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その262

今回から新しいお話に入ります。

ではまた後書きで。

「失礼します。姫様、本日の姫様のご担当分をお持ちしましたよ」


 朝食を食べ終わってゆったりと休憩をしていたら、上機嫌なカイナさんが手紙の束を持って談話室へとやって来た。束と言ってもたったの十通、片手で持てる程度なのだけど。


「ありがとカイナさん。ふふ、今日はどんなお手紙が来てるかなー」


「可愛らしいです……!! はっ、すみません。はいどうぞ、こちらです」


「うん。それじゃシアさん、準備お願い」


「はい、畏まりました。少々お待ちくださいね」


 カイナさんから手紙の束を受け取り、シアさんに準備をお願いしてから一番上の一通を手に取る。

 受け取った手紙は全て開封して確認済みなので後は中身を取り出して読むだけだ、明らかに二度手間なのだけれど細かい事は気にしない。選別する側のカイナさんも毎日楽しみにしているくらいだから何も問題はないだろう、と思う。


 筆記具を並べていくシアさんを横目に早速目を通してみよう。


 どれどれ、本日のお悩み相談の一通目はどんなのかなー? ふふふ。


『リリーが毎日毎日ああしろこうしろって厳しく煩いの! カイナに女王を交代する様にシラユキからもお願いして頂戴!!』


 封筒をくるりと裏向けて差出人を……、確認するまでもなかった。


「また母様からだ……。カイナさんもこういうのは無理に持って来なくてもいいんだよ? 一通減っちゃうし」


「さ、さすがにそういう訳には……。適当にお返事を返して差し上げてください」


「ふふふ。エネフェア様もリリアナさんにはまったく頭が上がらないようですね」


 カイナさんとシアさんも私の左右に立って手紙を覗き込んでいる。カイナさんは私に触れていたいからと肩に手を置いて幸せそうに、シアさんはいつも通り変わったお手紙が来て楽しそうだ。


 まったく母様は……。まあいいや、二人には言わないけど母様からのお手紙はどんな内容でも結構嬉しいものだからね。ふふふ。


 さて! 返事を書く前に相談役のシアさんの意見も聞いてみようかな? 私が提案、解決策を出して、それにシアさんが意見をと言うか駄目出しを入れる。それが一応の決まりだしねー。勿論お手伝いのカイナさんの意見も尊重するよ。


「私は『お仕事なんだから頑張って』とか『カイナさんに無茶ばかり言っちゃ駄目だよ』くらいしか思い付かないや。シアさんは?」


「姫様お優しい……。ああ、嬉しいです……」


 何故か感動して肩から首の辺りまで手を這わせ進めてくるカイナさんはとりあえず放置します。カイナさんはもうすっかりシアさん化してしまったね……。


「そうですね……、はい、特に問題は無いと思われます。強いて申し上げるとしますと、エネフェア様のやる気を回復、増大させる様な可愛らしい一文を添えては如何でしょう? 例えばですね……、『今日のお仕事が終わったらおっぱいを吸いに行くからね』とかハートマーク付きで」


「吸わないよ!! まったくもう……」


 みんないつまで経っても子供、いや、赤ん坊扱いするんだから! 母様に甘えるのは大好きなんだけどさー。


「ふふ、失礼しました。姫様はいつまでもお小さくていらっしゃいますのでつい……」


「ええ。本当にもう可愛らしくて可愛らしくてしょうがないですよね。ふふふ。あ、姫様? キスをさせて頂いても……」


 シアさんはちょっと拗ねかけた私を宥める様に撫でまくってくる。さらにカイナさんは手を頬に添えてもう目の前まで顔を近づけている。


「いいけど……、また舌入れようとしたら怒るからね!」


「は、はい! なるべく自制できる様に頑張りますね。ああ、姫様……、愛しています……」


 やはり許可を出した数秒後には完全に目付きが妖しくなってしまっている……。シアさんへるぷ!


