その224
おやつが運ばれてくるまで、勿論来てからも楽しいお話は続いている。マリーさんはキャンキャンさんにべったりだったんだね。ふふふ。ちなみにおやつはチョコレートのタルトでした。甘さ控えめで兄様も安心して食べられる、絶品です。
「はいシラユキ、あーん」
「あーん……、んんっ。おいひい」
「かかかか可愛らしすぎますわ……。ああっ、可愛らしすぎて眩暈が……」
姉様の膝の上で食べさせてもらえるのは嬉しいんだけど……、マリーさんの前では恥ずかしいってば! マリーさんも反応が大袈裟!!
「……あ、はいお嬢様、あーん」
「しないから! キャロルにしてあげなさい、もう……」
「え? そこでなんで私よ? むう、姉イメージを崩しすぎちゃったか。反省しよう」
キャロルさんはシアさんにならしてほしいんじゃないかな? ふふ。
食事中にあんまり喋りすぎるのもはしたないので、口数は少しだけ控えめになったが、それでも話題は次々と移っていく。マリーさんは結構話し上手なのかもしれない。
今の話題はマリーさんの住んでいるフェアフィールドの町について。どんな施設やお店などがあって、実際どこに行った事があるか、だね。
「そうですわね。そこはやっぱりシラユキ様と然程変わらないと思いますわ。危険そうな、危険だと思われる場所には一度も連れて行ってはもらえませんでしたの。今ではキャンキャンと他数名連れて行けばある程度は、くらいには許されるようになりましたけど、特に足を運ぶ事もありませんでしたわ。そういった所には特に用事も、興味もありませんでしたので」
「う、うん、普通は無いよね……。わ、私は冒険者ギルドだけはシアさんと二人でも行っていい事になってるんだけど、他に危なそうな所って? 武器を売ってるお店とか?」
「武具店の他にも錬金ギルドや、裏路地にある様な表通りには出せない店舗など……、まあ、色々と。裏路地自体あまり進んで入られる様な場所ではありませんからね。ああ、一応調薬ギルドも危険と言えば危険でしょうか。実験に失敗は付き物ですから」
にこやかにこくこくと頷くマリーさん。
代わりにシアさんが答えてくれた。マリーさんはシアさんと違って、自分のセリフを取られても特に何も思わないんだね。……当たり前か?
調薬ギルドはお店部分と休憩室の様な小部屋にしか入った事はないが、やっぱり奥の方は有毒ガス的な物が漂っていたりするんだろうか? ロレーナさんの体調が心配になってしまう。健康診断的な物はちゃんと実施されているのか……、気になる。
マリーさんのよく出掛ける先は、食べ物や洋服関係ばかり。後はリーフサイドには無いが、劇場に舞台を見に行った事もあるらしい。
ふーん、劇場ね、そんな物もあるのか。まあ、劇とか舞台には別段興味は沸かないかな。歌や楽器の演奏会なら聞きに言ってもいいなとは思うけど、どうせシアさんの方が上手だろうし……。あ、歌と言えばリズさんの歌声も綺麗で素敵だったなー。
ギルド関係に行った事が無いのはマリーさんも私と同じく、結構過保護気味に甘やかされていたみたいなので、ではなく、普通に子供には危険だからという理由からだと思う。お嬢様を冒険者に直接合わせるなんて事は……、ん? キャロルさんとは子供の頃に会ってるんだった。まあ、キャロルさんは可愛すぎる見た目のせいか。うむ。
「私は調薬ギルドにも何度か行った事あるよ。マリーさんだって私たちと初めて会った場所は冒険者ギルドだったんだから、一応入った事にはなるんじゃないのかな」
フェアフィールドの町の冒険者ギルドの雰囲気までは分からないけど、多分似たような感じなんじゃないかな。
「そう言えばそうよね。ふふ、あれは面白かったわ。調薬ギルドは私も行った事がないから全然知らないのよね……。レナは疲れるからって全然話してくれないし、でも直接見に行こうと思う程の場所でも無いからね」
グリニョンさんは普通にめんどくさがりだけど、ロレーナさんは疲れるのが嫌だから、っていう感じだよね。また今度会いに行こっと。健康チェックもしなきゃね。
「え、ええ。あの時はもう舞い上がりすぎて、危険だとかそういう事は完全に頭から抜けてしまっていましたから……。お恥ずかしいですわ。でも、各ギルドのギルド長は私の家に直接挨拶に来ていましたから、一応面識はあるんですのよ?」
「あ、そうなんだ?」
「はい。と言っても顔見せと、少し話した程度なのですけど」
さ、さすがお嬢様……。向こうから挨拶にやってきちゃうんだね。
私は一応それより上(?)のお姫様だけど、会いたい人には自分から会いに行ってるよ……。ミランさんとショコラさんに会いたくなったら呼んじゃってもいいのかなあ……? 最近二人とも来てないなー。うう、ショコラさんに甘えた、うん?
