その264
前回の残り半分?なので短めです。
母様がリリアナさんからお叱りを受けているのをぼんやりと聞き流しつつ、私は幸せ気分で母様の胸にスリスリと頬擦りをして甘えていたら……、いきなり入り口のドアが開いた。
大きな音を立てながらではなかったので驚きはしなかったが、ノックも無しとはなんてお行儀の悪い。そんな事をしてしまう人物の心当たりは四、五人くらいしかいない。あれ? 結構多いな……。
さっきのリリアナさんの言葉から誰が来たのか分かっているけど、一応顔を向けて確かめてみる。
「うえーい、階段掃除終わったよ。お、シラユキいるじゃん。おはー」
「グリニョンさんおはよー」
「ノックをしろと何度も言っているだろう! 子供じゃあるまいし一度注意されたのなら行いを正したらどうだ」
やって来た早々に怒られているのは案の定、キャロルさんのと同じデザインのフリフリヒラヒラなメイド服に身を包んだグリニョンさんだった。残念ながらネコミミは付いていない。
「めどい。わたしから見たらクレアもカイナも子供みたいなもんだからいいじゃん」
「どういう理屈だ!!」
さすが自由人のグリニョンさん、クレアさんのお怒りの言葉をかるーく受け流してしまっている。
現状この家の中でグリニョンさんを完全に制御できるのは父様とリリアナさんのたった二人だけ、母様の言葉でも中々言う事を聞いてくれないから凄い。そして面白い。
「ま、見られて困る物があるでもなし、執務室と談話室くらいはノック無しでもいいかもね。ほらグリー、話があるからこっち来なさい」
リリアナさんが手招きをして呼ぶ。リリアナさんはグリニョンさんに対してはやや甘い対応をする事が多い。
「ああん? 話? なんの?」
リリアナさんの手招きに対して面倒くさそうに質問を返すが、それでも素直に歩いて来るグリニョンさん。やはりこれは何度見ても面白い。
「仕事の話」
「めどい! シラユキと遊ぶ仕事はないん?」
「無い、と言いたいところだけどね、実はそうでもないのよ。とりあえず今から説明するから黙って聞いときなさい。シラユキにもまだ話してないから」
「うーい」
なんてだるそうな返事……。まあ、グリニョンさんはつい最近まで自由人生活をしてたんだからしょうがないと思うけどね。
リリアナさんのお話の前に、どうしてグリニョンさんがメイドさんになっているのかを軽く話してしまうとしよう。
まずメイドさんズ増員の一番の理由はメイドさん一人一人の負担を軽くする事が目的だった。
第一次の増員であるエレナさんとリリアナさんのおかげでそれまでと比べるとかなり楽になっていたメイドさんズだったのだが、突然エレナさんが、飽きた、の一言を残して実家に帰ってしまい、さらにリリアナさんが母様のお付メイドさんとして復帰して他事にあまり手を掛けられなくなってしまった。実質プラスマイナスゼロだ。まあ、エレナさんは今でもメイド服を私服としていて、たまに遊びついでにお手伝いをしに来てくれているのだけど。
その頃はまだ私のお手紙仕事も始まっていなかったので、主にキャロルさんに殆どの負担が圧し掛かってしまっていた。そこで毎日お疲れのキャロルさんを見てどうにかできないのかとリリアナさんに相談したのが今回の第二次メイドさんズ増員の発端で、つまり私が何も言わなければずっとキャロルさんが一人で頑張る事になっていた訳だ……。
私の相談を受けたリリアナさんは、一人毎日暇そうにしている人物に心当たりがある、と、例の秘密の広場でグリニョンさんを確保。有無を言わさずメイドさんに仕立て上げてしまった。ばんざい。
基本的にサバイバル生活以外に関しては面倒くさがりのグリニョンさんだったのだが、やはり母親の言葉には逆らえなかったみたいで……、あ、ああ、そうそう、驚く事にグリニョンさんはリリアナさんの実の娘さんでした。私もあまりに衝撃的すぎる事実に大声を上げて驚いてしまって、その場にいたシアさんとリリアナさんから軽く注意をされてしまったね。
という事はリリアナさんは結婚していたのかと言うとそうでもない。子供はいるけど旦那さんと呼べる相手はいないみたいで、父親がどんな人かは父様も母様も知らないらしい。気になるけどまず教えてもらえないだろうと思う。
ちなみにグリニョンさんの本名は、グリフィルデ・シールヒニオン・アナという長くて結構カッコいいお名前でした。さらにちなみにリリアナさんは、リリーが名前でアナが苗字、リリーは愛称ではなく普通に名前だった。
だからと言って今更呼び方を変えるのも難しいので、私もみんなも今まで通りの呼び方で通している。
実はもう一人、ソフィーさんもメイドさんズの一員に加わっているのだけど、まあ、特にこれと言って説明するような事はないね。ただキャロルさんが全然楽になっていないように見えるのが気になるだけかな。うん。
