白亜の世界
全ての景色が白に染まる吹雪の世界。
そこに突如として人影が現れた。
この場所にあって尚白い。いや、一層に際立つ白さ。
彫刻のようにあり得ざる端麗さの面貌。銀の瞳は水晶玉をはめ込んだようだ。
彼、あるいは彼女は吹きすさぶ雪の帳を見据えた。
その奥にはうっすらと巨大な建造物が見えた。
近代的なものではない。あるいは、現実的なものですらない。優美な曲線がオーロラのように展開されているそこは、物語に出てくるような城だった。
「フローズ。待ってた‥‥」
彼の横にもう一人が現れた。白の世界には似つかわしくない黒髪の、年端もいかない少女だ。
髪と同じ黒いローブを身に纏い、顔には目も鼻も空いていないマスクをしている。
フローズと呼ばれた白い人影は少女を見下ろした。
「久しぶりだねミアズマ。長い仕事、ご苦労様」
「ここは寒くて嫌。早く身体を温めたい」
「そう急がなくても、すぐにでも熱くなるさ」
フローズは踏みしめられた道を歩き、白亜の城へと歩き始めた。
「かくれんぼの時間はおしまいだ」
歩き始めたフローズの背後に黒い影が広がっていく。
それは雪原を埋め尽くし、実体となって立ち上がった。
怪物。それもランク1の寄せ集めではない。ランク2を主軸に固めた、正真正銘の軍隊である。
ミアズマはフローズを見上げた。
「中には騎士団が七人。これで足りる?」
「用意できたランク3は三体だけだからね。正直、少ない」
「ジェノスが造ってた粗悪品は?」
「まだ完成には程遠いよ」
フローズの言葉を聞いたミアズマは微かに眉を寄せた。
「ここの奴らは、強いよ」
十年。
ミアズマがこの地で女王を追っていた時間だ。その間に数えきれないほど騎士団と戦ってきた。
それでもこの本拠地を突き止めきれなかったのだ。
生半可な戦力で落とせる城ではない。
「臆したかいミアズマ」
「まさか」
「じきにプラシオスも来る。私たちは露払いを行えばいい」
「──げぇ」
ミアズマは大きく肩を落とした。
フリーズは肩をすくめると、空を見上げた。城から溢れる光が空に虹を描き、今にも七色の雨が降って来そうだ。
月も星もないこの空が、フリーズは吐き気がするほど嫌いだ。
「さぁ、王冠を返してもらおうか」
◇ ◇ ◇
俺、理事長室に呼ばれる。
椿先輩のミッションにひょいひょいとついていった結果、ハーミットやらフールやら、ランク3と戦うことになったのがついこの間。
多くの生徒たちが衣替えで上着を引っ張り出す今日この頃、俺は理事長室へと引っ張り出されていた。
「そう緊張しなくても大丈夫ですよ」
俺たちの担任、善ちゃん先生こと十善佐勘先生が優しく声を掛けてくれる。
「あの、なんで俺だけなんですか?」
そう、今日ここに呼ばれたのは、何故か俺だけだった。
ミッションを受けたのは椿先輩で、戦ったのは紡や音無さんも同様なのに。
そこが妙に引っかかる。
「さて? それも理事長本人から聞けばよいと思いますよ」
「そんな気軽には聞けませんよ‥‥」
「思っているより怖い方ではありませんよ」
そう言われても、これから会うのは名実共に桜花魔法学園のトップである。
緊張するなという方が無理な話だ。
というか理事長ってどんな人なんだろう。入学式にも出ていなかったし、顔すら見たことないな。
善ちゃん先生が開けたドアを潜り、理事長室に入る。
そこにいたのは、まったく予想外の人物だった。
白金の髪が、ヴェールのように光を透かしている。
さらりと髪が流れ、完成された美貌が俺を向いた。
――。
その瞬間、自分でも何を思ったのかは分からない。
何が起きてどのような論理の飛躍でそこに至ったのか、俺自身が説明できない。
ただ言葉が口を突いて出た。
「妖精――」
部屋の主は、うっすらと微笑みを浮かべて俺を迎えた。




