その220
「さて、本日は第三回、マリーさんにお仕置きしようの会を開催しようと思うのですが、その前に特別ゲストをご紹介致します」
シアさんが恭しく、少し芝居掛かった動きで丁寧にお辞儀をして姿勢を正した後、どうぞ、と入り口に向かって声をかける。
そして声に応え部屋に、談話室に入ってきた人物は……
「こんにちは、皆さん。今日はお招き頂いてありがとうございます。お仕置きと聞いて矢も盾もたまらず来てしまったのですが、私はどうして呼ばれたのでしょう? どちらかと言うと私はバレンシアさんからお仕置きを受ける側で参加したいのですが……。最近はバレンシアさんにあまり構ってもらえてないので欲求不満気味なんです」
穏やかな笑みを浮かべる、いつもの平常運行のソフィーさんだった。
「いやああああああ!!! 帰ってください!! お願いですから帰ってください!!!」
「お、お嬢様、はしたないですよ……」
お、おお!? なんという全力の拒否……。まさに体全体で拒否を表しているかのようだ!
ソフィーさんを視界に入れた瞬間、表情が絶望に染まるマリーさん。キャンキャンさんもその過剰反応に呆れ顔だ。
だが、マリーさんは逃げられないようにとシアさんが椅子に手足を縛り付けてしまっている。残念だけど諦めて、何をされるかは全く分からない、予想もできないお仕置きを受けてもらおう。ソフィーさんが呼ばれちゃった辺りから察するに、前回に引き続きいやらしい方面で攻めていくんだと思うけど……。
まったく、私の大切なお友達のソフィーさんにここまでの態度を見せるとは……。まあ、無理も無いけど、もうちょっと……、ねえ? 真に遺憾である。
マリーさんは意外にも下ネタ系全般と言うか、下品なお話は苦手らしく、自然とそういう話をしてしまうソフィーさんを嫌い、とまではいかないが、かなり苦手に思っているみたいだった。意外に、と思ったのは、私が寝てからメイドさんズとそういう方面のお話を姉様も交えてしているらしいからだ。多分ソフィーさんとは話の方向性が合わないんだろう、きっと。うんうん、誰だって合わないと思うよ……。
ソフィーさんはそういう理由を除けば本当に優しくて穏やかな性格のとてもいい人なので、私としてはもうちょっと歩み寄ってもらいたいのだが……、それも難しそうだ。
私もメイドさんズに日々鍛えられていてある程度までは大丈夫なのだけど、やっぱりソフィーさんの手強さは別格だろうと思う。一応いつでも止めれるように構えておいた方がいいのかもしれない。
折角楽しめると思ったお仕置き会なのに、マリーさんが本気で泣いてしまってはただのいじめだ。しっかりとシアさんとソフィーさんを監視しなければいけないね!
