るのも久しぶりだからいいんだけど。ふふ。
「あ、ちょっと前まではこうやって話を逸らそうとしても全然気付かなかったのに……。シラユキも成長しちゃってるよね……」
私の言葉に少し驚きを見せ、何やら寂しそうな笑顔で撫でてくるフランさん。
しかし、成長しちゃってるとか残念そうに言うのはやめてもらえませんかねえ……。
「ずっと甘えん坊の小さい子供のままでいてほしいのにね……。私たちもシアを見習って毎晩女神様にお願いしよっか」
「それは本当にやめて!! この背の事だって女神様の仕業だと思って追求しようと思ってるんだけど、会ってもいつも聞くのを忘れちゃうんだよねー。なんでだろ」
「ちょ、女神様に会ってるとか気軽に言っちゃ駄目だってば! 誰が聞いてるか分かんないんだから」
「と言うか一体いつどこでどうやって会ってるんだか……。いい加減教えてよシラユキー?」
「ふふーん、ひみつ!」
「ずるい! でも可愛い!! フラン交代!!」
「まだまだ! ふふふ、ちょっと可愛すぎるからキスさせてね。舌も入れちゃおうかなー?」
「きゃー! ふふ、ふふふ」
「あ、あのー、シラユキ様? もう話し合いは終わってますよね? シア姉様がもう不機嫌で不機嫌で怖すぎますから、なんとかしてください!」
「あ、キャロルさん? うん、もう呼んでもいいよー」
メアさんフランさんとイチャイチャしていたら、部屋の入り口の方からキャロルさんがおずおずと顔を出してきて、何やら切羽詰ったような勢いでお願いをされてしまった。
どうやらシアさん抜きでの話し合いという事で不機嫌になり、その憂さを晴らすかのようにキャロルさんにチクチクと小言や嫌がらせを始めたんだろうと思う。ごめんねキャロルさん。
シアさんのことだから最近は私を独り占めできなくて不満が積もりに積もってるのかもしれない。このままではキャロルさんがもっともっと大変な事になってしまうんじゃないか!?
こうなったらシアさんと二人きりで町にでもお出掛けしてその不満を解消してしまおうではないか。普通に考えるとキャロルさんにお休みをあげた方がいいっていうのは分かってるんだけどね、仕方ないね。
本当にシアさんは仕方のない人だよ、まったくもう!! ふふふ。
今更だと思うのですが、リリアナとグリニョンが母娘の関係だと判明しても大きな反応はありませんでしたね。
つまり皆さん予想済みだったと……?




