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その147

今回は少し真面目なお話に……、なっているといいですね。あれ?





「父様とーさまー、お願いがあるの」


「よし、いいぞ!」


「ウルったら……、ふふふ」


「ウルギス様……、せめて内容を聞いてから……」


「ウルギス様が姫様のお願いを断る訳無いじゃない。はあ……、可愛らしい。私も姫様にあんな風に甘えられながらお願いされてみたいわ……」



 ショコラさんライナーさんにまたねとお別れ、急いで家に帰って来て部屋着に着替え、早速父様にお願いに来てみた。多分、と言うか絶対無理と言ってもいいレベルのお願いなので、実は内心ドキドキしている。怒られるかもしれないからね。

 父様は今、冗談半分でいいと言ってくれていたけど、お願いの内容を聞いたら手の平を返したように却下してくるだろうと思う。クレアさんが疲れた様にツッコミを入れたのはそういう訳だ。


 断られたら素直に諦める事にしよう、優しい父様を困らせたくは無いからね。



「えとね、今日、新しくお友達ができたの」


 ストレートに聞くのはやめて、少しだけ遠回りにお話しよう。もうちょっと父様の膝の上で甘えていたい。まあ、降ろされたら母様に甘えに行くだけだけどね。


「ああ、聞いてるぞ。ガトーショコラ、だったか、甘そうな名前だな。話を聞く限りはいい奴そうじゃないか」


 父様は機嫌良さ気に私を撫でながら話す。


 おお、さすが父様、耳が早い。多分私が着替えてた間にクレアさんが報告を入れたんだろうと思うけどね。ショコラさんの人柄が好印象で何よりだ。友達が褒められるのは自分の事のように嬉しい。


「うん! すっごく綺麗な人でね、背が高くて真っ白で、胸も大きくて……。ふふふ、少しお話しただけで大好きになっちゃったんだー」


「ほう、たった数時間でシラユキにそこまで好かれるとは。バレンシアの友人と聞いてあまり心配はしていなかったが、いや、ある意味心配だったが、思っていた以上の人物でよかったな。ふむ……、お願いとは、その新しい友人についてか?」


 父様の言葉にシアさんが軽くペコリと頭を下げる。少し嬉しそうだ。今のはあんまり褒められた気はしないんじゃないのか……?


「うん……。あ、多分無理だと思うから、はっきり断ってね? 父様を困らせたり悩ませたりはしたくないから」


「はは、優しい子だなシラユキは。まあ、言うだけ言ってみるんだ、言うだけならタダだからな」


「もう、焦らさないでシラユキ。遠慮がちなあなたからの珍しいお願いなんだから、私たちがそんな簡単に断るなんて事」


「森の中に連れて来ちゃ、駄目?」


「駄目だな」「駄目ね」


 やはり駄目だった!! まあ、分かってたさ……






 むう、分かり切っていた事だが、実際こうもあっさり却下されると悔しいな……。まあ、当初の予定通りすっぱりと諦めようじゃないか。

 父様の膝の上で残念がる私を見て、シアさんはニヤニヤ、クレアさんはやっぱりそうだったでしょうと無表情、カイナさんは可哀相な子を見る目で見つめてきている。哀れみの目はやめて!!


 うーん……、しかし、考える素振りすら見せずに即却下か……、これはちょっと気になるね。理由……、森の中の集落の近くへは、許可を得たエルフ以外立ち入り禁止、という決まりには一体どんな理由が……?


「ねえ、父様? どうして……、あ! 我侭言う訳じゃないよ、安心してね? ちょっと気になっちゃっただけだから」


「むう、我侭を言うシラユキが見れると少し期待していたんだが……、まあ、いい。どうして、か……。ふむ……」


 父様は我侭を言われない事に少し残念がって、悩み始める。


 むむむ、まさか子供の私には教えられない重大な秘密が? お、おお、このほんわかのんびりとした国にもそういうのがあったんだね。ちょっと意外だ。


「シラユキは……、どうしてだと思う?」


 悩む父様の答えを待っていたら、母様に逆に質問をされてしまった。


「うーん? なんでだろう? 私も今疑問に思っちゃっただけだから何も考えてないや。ちょっと待ってね、考えるから」


「ふふふ。ええ、可愛い答えを聞かせてね?」


 可愛い答えって何!? というツッコミは喉の奥で止め、母様の期待を裏切るためにもしっかりと考えてみよう。



 立ち入り禁止なのは森の奥、と言うか、人が住んでる部分から先だよね。浅い部分、って言うのも変だけど、森に入ってすぐにある薬草等の採取場の立ち入りには、そこに監視は居るが、特に許可を取る必要はないはず。その辺りの細かい決まりはきっと各ギルドで決められているんだろうとは思うけどね。

