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その154

 ショコラさんの新しい名前が決まり、色々な意味で大盛り上がりを見せる冒険者ギルドの一室。そう、ここは冒険者ギルドの一室だったのだ。

 すっかりその事を忘れて大騒ぎの私たちに、ミランさんから、うるさいですよ出て行け、とお叱りと退去命令が入る事になった。実際はもっと遠まわしで半泣き状態だったんだけど……

 王族とSランク二人、内一人は元が付くけど、現最強と元最強。さらにはAランク最上位と……、ライナーさんはどれくらいなんだろう? とにかくAランク二人。この顔ぶれが揃う中、お姫様の友達だからお前が行けと背中を押され、本当に半泣きの状態で単身やって来たので、何か悪い事をしてしまった気分だった。


 実際もう全部綺麗に食べ終わり、もうちょっと休憩したら解散するかというところだったのでみんなで謝りながら片付けを始め、ミランさんには取って置いたおっぱ、こほん、メロンパンを差し出し怒りを鎮めてもらう事に。まあ、元々怖がってはいたが怒っていた訳でもなかったので大喜びされたんだけどね。今度は他のギルド員の人たちにもお詫びの品を持って来よう。



 エディさんソフィーさんナタリーさんの三人とはここでお別れ、おっぱ……、ショコラさんとライナーさんは私たちと一緒に森の途中まで、巡回の人が回っている辺りまで付いて来てくれる事になった。


 並んで町を歩く四人。それぞれの手には大きな荷物が提げられている。

 ショコラさんとライナーさんは両手にカートを一台ずつ軽々ぶら提げ、キャロルさんは食器類が纏められたカートをこちらも軽々と頭の上に担ぎ上げている。押して行かないのはカートのコロ? タイヤ部分が小さく、石畳にガタガタと引っ掛かってしまうからだ。


 ライナーさんは見ためで納得、でもショコラさんのあの細い綺麗な腕でなんであんなに軽々と……? キャロルさんは魔法だよね。まさか、能力? そうなると迂闊に聞いちゃいけないなー、残念。


 私の魔法疲れも殆ど感じられなくなったので、また魔法を使って収納してしまおうと思ったのだが……、今日これ以上魔法を使ったらソフィーさんに抱き上げて貰って帰りますよ、と言われたら引き下がる外無かった。私はなんて無力なんだ……


 という訳で最後の一人、シアさんの荷物は勿論私だ。

 時間的にお昼過ぎ、まだまだ人通りは多い。カート五台とお姫様を運ぶこの四人の姿は、町の人からどういう状況に見えるのか……、少し気になるところだね。






 すれ違う町の人に凝視されながらも四人は特に気にせず足を進める。私もまた開き直り、目が合った人には軽く手を振っている。


 しかし、こう、シアさんの腕に抱かれていると眠たくなってきちゃうね、お昼ご飯食べてすぐっていうのも影響してるかもしれない。お腹いっぱい食べた後って眠くなるよね。まあ、食べてすぐ寝るなんてはしたない真似は、シアさん自慢のお姫様としては絶対にできないのだけれどね。

 それに、ギルドを出てからも興味深い、楽しいお話は続いている。これを寝てしまって聞き逃してしまうのは勿体無いからね。でも帰ったらお昼寝しよう……




「とりあえずは、住む所とお仕事だね。今のまま宿屋さんに住んで、冒険者のお仕事を続けるの?」


 四人の手が塞がってしまっているので、私が代わりに指折り数える。まずは二本。


「宿は長期の部屋に移るとして……、コイツの場合問題は食費ですよね。ホントどうすんのよガトー? じゃないおっパン」


 キャロルさんの言葉に三本目の指を折る。


「おっパンはやめようよ……。今まではどうしてたの?」


「ああ、俺たちで討伐系の依頼をこなしまくって、それでやっとってところか。この町のギルドじゃどう考えても無理だわなこりゃ。師匠はもちっと食う量減らせって」


「お前は私に死ねと言うのか。まあ、なるようになるだろう。いざとなれば魔物を狩って丸焼きにして食うさ」


 ショコラさんにとっては食べる量を減らす事は死と同等の苦痛なんだね……。魔物を丸焼きにして食べるとか野性的すぎるよ。

 それよりSランクとAランクの二人が依頼を受けまくってやっと? ショコラさんは一体一日どれだけの量を食べるんだろう?


