第12話 新米捜査員は、神殿で料理をする。
「皆、ごめんなさいね。すっかり気が動転していましたの。この子がわたくしの息子フェアノールです。フェア、さあ皆様に御挨拶を」
「はい、おかーたま。みなさま、ぼくは ふぇあのーる・るーしえん といいます。おかーたまが、いつもおせわになっています」
マムは息子の後ろに膝立ちで座り、息子に僕達への挨拶を促した。
そしてフェアノールは、とっても可愛い挨拶を僕らにして頭をぺこりと下げた。
「あーん、かわいいのぉ! ワタクシ、このままお持ち帰りしたいですのぉ」
キャロリンは両手で真っ赤になった頬を蔽い、飛び跳ねる。
……その気持ち分からなくも無いよ。またマムが手放したくないのも良く理解できるね。
マムの息子、フェアノール。
身長が1mくらい、ぽわぽわとした淡い金髪と紫色をした大きな瞳に真っ白いぽよぽよとした肌、そして幼いながらもエルフらしい整った美貌に一生懸命っぽい表情、へにょんとした長耳、とてとてと危なげな歩み方。
全身が可愛さで爆発していると言っても過言ではあるまい。
「ダメですぅ。ウチの子は誰にもあげないのぉ! 連れて行けるのならわたくしがポータムまで連れて行くのです!!」
マムはキャロの半分冗談を真に受けて、必死にフェアを抱く。
それがあまりに力強かったのか、フェアはジタバタした。
「マムや、キャロは冗談を言っておるのじゃ。のお、キャロリン」
「はい、間違ってもマムから息子さんを取り上げたりしませんわ。ただ、写真撮影は良いですわよね?」
キャロリンは、早速スマホを構えてウズウズしている。
「まあ、此方もキャロの気持ちが理解は出来るのじゃ。こんなに可愛いのじゃからな」
リーヤ、さりげなくマムに近付き、フェアの頭を撫でている。
「おねーたま?」
「あーん、この感じがいいのじゃぁ!!」
フェアに姉と呼んでもらい、羽や尻尾が全開運転で有頂天のリーヤであった。
◆ ◇ ◆ ◇
「さあ、今日もがんばりますよー!」
僕の戦場が神殿調理場で始まる。
……僕の戦場って試験室のはずだったのに、実際に戦場を走り回ったり、台所で料理つくったり。何やっているんですかねぇ。
「では、料理関係の皆さん。良く見ていてくださいな。今日のメインディッシュは『牛肉と玉葱のすき煮』、サイドに『根菜たっぷりのスープ』、デザートに『手作りアイス』行きますよ!」
今回は時間もあまり無い上に食べるであろう人数も多いので、本気モードで行く。
こういったときは、僕の料理に慣れたウチの面子に手伝ってもらうに限る。
「まず、下準備が大分必要なアイスから。リーヤさん、ヴェイッコさん、お手伝い御願いです」
「美味しいご飯の為じゃ! 手伝うのじゃ」
「拙者も頑張るでござる」
2人ともノリノリだ。
「では、ヴェイッコさん。ボールに卵黄と砂糖をこのくらい入れてください。そして泡だて器でかき混ぜて下さい。リーヤさんは、この金属製の皿を魔法でとっても冷やしてくださいな」
「御意!」
「アイスクリームじゃな。冷やすのじゃな。ほいな!」
ヴェイッコは、湯煎しているボールを一生懸命白くなるまで卵黄を混ぜた。
「では、ここに隠し味にバニラビーンズの粉を入れますので、この鍋の中にゆっくりかき混ぜながら、その白くなった卵黄を入れてくださいな」
シームルグ号から電力を取っているIHの鍋には、神殿の近所で取れた牛乳と生ミルクが加熱されている。
「鍋の中身が混ざったら、一旦この容器に移して冷ましてください」
僕は横目でヴェイッコがリーヤに手伝ってもらいながら鍋の中身をボールに移すのを見ながら、待っている間に僕は、次の料理に取り掛かる。
「次、スープ行きます。キャロリンさん、フォルちゃん手伝いを御願いです」
「アタクシ、これでも自炊派ですのよ」
「はいですぅ。わたしも妹弟に料理作ってますよぉ」
どうやら2人は、ちゃんと料理が出来るらしい。
「では2人には、この野菜を切ってもらいます。牛蒡、レンコン、ニンジンをそれぞれ1cm角に切ってください。切れたら、牛蒡とレンコンは水につけて灰汁抜きをします」
僕は次の料理をすべく、マムに御願いをした。
「さて、マムにも手伝ってもらいますね。マムはこの玉葱を薄く切ってくださいな。冷蔵して冷やしてあるので多分大丈夫ですが、眼に沁みますのでご注意を。終わったら白菜をざく切りにして下さい」
「あら、保安官命令なら仕方が無いの。では頑張るわね。フェア、賢いから後で見ていてね」
「はい、おかーたま!」
玉葱を切ると涙が出るのは、玉葱に含まれる香味成分、硫化アリルが切断面から揮発して眼を刺激するから。
あらかじめ冷蔵庫で冷やしておくと、硫化アリルが揮発しにくくなるので、お勧めだ。
僕の予想以上に、すっごい勢いで薄く切られてゆく玉葱。