 という事は、だ。やっぱり人が住んでいる場所には、っていう事かな。国民の安全の為、が答えだと思う!


 なんだ、別に重大な秘密っていう訳でも無さそうだね、考えてみれば当たり前の事だった。森の中に住んでいるみんなにとっては森の外は既に国外扱いだし、当然といえば当然の事だった……、うん?



「姫様可愛い……、可愛らしいぃ……」


「ああ、考え込む姫様の可愛らしさは凄まじいものがあるな……」


「あまりそう見つめすぎるものではありませんよ? 心を持って行かれてしまいますからね。まあ、私は既に身も心も、命さえも姫様に全て捧げているので何も問題はありませんが……」


 ……放置!! 決してツッコミが面倒くさくなった訳ではない。



「上手く言葉にはできないけど……、エルフの森にはエルフ以外入っちゃ駄目、なのかな? エルフの国、だから? 後は多分、安全の為なんじゃないのかな」


 本当に上手く言葉にできなかった! ちょっと恥ずかしい……


「なるほど、安全の為、か……、優しいシラユキらしい答えだな。まずは家族の事を第一に考えるとは、ははは、父上母上に似た考えだな」


 う? お爺様とお婆様に? っと、父様のこの反応からすると違うのかな?


「ええ、そうね……、父様と母様もそう考えたんだと思うわ。シラユキの今の言葉では少し意味が足りてはいないのだけれど……、私たちもそう思っているの」


「意味が足りない? うん? 思ってるって……、まさか」


「ああ、実際のところ……、俺たちも理由は知らないんだ。ただ父上母上の二人がそう決めてしまっていてな、そこまで気になる事でもなし、理由を問い質す事も無いだろうとズルズル、な」


 なんというのんびりな性格だ……。国の決まりがどうして決められたか、現トップの二人が理由を知らないとは……、予想外すぎる!


「ふふふ、ごめんねシラユキ。そんな訳だから、父様と母様が帰って来ない事には許可を出してあげようにも出す事ができないの。私が勝手に許可を出してもいいとは思うのだけれど、ね……」


「あ、ううん? 無理しちゃ駄目だよ。お爺様もお婆様も何か考えがあって作った決まりなんでしょ?」


 リーフエンドの創設者の二人だ、きっと深い考えあっての行動なんじゃないかなと思うよ。


「どうだかな……」


「え、ええ……」


「な、何その反応……。まさか、何となくで決めたとかじゃ……」


「まあ、あの二人のことだ、それも有り得るな。だがな」


「例え考え無しに軽く決めたのだったとしても、ちゃんと何かしら意味が出て来るのが父様と母様の凄いところなのよね……」


 私の知らないお爺様とお婆様の二人を思い出しながら、父様と母様は言葉を続ける。


「ねえシラユキ? 私がさっき、意味が足りないって言ったの覚えてるわよね。その足らないところの意味、分かるかしら?」


「今のシラユキになら簡単に考え付くと思うぞ? まあ、そういう意味ではガトーショコラも、ライナーも森に入れていいとは思うんだがな。だがそれも絶対という訳じゃない」


「え? いいの? あ、例えばの話か……」


 国民の安全の為、大体はそれで合ってはいるが、少し意味が足りなかったらしい。その足りないところの意味で考えると、ショコラさんたち二人は森に入れていい?