参加者、見物人は他にも、フランさんとメアさんとキャンキャンさん、それと初参加のキャロルさんがいるが、気をつけなければいけないのはやっぱりこの二人だろう。キャロルさんの働きに期待したい。
「シラユキ様……、シラユキ様! 助けてください!!」
早速マリーさんからヘルプ要請が来てしまったが、
「もうちょっと様子を見てからねー。大丈夫、本当に危なそうならみんな止めてくれるからね。いくらシアさんでもマリーさんに直接何かさせようとするとは思えないし、今までだって間接的なお仕置きだったでしょ?」
とりあえず却下。ソフィーさんを見ただけで拒否反応を示しちゃうようなマリーさんには、こういう荒療治も必要だと思うからね。決してソフィーさんが絡んだお仕置きが気になって楽しみな訳ではない。
「そんな……。きゃ、キャンキャン、お願い、手を握っていて……!!」
「はいはい。もう、大袈裟ですよお嬢様……。それに、ソフィーさんもシラユキ様のご友人なんですよ? 何も仰られていませんけど、ちょっとだけ機嫌悪くなられちゃってますよ」
キャンキャンさんは苦笑気味にマリーさんに近付き、縛られて動かせない右手をしっかりと握って、小声で、ではなく、私にも聞こえるように注意をする。
「!? も、申し訳ありませんシラユキ様!! ……ああ、ちょ、あの! こんな姿勢での謝罪で本当に申し訳ありません!!」
縛られている事も忘れて立ち上がって謝ろうとするマリーさん。
見ていてちょっと面白いけどちゃんと答えないとね。キャンキャンさんも普段はノリのいいメイドさんなのに、こういうところでしっかりと注意できるのはさすがだね。
「そこまで怒ってるっていう訳じゃないから安心してね。でも、ソフィーさんはああいう人だけど悪い人じゃないから」
「は、はい、それは私も分かっているんですの。ですが、その、どうしても頭より先に本能で拒否感を覚えてしまう方と言いますか……。ううう、申し訳ありません」
「まあ、そういうのに免疫無さそうだからねマリーは。下品な話題を出すお客様なんている訳無いし、家族みんなお上品、って言うかお貴族様だからしょうがないって。世話役のキャンキャンも経験無しだし……」
縮こまってしまったマリーさんを見かねてか、キャロルさんがフォローを入れてくれる。
シアさんの前なのにお姉さんっぽいキャロルさんについニヤニヤとしてしまう。ふふふ。
「私はいいんですよ、好きな男性もいませんし、お付き合いとか考えてもいませんから。お嬢様が結婚するまではのんびりしますよー」
「えー……。あなたが見本になりなさいよあなたが……。あんまりのんびりしてると貰い手がいなくなっちゃうわよ?」
「私がお相手になりましょうか? 初めての方でも優しくイかせて差し上げますよ? 一度達した後でしたら挿入の痛みも」
「やめ!! 言いすぎ!!! ご、ごめんね姫。ソフィーは私たちで押さえておくからもうちょっと話してて!」
「ふふ、メアもまだだからしょうがないか。レン? ちょっとソフィー引き摺ってきて」
「え? ああ、はい。……むう、折角面白そうな話題になっていたというのにまったく……」
メイドさんズ三人にずるずると部屋の隅に引き摺られていくソフィーさん。本人は何があったのかと不思議顔なのが本当に不思議だ。
何やら三人からお叱りを受けているソフィーさんを横目に見つつ、戻ってくるまでこっちはこっちでお話を続けよう。このままお仕置きが有耶無耶になっちゃうといいね。ある訳ないけど。
「マリーさんは好きな男の人はいないの? あ、ルー兄様は駄目だよ?」
「え!? ええ……、特にはどなたも。ルーディン様はとても素敵な方なのですが、私程度では到底釣り合いませんのでご安心くださいませ」
うん、マリーさんおっぱい小さいもんね……、ってそうじゃなくて!
「夜会には出てたじゃん、出会いもそれなり以上にあったんじゃないの? ああいう席って、こう、可愛い子を引っ掛けようって輩も結構来るじゃない。まあ、そういった家には私がちょっと睨みを掛けておいたのもあるんだけど」
「ああ! やっぱりアレはキャロルのおかげだったんですのね! ありがとうキャロル。急に下心満載の目で見られる事が無くなってどうしたのかしら? って思ってたんですのよ。一言言ってくれればよかったですのに」
「ふふ、可愛い妹分のために影ながらってやつ? ま、本音を言えば私の事をそういう目で見てくる奴らはマリーの事もそう見るだろうって思ってね、もののついでよ」
「夜会? そういう目っていうのは……、うん、何となく分かった」
やっぱりこの世界にも、シアさん以外にもロリコンは多数に存在していたのか……!! わ、私も気をつけなければ!? まあ多分、マリーさんが普通に可愛すぎたんだと思うよ。
「ふふふ。あ、夜会は、ええと、お食事会みたいなものですね、集まる顔ぶれがちょっと偉い様方、有力者ばかりの。リーフエンドの王族の方はそういったものに参加はされていないんですよね?」
ああ! 小説とかでよく出て来るアレね! 紳士淑女の集まりとかそういった感じの。へー、やっぱりああいうのは実際にあるんだ? でも私はそんな煌びやかな世界とは無縁と言うか……、みんなでわいわい騒ぐお祭りの方が性に合ってると言うか……。あれ? 私って一応お姫様じゃなかったか……?