「まあ、貴女なら野宿でも構わないのでは? 襲われる可能性もありますが宿代はかからなくなりますし、逆に襲って来た者の身包みを剥げば臨時収入に……」


「おお、その手が」


「無いよ! ショコラさん自分が凄い美人だって自覚はあるの? その……、大丈夫だと思うけど私はやだな……」


 シアさんのとんでもない提案に乗ろうとしたショコラさんを慌てて止める。


 こんな綺麗な人が野宿なんてしてたら絶対襲われちゃうよ。確実にみんな返り討ちにされるだろうけど、気分的に絶対に嫌だ。心配で夜も眠れなくなりそう。


「師匠、姫さん泣いちまうしそういう冗談はやめとけって」


「む? 悪い悪い。本気にするなよシラユキ? しかし、簡単に決めたが難しそうだなあ……」


 なんだ、冗談か。あんまり冗談って言う顔じゃなかった気がするんだけど……

 私のためにこの町に残ってくれる様なものだし、何とかしてあげたいと思う。でも私はただの子供、お姫様なんて言っても本当に無力な子供だね。前世の知識も今回はまるで役に立ちそうに無い。

 

「ねえ、シアさん?」


 シアさんの目を見つめ、名前を呼ぶ。


「はい、姫様。……キスをご所望ですか? そういえば後程唇にして頂くという」


「違うよ!! むう、こんな時くらい真面目に相談に乗ってよー」


 私なりに真剣に相談しようと思ってみたのだが、シアさんに冗談を返されてしまった。冗談なのか本気なのか今ひとつ分からない。


 シアさんはショコラさんの今後については割とどうでもいいのかな? キャロルさんが暫くは冒険者に戻らない事が分かったし、無理して残らなくてもいいんじゃないか、って思ってるのかもね。


 シアさんは急に立ち止まる。数歩送れて他の三人も足を止めた。

 そして私の願い通り、かは分からないが、シアさんは真面目に話し出した。


「姫様、いつも、本当にいつも言っている事なのですが、姫様はもっと我侭を言ってもいいんですよ? その様に塞ぎこんで真面目に相談を持ち掛ける必要などありません。可愛らしく元気に、にっこり笑って何とかしろと命じてください、我侭を言ってください」


 ああ……、やっぱりシアさんは最高のメイドさんだ!!


「シアさ」


「キャロに」


「シアさん!?」「シア姉様!?」


 感動したのにこの丸投げ落ち!? ショコラさんライナーさんも笑ってないで何とか言ってやって!!




 ショコラさんとライナーさんの笑いも収まり、また四人、並んで歩き出す。


「キャロルさん、一緒に考えよ! 多分今回シアさんは手伝ってくれないよ!! ショコラさんをこの町に留まらせておきたくないと私は見たね!」


「まあ、ガトーは色々と口を滑らしそうですからね。シア姉様はそこからの過去の露呈を恐れているんじゃないかと思います。私もどちらかと言うとコイツはいなくてもいいと思う派なのでお力になれそうにありません。申し訳ありませんシラユキ様」


 カートを両手で頭の上に持ち上げているので、軽く首だけでお辞儀をして謝るキャロルさん。


「そんなぁ……」


 キャロルさんもシアさんと同じ考えみたいだね。でも、キャロルさんは暫くは一緒にいてくれるんだし、これ以上を望むのは贅沢という物。

 ちょっと寂しい気もするけど、ショコラさんにも無理をさせてしまうことになっちゃうし、素直に諦めた方がいいのかもしれないね……



「唐突ではありますが、ここで第三次新規メイド採用試験の試験内容を発表したいと思います」


 本当に唐突に、シアさんがメイドさん採用試験を始めてしまった。


 今この場で始める事なの? そんなにショコラさんをこの町に置いておきたくはないの? ……キャロルさんってまだ本採用じゃなかったの!?