「ギルド長さんと言えば……、私どっちのギルドのギルド長さんとも会った事無いや。冒険者ギルドの方はギルド長さんが変わってからもう軽く十年以上経ってるのに」
いい加減一度くらい挨拶したいものなんだけど。調薬ギルドの方は……、まあ、いいかな。ロレーナさん以外特に用事は無いし。
「え!? あ、あの方は特に進んで会われる様な方ではないかと……」
「マリーさん会った事あるの!? いつの間に!」
ホントにいつの間に、だよ! ずるい!!
む、むう、私を差し置いて挨拶に行くとは……、ぐぬぬ。しかし、マリーさんも会わない方がいいって思うのか。ううむ、やはり謎人物すぎる。
「少し前に町へ買い物に行った日の事なのですけど、あの、レンさんをお借りした日です。通りを歩いていたら急に話し掛けられまして……。あまり思い出したくはありませんわ……」
「アイツウザいよね。なんであんな奴がギルド長なんて立場に就けるんだか」
ふむふむ、マリーさんとキャロルさんはあんまり好きじゃないと言うか、否定的、嫌い? いい情報収集になりそうだぞこれは。こういう何気ない軽いお話の中からくらいしか情報を得られない人なんだよね……。
「そうですか? 私は面白い方だと思いますけど。まあ、私はあまりお話しませんでしたからねー」
「そんな変な奴でもないと思うけどなあ……。俺は数えるくらいしか、挨拶程度でしか会ってないんだが。ま、なんとも言えないな」
キャンキャンさんは好意的で、兄様は特になんとも思わない、よく知らない、と。なるほどなるほど。会う人によって印象がかなり変わる人なのか。
「私もまだ会った事ないわね。シアがいいって言うなら今度会いに行ってみる? ちょっと興味が出てきちゃったわ」
ふむ、姉様も会ってない。でも興味は出てきた、と。ほほう、ほうほう?
「シーアさん? ユー姉様もこう言ってる事だし……」
いい話の流れなので、ちょっと上目遣いで控えめに聞いてみる。
気になるシアさんの答えは……、無言で腕を胸の前で斜め十字にクロス。それはつまり……?
「えー?」
「駄目なの? 別に会わせてあげるくらいいいじゃない。シアはその人に関してはホントにシラユキには会わせたくないみたいね……。き、気になるわ……」
「も、申し訳ありません。意地悪をしているという訳では決してないんですが……」
わ、謝られちゃった。いけないいけない。
「大丈夫。シアさんがいいって言うまでは勝手に会いに行ったりしないから安心してね。こういう場合は私のために駄目だって言ってくれてるってちゃんと分かってるから、ね?」
「は、はい、ありがとうございます。なんというお優しい言葉を……、感動してしまいます」
胸の前で祈る様に両手を重ね、感動に打ち震えるシアさん。
「大袈裟な奴だな……」
うんうん、大袈裟な人だよホントに。
「シラユキ様お優しい……、ご立派です、素敵です……」
「こっちもか。でもまあ、シラユキ様は本当にお優しくて可愛らしくて、それでいてシア姉様に可愛がられて羨まし、? ……今気付いた。マリーの反応ってクレアに似てると思いません?」
クレアさんに? 確かに言われてみれば、変な方向で感心されちゃったり褒められちゃったりするのは似てるかも?