 二人は、ええと、二人とも竜人種族の冒険者。それぞれSランクとAランク。子供には優しいいい人、子供だけじゃないと思うけど。この中から思い当たるのは……


「竜人種族、だからかな?」


 優しいAランク以上の冒険者の人ならリズィーさんだってそうだからね。


「質問ばかりでごめんなさいね。どうして竜人種族ならいい、という訳じゃないけれど、少しは考えてもいいか分かる? これが足りないところの意味の答えよ」


 まあ、こんな質問なら大歓迎だ。考える事は得意だし、興味が今完全にそっちを向いちゃっているからね、楽しいお勉強のようなものだ。それが父様母様と一緒のお勉強なら尚更だ。


 他の種族は駄目でも竜人種族なら一考の余地はある。竜人と他の種族の違いを考えてみれば分かりそうだね。


「ええっと、角があって、翼の出し入れができて……、あ! まだ翼見せてもらってない! 次に会うときに見せてもらおっと。後は、ドラゴンの姿に変身できて。エルフと同じ長い寿命の種族、だよね。……あ」


「そう、それが答えね。エルフが人間に、人間がエルフに恋してしまったら……、前にお話したわよね」


「よく自分で気づけたなシラユキ、偉いぞ」


 父様にグリグリと頭を撫でられる。

 完全に答えに誘導された感じだけど、父様に褒めてもらえるのは嬉しい。


「勿論恋愛だけでは無いがな、百年足らずで友人を亡くすことを繰り返していたら……、と、ここまでにしておくか」


 寿命の差から生まれる悲劇。それを国民だけでも遠ざけようとする為の決まり、なのかもね。


「絶対にいいって言える訳じゃないのは、その、子供が作れないから、だよね? うん……、そう考えると納得だね。お爺様とお婆様もちゃんとそう考えて決めたんじゃないの?」


「あの二人は何を考えているのか、息子の俺でもさっぱり分からんからなあ……。とても深い考えあっての行動かも知れんし、適当に作った決まりが上手く嵌っただけかも知れん」


「た、多分そっちで合ってると思うわ……。本当に考え無しの思いつきの行動が、何故か綺麗に回るのよね。分からない両親だわ……」


 信用無いなお爺様お婆様……。まあ。ある意味信用あるのかもしれないね。この二人に任せておけば大丈夫、って理由も無く思わさせられる人たちなんだろうと思う。


 私のお爺様とお婆様、父様と母様の両親。一体、どんな人たちなんだろう……




「うーん……、私も会ってみたーい!!」


「二人ともギルドで依頼を受けんからなあ、連絡のつけ様が無いんだ。フラッと帰って来るのを待つしかないな」


「まだ二十年そこそこでしょ? 次に帰ってくるのはいつかしら? シラユキの成人の誕生日には帰って来てくれると思うわよ」


「あと八十年!? 長いよ!! 会いに来てほしいな……」


「ああ、いかんいかん、これだけはきちんと言っておかなければな。二人とも理由あっての旅だ、決してシラユキの事を蔑ろにしている訳では無いんだぞ? それだけは誤解しないようにな」


「そうよ? シラユキ。二人ともとても優しいのよ、ふふふ。旅に出る日ね、シラユキと離れるのが嫌で、この子と離れて暮らすくらいなら旅をする世界を滅ぼして無くしてしまえばいいんじゃないかって真剣に悩んでたんだから。あれは怖かったわ……」


「なにそれこわい!」


「父上は本気だったなあれは……。いつもは父上の行動を止める母上までもが半分本気に考え始めてしまってな……、あれを止めるのは大変だったんだぞ本当に」


「お爺様お婆様こわーい! でも会ってみたーい!」


「ふふふ、可愛い子。大丈夫よ、あなたの為なら世界を滅ぼす事くらい何とも思わないほど優しい二人だから、ね。安心しなさい」


「まあ、それは俺たち二人にも言える事なんだがな。ははは、安心していいぞ、シラユキ」


「安心できないよ! 私の行動で世界が滅ぶって言ってるようなものだよ!!」




 結局からかわれただけなのか、それとも本気だったのかは分からなかったが、少しだけお爺様とお婆様のことを知る事ができたのは嬉しかったね。

 会えば分かる、会えば分かるでみんな全然教えてくれないからね、本当に次に帰って来てくれるのが楽しみだ。


 まあ、一晩ぐっすり寝れば会いたい気持ちも忘れちゃうと思うけどね。優しい家族に囲まれていると自然とそうなってしまうものだ。


 まだ見ぬお爺様とお婆様、こんな薄情な孫でごめんなさい……




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