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236/338

その236

「姫様にお目通りを、ですか?」


「はい。まあ、すぐそこにいるんでお目通り願うっていうのも変な言い方になっちゃいますけど。ただ取り次ぎを頼まれただけですね」


「そ。なーんか姫と話したいんだってさー。コレくれたし、悪い奴じゃないっぽいよ」


 コレ、と黄色っぽい葉っぱの包みを見せてくれながら席に着くエレナさん。

 どうやら向こうのテーブルのどちらかにいる誰かに頼まれたみたいだね。でも、食べ物をくれる人と悪い人じゃないをイコールで繋げてはいけないと思うな私は。


「ああ、ウルリカさんのことですね。私のこれもウルリカさんに頂いたんですよ。今日初めて会った方ですけど、特に嫌な、悪い方っていう印象は受けなかったですね。問題は、無いと思います」


 やっぱりミランさんに差し入れを贈った人と同一人物のようだ。

 ふむふむ、名前はウルリカさんというらしい。そして本当に悪い人ではなさそう、と。心にメモメモ。


「ウルリカ……? ふむ……、と、すみません。姫様、如何致しましょう?」


 シアさんはちょっと考え込む仕草を見せた後、私にどうするかを聞いてくる。


「え? 私が決めてもいいの? えっと……、うん、私は会ってもいいと思うよ」


 とりあえずエレナさんとミランさんの見る目を信じてみる。

 それにもし何か企んでいるとしても、シアさんとキャロルさんの目の前で行動に移したところであっさり阻止されるのが落ちだろうしね。


 そもそも私って、悪い人だー、っていう感じの人にはまだ会った事ないんだよね……。進んで会いたいとも思わないけどさ。


「はい、万が一何か起ころうとも私共が必ずお守りしますのでご安心くださいね。申し訳ありませんがお昼はその方とのお話が済んでからという事に致しましょう。ミランさんもそれで宜しいですか? 宜しいですね。それでは、キャロ」


「あ、はい。返事くらい聞いてあげましょうよ……。ウルリカー!! 来てもいいってさー!! ……たっ!」


 広いが同じ部屋の中にいるので、態々迎えに行かずに大声で名前を呼ぶキャロルさん……にシアさんのチョップが炸裂した。結構痛そうだ。

 今日はきっと帰ったらお仕置きだろうね、ガクブル。などと考えながらキャロルさんの向いている方に私も顔を向けてみる。一体どんな人なんだろう? と不安と期待が入り混じる変な緊張感を感じてしまう。


 そこにはなんと、驚きの光景が!! CMには入りません。

 驚きの光景、それは……。さっきギルド内を見回した時に見つけた、椅子に置いてあった大きな毛皮、その毛皮がごそごそと動き出したのだ……!!

 だけどその驚きもほんの束の間の事、椅子から立ち上がった毛皮(?)の後ろから人影が現れた。


 ああなんだ、毛皮を背負ってた訳ね、なるほど。まったく、この暑い中紛らわしい事を……、ん? あ、あれ!? もしかしてあれって、尻尾なの!?


 キャロルさんの声に応えて、こちらに歩いて来ているウルリカさん、だよね? ウルリカさん(多分)には、体に隠れるどころか、逆に尻尾に体が隠れてしまう程の太さと長さの尻尾が生えていた。


 じ、実際椅子に座って背中側から見ると毛の塊にしか見えなかったからね。もし立っていたら、足の生えた毛玉に見えてたかもしれない……。なにそれこわい。



 とりあえずこっちに来るまでにざっと観察だけさせてもらおう。

 背は結構高めで、多分170近くはあると思う。首の辺りまで伸びた髪の色は、黄色の様な茶色の様な、少し色の濃い金髪で、頭の上には狐の様な……耳……が……。


「ききき狐族の人だー!!」


「姫様!?」「シラユキ様!?」


「おう!? 何?」「きゃっ! し、シラユキ様?」


 しまった! つい驚きと感動で大声を上げちゃった……、恥ずかしい。みんなも驚かせてしまったよ。しかし! 狐族の人に会うのは私のちょっとした夢の一つだったのでしょうがない。うん。

 まさかこんな所で夢が一つ叶うとは……、これも日頃の行いのおかげってやつなのかもね。ふふふ。


 そう、ウルリカさんは獣人種族、狐族の人だった。あのピンと上に伸びた狐耳……、か、可愛すぎる……!!

