その204
詳しく(?)は後書きで……。
「姫様、こちらをお受け取りください。今日のためにと急ぎ作り上げた物なのでそこまでの出来ではなく、大変申し訳ないのですが……」
夜、寝る準備を全て済ませ、さてベッドに、というところでシアさんから大きな袋に入った……、なんだろうこれ? 何かを貰った。
真っ白な布製の袋は、高さは30cmほどで、幅はそれより少し短いくらい。口の部分は赤いリボンで綺麗に閉じられている。どこからどう見てもプレゼントだ。
結構な大きさだが実際受け取ってみるとそれ程重くはなかった。持った感触から大体の中身の想像もつく、恐らくぬいぐるみだろう。
シアさんは手先の器用な人みたいで、ぬいぐるみの他にも私の着ている様な服でも手縫いで作ってしまう。さすがはメイドさんだね。
「ありがとうシアさん。ええと、今開けてもいいの?」
今日のために? どうしてこんな寝る直前に? という疑問はあったけれど、中身が気になるのでここは気にしないでおく。
何かな何かなー……、ええと……? どうしよう。重くはないけど軽い訳でもない、でも片手で持って開けるのは無理だ。床に置いて開けてもいいのかな……、いやしかし、ううむ……。
「はい。今すぐに必要になると思われる物でありまして……、は、気が利かず、申し訳ありません。私がお開け致します」
どうやって開けたものか悩んでいたら、シアさんはそう言うと私から袋を受け取り、テーブルの上で丁寧に包装を解いていく。
まあ、うん、私のプレゼントだけどしょうがないか、30cmって言ったら私の身長の三分の一くらいあるからね。ちょっと残念な気持ちもあるにはあるけど、子供じゃあるまいしそんな程度の事で……、私まだ四歳だよ! 文句なしの子供だった!!
しかし、シアさんは固いね、メアさんフランさんとは大違い。確かに私はお姫様なんだけど、森の家族なんだからそんなの気にする事じゃないのにな。
袋から取り出された物は……
「可愛い!! これってシアさんだよね!? 凄い! 可愛い!! あ、貸して貸して!」
シアさんの人形……、ぬいぐるみだった。上手く特徴を残したデフォルメ、巧の業だ。シアさんのぬいぐるみ作りの腕は本職の人以上なんじゃないかと思ってしまう。
「はい、どうぞ。貸してほしい、というのも少し変な表現ですね……。これは私が姫様にお贈りした物、既に姫様のお持ち物なのですから」
変な訂正を入れながらぬいぐるみを手渡してくれるシアさん。
「細かいよ……。うわあ、可愛い……。うーん、もふもふして、あ! ありがとうシアさん! 大事にするね!! 嬉しい……」
あまりのぬいぐるみの可愛さと、それを貰った嬉しさに顔がにやけてしまう。もふもふな感触を楽しむためにギュッと抱き締めながらシアさんにお礼を言う。
「!! い、いえ……。なんという可愛らしさ……」
「作ったシアさんでもそう思うよね? 可愛いよねー」
「はい、とても可愛らしいです」
「可愛いなー、嬉しいなー」
「か、可愛らしすぎます……」
「うんうん、可愛すぎるねー。……?」
なんかシアさんの目線、ぬいぐるみじゃなくて私に固定されてる気がするんだけど……、まあいいや。
いつものキリッとした表情じゃなくて柔らかい笑顔だし、私が喜んで嬉しいのかな? これでもう少し肩の力を抜いてくれるようになってくれるといいんだけどね……。
「名前は何に……、そうだ、名前は付いてるの?」
いつもの猫とか動物のぬいぐるみならともかく、これは見た目はシアさんだからね。もしかしたら名前が付いているのかもしれない。
「え? 名前、ですか? 考えていませんでしたね……。ふむ……、では、姫様の感触を表現されたお言葉から取らせて頂いて、『もふもふバレンシア』でどうでしょう?」
シアさんはほんの少し考え、即席で名前を付けてしまう。
「もふもふ? うん、『もふもふシアさん』だね、うん! それで、これが今日必要になるって、どういう事?」
さっきそんな事を言ってたよね。何か仕掛けでも付いてるのかな? あ、目覚まし?
