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190/338

その190

 今日も今日とて特にやる事も無くひまひまな私。一国のお姫様として本当にこれでいいんだろうか……? いいんじゃないかな。自問に対してまさかの即答。


 こんな意味不明な考えが出て来てしまう程、今日の私は暇。

 フランさんはメアさんを連れて、クレアさんの家まで野菜を貰いに。シアさんはまた何か企んでいるみたいで、母様の所へお話をしに行っている。

 どうしてシアさんの企みに気付いたのかと言うと、機嫌良さ気に本人がそう言っていたから。あからさまに良からぬ事を企てている事を宣言しないでほしいものだ。良からぬ事なのかどうかはまだ分からないけど……、ううん、分からないけどきっとそう。


 むう、こんな事になるならフランさんたちについて行けばよかったかな? クレアさんのお父さんとお母さんは、優しくて朗らかで……、でもクレアさんより強い? ま、まあ、それは置いておこう。

 特にお母さん、カルディナさんは、まさにクレアさんのお母さんっていう感じの凄い美人で、話し方も柔らかい、大きな胸も柔らか……、こほん。正直なところ母様よりずっと王族っぽい。この人が女王様ですよって紹介されたらみんな信じちゃうレベルだ。母様も私の見てない所では王族らしい立ち振る舞いをしているんだと思うけどね。

 お父さんのドミニクさんは何と言うか……、こちらもクレアさんのお父さんらしい武人タイプの人。どこへ行くにも、農作業の間でも、一振りの剣を片時も放さない。初めて会った時は怖い人なのかなって勘違いしちゃったね。


 ふむ……、これが本当に、この両親にしてこの子供あり、だね。クレアさんは美人で優しい武人タイプ、納得だね。うんうん。



 おっと、また考え込んじゃってた、暇すぎるのはいけないね。お出掛けでもしようかな? 散歩程度だけど。


 暇、ひま、と言っているが、別に一人で何もしていない訳じゃない。すぐ側にはキャロルさんがいて本を読んでいる。読んでいる本は例のシアさんお薦めの作者さんのだね……、感想は聞けそうにない。

 私も一冊選んでもらって読んでいたのだけど、今日は何故か、どうにも本に集中できない、内容が頭に入ってこない感じ。理由は自分にも全く分からない。


 そんなこんなで読書に集中できず、かと言ってキャロルさんに話しかけて邪魔する訳にもいかず、こうして考え事をしながら悶々としていたのだ。……悶々とするって何となくいやらしい響きだな……。



 ふと、何と無しに顔を上げたキャロルさんと目が合ってしまった。どうやらつい見詰めすぎてしまっていたみたいだ。


「あ……、と、どうされました? 御用でしたら何でも仰ってくださいね」


 にっこりと素敵な、可愛らしい笑顔で言うキャロルさん。


 キャロルさんはもう完全にメイドさんだね。最近はもうシアさんに怒鳴られるような事も全然無くなったし……、無くなっちゃったし。ちょっと残念に思っているのは内緒。

 夜の添い寝当番には組み込まれていないけどお昼寝はたまに一緒にしてるし、ご飯やおやつの用意のお手伝いだって問題なくこなしている筈。シアさんからももう一人前のメイドさんとして認められているのかもしれないね。でもシアさんってキャロルさんに対しては意地悪と言うか、素直じゃないんだよねー。


「んーん、大丈夫。ただちょっと本に集中できないなーって。ごめんね? 読書の邪魔しちゃって。読んでていいよー」


「いえいえそんな邪魔なんて、ええ!? す、すみません! 面白く無かったですか? あっちゃー……」


 ガタンと音を立てて、慌てて椅子から立ち上がりながら謝るキャロルさん。


「違うの違うの、この本は面白いと思うよ? でも今日は、自分でも分からないんだけど集中できないの。何でだろう?」


 おっと、いけないいけない、誤解を与える言い方をしちゃったかな。



 キャロルさんの選んでくれた本は、昔とある国に実在した女性騎士の生涯を元に、フィクションを織り交ぜて組み直された長編冒険物。私は恋愛物より冒険物の方が好きだって何回も言っていた事を考えてのチョイスだと思う。

 主人公の女性騎士の性格が、敵には情け容赦なく、冷酷で残忍……。でも身内には優しく、料理が趣味だったり、甘い物や可愛い物が好きだったりと、中々に面白い性格をしている。

 今は謎の原因不明の集中力不足で読めないが、また今度改めて読み直そうと思うくらい面白い。選んでくれたキャロルさんにも申し訳ないからね。


 しかし、何となくだけどこの主人公、シアさんに似てるな……。キャロルさんもシアさんと会えない間の寂しさをこういう本で埋めていたのかも? ふふふ。……本当にシアさん本人を元にしたお話だったらどうしよう……。ありえそうだから怖い! 怖いから聞かない!