「確かに私が森に住むようになってからは一度もありませんよね? でも普通は王族が主催するような物だから、王城って言うのもなんだけど開くとしたらこの館になるんだし、そうなると必然的にエルフしか入れなくなるから意味ないって。参加する場合でもそれは他国のになっちゃうんじゃない? 王族の方々が態々町の有力者の所になんて出向いたりはしないでしょ」
「うん。私が生まれてから一回も無い筈だよ。森の中でお祭りは毎月やってるけどねー。私が知らないだけで父様と母様はどこかにお呼ばれしてたりするのかな?」
「ど、どうなんでしょう? 私もまだここで暮らさせて頂く様になってから一月程しか経ってませんし……。レンさんならご存じではないんですの?」
「お呼びですか?」
「わあ!!」「きゃあ!!」
いつの間にか私の左隣に立っていたシアさんにいきなり話しかけられた。何このデジャブ。
「お、驚かせないでくださいまし……。ええとですね、あ、どうなんですの?」
シアさんなら質問も既に把握しているだろうと思って端折って尋ねるマリーさん。
マリーさんも慣れたね……。シアさんは私たちの反応に満足げな表情だ。
「何が? お待たせ二人とも。ソフィーは、まあ、諦めて。私たちにアレを諭す事なんて無理な話だったよ……」
「なになに? 面白そうな話? マリーのお仕置きは置いておいてちょっと聞かせてもらおっか」
シアさんだけではなくほかの三人もぞろぞろとやって来た。
どうやら話し合いは終わったが、ソフィーさんはまたしても理解できなかったようだ。うん、そうだろうと思ってた。
「ではその間に私へ軽い攻めをどうぞ。最近はちょっと性欲を持て余していまして……」
「脱ぐな寄るな!! 何で私の方に来んの!? アンタ美人だけど私の趣味には合わないのよ!!」
服をはだけながらじわじわとキャロルさんににじみ寄るソフィーさんはとりあえず放置。キャロルさんは犠牲になったのだ……。
「ああ、夜会ですか。確かにリーフエンドの王族の方々は主催する事も参加されることもありませんね。しかし……、マリーさんはもう百なのでしょう? 少し勉強不足なのでは?」
「え? あ、え? ごめんなさい……?」
何故か怒られるマリーさん。
マリーさんもどうして怒られたのか分かっていない様だが、つい謝ってしまったみたいだ。
「それと、キャロ? あなたにも以前教えた筈なのですが……。昔の事なので忘れてしまっていても無理はありませんが、姫様に説明して差し上げなければいけない事態がこうして起こる訳なのですから、もう少しこの国について自分なりにでも調べておきなさい。私は勿論のこと、王族の方々もそういった勉学意欲に対して邪険に返す事もありませんからね」
「あっれー? いつの話ですかそれ……。でも、確かにそうですよね、すみません。この国については全くって言っていいくらい興味無かったからなあ……」
キャロルさんもやんわりと叱られる。いつもの様なビシッとした叱り方ではなく、諭すような言い方だった。
ふむふむ? よく分からないけどマリーさんなら知ってて当然の事だったのかな? お仕置き会が勉強会に変わりそうだけど、なんとなく楽しいね。今日は先生役も生徒役もいっぱいいるし。ふふ。
「リーフエンドについては森に入る事自体がまず難しいですからね、一般の町の方は勿論私たち冒険者も殆ど何も知らないと言っても過言ではありませんよ? 私も最近になって許可を頂いたばかりなのですが、私程度に神聖な森への立ち入り許可が頂けるなんて思ってもいませんでしたから、やっぱり調べようとする方自体少ないのではないのでしょうか?」