姫様朝ですよー、とか呪いの人形ばりに喋ったり動き回ったりしないよね? これ……。そんな訳ないと否定したいけどこの世界は魔法があるからね……、何が起こるか油断はできない。
「はい、これを枕元にでも置いて頂ければ、と思いまして……。私共が廊下で待機しているといっても、やはり姫様お一人では寂しいのではないでしょうか? 何分急に決まった事でしたので私を模した人形しか作る事ができなかったのですが……」
理由を聞いたら何でもない事だった。要はおやすみ用の抱き枕の様なものか。
「えー? ぬいぐるみと一緒に寝るの? むう。それはいいけど……、外で警護なんてしなくてもいいんだよ?」
一人で寝るくらい何でもない事なのにまったくもう、みんな過保護で心配性なんだから。……ん? 四歳なら無理もないのか? 前世でもそんな小さな子供に縁なんて無かったしなー、分かんないね。
「いいえ、いけません。ウルギス様とのお約束をお忘れですか?」
父様との約束、ね。
実は、私は今日から夜一人で寝る事に決めたのだ。これまでは主に父様と一緒に寝ていた。
私の寝る時間はまだみんな普通に起きている時間、母様が普通にお仕事をしているくらいの早い時間に眠くなってしまう。そんな早い時間から、眠気も全く無い父様に付き合ってもらうのも悪いからね。
父様を初めとしてみんなかなり反対したのだけれど、私の説得(?)の甲斐あってかなんとか条件付で認めてもらえた。その条件が、メイドさんズの誰かを廊下で警護に当たらせる、というものだったのだ。
メイドさんズのお仕事を増やしちゃうのは分かってる、でも私は父様を優先したい。それに、すぐに警護なんて必要ないって分かって取り止めになると思うからね。その間だけ、悪いとは思うのだけど付き合ってもらっちゃおう。
「分かってるよ……、言ってみただけ。でも疲れたら寝ちゃっていいからね!」
「ありがとうございます。さ、姫様、そろそろ……」
「うん、実は結構眠かったり」
ベッドに入り、仰向けで枕にポフッと頭を落とす。
すぐ横にもふもふシアさんも寝かせられ、掛け布団を掛けられる。
「おやすみなさいませ姫様。良き夢を」
「おやすみなさいシアさん。ありがとねー」
おやすみのキスは無しかな? 父様はいつもしてくれるのになー。いや、家族以外とのキスはちょっと恥ずかしいか……。
「この程度の事に感謝の言葉など必要ありませんよ? あ、今日の当番はまずは私、交代はフランとなっております。何かありましたらすぐにお呼びくださいね」
「うん、分かった」
シアさんは私の胸の辺りを軽くポンポンと叩き、ベッドから離れ……
「寒くはありませんか? フトンは重くはありませんか?」
なかった。あれ?
「う? うん、大丈夫」
「人形の匂いが気になったりはしませんか? 私の古着を使っているものでして……、あ、いえ、ちゃんと洗濯は済ませてありますのでご安心を」
「変な匂いなんてしないよ、もう……」
出来がいいと思ったらそういう事。シアさんが来ていた服を素材にしてるなら、それは本物という事だからね。
「ええと、絵本をお読み聞かせ致しましょうか? それとも子守唄などは如何でしょう?」
これは寝付くまで離れないつもりだな……。まさか、父様に何か言われた? 椅子に座る気配も無いし、気になって寝られないよ、もう。
「いらないよー……。シアさんの歌は聞いてみたいけど、もう眠いから普通に寝かせてよ……」
「は、はい! 申し訳ありませんでした!」
「あ……」
私を怒らせてしまったとでも思ったのか、シアさんは慌てて明かりを消し、部屋を出て行こうとする。
おっと、いけないいけない。眠いからついおざなりに返事しちゃったよ。シアさん真面目な人だから気にしちゃうかもしれない。
「シアさん、ありがとね。おやすみなさーい……」
「は……、はい……。おやすみなさいませ、お優しい姫様……。ふふふ」
パタン、とドアを閉める音が聞こえた。
いきなりこんな話で、なんで四歳? 200話記念のおまけ? かと思われたかもしれません。
前回で二十歳以上編は一旦休止になり、今回からは『シラユキと、リーフエンドの森の愉快な仲間達編』略して『森編』が始まります。
さらに詳しくは活動報告で書く予定です。