流石は凄腕戦士のマムである。
なお、フェアノールはマムのご両親と一緒にマムの料理をする姿を見ていた。
「ウチの娘がご迷惑をおかけしていないでしょうか? 子も出来ましたのに、いつまでもやんちゃで」
「ええ、貴方。エレったら、もう少し落ち着きが出来て欲しいものですのに、神官よりも騎士だーって飛び出しちゃいましたから」
少々お年を召したご夫婦、マムに似た美しい姿だが今は孫を抱えてマムのやんちゃな姿に困っている様だ。
なお、マムは神殿長夫婦の一人娘、優秀な神聖魔法使いだったのに神官じゃなくて騎士がやりたいと神殿に付随する陛下直属の騎士団に飛び入り、そのまま副団長になって団長だった今は亡きご主人を口説き落とした、つまり入り婿させたそうな。
「そうしたら、僕はスープの準備をしましょうか」
僕は干し椎茸の軸を取り除いて、荒めに砕いた。
「では、フォルちゃん。切った野菜を全部下さい。マムも切った玉葱の半分を下さいな」
「はいですぅ」
「いいわ」
僕は2人から材料を貰い、大きな鍋に薄くごま油を垂らし、加熱した。
「では、ここからスープを作りますので、見ていてくださいね。まず野菜を軽く炒めます」
幸いな事に神殿で使っている大鍋は鉄製、IHで使えるのでコンロや神殿の釜戸を使わなくても良い分、火力調整が楽だ。
……釜戸の火力調整なんて、僕では出来ないしね。
「炒めたところに、水と今回は時間省略の為に市販の丸鶏がらスープの元を使います」
本格的にするのであれば、スープ用に「鶏がら」から煮出すのが一番だろうけれど、今回はスピード勝負。
シームルグ号の冷蔵庫の容量を考えて、保存性の良い瓶入り粉末スープを使うのが合理的だ。
……それに味も悪くないしね。
「後は、味見をしながら塩と胡椒を加えます。味の調整と加熱はキャロリンさんに御願いしますね」
「わかりましたの。ウマイゾー、って言わせて見せますわ」
次はアイスだ。
「では、冷ましたアイスの元をリーヤさんが冷やした容器に入れてください。後は、固まりだしたらかき混ぜるを数回行ってくださいな」
「御意でござる」
「此方、一生懸命冷やすのじゃ!」
嬉しそうに作業をする2人を見た僕は、メインディッシュに取り掛かる。
「では、この牛肉をバラ切りにしましょう……。うん、僕では難しいので、マム再び御願いします」
僕は冷蔵庫から出してきた大きな牛肉のブロックをマムの前に差し出す。
「これどう切るの? ステーキにするのじゃないの?」
「あんまり高級なお肉では無いので、ステーキには不向きなんです。今回は一口サイズの薄切りで御願いします」
「分かったわ。フェア、見ていてね」
「はい、おかーたま!」
マムは、僕が渡した牛刀を構えた次の瞬間、気合を放った。
「はぁ!」
次の瞬間、牛肉ブロックは千切りになっていた。
「お見事でございます。流石はマムです」
「そうでしょ。料理の時も良く高速切りするの。フェア、お母さんカッコよかった?」
「おかーたま、すっごーい!」
僕はパチパチと手を叩いてマムを褒めた。
そして、大きな紫の目を凝らして凄い母親を褒める幼児、実に良い眺めだ。
まあ、ご両親は頭を抱えていたけれども。
「では、いきますね!」
僕は大きなフライパンを使い、そこに市販カツオ・コンブ出汁の濃縮めんつゆ、醤油、砂糖、酒、味醂に水を入れ、白菜の芯を加えて煮立てた。
……手抜き時間短縮その2。本当なら出汁を最初から取りたかったけれど、今回時間が無いのでめんつゆを使う。有名メーカー品のめんつゆは、煮物とかに使えるので案外便利なんだよね。僕が自分1人で食べる時なんか、よく手抜きでめんつゆとか粉末鶏がらスープを使っているし。
「では、次に白菜の葉と玉葱を入れます」
ぐつぐつ茹でると、野菜がしんなりしてくる。
「ここで牛肉を入れます」
牛肉を解しながら加えて、火が肉に通ったら完成だ。
後は、これを数回やって人数分を確保するだけ。
「さあ、これで後はアイスが固まれば、ご飯にしましょう!」
「おー!」
なお、炊飯器も全開運転だ。
……うむ、こんな事するから、僕は料理人扱いなんだろうねぇ。でも化学反応するのと同じでレシピ間違えなければ美味しいの作れるんだけども。
今回は、全開で料理回をお送り致しました。
なお、私が書いていますレシピは、基本的に各所レシピサイトから頂いてアレンジしています。
なので、基本美味しく食べられるはず、分量とかは各自お調べ下さいませ。
作中でも書いていますが、料理は化学です。
菓子類なんかは分量が少し間違ってもダメになります。
化学反応のレシピを良く見る作者からすれば、料理レシピは簡単。
時々、1人ご飯の時は工夫していたりします。
では、料理人とスナイパー、化学者の3本のわらじを履いたタケ君を今後とも宜しくです。