 どうせなら服装は巫女服とか着物に割烹着とかが似合いそうなのだが、上はぶかぶかのTシャツに、下はとび職の人が穿くような足首部分の締まったダボダボのズボン。美人さんのになんて勿体無い、今度シアさんにお願いして作ってもらおう。

 ぶかぶかのシャツなのに激しく自己主張する二つの膨らみは、もしかしたらフランさんサイズに届くのではなかろうかというくらいだ。ふむ、飛び込みたい。……あ、おっぱいじゃなくて尻尾の方にね?


 しかしあの尻尾、太すぎ長すぎでしょう……。まあ、実際のところ大部分は毛なんだろうけど、それにしたって体より太いとかなんて立派な……。これは是非とも仲良くなってモフらせてもらわなければなるまいね!! 後水も掛けてみたいです。にやり。



「いやー、無理言ってスマンかったのう、嬢ちゃんら。おお、ミランさんも一緒じゃったか」


 ウルリカさんはこちらに歩み寄りながら、その綺麗な顔立ちに似つかわしくないお年寄りの様な話し方でキャロルさんに向かって謝る。

 そして目の前で見ると改めて思わされる。あの尻尾、モフりたい。


「私は取り次いだだけだし、気にしないでいいよ。それよりシラユキ様に失礼の無いようにね」


「あ、私の事も気にせずシラユキ様とお話をどうぞ」


「お、おお? うん、ああ、ありがとうなあ」


 二人にお礼を言った後、本命の私へと向き直るウルリカさん。穏やかで優しそうな笑顔だ。

 さて、一体私にどんなお話があるのかな? と、その前にあの尻尾をモフ、じゃなくて……


「えっと、はじめまして、シラユキ・リーフエンドです」


 まずは、座ったままだけど軽く頭を下げてから自己紹介。モフるのはその後。

 毎度の事だけど、初めて話す人の前だとちょっと緊張しちゃうね。ウルリカさんはとっても優しそうな人だからそこまで緊張してるって訳でもないんだけど。どちらかと言えばワクワク感の方が強いかもしれない。


「おっとこれはご丁寧に、スマなんだ。儂はウルリカゆーもんです。こうして偉い様と直に話すのも初めての事なんでどうも勝手が分からんのですが、どうか大目に見てやってくだされ」


 わ、ワシ!? わしって、儂で、自分の事? え、えー……。

 見た目は若そうなのに、実は結構なお年の人だったりするのかな? 狐族の人の寿命って人間種族よりちょっとだけ長いくらいって図鑑に書いてあったんだけどなあ……。それに加えてこの話し方、本当に綺麗な人なのに……、勿体無い!


「早速ですが、姫様に何か申し上げたい事、お伺いしたい事があるのでしょうか? あまり長くなるようなお話でしたら、一度仕切り直して食事の後にして頂いても構いませんか?」


 お互い名前だけの自己紹介の後、今まで黙っていたシアさんが口を開いた。


 うんうん、お年寄りって話が長くなりがちだよね……、じゃなくて! それならいっその事……


「ウルリカさんもよかったらこっちで一緒に食べませんか? あ、まだ食べ終わってなかったらですけど」


 こんな温和そうな人なら、話を聞くだけ聞いてはいさよなら、なんて扱いをしなくてもいいだろう。むしろ是が非でもお友達になってもらいたい。


「食事? ああ、昼飯がまだじゃったんですか、それは重ね重ねスマン事を……。まあ、儂もまだ腹半分といったところじゃし、お邪魔させてもらうとしようかの。しかし、儂の様なただの冒険者が姫様と席を共になど、いいんですかの?」


 ウルリカさんは私の言葉を聞いてテーブルに目を移すと、合点がいったという感じで答えてくれた。そのままシアさんに確認を取る。


「べっつにそれくらいいいんじゃないの? 気を使いすぎだって。姫っていってもさ、何か特別な事してる訳でもないただの子供なんだからさー。つーか早く座れっての。あたし今日朝ご飯抜いて来てるからもうお腹ペッコペコなのよ痛い!!」


 それは自業自得だ、と言わんばかりのシアさんチョップがエレナさんにも炸裂した。


「あはは。あ、どうぞどうぞー」


「ふふふ、元気なお嬢さん方じゃのう……。それじゃあ暫くお邪魔させてもらうとするかの」


 空いている椅子に座り、お昼ご飯の黄色い葉っぱの包みをいくつか取り出したウルリカさん。


 う、うん? 今のって……、あれ? なんかおかしくないか……?