「ああー、確かに確かに。シラユキの行動一つで感動しちゃうよねクレアって。フェアフィールドの血ってヤツ? まさかね」
おお? やっとフランさんが加わってきた。もっとどんどん会話に入って来てほしいし、来てもいいっていつも言ってるのになー。さすがにおやつ中はみんなのお世話で手一杯?
「あれはただそういう性格なだけなんじゃない? エネフェア様には心酔し切っちゃってるけど、ルーディン様とユーネ様にはそこまででもないでしょ? 姫はまだ子供なのに立派だな、て思ってるだけだと思うよ」
フランさんに続いてメアさんも自然と入って来てくれた。同じメイドさんの話題だから話しやすいのもあるのかもしれないね。
「クレーアお姉様とはまだあまりお話できていませんの……。いつもエネフェア様のお側にいますし、会いに行って執務の妨げになる訳には参りませんから」
「あらら、折角のお姉ちゃんなのに。んー、呼んできてあげてもいいけど……、エネフェア様もセットで付いて来るよ、多分。後おまけでカイナも。どうするシラユキ?」
何故か私に聞いてくるフランさん。
「なんで私に聞くの? うーん、マリーさんにお任せしちゃう」
まあ、言いたい事は何となく分かるけどね。母様が来たら嬉しいでしょう? って言いたいんでしょ? そんなの超嬉しいに決まってるじゃない、まったく。
「いいいいえいえ! 少しお話する程度の事に態々席を用意して頂く事はありませんわ!」
「遠慮すんなよ。あ、母さんが来るのが拙いのか。父さんと母さんとはまだ気軽に話せないんだよな……。ま、それも追々慣れていけばいいさ」
「お嬢様はどちらかと言うと、クレア様が苦手なんじゃないですか? クレア様こっわいですよねー」
「ちょっ、やめなさい、失礼よ……」
本人もそう思っているのか、控えめに小さく窘めるマリーさん。
クレアさんは背が高くて超美人で無表情で、ちょっと怖い人なんじゃないかな? ってよく思われてるけど、実際はお料理大好きな家庭的な女の人なんだよ。とフォローを入れたいところだが、武器の収集や実際振るって戦う事も大好きな戦闘メイドさんなので言い出せない! 言い出しにくい!! ごめんねクレアさん。
「もしかして……、マリーもクレアに泣かされてたりした? 確か小さい頃に一度会ってるのよね? あの無表情美人は知らない人から見たら確かに少し怖いのかもね……。シラユキだって小さ……、今も小さいわね、ふふ。もっと小さな頃は何度も泣かされてたのよ」
私の頬を軽く伸ばしながら恥ずかしい過去を公開する姉様。
くう、マリーさんとクレアさんの仲を取り持つ事ができるかもだから大人しくしてるけど……、小さい小さい言わないでよ。わざわざ言い直してまで小さい事を強調してー! うにうに。
「か、かわっ、はっ!? し、失礼しました。ええと、実は、どうしてかクレーアお姉様の前に立つと緊張してしまうんですの。ウルギス様エネフェア様の前とはまた違った緊張だと思いますわ。ねえキャンキャン、私ってそんなに泣かされてたの?」
「ええ、それはもう。こう、見つめられる度にじわじわーっと涙が出て来て……。可愛らしかったですよー」
私と全く同じじゃないか? それってさ。なるほど、クレアさんは多分、マリーさんを可愛がりたかっただけなんだと思うよ……。
「そういう言い方はやめて!! はあ、トラウマとは少し言いすぎですけど、その影響が今も心に残っているとでも言うのでしょうか……? クレーアお姉様が優しい方だとは頭では理解できているのですけれど」
まさに子供の頃のトラウマってやつなのかな……。それを払拭するのは中々に難しい事だと思うよ。私も普通に話せたり甘えられる様になるまでは何年もかかったからねー。
「それが分かってるなら大丈夫。クレアさん本当に優しいよ? 母様の前だとちょっと固くなっちゃうから、今度クレアさんだけ呼んできてあげるねー」
勿論私はそのまま母様の膝の上に残りますが、何か?