「んあ? 何だいきなり。……おお、私にメイドになれと言うんだな? 面白そうじゃないか! 私も女に生まれた身、やはり女らしく家事を覚えるのもいいかもしれんな。 フフフ、どう思うよライナー?」


 ショコラさんがメイドさんに!? なにそれ素晴らしい……


「し、師匠のメイド服姿だと……、俺の理性絶対(ぜってえ)持たねえぞ。目の前で見たら襲い掛かる自信あるわ」


「はっはっはっ、そうだろうそうだろう? お前が男を磨く旅をしている間、私はここで女を磨くという寸法だ。さっさと私より強くなって押し倒しに来いよ?」


 やっぱりショコラさんってライナーさんのこと普通に好きなんじゃないのこれ。でも面白い流れなので黙っていよう。


「いやー、アンタがメイドやるのもライナーがさっさと強くなるのも、どっちも無理があるっしょ。これは私の試験かな? もうすっかり忘れてたけどね……。そうですよねシア姉様」


「え、ええ……。ガトーがメイドに……? その発想はありませんでしたね……。まあ、それはいいでしょう。キャロル」


 シアさんはまた足を止め、私を地面に降ろしてからキャロルさんへと向き直る。


「は、はい! シア姉様!」


 シアさんの呼び声に真剣な顔つきで答えるキャロルさん。頭上にカートがあるので格好が付かないが。


「この試験を突破できれば晴れて見習いは卒業です。姫様を自由に抱き上げ膝抱きにする権利も、添い寝する権利も与えられます」


 勝手に与えないでください!! まあ、いいけどね……


「おい、いくら姫さんが可愛いからってそんな事でやる気出す奴は」


「おおお! 頑張ります!! 見事シア姉様の期待に応えて見せます!!」


「いたよ!! コイツも完全に姫さんにやられちまってんだな面白え……」


「私にも試験とやらを寄越せ! 私だってシラユキは可愛がりたいぞ!」


「師匠もかよ!! 姫さん凄えな……。はははっ」


「ツッコミがいると楽でいいねー」


「こういう状況慣れてんのな姫さん……」




 試験内容、簡単な内容だったが、簡単なだけに難しいと言うか何と言うか……。とにかくキャロルさん一人では中々に難しい内容であったことは確かだ。


「まずこの試験にはいくつかの段階に別れているという事を先に伝えておきます」


 シアさんの言葉に真剣な顔で頷くキャロルさん……、とショコラさん。ホントに可愛いなこの人……

 私とライナーさんはいい休憩時間ができたぞと、少し離れたところからカートの番をしながらその様子を観察している。


「第一に、ウルギス様エネフェア様に、ガトーがこの町に留まる事についての危険性、安全性、予想される問題をお話し、納得して頂く事」


 あ、キャロルさんが無理だーって顔してる。ショコラさんは逆になんだそんな事かと余裕そうだ。


「第二に、まあ、これは第一条件をクリアしてからの話なのですが……。住む場所と職の問題の解決。ギルドの依頼の報酬では食費すら賄えないのでは、と思います。これも可能な限り問題の出ない方法で解決して見せなさい。第三条件はこちらを解決後発表します」



「あらら、キャロルさんは完全に諦めちゃってるね。ショコラさんもシュンとしちゃって可愛い……」


「だろ? 師匠可愛いだろ? 言動はちっと荒いんだが、いい女だぜ? マジで」


 私の独り言にライナーさんが嬉しそうに答える。


「ライナーさんくらいの背の高さになると普通に綺麗で可愛い人に見えちゃうんだね。私から見ると背の高い大人の美人さんかなー」


 ライナーさんはショコラさんより頭一つ二つ大きい。普通に可愛らしい女性にしか見えないんだろうと思う。


「姫さんから見たらそりゃ誰だってでかいだろうよ。俺たちは種族的に結構背が高めだからな、背っつーか体か。師匠は姫さんじゃなくてもエルフから見たら背が高く見えるだろ? でもあれが俺たちにとっちゃ普通よりちょい低めくらいなんだよな。まあ、エルフでもウルギスさんやルーディン、後は女で言うとクレアみたいに高めなのもいるがな、でかくはないだろ?」


 でかい? 高い? 大きい?


