秘宝を求め
◇ ◇ ◇
奈良県、東大寺の金堂に二人の人影があった。
二人と言うべきかは定かではない。
多くの観光客の目に映るのは一人と、存在の不明瞭なもう一人である。
視界の端に捉えた時は二人に見え、注視すると一人に見える。まるで見る角度によって色を変える玉虫のように、その一人は曖昧だった。
明確に存在する一人は、少女といって差し支えない年齢と体躯で、ボブの黒髪も相まって幼く見える。
彼女はまだ気温の高いこの季節でも黒い外套に身を包み、巨大な大仏を見上げていた。
「これが盧舎那仏。仏様と呼ばれる存在ですね。僕も詳しくはありませんが、ここには全ての者を救うためのお経が表されているんだとか」
答えはない。
それでも彼女は手元のパンフレットに視線を落とし、話し続けた。
「これ、何度も修復しているみたいですね。人々を救いたいって思いは立派かもしれないですけど、それが兵火で焼けているのは、何だかなあと思わなくもないですよね」
やはり答えは返ってこなかった。
ただ隣で身じろぎする気配を感じるだけだ。
「次は春日大社に行きましょう。過去に寄贈された神宝がたくさん収蔵されているそうです」
「――」
ゆらりと影が揺れた。
それは頷きだったのだろう。
彼は必要最低限以外喋らない。喋る必要性を感じていないし、喋りたいとも思っていない。
それが分かっているから、少女は揺らぎを肯定と受け取り、踵を返した。
胸の奥にざわつきを感じる。
この近くに探しているものがあると、命が、魂が悲鳴を上げているようだ。
創造主より二人に与えられた使命は、ある宝の回収だった。
それがどんなものなのか、どんな形なのか、なんのために必要なのか、彼女たちは知らない。
しかし捜索に割り当てられた人員と、与えられた戦力を鑑みるに、その宝は創造主にとって余程重要なものなのだろう。
それが何か知らなくとも、近付けば気配を感じ、見れば分かるのだという。
そして大切な約束が一つ。
絶対に、使ってはいけない。
きっと宝と呼ぶにはおぞましいものを求め、二人は次なる場所へと歩き始めた。