「アタタ……。お嬢さんはやめてよ、あたしとっくの昔に成人してるんだから百歳以上よ? 今は百十歳くらい。ま、エルフの年を見た目で測れっていうのも無茶な話だけどね。……って、どこから出してるの? ソレ」


 エルフと狐族は寿命の差が大きいから、年齢だけでどっちが大人か、なんて決められないんだけどね。って、違う違う、そうじゃなくてね、今のってホントにどこから……


「ほう、百十か、それならまだまだ儂の方が上じゃて、嬢ちゃんよな。ふむ、どこから、か。どこからかのう……、ははは」


 楽しそうに笑いながら、飲み物が入っているだろう竹筒や、木で出来た茶碗の様な容器、箸、お手拭などなど、どこからか取り出して次々とテーブルに並べていく。バスケットや袋など、こちらに来る時に手荷物は一切持っていなかった筈なのだが……。


 百十でもまだまだウルリカさんの方が年上……? 箸? 竹? お茶碗?

 い、一体何を、どこからどう突っ込めばいいのやら……。私とミランさんは勿論の事、キャロルさんとあのシアさんでさえも絶句してしまっている。


「へー。なーんか年寄り臭い喋り方だと思ったら、ホントに年寄りだったのか。でも見た目若いなあ……。何歳なの?」


 こんな時、どういう顔をすればいいのかわからないの、っていう時にエレナさんは凄く頼りになるね! 深く考えない性格がこんなに心強く感じるとは、本当に思いも寄らなかったよ……。


「今は百九十九じゃな、もうすぐ二百になるのう。ふふ、まあ、年上じゃからと偉ぶるような真似はせんがの。ただの無駄な年取り、ただの年寄りじゃて」


「二百! おお、ホントに全然年上じゃん。……ぬ? 狐族ってそんなに長生きする種族だっけ? 師匠。……? 師匠? 姫? どうしたの? キャロルもミーランも、さっきから何黙りこくってんのさ?」


 エレナさんもやっと何かおかしい事に気づいたようで、シアさんに確かめてみたのだが返事は無い。キャロルさんもミランさんも、どう答えていいのか分からないのかずっと黙ったままだ。


「え、っと、狐族の人は確か、長く生きても百二十歳くらいで人間種族よりほんの少し長生き、くらいだった筈だよ……ね?」


 狐耳とモフモフ尻尾に思いを馳せ、種族図鑑を何度も読んでいたので間違いは無いと思うのだが、一応シアさんにも確認するように聞いてみる。


「え? あ、ええ、申し訳ありません。嘘やからかいでなければ狐族の方がこんな若い姿のまま二百年も生きるなど考えられません。今の話し方や、ここで姫様に嘘をついたりからかう事で何かメリットがある訳はありませんから恐らく本当の事なのでしょうが……。あの、ウルリカさん、もし宜しかったらなのですが、詳しくお聞きしても?」


 少し困惑気味に質問するシアさん。ウルリカさんに対して警戒心を抱いている様子は感じられないので、多分純粋に個人的な興味とか、ただ確認したいだけなんだろうと思う。


「それは勿論構わんのじゃが、姫様の手前あまり詳しくは話せないかもしれませんのう……。まあ、行儀は悪いかもしれませんが、食べながら話すとしましょうかの」


「え、あ、うん。じゃないや、はい。それじゃシアさん、お願い」


「はい、畏まりました」


 ケーキとパイの箱の封印がとけられた!!


「ぃやった!! あ、あたし苺のショートね!」


「!? それは私の!! ……あう」


 しょ、初対面の人の前で、ははは恥ずかしい……。


「ふふふ、やっといつもの空気に戻った気がしますね。なんでかちょっと緊張しちゃいましたよ……」


「あー、私も私も。ふう、取り次いだ手前何かあったら私の責任だし、怖かったわ。あはは」



「ふむ? ケーキが昼? 若者じゃのう……。さて、儂も広げるとするかの」


 あ、ついにあの古風な包みの中身が見られるぞ! とウルリカさんの手元に目線を送る。そして葉っぱが捲られ、広げられて出てきたお弁当の正体は……


「え? それって……、え!? おおおおにぎり!?」


「んぉ?」


 俵状に丸く整えられた白いお米の塊。海苔こそ巻かれていないがそれはまさしく、おにぎりそのものだった。







続きます。


新年一回目の投稿! 今年もよろしくお願いします。

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