その226
今回から数話、おまけの様なお話が続きます。
詳しく(?)はまた後書きで……
マリーさんが家で暮らすようになってから季節は二つ過ぎ、今は冬の一月目。リーフエンドは温暖な気候らしいのだが、やはり冬は寒い。冬なんて大嫌いだ。
しかし、毎年思う事だけど冬は嫌だね、無くなってしまえばいいのにとさえ思う。これは全国民の、いや、全世界の人々の総意だと信じたい。フランさんは食べ物が悪くなり難いからなのと、そのおかげで遠方から新鮮なまま食材が届くので喜んでいるが……。
この世界の季節、一年の巡りは、驚く事にあまり前の世界と変わらない。季節は春、夏、秋、冬、と順番に巡っていく。一年は、一週間六日の五週間三十日で一ヶ月、それが十二ヶ月で三百六十日とほんの少しだけ少ないが、まあ、大差は無いだろう。
でも、大きな違いも勿論ある。それは、一月から十二月まで、という風に数字分けがされていないのだ。
季節が春夏秋冬巡っていくのは当たり前の事だが、そのどの季節の最初の月を一月にするか、というのは誰にも決められないからだとシアさんは言っていた。おっと、大事な説明が一つ抜けていたね。失礼失礼。
一年は十二ヶ月、季節は四つ、その季節毎に三ヶ月間で分けられている。呼び方は地域や人で変わるみたいだが、私の周りのみんなは春の一月、春の二月、春の三月、と呼んでいる。その次はまた夏の一月、だね。その季節の特徴が一番色濃く表れる月が二月で、その前後の月もその季節に含められている、と言った方がわかり易いか? 分かり難いかも……。
そんな理由で季節の行事の中にお正月、新年の祝いの様なものは無い、訳でもない。ちゃんと普通に、それぞれの国や地域で決められている。まあ、そんな細かい事はどうでもいいだろう。
そして話は戻るが、今の季節は冬、その一月目の半ば頃だ。
別に冬の一月に入ったからといって一気に寒さがやって来る訳ではないのだけど、毎日日に日に寒くなっていっているのが肌で感じられる。ああ、本当に嫌だ。季節なんて春と秋だけあればいいのに……。いや、夏はあってもいいかもしれない。要らないのは冬だけか。
冬の朝は、一緒に寝ているメイドさんズが先に起きて、魔法で部屋を温めてくれているからいい。問題は着替え終わってからダイニングへ朝ご飯を食べに行くまでの間だ。廊下はとても寒い。
私の部屋はメイドさんズやお客様用の部屋等がある三階にあるので、家族用のダイニングのある二階には一階降りるだけでいいのだが、他の家族四人の部屋があるのはなんと六階。寒いのに大変だなあ……。まあ、私が特別寒さに弱いだけでみんなは全く苦にしてないんだけどね。
魔法で暖かい空気を纏って移動するという手もある、が、こんな程度で一々魔法に頼っていたら、本当に魔法が無ければ暮らしていけない軟弱なエルフになってしまう。それは絶対に避けなければならない! 体が貧弱なのはどうしようもないとしても、心まで軟弱になるのはいけない事だと思うよ。うんうん。既に心まで軟弱になり切ってるとか言わないでね。
そんな訳で廊下を歩く時は、一先ず厚着のみで対処をしておいて、後はメイドさんズの誰かとぴったりくっ付いて少し早足で歩く、という事にしている。連れ歩いてくれるメイドさんズも大喜びだ。
私からしても、暖を取りつつメイドさんズに甘える事ができるいい作戦だ、よね?
「え? 冬の間はどこにも出掛けられないんですの? ずっと家に篭っていてはお体に障りますし、少しは外に出て運動をされた方がいいのでは……。散歩程度でも体が温まると思いますわ」
朝食を食べ終わり、また寒い思いをして談話室へ辿り着いて、温かい紅茶で一息入れた後。最近全く外に出ない私を不思議に思ったマリーさんの質問に、寒いから春が来るまで家の外に出たくない、と答えたらこんな反応をされてしまった。
「普段はただ単に出不精なだけなんだけどね、シラユキ読書大好きだし。冬はほんっとに、全くって言っていいくらい外に出ないのよ」
「それでも私たちが引っ張っていけば嫌々ながらついて来るんだけどね。でも寒くて震えてる姫を見るとどうしてもかわいそうになってきちゃって、甘やかしちゃうんだよねー」
フランさんとメアさんは冬場、あまりにも運動不足過ぎる私をちょくちょくと外に連れ出してくれる。自分からは絶対に出ようとは思えないからありがたい。でも寒い。
「姫様はお体がほっそりとされていらっしゃいますから、寒さは常人以上に感じられてしまうのですよね……。散歩に出られるのは私も賛成ですが、あまりご無理をなされないようにお願いしますね」
「うん。ありがとシアさん」
無理はしないね! うん!