「え? あ、もしかして……、ショコラさんって背は高い、じゃない、竜人の人たちにとっては普通くらいだけど、凄く……、何て言うんだろ……。細い……、じゃなくて、華奢?」


「おお、姫さんやっぱ頭いいな。俺は頭いい方じゃねえから説明って苦手なんだよな……。他の女はもうちょっと、何つーか……、色々とでかいな。ま、師匠も胸だけは人並みにでかいんだがな、ははは。まあ、体になんか問題抱えてる訳じゃねえから安心しな、ただ、師匠は竜人の中でも珍しい種なんだよ。おー、睨まれた、怖え怖え」


 私の頭をポンポンと撫でながら褒めてくれたライナーさんだが、シアさんの一睨みで手を引っ込めてしまった。


 今撫でられて再確認したけど、うん、大きいね。

 多分竜人種族は他の種族より全体的に一回り大きいんだと思う。その中でもショコラさんは珍しい……、え?


「珍しい種って、竜人種族じゃないの?」


「ああ、安心しろ、私は竜人だ。翼は人前であまり出すような物でもないし、角のある獣人もいるからな、分かり難かったか?」


 ライナーさんの代わりにショコラさんが答えてくれた。少し大きめの声で問いかけてしまったのでショコラさんたちの耳にも届いてしまったようだ。


「ううん? そうじゃなくて……、竜人種族は竜人種族じゃないの?」


「あ、ああ? どういうこった?」


「コイツはきっと牛族ですよ。胃が四つあるんですよきっと。胸もでかいし……、くそう……」


「そういえば姫様は竜人種族については大まかにしか学ばれていませんでしたね。角、翼、竜化、それと能力くらいでしょうか。まあ、帰り道で細かく説明するのもなんですし、簡単に……。その前に、こちらへどうぞ」


 シアさんにまたひょいと抱き上げられる。優しく抱き抱えるように私の抱き方を直し、そのまま歩き出す。

 他の三人もカートを拾い上げ、慌てて後を追いかけてくる。なんというマイペースなメイドさんだ……


 帰りながら説明してくれるのかな? そういえば、竜人種族はどうせ会うことも無いだろうってあんまり気にしてなかったね。これはちょっと楽しみになってきた。

 それにしてもシアさんは、私をずっと抱き上げて歩いてるのに腕、疲れないんだろうか? 今日お風呂で揉んであげようかな、ふふふ。勿論腕をだよ?




「シア姉様いいなあ……。私もシラユキ様抱き上げたいなあ……」


「ああ、羨ましいな。私もメイドになればこれが可能に……? ふむ……」


「だから師匠は俺の子供産めって」


「姫様の前でそういう話はやめなさいと言ったでしょう、まったく……。竜人種族の種別については……、まあ、どうでもいいですね」


「ですね。どうせコイツら以外の竜人に会う事なんて成人されてからも中々無いでしょうし」


「うーん、気になるなー。簡単にでもいいから帰ったら教えてね?」


「はい、畏まりました。ふふふ、姫様から進んで私の説明を受けて頂けるとは……。これは張り切らねばなりませんね!」


「ああ、説明好きのとこは変わってねえんだな……」


「そこは変わっておけバレンシア。お前の説明はくどくていかん」


「アンタらがシア姉様の話を理解できないだけっしょ……」


「あはは。あ、メイドさん採用試験のお話はどうなったの?」


「あ、やるだけやってみるって事にしました。半ば諦めてはいますが……、シラユキ様との添い寝のために、頑張ります!!」


「ああ、頑張れ! 私のためにな!!」


「アンタも自分の事くらい自分で頑張んなさいよ!!」


「姫様の前で声を荒げない。やはりキャロにはお仕置きが必要の様ですね。ご褒美も無しです」


「そそそそそんな! せめてご褒美だけでもー!!」




 キャロルさんは口は災いの元、っていうのを体言した様な人だね……。見てて面白いから、是非そのままのキャロルさんでいてほしいね!







続きます。


長い一日が終わったと思ったら次の日もまた長い……

暫くこんな感じのゆっくりとした話の進みになりそうです。

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