「はいはい、自制心の欠片も感じられませんので一旦体を離して落ち着いてください。はあ、毎日毎日同じ事を飽きもせず……。まあ、姫様とのキスを飽きるなど天地が逆さまになろうともあり得ない事なのですけれど、ね。姫様、次は私ともお願い致します。ふふふ……」


「ああもう! お仕事させてー!!」


 両側からちゅっちゅちゅっちゅとー! まあ、嬉しいんだけどね。




 私が今何をしているかと言うと……、それはなんと、毎日のお仕事である! ほんの二週間ほど前からなのだけど、ついに私も王族として働く日が来てしまったのだ……!! まあ、おままごとみたいなものだけどね。

 事の発端は、ええと、約十年前にリリアナさんが母様のお付メイドさんに復帰した事に起因する。つまり私の行動がそもそもであり全ての原因だね。


 リリアナさんの呪いの様な謎の症状は、やはり何かしらの不思議な存在から強いられていたらしい。リリアナさんも女神様も詳しい事情を語ってはくれなかったが、再発する恐れは絶対に無いという事なのでそれを信じてあまり気にしない様にしている。


 そう、治す事ができたのだ。しかも割とあっさりと適当に、治れー、と軽い気持ちで試してみたら大当たり。魔力疲れも微塵も感じずやや拍子抜けだった。


 リリアナさんも最初は自分がどうなったのかよく分からず話し辛そうにしていたが、今ではメイドさんズの中で一番のお喋りさんになってしまっている。コーラスさんの言っていた事は正しかったのだ……。

 自分の言葉が上手く伝わっていないというのはリリアナさん本人も把握していたので、年を取る毎になるべく簡潔に分かりやすく、殆ど単語のみで会話する様になっていっていたらしい。そのせいで普通にお喋りをするという事にまた慣れ直さなくてはいけなかったのだ。


 色々と大変だったが勿論喜ばれ、感謝もされたのだけど、実は一番喜んでいたのはリリアナさん本人ではなく母様だった。それも涙を流して本当に嬉しそうにしてくれて……。私もついついもらい泣きをしてしまった。

 母様が生まれた頃からのメイドさん、私で言うお付の三人に当たるものだからそれも当然の事かもしれない。ほんの挨拶程度の軽いやり取りが問題なくできるというだけで毎日感涙していたくらいだ。

 そして母様はこれまでの時間を取り戻すかの様に、今まで話が通じず語れず終いのまま積もりに積もった昔話、溜めに溜め込んだ疑問などを解消するために自分のお付のメイドさんに復帰させたのだった。


 ……そこまでだったらイイハナシダナーで終わったのだけれど、そう簡単に物事は運ばない収まらないというのがリーフエンド流。お付メイドさんに復帰して母様のあまりのサボリっぷりを目撃してしまったリリアナさんの怒りが有頂天になり、カイナさんの代わりに補佐に付く、という名目で女王様としての再教育が施される事になってしまったのだ。

 カイナさんも一応は母様の補佐を続けているが、前と違ってお仕事を全部押し付けられるような事がなくなったのでこうして私の側でゆったりとしていても大丈夫になっている。


 涙を流して喜んでリリアナさんに感謝をしていたカイナさんは、一体今までどれだけの苦労を母様から掛けられていたんだろうか……。



 そしてようやく私のお仕事の話に繋がる。今私が読んでいるお手紙は、森の住人からの要望やちょっとした世間話程度の意見や報告など、所謂市民の声という物が書かれている。

 これは森の各所に新たに設置された目安箱の様な物に毎日結構な量が投書されて、見回りの人が巡回ついでに回収して届けられて来るという物だ。

 考案者は勿論リリアナさんで、その設置理由は……、母様に少しでも王族としての自覚を取り戻してもらおうと考えての事。カイナさんとシアさんもこの企画(?)には全力で応援、参加している。


 設置初めの頃は一日に十通もなく、母様も毎日手紙を楽しそうにしていたくらいだったのだが、相談事に返事の手紙が送られてくるという噂が住民の間に広まってからは一日に軽く百通を超えるまでとなった。

 内容も殆どが面白半分なものばかりなので読み飛ばしても構わないのだけど、中には普通の相談事やためになる意見なども含まれているので全部に目を通さないといけない。そこで毎日お疲れの母様に私が手伝いを申し出た、という流れだ。


 まあ、手伝いと言っても子供の私にできる事なんて程度が知れている。まずは一日十通、しかも私に読ませても問題は無いかどうか一度確認した物しか渡されない。それは当たり前の事なので特に文句も思うところも無い。

