その235
「っくぁー!! やっと着いたー!!! いやー、町まで来るの久しぶりだわ。そんじゃみんな、まずはどこ行く? あ、『転ぶ猫』でケーキ食べたい。姫、奢って」
「冒険者ギルドに行くんじゃなかったの!? 『転ぶ猫』にはミランさんとショコラさんのお土産を買いに行くからいいんだけど……」
「ホントにどっちが子供だか分かんないですよね。ってか、何? シラユキ様に払わせる気? まったくコイツはどこまで……。まあ、私も王族の方と一緒に行った時は一回も払った事ないんだけどさ」
森側の入り口付近でキャロルさんの背中から降りたエレナさんは、両手を上に上げてはしたなく大きな伸びをした後その姿勢のままこちらに振り向き、何の脈絡もなくケーキが食べたいと言い出した。
そこはまずは、ここまで背負って運んで来てくれたキャロルさんにお礼を言うところでしょう……。
まあいいや、とりあえず『転ぶ猫』で二人のお土産と、私たちの分のお昼ご飯も兼ねたパイも買って冒険者ギルドで食べればいいや。
「さすがに別で、自分の分だけ払えとは言えませんよね……。それではさくさくと参りましょうか。誰かさんのおかげで随分と時間が掛かってしまった事ですし、ね」
「そうそう、師匠の言うとおりだよキャロルぅ」
「……コイツ殴り飛ばしてもいいですよね? シア姉様」
「ええ」
「駄目だめダメー」
あはは……。はあ、今日も色々と大変そうな一日になりそうだ……。
昨日の今日の即決行で、早速町までやって来た私たち三人、プラスキャロルさん。
初めは三人で行く予定だったのだが、エレナさんが全力で寝過ごしてしまったので急遽キャロルさんに搬送をお願いする事になったのだ。
何度も言っている事なんだけど、エレナさんは普通のエルフのお姉さん、私たちの使っている高速移動ができる魔法は使えない。それどころか練習さえもした事がないらしい。それは当たり前の事だから分かっていたんだけどね……。
私の足でも歩きで午前中に、お昼前には町に到着できるように予定を立てていたのに、今朝いつまで経ってもエレナさんは私の家に来なかった。心配になってシアさんに見に行ってもらったらなんと……、普通に家でまだ寝ていた。なにそれひどい。
ここでシアさんの怒りが有頂天に、なりはしなかったがなりかけたとか。私は現場に行かなくて本当によかったよ……。
シアさんから強烈に、ガツンとお叱りを受けた筈なのにいつもと全く変わりない様子のエレナさんからは、将来大物になるんじゃないかという予感がひしひしと感じられる。そのすぐ後に、自分よりかなり背の低いキャロルさんの背中にしがみ付いて、わーきゃー叫びながら運んでもらっているところを見せられると、その予感もやはり気のせいだったと言わざるをえなかったが……。
本当に今更だけど、身長差を考えたらライスさんか兄様にお願いしたらよかったかな? まあ、それはまた次来る時でいいか、それ以外でキャロルさんだったらここが駄目だ、っていう理由は何一つ無い訳だしね。……キャロルさん本人が大変だっていう事を除けば、だけどね。
結構な数のケーキやパイをテイクアウト用に包んでもらい、ここで食べていこうよー、と駄々をこねるエレナさんを軽く無視して冒険者ギルドへ向かう。歩きながらつまみ食いされては困るので、受け取って即能力でしまっておいた。恨みがましい目線がこちらへ送られてきてはいるけれど、私だって苺のショートケーキを目の前に我慢してるんだよ……!!