そんな事を考えていたら、ふふ、と笑われてしまった。見透かされたか……!! シアさんは外に出なくても、私と一緒にいられればいいや的な考えであまり外出を勧めてこない。
「私もお嬢様も冬はあんまり好きじゃないですねー。そう言うバレンシアさんも少し痩せ気味ですよね、それ、寒くないんですか?」
キャンキャンさんはシアさんの方を、特に足の辺りを見ながら言う。
「さあ? どうでしょう。まあ、別段寒さに強いとか、そういった特技は持ち合わせてはいませんが、ね」
しかし相変わらず自分のことについてははぐらかして答えるシアさん。
シアさんも普通に寒いときは寒い筈なんだけど、今日はそこまででもないのかな? まだ冬の入りって頃合だし。でも、何と言うか、その……、いつも思う事だけどソレはおかしいよ……。
「シアは逆にもうちょっと厚着してよ」
「ええ、見ているこっちが寒いですわ」
「まあ、レンだし? ホントに寒くないんじゃない?」
「魔法を使っている、という訳でもないんですよねー」
みんなの反応もごもっとも、シアさんは冬の間もミニスカートなのだ。本当に見ているこちらが寒くなって震えてきてしまう。
私やほかのスカート派のみんな、勿論メイドさんズも冬の間はしっかりとタイツを穿いている。その中で唯一シアさんだけが生足全開。毎年の事なのでもう突っ込んだりはしないが、やっぱり気にはなっちゃうよね……。体が冷えてしまうんじゃないか? とも思うんだけれど、全くそんな事はなく、抱きつけば普通に温かい。
ちなみに最初の頃に突っ込んで聞いてみた結果は、メイドですから、と安定の返答だった。メイドスキルなんだろうきっと……。そして私は考えるのをやめた。
「私のことなどどうでもいいではありませんか。姫様が次に外出されるのはいつになるでしょうね……」
「寒くてもお祭りはちゃんと参加してるよ? 人がいっぱいいると何となく温かい気がするよねー」
「お祭りだけじゃない……。今年はマリーもいるし、ちょっとくらい外で遊びなよ? マリーもどんどん誘ってあげて。姫は絶対に自分から外に出ようなんて思わないからさ」
「え、ええ。ふふ、それではシラユキ様? 早速今日どこかへ参りませんか?」
「えー、寒いのやだー」
「可愛い!! それじゃ今日は私の膝の上に乗ってる?」
「あ、うん、乗る乗る。乗せて乗せてー」
「可愛すぎる!! 冬の姫っていつも以上に膝の上に乗りたがるから可愛いよねー。フランの次は私ね、ひーめ」
「ふふふ、猫みたいですね。あ、シラユキ様、メアさんの次は私の膝の上にもどうぞー」
「ちょっ、やめなさい! そんな羨まし……、失礼な事! ……その次は私に……」
「全員ローテーションで回していきますか。キャロはいませんが……、まあ、その内やってくるでしょう」
さすがに半年近く一緒に住んでると、もう私の甘えん坊っぷりはマリーさんも完全に把握していて、ちょっと控えめながらも可愛がろうとすらしてくる始末。なので、開き直って素直に甘えればいいのだ。うんうん。
寒い冬は大好きなメイドさんズや家族、お友達の膝の上でぬくぬくとして過ごす。これで決まりだね。異論は認めない。
はい、冬のお話です。狙った訳ではないのですが、今の季節には丁度いいですね。
殆どのお話が過去編になる予定です。
一応五、六話程度を予定していますが、書いてる私が楽しくなってノリノリで書き続けてしまったら、もしかしたら何十話と続く可能性も……、まあ、ゼロとは言えません。