長くなってしまったのでお仕事のお話については本当に簡単に纏めてしまおう。
今日の私のお仕事は、いつものお手紙に返事を書くだけではなく直接相談者の所へ行ってそのお悩みを解決する、という中々に重要で難しそうなお仕事を貰ってしまった。
勿論私一人でお悩みを解決するだなんてまず不可能な話、補佐としてシアさんとグリニョンさんを連れて行ってもいいとの事だ。
「解決して来いとまでは言わないから安心しなさい。三人で散歩ついでに話を聞いて来る程度でいいからね」
「はい、お任せください」
「はーい!」
「ふふふ、可愛いわね。私もついて行ってあげたいわ……」
シアさんにメモ、多分相談者についての情報が書かれた物を渡してから、私の頭をポンポンと軽く叩くように撫でてリリアナさんは説明を終えた。
実の娘であるグリニョンさんの前でこんな風に私を可愛がっちゃってもいいのか、と少し思ったのだけど、グリニョンさんはもう千歳くらいだった。あの見た目からどうも忘れがちになってしまう。
「ふーん。んで、いつ行くん? 今から? 昼から?」
グリニョンさんはメイドさん仕事以外なら大歓迎! といった感じだね……。多分グリニョンさんの息抜きも兼ねてるんだろうなー。
「ん、詳しくは向こうで聞けばいいからもう行ってもいいよ。あ、あとフランにお弁当も用意してもらってるからそれを受け取ってからね。お昼も向こうで食べて来ちゃいなさい」
「おお、お弁当! ういうい、りょうかーい。んじゃ行くよシラユキ」
「うん! それじゃ母様、行ってくるねー」
母様の膝の上から降りる前に、ギュッと強めに抱きついて今日一日分の母様分を補給しておく。
「ああ、もう行っちゃうのね……。あ、お仕事はバレンシアとグリーに全部任せてシラユキはここにいてもいいのよ? そうよ、そうしましょう。ね?」
私を抱き返して全く手放そうとせず、ちょっとずるい提案を持ち掛けてくる母様。
ううむ、確かにその手もありと言えばありか……。シアさんに任せておけばどんな難題でも確実に解決してくれると思うし、私も母様にまだまだ甘え足りないし……。でもお仕事の邪魔になっちゃうのと、お悩み相談の内容も気になるんだよねー。これは悩むわ……。
「エネフェア」
「じょ、冗談よ! 冗談に決まっているでしょ、もう……。うう、シラユキ、早く帰って来て頂戴ね」
おっと、このままではまたリリアナさんの怒りが有頂天になってしまう。名残惜しいけど本当にそろそろ出発するべきだろうね。
「うん。帰ったらお話に来るからまたお膝に乗せてね」
「勿論よ。ふふ、いってらっしゃいシラユキ。転ばないように気をつけるのよ?」
もう油断して転ぶような子供じゃありませーん!
最後にむちゅーっとキスをされてからようやく降ろしてもらえた。そしてシアさんと手を繋いで早速お仕事へ出発……、の前に、まだ確かめなければならない事が一つあった事を思い出してしまった。
「グリニョンさんグリニョンさん、ちょっと後ろ向いてみて」
「あん? 後ろ?」
訝しげにしながらも素直に背中を向けてくれるグリニョンさん。見た目子供なグリニョンさんも私に対してはやっぱり甘い。
「姫様? 確認でしたら私が……」
「いいのいいの。そのままでいてねー」
シアさんは私がこれから何をしようとしているか分かったようだ。まあ、いつもはシアさんにお願いしているからそれも当たり前の事なのだけれど。
こんな所であまり時間を取る訳にはいかないので手短に済ませてしまおう。グリニョンさんのスカートの裾を掴んで……、一気に上に捲り上げる!! そしてすぐに下ろした。
「お尻! やっぱりパンツ穿いてない!! なんで穿かないの!?」
「だってめどいじゃーん。別にパンツが無くたって生きていけるからいいんよ」
「生きてはいけるけど、誰かに見られたらどうするの!? ノーパンな人はお仕事に連れて行きませーん」
「ええー、めどいなあもう……。そいじゃ穿くから一枚頂戴」
「ふふふ。はーい」
能力でしまっておいたグリニョンさん用のパンツを一枚手渡す。
こんな事もあろうかと、いつでも穿かせられるようにとパンツは何枚も常備してあるのだ! ……なんで私がこんな事を……。
「本当にこれで年上なのかといつも疑問に思ってしまうな……。まったく、微笑ましい限りだ」
「ええ、私も姫様に下着を手渡されたいわ……。これからは穿かないように」
「やめろ! 考え直せ!!」
「その発想はありませんでしたね。しかしいい考えです、ならば私も」
「はいはい、冗談はそこまで。休憩も終わりにするよ」
「ふふ、そうね。面白いものも見せてもらえたし、頑張るとしましょうか。……はあ、憂鬱だわ……」
グリニョンさんがパンツを穿き終えたところで改めてお仕事へ出発!!
どこへ何をしに行くのかさっぱり分からないし予想もできないけど、本当に心から楽しみだね! ふふふ。
シラユキ頑張ってます! よね?