なーるほどね。私たちからするとただの森なんだけど、他の一般エルフの人から見たら聖地って言っていいくらいの土地なんだっけ? ここ。自分達一般の、ただのエルフがそんな場所に入れる訳はないやって感じで、最初から諦めて調べたりもしないんだね。キャロルさんが言った興味が無いっていうのはそういう事なんだろうと思う。
「あれ? ソフィーがまともな事言ってる。……と、えっとね、ウルギス様とエネフェア様は当たり前にだけど、姉さんやカルディナさんにも招待状って結構来てるのよ? シラユキも成人したら届く様になるんじゃないかな」
「コーラスさんにも? え? なんで?」
あの大きすぎるおっぱいを間近で見たいがために? そんな訳ないか……。
「コーラスさんは有名人だからね、私はよく知らないけどさ。ウルギス様たちはよっぽどの事がない限り面倒だって言って断ってるみたい。多分カイナならよく知ってると思うよ」
フランさんは身内の事だから知っているだけで、メアさんはあんまりよく知らない? うーん、母様とカイナさんに一度聞いてみるかー。
「その辺りで……。では、話を戻しましょうか。リーフエンドの管理圏内の町はどこもほぼ独立していると以前お教えしたと思いますが、やはり他国との、言い方は悪いですが矢面に立つ代表はどうしても必要になりますよね? その役を現在担っているのがフェアフィールド家なのです。他国からするとこの国の王族は、どちらかというとフェアフィールド家の方を指しているのでは、とは言いすぎでしょうかね」
「ええ、それは私も勿論存じてますわ。でもそれが、ハイエルフの方々が夜会においでになられない理由にはならないのではありませんの?」
「あー、それは多分、今メアさんが言ったみたいに純粋に面倒なんだと思うよ……。マリーさんの家に丸投げしちゃってるんだと思うな! 私!」
「はい、正解です。さすがは姫様、ご聡明でいらっしゃいます。ふふふ」
「ええー……。いいんですの? それ……」
「という事は、シラユキ様よりお嬢様の方がお姫様に思われてるんじゃないですか? これはもう迂闊な真似はできませんね? ふふ」
「え!? ぷ、プレッシャーを掛けないでよ……。私が何か仕出かしてしまうとそれはハイエルフの方の恥に繋がる……? そそそそんな!!」
「頑張ってねー。マリーさんなら安心してお姫様役を任せられるね! 私が成人しても代わりに出てね?」
「だよね。まあ、何かやらかしちゃった場合は失礼ポイントの加算が凄まじい事になりそうだけど」
「あはは、確かに。あ、失礼ポイントで思い出した。マリーのお仕置きはどうするの? レンはもう説明ができて今日は満足っぽいし」
「丁度よく縛られていますし、おトイレを限界まで我慢させてみる、というのはどうでしょう? 時間は掛かりますが見る側も楽しく、我慢する側も開放時に性的な快楽にも似た何かを得られるという、まさに至れり尽くせりのいいお仕置きだと思いますよ。こう、限界近い時に下腹をグッと押されるのがまたなんともいいものですよね……。あ、私も縛って頂けませんか? 久しぶ」
「いや!! 聞きたくない!! ななな、本当に何なんですのこの人!!」
「漏らしてしまっても私が責任を持って舌で綺麗に」
「はいそこまで」
マリーさんが詳しく知らなかったのは、ただ単に百歳から本格的な勉強を始める事だったらしく、それまではのんびりと、お嬢様として最低限の教育しかされてなかったみたいだった。キャンキャンさんが結構色々と教えられているみたいで、何も言わないがきちんと把握しているらしい。そこはちゃんと説明してあげようよ……。
「勿論忘れてなどいませんよ? 説明のそれとは満足度も違います。まあ、少し時間を取ってしまいましたし続きはまた昼食の後からにでも……」
「もうこれだけでも充分すぎるくらいお仕置きになってると思うよ……」
今回はそこまで危険な会話は無かった、と思います。
続きます!