「あ、ありがとうございます。私なんかのために……、本当にお優しい……。あ、ですが、シラユキ様のお手を煩わせてしまうのは……」
「いいのいいの、遠慮しないでね。この子はただお母様に甘えに行きたいだけだから。そのついでよ、きっと」
何故バレたしバラしたし!! 折角立派なお姫さまに見えてたかもしれないのに、邪魔しないでもらえませんかねえ姉様……。
「まあ! ふふふ、はい! では、その時はありがたくお願いさせて頂きますわ。ふふ、ふふふ」
笑われちゃったじゃない! もう!!
「百歳になって成人して、それですぐこんな遠くまで旅行、なのかな? 旅行に来ちゃうなんて、マリーさんって行動力も勇気もあるよねー」
「ゆ、勇気、ですの? 私の場合はシラユキ様を一目拝見させて頂く事だけを考えて、その一心で参った訳なので……、勇気とはまた違うと思いますわ。何と言ったらいいんでしょう?」
「うーん? 欲望……、じゃないですか?」
「誤解を招きそうな言い方はやめて!! た、確かに欲、なのかもだけれど……。あ、シラユキ様? そう仰られますけど、シラユキ様もカルルミラまでご旅行に行かれていたのですわよね? しかも二十歳なんてお小さい、こほん、ええと、その……」
「無理に言い直さなくてもいいよ……。私もマリーさんと同じかな。どうしてもお友達に会いたくなっちゃって……、約束もしたしね。ルー兄様もユー姉様もシアさんも、それにキャロルさんだってついて来てくれてたんだよ。もしかして、結構噂になっちゃってたりしたの?」
「ええ、かなりの話題に。エルフが集団で馬車の護衛を」
「ちょっ! あ! ちょっと待て!!」「マリーさんそれはお待ちください!」
「集団で護衛? え? 護衛ってキャロルさんとリズさんの二人だけだったんじゃないの? え……?」
「気のせいよー、聞き違いよー。シラユキー、忘れなさーい?」
「ユーネ様、それは逆に怪しいって……。別に言ってもいいんじゃない? 護衛が三十人もいたってさ」
「三十人!!?」「フラン!!」
「ああ、言っちまったか。ま、まあ、そんな感じだ。ぶっちゃけ国が取れるくらいの戦力だったな、あれは」
「どんな感じ!? なにそれこわい!! さ、三十人もいたの? ホントに? 私数回だけだけど馬車の外に出してもらえてたよね? キャロルさんとリズさんしかいなかったよ……?」
「ああ、あの時は大変でしたね。皆蜘蛛の子を散らすかの様にして離れて隠れてたんですよ。シラユキ様の側にいられる私に嫉妬の視線が集まっちゃって、本当に大変でしたよ。こう、胃がキリキリとおかしくなるんじゃないかってくらい……」
「えー、ええー……。ど、どうして!?」
「姫が寂しがって途中で帰るって言い出すかもしれないから、だよ。シアがいるから安全だって言ってもさすがに長旅だからさ、何があるか分かんないでしょ? それでなくとも王子様とお姫様が三人もいるのに、護衛がたった二人で旅行なんて普通許される訳無いじゃん」
「い、言われてみれば!! あ、マリーさん? 誰も怒ってないから大丈夫だよ? 私は驚いちゃってもう何がなんだか分からなくなっちゃったけど」
「は、はい! 申し訳ありません!!」
「シラユキ様って凄く純粋な方ですよねー。ふふふ」
「まったくマリーさんは……。明日はまたお仕置きですね、これは」
「今回ばかりは本当に理不尽ですわ!!」
後でちゃんと、しっかりと落ち着いてから聞いてみると、案の定父様の指示だった。私はホントに考えが足りない子供なんだなー、と再確認してしまったよ。
しかし、ぞろぞろと三十人もいたのなら、もっと馬車の外に出て外の景色を見せてもらいたかったな……。今更の話だけどね。
ちょっと早めに投稿できました。次回も数日後に。