 キャロルさんは椅子に座り直さず、こちらに近付いて来て私の右隣に立つ。右隣なのは、左隣はシアさんの定位置だからだ。


「ふふ、やっぱりシア姉様が側にいないと不安ですよね? それじゃ、ちょっと私とお話でもしましょうか。特にこれと言って話題がある訳でも無いんですけどね」


 くすくすと笑いながら、まったくこの子はしょうがないなー、みたいな感じで言われてしまった!


「シアさんのいるいないは関係ないの! もう! でも、ありがとうキャロルさん。それと、ごめんね? 本当に読書の邪魔しちゃったね」


「ああもう、それくらいで謝らないでくださいよ。本はただの暇潰しですし、シラユキ様とのお喋りの方がずっと楽しいんですから、ね?」


 またさっきと同じ感じに、またまたこの子はー、っていう感じで言われてしまった!! そんな顔で撫でながら言わないで! でももっと撫でて!


 くう、キャロルさんはシアさんがいない所だと完全に普通のお姉さんだね。いや、見た目が可愛すぎるから可愛いお姉さん的な?

 よし! 可愛いから許します! 別に怒ってないけどね。


 さーて、何のお話をしようかなー?






 それから暫くして、適度にからかわれながらキャロルさんと楽しいお喋りを続けていたら……。


「失礼します。姫様、お客様ですよ。ロレーナ、姫様にあまり失礼の無い様にしてくださいね」


「ん……、失礼? まあいいか。やあ、シラユキちゃん、キャロルちゃん」


 カイナさんがロレーナさんを連れて談話室へとやって来た。


 案内されて来たロレーナさんは、私とキャロルさんを目に留めるとやる気無さそうに、力無く片手を上げて軽く挨拶をする。そう見えるだけで別にやる気が無かったり元気が無かったりする訳ではないと思うけど。


 ロレーナさんってばまた髪の毛がボサボサになってるよ……。でもこっちの方がロレーナさんらしいかな? ふふ。ちょっと失礼な事考えちゃった。


「あ、ロレーナ? やっほー」


「やっほー? と、ロレーナさんこんにちわー。何となく久しぶりな気がするね。カイナさんありがとう」


 キャロルさんの軽快な挨拶にちょっと気をとられながらもロレーナさんに挨拶を返し、カイナさんにも案内のお礼を言う。


「もう、二人とも姫様の前でそんな軽い挨拶をしては駄目ですよ、姫様が真似されてしまったらどうするんですか……。ふふ、こんな案内程度にお礼は必要ありませんよ? こんなにもお優しい、礼儀正しい姫様が真似などされる筈もありませんでしたね、申し訳ありませんでした。では、私は執務室へ戻りますね」


「あ、待って待って。カイナさんも一緒にお話しない?」


 何か変な方向に、にこやかに納得して、綺麗なお辞儀を一つ、部屋から出て行こうとするカイナさん……、を慌てて引き止める。


 カイナさんは私分を一定期間摂取できないと、次の機会に大量に取り込もうと暴走しちゃうからね。その前にこうやって定期的に……、自分で言ってて何かおかしいな……? そもそもシラユキ分ってどんな成分なんだろう……。ま、まあ、ちょこちょこと一緒に行動をしていれば、いきなり求婚されるような事もなくなる筈なのだ!


「え? あ、嬉しいです。嬉しいのですけど……、うう、申し訳ありません。私はまだまだやらなければならない事が……、その……、バレンシアに増やされてしまいまして……」


「シアさんが? シアさん一体何やってるの……」


 こんな間接的に私の計画の邪魔をしてくるとは……、やるね!