「じゃ、次はどこに……、あ、あたし露店見て回りたい」
「冒険者ギルドに行くの!!」
まったく、自由な人だなあエレナさんは。シアさんとキャロルさんは、元気に突っ込む私を見てニコニコとしていたよ。
だ、駄目だこの人たち、早く何とかしないと……。
うろちょろと、余所見寄り道しまくるエレナさんを何とか引っ張って、やっと到着しました冒険者ギルド前。これだけで結構な達成感を感じてしまったのは何故だろう。
「姫は何と言うか、生真面目だよねえ。もっとあたしみたく自由に生きればいいのにさ、自由に」
「いやー、シラユキ様がアンタみたくなったらシア姉様が本気で泣くわ。ま、確かにもっと我侭言ってほしいとは思うけどね」
我侭とフリーダムは全然別の言葉なんだよキャロルさん。しかしエレナさんは、シアさんとはまた違った方向性のフリーダムさだねホントに……。ちょっとくらい見習った方がいいっていうのは何となく分かるんだけどね、私には無理な相談だよ。
「さ、ここで話していても仕方がありません、中に入りましょうか。そろそろお昼時ですし、皆さん既に出払っているかもしれませんね。それでも何人かは残っているとは思いますが……。ああ、ミランさんもお昼の休憩に入ってしまわれているのでは……」
「うーん、その時はケーキ食べて待ってよっか? ちょっとお腹空いちゃったしね。早く入ろ入ろー」
シアさんに手を引かれてドアの無い入り口をくぐる。エレナさんとキャロルさんもそのすぐ後に続く。
実は私も冒険者ギルドに来るのは結構久しぶりだったりする。前に来たのは去年の秋頃か……? ほぼ一年ぶりに近いね。
入ってすぐにカウンターにいるミランさんの姿を確認して、まずはよかったと一安心。次に全体をぐるりと見回して、知っている顔がいないかも確認しておく。やっぱり丁度お昼時なので人が少なめだ、人のいるテーブルは二つで、合わせて十人もいない。ここからは何かまでは確認できないが、お昼ご飯を食べているみたいだ。
顔見知りの冒険者の人も何人かいたので、目が合ったら軽く手を振って挨拶をしておく。初顔のエレナさんに視線が集中しているところを見るにかなり興味を引かれているとは思うけど、多分いつもの様に私たちから近づかなければ向こうから話しかけてきたりはしないだろう、シアさんが怖い的な意味で。まあ、今はみんなお食事中みたいだから邪魔しないでおくのが一番だね。
それにしても、椅子の上に置いてある黄色っぽい毛皮が気になるよ……。毛皮と言うよりかは毛の塊に近いかも。依頼品か何かだと思うけど、こんな夏場に毛皮? 冬ならちょっと触らせてもらいたかったかもね。
キョロキョロとギルド内を見回しているエレナさんからの疑問質問は一旦キャロルさんに任せて、私とシアさんはまずはミランさんに挨拶するためにカウンターへ近付く。
「……? む、珍しい……」
カウンターのすぐ手前で、シアさんがぼそっと小声で呟いたのが耳に届いた。珍しい?
「う? 何が?」
「あ、いえ、何でもありません。お気になさらずに……」
「むう、気になるー」
聞いては見たが、何が珍しいのかは教えてもらえなかった、残念。
気にはなるけど、今の何でもない言い方からすると多分どうでもいい事だろう、とその事については今は忘れておく。とりあえず優先すべきはミランさんへの挨拶と、ショコラさんが奥にいるかどうかの確認だ。
「ミランさんこんにちわー。ショコラさんはいる?」
シアさんは軽くお辞儀だけでの挨拶。多分私の質問に対しての答えを邪魔しないように、と思っての事だろう。質問よりまずはシアさんの挨拶が終わるまで待つんだった、ちょっと失敗しちゃったね。
「はいシラユキ様、こんにちは。あ、バレンシアさんも。ガトーさんは朝すぐに出て行ったっきりまだ戻って来てませんね……。何かご用でした? よかったら探しに人を出しますけど」
ざーんねん、ショコラさんはいないのかー。
「ううん。ただいたらいいなーって思ってただけだからいいよ。はいこれお土産、二人で分けてねー」
しまってあったお土産分の箱を、一度手に取り出してからカウンターの上に乗せる。
