第21話 新米捜査員は、兵站を考える。
「マム、ここから先どう動くと思いますか? タカ派は、すぐには動かないとは思いますが」
今は、会議初日が終わっての神殿での夕食後の歓談中。
なお今日は、陛下と異種族姉妹は、会議後の宮廷晩餐会に参加中。
全員、僕を恨めしそうに見ていたけれども、政治ショーに参加しないといけない方々なんだから、そこはしょうがないと諦めてもらった。
因みに今日の夕食は、地元の素材をたっぷり使った寄せ鍋。
「後」の事を考えての事だ。
……晩餐会が終わったら来るから、簡単でお腹に優しくて美味しいものを準備しておいて、とは陛下やナナさん達の伝言。もー、この欠食児童どもが。
「そうねぇ、中間派は今頃慌てているでしょうね。ここで陛下に敵対するそぶりを見せたら、富の配分から追い出される可能性もあるものね。賢い領主なら、とりあえず陛下に従うそぶりまでは見せると思うわ」
マムは、僕が内心思っている内容と同じ事を話した。
「やはりそうなりますよね。これで『飴』はばら撒きましたので、次は『鞭』ですか。リタさんを狙った賊の上は何方だったか、話は来ていますか?」
「いえ、まだね。多分、かなり大物だから簡単には捕まえられないんだと思うの。『鞭』としては効果抜群ですけど、やり過ぎて騒乱の火種になりそう。まずは味方を増やしてからね」
マムは膝の上に座る息子をあやしながら、僕の質問に答えてくれた。
「政治の世界は難しい上に、ややこしいのじゃ。此方は、それが嫌で逃げて居るのじゃが、結局政治の世界にも足を踏み込んでしまっているのじゃ。マム、これはしょうがないのかや?」
「そうねぇ。捜査室はどうしても領主との関係が深くなる仕事ですし、わたくしやリーヤは貴族への対応が増えますから、しょうがないわ。でもね、ここでゆっくり学んでいけば大丈夫よ。リーヤ、貴方はタケを守りたいのなら、主人としてしっかりなさい。わたくしは応援しますし、力を貸しますわよ」
マムはリーヤの愚痴に、にっこりと慈愛の表情で返した。
「うむ、分かったのじゃ。マム、ありがとうなのじゃ!」
「いえいえ、わたくしの部下は皆わたくしの子供ですものね。あ、フェアは別格よ。あー、可愛いの」
マムは息子の頭に顔を擦り付けるようにして愛撫していた。
フェアはそれを不思議そうにしつつも、自ら顔をマムの胸に押し付けていた。
「では、拙者達はどう動くべきでござるか? 貴族社会には拙者達が潜入する隙はないでござる」
「そうだね、アタイもうかつに潜入なんて出来ないし」
「ヴェイッコ達には警備を密に御願いしますの。おそらくですが、もう一回は動きがあるはずです。それと市場とかで聞き込みを御願いしますわ。兵を大規模に動かすならば兵糧の補給が大事、糧食の買い付けで市場に動きがでるはずよ。そこから敵の規模と攻撃の時期が見えます」
「了解でござる!」
「あい!」
マムは、ヴェイッコとギーゼラに市場調査を頼んだ。
確かに大規模戦闘をするにしても、兵はお腹ペコペコでは戦えない。
その食事を入手するのなら市場を経由するのが楽だ。
また市場を経由しなくても、需要が増えて供給が落ち着かなくなれば市場価格の上昇、最悪欠品が出る。
そこから見えてくるものもあるのだ。
「流石はマムですね。市場流通から敵勢力を把握するなんて」
「あら、兵站を簡単に理解するタケも見事よ。地球ではこんな事も勉強するのかしら?」
「そうですねぇ。普通は直接的には勉強しないのですが、歴史での戦争を学んだり、それを題材にしたゲームをやっていますと後方支援、特に兵站の重要性が見えてきますね」
僕は、マムが兵站を完全に理解しているのに逆にびっくりする。
おそらく騎士団で副団長をしている間に、経営やら兵站で困ったのだろう。
……今も、僕が結構無茶な要求を通して色んな器具を買ってるから苦労しているんだろうね。マム、ごめんなさい。
「兵站とは何じゃ? ゲームでは、どんぱちするだけじゃないかや?」
「リーヤお姉さん、タケお兄さんが話しているのは、多分戦略シミュレーションゲームの事だと思うの。部隊をひとつずつ動かして戦うんだけれども、部隊一つをつくるにしても資源や人材が必要だし、運営には資金や燃料、ご飯も必要なの。部隊を動かすのに必要なものを集めて管理する仕事が兵站。捜査室ではわたしの担当かな?」
リーヤの疑問に、フォルが的確に答えてくれた。
フォルは地球のゲームにも精通しており、特に戦術系やFPSに強いらしい。
「此方はフォルちゃんには『げーむ』ではもう勝てぬのじゃ。そのフォルちゃんが言うのなら間違いないのじゃ! タケよ、今度フォルちゃんと勝負するのを此方に見せるのじゃ! 此方も作戦を研究して、タケよりも奇策や悪辣な手で敵を倒すのじゃ!!」
「はいはい、分かりました。しかし、僕ってそんなに奇策や悪辣な手を使っているのかなぁ。自分では確実な手を使っているだけのつもりなんですけど」
リーヤが僕を奇策使いみたいに思っているのが心外だが、周囲を見回すと捜査室のメンバーは全員うむうむという表情をしている。
……うむ、解せぬ。
「タケよ、余に『雑炊』とやらを出すのだ!」
「タケシさん、ボクにも御願い!」
「タケシお兄ちゃん、わたしにもー」
「申し訳ありませぬ。宮廷料理は、むつごうございましたぁ」
そんな時、突然神殿食堂の壁にドアが出来て、そこから飛び出してくる少年皇帝、伯爵夫人、エルフ姫君に御付。
「はいはい。待ってましたよ、陛下。では、料理を温めてきますね」
僕は、思わず笑いながら厨房へ向かった。
……今日のお鍋はイイ出汁出ているから美味しいぞ!
古今東西、兵站を笑う武将は必ず負けています。
戦争を詳しく学ぶほどに、兵站の重要性が分かりますね。
ええ、「太平洋の嵐」で作者は痛いほど身に沁みましたから。
あんなんで、連合国に勝てるはずないですよ。
戦争は、しちゃダメですね。
では、明日の更新をお楽しみに。