「あー。シア姉様さっき何か企んでます、とか言ってましたよね。多分それ関係じゃないですか? カイナ、ロレーナとシラユキ様の事は私に任せて」


「はい、お願いしますね。それでは、失礼しました」


 今度こそ綺麗なお辞儀を一つ、カイナさんは残念そうに部屋から出て行ってしまった。私も残念。




 ロレーナさんが席に着き、キャロルさんは自然に紅茶の用意を始める。おやつは何も用意していなかったのだけど、ロレーナさんはちゃっかりお菓子の袋詰めを持参していた。私もご相伴に預かる事にしよう。


 紅茶とおやつの準備が整い、私と、ロレーナさんも一口飲んで一息ついたところでキャロルさんが切り出した。


「んで、ロレーナ? アンタ何しに来たのよ。って言うかお客様として来たのに無言で紅茶飲んでるんじゃない! まずは用件を言いなさいよ用件を……」


 おお、それもそうだね、言われて初めて気付いたよ。ロレーナさんは何か用があって来たのかな? それともただ単に暇だったから遊びに来てくれた? ふふ、私としてはどちらでも嬉しいね。お友達の来訪はいつだって大歓迎だよ!


「ふう。用件……? んー……、何しに来たんだったかな私」


 あらら、忘れちゃってるとは……、さすがロレーナさん面白い。物忘れに関しては私もあんまり人の事は言えないけどね。


「おいコラそんな馬鹿な話が」


「シラユキちゃんに渡す物があって来たんだった。はいこれお土産」


 私の前に小さな木箱が置かれる。大きさは15cm四方くらい? 手に取って見てみると、小さな見た目に反して意外にずっしりと重い。

 ツッコミを遮られてしまったキャロルさんは黙り込んでしまい、悔しそうにロレーナさんを睨んでいる。相変わらず会話のテンポが合わない二人だね。


「ありがとう! ふふふ、何かなー? あ、今開けてもいいの?」


「いいよ」


「あ、ちょ、シア姉様の確認も無しにそんな怪しそうな箱を開けちゃ駄目ですよ。どうせシラユキ様を驚かせるビックリ箱の様な……、驚くシラユキ様が見たいのでどうぞお開けください」


「なにそれひどい。怪しいだなんて思ってないくせにー、ふふふ」


 まるでシアさんの様なセリフに和まされてしまった。

 ふふふと笑いながら早速小箱を開けてみると……、中に入っていたのは緑色っぽい金属製の円形の物体。中身が揺れないように紙が詰められているので頭(?)だけしか見えない、これだけではまだこれが何なのかは分からないね。

 この入れ方からすると壊れ物かもしれないので、ゆっくりと丁寧に中身を取り出す。ふと右を見ると、キャロルさんも興味津々といった感じで覗き込んできていた。


 さて、取り出した物は、金属製の……、小さな鐘? 高さは10cmくらい、表面には立派な木と、風に流れる葉っぱを模した装飾が施されている。何これ超高そうなんですけど。


「んー、何ですか? それ。ベル……でしょうか?」


「うん、そうみたいだね。……あ、中にも紙が詰まってる」


 手の中でくるくると回しながらどんな物かと確認していたら、中の空洞部分にも紙が詰められている事に気付いた。早速取り出し作業に移る。

 結構ぎっしりと詰まっていたみたいで中々全部取り出せない。貰い物をいきなり壊してもいけないので慎重に、一つずつ丁寧に取り除いていく。


「あ、今更ですけどすみません、そういうのって私の仕事ですよね。あはは……」


 悪戦苦闘している私を見てか、苦笑しながら謝ってくるキャロルさん。


 むう、不器用でごめんね。でももう全部取れそうだよ、っと……、これで最後!


 最後の一枚を取り出し終えた時、特に鳴らすつもりは無かったのだが、ベルの音が鳴る。金属特有の、棲んだ、とても綺麗な音だった。


「わあ……、綺麗な音……」


 ついつい声に出てしまった。ちょっと大袈裟な物言いだけど、それくらい感動的な音色だ。今度は自分から、指先で登頂先端部分に付いている小さな円い輪の部分を摘んで揺らし、チリンチリンと何度も音を鳴らしてみる。


 素敵な音色……、ついつい聞き入っちゃう。しかし、ちょっと引っ掛かる。この音色、どこかで聞いた覚えが……、ああ!


