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12. 同盟

「それじゃ、まずはレオノラ様。他人行儀は面倒だからレオノラでいいわね。貴方のことを聞かせて貰おうかしら」

「あ、どうぞ。呼び方はなんでも……え?い、いきなり私?」

「お茶会の時間も残り少ないし、差し迫って重要なのはそれでしょう?次は私の家に招待するけど、それまでに策を練るには、まずは現状把握よ。私達の詳しい自己紹介は、後でいいわ」


 説得力のある声に悔しいが頷くしかできない。テキパキと物事を順序良く進めていくミシェルは、やはり頭が良いのだろう。勢いに押された感もあるが、レオノラはミシェルに聞かれるまま、ある程度のベルナールとの夫婦生活と自分の趣味嗜好を打ち明けることにした。


「その怒った顔がちょっと可愛くて…眉がグッと寄って、目つきが余計悪くなって」

「……へ、へぇーー」

「背筋を這う声もすっごく良くて。ねちっこい感じが好きなの」


 ベルナールのことを話しながら、あの悪役蛇顔を思い出してうっとりしてしまう。

 それを真剣に聞くミシェル達からは、三人揃って「へぇー」と微妙な相槌と、複雑な表情を向けられていた。


「えっと、気になるんだけど。それは、夫になった宰相様がそうだから、そういうのが好きになったの?それとも、昔からそういう人が好きなの?」

「昔から、かな?元々ああいう人が好きだけど、ベルナール様と会って、更に好きが強くなった感じ、だと思う。怒った時の荒っぽい口調も好き」

「へぇー」


 昔どころか、前世からである。記憶が戻ったことが原因ではあるが、生まれ変わっても趣味は変わらなかったのだから、もうこの嗜好は変わらないだろう。


「あまり私達も人の事言えないけどね~。まぁ、三人とも結婚してから趣味が旦那様に変わったタイプだったけどぉ」

「旦那様はお慕いしていますが。世間一般でもてはやされる、アレク・フェザシエーラ様などとタイプは違う、というのは認めますわ」


 ポーラが出した名前に、ドキッと肩が跳ねカップの紅茶が揺らいだ。


 アレク・フェザシエーラ。ゲームのメイン攻略対象にして、四大公爵の一角フェザシエーラ家の嫡男様である。有り余る美貌と能力を生まれ持つ完璧王子様タイプのイケメンだ。

 正統派にして王道。優雅に華麗に物腰柔らかに、ヒロインと心を通わせ、惚れたヒロインを徹底的に守る雄姿は、スチルの数が他キャラより数枚多く描かれている。


 “ヒロインのトラウマ”シーン見たさに周回プレイした時は、アレクルートが一番輝いていた。


 レオノラは、悪役が好きでも王道王子様が嫌いな訳ではない。むしろ好き。優しく微笑まれながら跪いてヒロインを口説く姿はなんとも目の保養であった。


「話を戻すけど、ゲルツ侯爵に関してでしょ。とりあえず、会話を増やしたいわね」


 前世で見たアレクのスチルを思い出し呆けるレオノラを、ミシェルのそんな言葉が現実に引き戻す。

 しかしそうは言われても、「ニクソンに聞け」をこれ以上どう膨らませたものか。


「誰が見てもそうだと思うけど、宰相様は基本的に仕事人間なんでしょう?」

「そ、そうだと思う」


 裏でやってる権力闘争も、まぁ仕事といえなくもないだろう。


「ならやっぱり、お仕事のことを聞いてみたら?宰相様のことももっと知れるし」

「…でも、答えてくれるかどうか…」


 確かに、ベルナールのことを知るには仕事時の様子を知るのが一番だろう。なにせ彼は一日それしかしていないのだから。先ほどのヘンデル夫人から聞いた宮殿での様子も、言ってしまえば仕事の時の彼の姿だ。

 結婚したレオノラに1ミリも興味がない、という悲しい事実も分かった訳だが。


「物は試しよ。最近のゲルツ侯爵といえば、やっぱり北の隣国との関税の話題よね」

「へっ?…関税?」


 全く聞き覚えのない内容に、レオノラは思い切り首を傾げた。


 レオノラとてこれまで国政に無関心だった訳ではない。が、東の辺境の領地では、最新の政治の内情を知ることは容易ではない。

 嫁いできてからは言わずもがな、ベルナールの無関心っぷりをどうにかするのに必死で、それ以外に気が回っていなかった。


「宰相様も話題の中心よ。北の隣国への関税を下げるって、今王宮の議会で案が上がって。それに大反対をしているのが、ベルナール様と宰相派の貴族達」


 ミシェルが教えてくれたのは、近々議会で北の国の特産である毛織物の関税を引き下げようという議題が上がるということ。

 毛織物に関しては、ずっと昔から王国は輸入をしていたが、ここ数年で需要が更に増えてきた。それに伴い、長い間変わっていない関税も見直すべきとの案が出たのだ。


 しかしこれに待ったを掛けたのが他でもないベルナールらしい。


 関税は現状維持を頑として譲らない姿勢を取り、話は平行線のまま。ついに貴族院による議会での採決で決めることになった。


 北の国の毛織物の評判はレオノラもよく聞く。ここ数年で北の国との国交も増えてきたし、より関係を強めるなら、やはり関税の引き下げは使える外交カードの一つだ。


「そんなことが…。その議会はいつ?」

「たしか二週間後じゃなかったかしら」

「二週間…」


 その話を聞いてレオノラが思ったのは、またあの応接室と覗き穴のことだ。

 ミシェルのいう通り、ベルナールとの会話の話題にできれば、とも思う。が、こんないかにも悪役の根回しや裏取引が行われそうな気配を感じると、未だ拝めていないゲス顔に意識が向いてしまう。


 ここにきて心強い“味方”の登場で示された突破口に、レオノラは期待に胸を膨らませる。


 そんな高揚感と共に帰宅したレオノラに、ニクソンがさっそく明日の夜に来客があることを告げてきた。もうこれはそういうことだろう。

 レオノラはウキウキと例の覗き部屋へと思いを馳せたのだった。


ブックマークやリアクションや評価、本当にありがとうございます



同盟3人の旦那様は登場の予定はほぼ無いので、覚える必要はまったくないのですが


強気ミシェルの旦那様:狐商人

完璧作法ポーラの旦那様:犬坊っちゃん

あざと系ナンシーの旦那様:ゴリラ隊長




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