いきなりカウンターの上に出現させる事もできるけど、それでもワンクッション入れたのは、いくら私の能力を知ってるミランさんでもいきなり目の前に物がポンと出てきたら驚いてしまうかもしれないからね。
「わ……、あ、ありがとうございます、食後のデザートに頂きますね」
ミランさんはお菓子好きだけどケーキも大好き、とても嬉しそうだ。受け取ったケーキの箱を少し横にずらして置いて、こちらに顔を向け直して話を続ける。
「今日はエレナさんの案内でしたよね? どうしましょう、私がまた冒険者ギルドについて説明をしましょうか?」
私が十歳の頃にしてもらったあの分かりやすい説明の事だね、懐かしい。……あれ? エレナさんをここに連れて来たのは昨日思い付いた急な話なのに、どうしてミランさんが知ってるんだろう……? まあ、誰かが連絡を入れておいてくれたのかな、細かい事は気にしないでおこっと。
「いいえ、お構いなく。冒険者ギルドの案内ではなく、実際に一般の冒険者を見て話すだけが目的ですので。それよりミランさんはこれからお昼なのですよね? 私たちのことはお気になさらず、休憩に入ってもらっても構いませんよ」
今のシアさんの言葉はミランさんへの気遣いではなく、説明仕事を少しでも取られない様にするために、まずはミランさんを排除しようと思ってのものだと思う。けど、黙っておこう。
「だね。シアさんもキャロルさんもいるし大丈夫だよ。あ、ミランさん今日のお昼はどこかに食べに行くの? それともお弁当? 私も今からケーキとかパイをお昼代わりに食べようと思うんだけど、お弁当だったらミランさんも一緒に食べよー?」
「あ、はい、外食のつもりだったんですけど今日は差し入れを貰っちゃってまして、お弁当ですね。シラユキ様とのお食事は嬉しいですけど、でも、お邪魔じゃないですか?」
「お邪魔です」
「シアさん!? あ、お邪魔な訳ないよ!!」
「そうくると思いました……。それじゃお邪魔させてもらっちゃいますね」
即答するシアさんはもう、さすがと言うしかない。でもミランさんもそんなやり取りに結構慣れてきて、これくらいならはわはわ慌てずに普通に対応する事ができる様になっている。シアさんは演奏が難しくなったと残念そうだが……。
「うん!! ふふふ」
わーい、ミランさんとお昼ご飯だー。
「ふふ、シラユキ様かわい、ひっ」
はいはい、シアさんは睨んじゃだーめ。いくら慣れてきてるって言っても睨まれるのは怖いんだから。ミランさんはただでさえメイドさんが苦手なのに、さらに悪化してメイドさん恐怖症になっちゃたらどうするの!? ミランさんのメイドさん化計画はまだ諦めてないんだからね!
受付の交代の人を待ってから、三人一緒にいつものテーブルへ移動する。
交代の人は珍しい黒い翼の有翼族の女性(巨乳)だった。リズさんのことを思い出してついまじまじと眺めてしまったね。いや、おっぱいを眺めていた訳じゃなくてですね……。むう、二人ともニヤニヤしないでよ!!
いつもの様にシアさんが数秒でテーブルセッティングを終え、そしていつもの様にシアさんに椅子を引かれて座る。そのすぐ後にミランさんもテーブルに着いてお昼ご飯を広げ始める。
ミランさんのお昼は、黄色い葉っぱの様な物で包まれた、時代劇で見るような包みが二つ。これがきっと差し入れで貰った物なんだろう。大きさはどっちもおにぎり三個分くらいだ。おにぎりとか懐かしすぎるわ……。
随分と古風? いや、歴史情緒溢れるお昼ご飯だね。中身が超気になるんですけど……。
冒険者の人からの差し入れだろうとは思うけど、こんな葉っぱで包んで、なんて物は初めて見たよ。あの葉っぱには殺菌作用とか保存効果とか、そういう生活の知恵的な物があるに違いない。おばあちゃんの知恵袋的な何かが。
シアさんに残りのケーキとパイの入った箱を渡したところで、エレナさんとキャロルさんの二人もこちらにやって来た。何故か二人の手にはミランさんのお昼ご飯と同じ、黄色い葉っぱの包みが一つずつ握られていたが……。どうしてだろう?
中途半端なところですがここで一旦区切ります。
続きは一週間以内には……。