「いい音ですね。調薬ギルドのドアベルと同じ素材で出来ているんでしょうか? これはいい贈り物を貰いましたね」


「うんうん、それだね。調薬ギルドのドアベルと同じ音」


 そう、多分きっと、恐らくそう。ロレーナさんが何も言ってくれないからまだ分からないけど、合っているだろうと思う。


 そういえば私、調薬ギルドに行く度にこの音を聞いて、家にも一つ欲しいなーと考えていたんだったね。大抵はその次の日にはすっかり忘れちゃっていたんだけど。

 まさか顔に出てた? 物欲しそうな顔しちゃってたかな? それはちょっと恥ずかしいね……。いじましいお姫様って思われちゃう! これは注意しなければいけないね。


 それは今は置いておこう。まずはしっかりとお礼を言わなければ。


「ロレーナさんありがとう!! すっごく嬉しい! これずっと欲しかったんだー。ふふふ」


「ああ……、やっぱりそっか。まあ、喜んでくれて何よりだよ。……うーん、やっぱりシラユキちゃんは可愛いな……」


「眩しい笑顔! シラユキ様可愛らしすぎます!! ちいっ、コイツがいなければキスし放題なのに……」


「キスなら好きにしてくれていいのに。……でも舌打ちははしたないのでシアさんに言いつけちゃいます! ふふ、あはは!」


「ああっ! ちょっ、それだけはー!! でもシラユキ様が上機嫌だからいっか……」




 その後すぐ、私はロレーナさんの膝の上へと抱き抱えられ、頬をこねくり回されている。うにゅうにゅ、石鹸のいい香り、全力で甘えたい気分になってしまう。


 キャロルさんには不器用な私に代わり、ベルにちょっとした手を加えてもらっている。


 まずはベルの中の音を鳴らす部分、ぜつというらしい。そこから紐を下げてもらって、その紐に細長い、長方形の紙をぶら下げる。短冊だね。

 次は簡単。先端の小さな円い輪の部分にも紐を通して、それを窓の辺りに吊るしてもらって……、風鈴の完成だ。


 後は風が吹いて短冊部分を揺らしてくれるのを待つだけ……。ワクワク、ドキドキ……、ソワソワ……。


「鳴らないね……。今日……、風、吹いて無いね……」


 ここまで来てなんというガッカリ気分!! 私のワクワク感を返して!!


「あ、ああ、やっぱりこれウインドチャイムだったんですね。なるほど、紙を吊るしてそこに風を受けさせる訳ですか、面白いですね」


 むむ? ウインドチャイム? ま、まあ、似たような物かな。でもこれは風鈴なの! 日本人の心なの! 日本人とか超懐かしいんですけど!! もう日本語を話せる自信もないよ……


「まあ、そのうち鳴ると思うよ……。用事は終わったけど、もう少しシラユキちゃんと遊んでいこうかな。ああ、胸、揉んでもいいよ」


「揉まないよ!? ロレーナさんも私イコールおっぱい大好きっていう認識なんだ……」


 合ってるんだけど、ね。くそう……。



 うーん、悔しいな……。あ、おっぱい好きって思われてる事じゃなくてね? 風鈴が鳴らなかった事の方!

 できたらロレーナさんがいる間に鳴ってもらいたいものなんだけれど……、鳴る? 鳴く? 鳴らないなら? 鳴かないなら? ……えい。


 私の怪しい行動の直後、談話室に澄んだ音色が響き渡る。


 うん、何度聞いても素晴らしい音色だねこれは。


「ん? あ! 鳴りましたねーってシラユキ様? それでいいんですか?」


「な、なんのことかなー? いいねいろだねー?」


「聞きたい時に自分で鳴らせばいいんだから、いいと思うよ。うん……、いい音だね……、眠くなってくる」


「あ、一緒にお昼寝する? キャロルさんと三人で」


「いいねそれ……。んー、ついでに今日は泊まっていこう。晩御飯何?」


「コラ待ち! せめて泊まっていってもいいか確認を取れ! まあ、誰も反対なんてしないと思うけどね。はあ……」




 鳴らぬなら、鳴らせてみせよう、ウインドベル。


 風鈴のままだと語呂が悪いからウインドベルね。こっちの方が何となくカッコいいし。ふふふ。

 しかし、こんな事に魔法を使っちゃってよかったのかな? まあ、今日は特別、次からは自重して自然の風を待とう。







続きます。……多分。


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