 問題があるとすれば、さっきみたいに母様からやメイドさんズからのお手紙を忍び込まされる事が度々あるくらいか。これは個人的には面白くて歓迎したいのだけれど、その分お仕事が増えるだけなんじゃないか? という疑問が残る、が、とりあえず深く考えないようにしている。


 こうして朝食後の休憩時間から一時間程度、毎日のお仕事が私の活動スケジュールに追加される事になったのだった。




「一つ目終わりー。はい、シアさん」


「はい。……ふふふ」


「私も他人ひとの事は言えませんけど頬が緩みっぱなしですよ? バレンシア。あ、姫様、次はこちらです。どうぞ」


「うん。ありがと」


 母様への返事のお手紙をさらさらと書き終え、シアさんに封をお願いして次のお便りに取り掛かる。

 シアさんとカイナさんは毎日本当に楽しそうにお手伝いをしてくれる。特にカイナさんはそんなに私との時間が嬉しいのか、楽しそうを通り過ぎてもう幸せそうだ。


 この朝食後の約一時間はシアさん以外のメイドさんズはみんな他の所でお仕事をしている。私がじっとしているからシアさんに全て任せて、その間にパパッとお仕事を片付けられると中々に好評だ。

 これまではその日その時の思い付きで散歩に出かけたり書庫に行ったりと、決まった行動を取っていなかったのでメイドさんズも迂闊に私の側を離れる訳にはいかなかったらしい。言ってくれればよかったのにと今更ながらなのだが思ってしまう。


 ああ、メイドさんズと言えばまた人員と配置に変化が……、と、それは今は置いておこう。まずはお仕事を片付けなくてはね!


『姫が求婚に応じてくれないばかりか最近会えてすらいないんだけど、もしかしてオレって避けられてるのか!? 姫、結婚して一緒に住もうぜ!!』


 はいはい『絶対イヤ』と。これまた差出人を見る必要のない分かりやすいお手紙だねまったく。

 ライスさんはリリアナさんの指示で私にあまり近づけない様にされてるとかなんとか……。まあ、私はライスさんの事は嫌いじゃないし、たまには遊んでほしいから『今度遊びに行くよ』と付け足しておこう。


「こちらの一文は消しておきますね」


「なんで!?」


 相談役のシアさんの言葉は絶対と決まっているので、ツッコミは入れられるが文句は言えない! 言いにくい!! 大人しく従う他はなかった。しかしライスさんだから別にいいかと一秒で頭を切り替えて、さらに、姫様と結婚するのは私なのに……、とぶつぶつ呟いているカイナさんも放置して次のお手紙に目を移す。


『近々胸を吸わせに行くので楽しみにしておけ』


 何この簡潔な一文は……。

 ショコラさんはお仕事でストレスが溜まりまくってるらしいから遊びに来た時に優先的に甘えてあげるのはいいんだけど、起きてる間におっぱいを吸わせようとするのはいい加減やめてほしいなあ……。揉むのと頬擦りさせてもらうのは大好きなんだけどね。とりあえず母様と同じ感じで『お仕事頑張ってねー』と返しておこう。


「予定を聞いてこっちから会いに行くのもいいかもね。ギルド長さんにもそろそろ一回くらい……」


「次々参りましょうか。どうぞ」


「むう! 露骨!!」


「か、可愛らしいです姫様……」


 冒険者ギルドのギルド長さんの交代からもう三十年くらい経っているのだが、なんと未だに一度も会えていないのだ。

 実はシアさんも私が会いに行こうと強く言えば無理に止めるつもりはないみたいなのだけれど、何となく面白いからという理由で露骨に話を逸らしてくる。町で偶然出会ってしまったらそこまでと考えて、それがいつになるかみんなで賭けをしているくらいだ。

 ギルド長さんについては、いつまで経ってもショコラさんを振り回し続けている自由奔放な性格の人のままのところを見るに恐らくは長寿種族なんだろう、という事しか分かっていない。しかもその可能性が高いというだけの憶測でしかない。


 長寿種族ならその内会えるだろう、とこれも一秒で忘れて四通目に取り掛かる。


『先日キャロルさんの下着が干されていたので手に取って匂いを嗅いでいたのですけど、キャロルさん本人から強く注意を受けて、さらに物干しスペースには暫く立ち入り禁止と言われてしまいました。盗もうととした訳でも××に使おうとした訳でもないのにどうしてでしょう?』


「ソフィーさん何してるの!? この消されている所は何!?」


「お気になさらずに……。ふふ、なんという可愛らしい反応。さすがはエネフェア様、素晴らしい選別センスですね」


「ば、バレンシアの様にぬいぐるみなどに使おうとしたのでは……ないですよね多分……。ソフィーは私も少し苦手です」


 こ、これはなんて返事を返せばいいんだー! そうだ! こんな時こそ相談役を頼るべきだね!


「シアさんお願い!」


「姫様のお心のままにお返事をどうぞ」


「丸投げされた! カイナさーん」


「はい姫様! ああ、姫様に頼って頂けるなんて幸せすぎます……」


 カイナさんはカイナさんで反応が大袈裟なんだから……。私が子供の頃の……、今も子供だったよ。もっと小さかった頃のシアさんはこんな感じだったなー。ふふふ。



 いつもの様にほぼ家族やお友達のみからのお手紙との格闘を終え、カイナさんに手渡したところで今日のお仕事は完了。時間にして約一時間、面白いお手紙が読めていい休憩にもなって毎日のこの時間は本当に楽しみだ。

 後はメイドさんズが戻って来るのを待ってからお昼まで何をして過ごすのか決めよう。


「シアさんカイナさんお疲れ様、今日もありがとねー」


「はい、姫様もお疲れ様でございます。さあ、メアとフランが戻って来るまで私にご存分にお甘えくださいね。……前をはだけましょうか?」


「駄目ですよバレンシア、ソフィーやショコラじゃないんですからこんな所で胸をはだけるなんて……。でも姫様がお望みでしたら私はどんな事でも」


「お望みじゃないから!! みんないつまで経っても赤ん坊扱いするんだから! もう!!」


「ふふ、申し訳ありません。姫様がお小さくて可愛らしいのと、姫様に胸を吸われるのは幸せすぎるのですからしょうがありませんよね?」


「ええ、本当にですよね……。私はお側に立たせて頂けるだけでも幸せで幸せで、もう涙が出て来てしまいそうなくらいなんです。これで結婚して頂けたらどれだけ……」


「カイナさん大袈裟! 結婚はしてあげられないけど今はリリアナさんがいるんだからもっと遊びに来てもいいんだよ?」


「ありがとうございます! 姫様はなんてお優しい……。でも最近はクレアの妬みの視線が強くなってきているんですよね、私も少し前まではあんな表情をしていたんでしょうか……」


「あはは……」


 ノーコメントでお願いします。



 その後は特に何事もなく、いつもの様にカイナさんが暴走しかけてそれをシアさんが止める、というお約束の繰り返しを続けていたらメアさんとフランさんが戻って来たので完全にお仕事の時間は終了。結局お昼まで何をして過ごすのかを決める事はできなかった。


 カイナさんは私に会えない期間が長くなりすぎても暗黒面に落ちそうな事にはならなくなったのだが、今では普通に一緒にいるだけで当たり前の様に暴走してしまうようになっている。どうしてこうなった。

 もう完全に開き直り、私と結婚して幸せな家庭を築くのが夢なのだと誰に隠すでもなく堂々と宣言している。本当にどうしてこうなってしまったのか……。


 ちなみに、シアさんも昔はこんな感じだったんだよー、とニヤニヤしながら伝えてみたところ、あまりの恥ずかしさからなのか何故か居合わせていたキャロルさんがお仕置きされてしまいました。ごめんねキャロルさん。



 とりあえずお昼まではメイドさんズに甘えたり遊んだりして、それからの事はまたそれから考えよう。お疲れの母様の応援に行くのもありかもしれないね。







シラユキが頑張る、かもしれないお話です。

『シラユキちゃんのお悩み相談室編』とでも題付けておきましょう。

略して……、ええと……、まあ、何でもいいですね。


45歳前後~50歳までの期間になると思います。



今回はギリギリ一週間内に投稿できましたが、次回はまたどうなるか分かりません。

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