第9話 新米捜査員は、魔神に驚く。
「さて。こいつら、どうしますか? 逃がす訳にも行かないし、放置もダメ。かといって殺すのも嫌」
僕達は、捕らえた男たちの始末に困った。
「そうねぇ、皆さん何かいい方法が無いかしら?」
マムは頬に手を当て、困った風な顔をした。
なお、野に溢れたゴブリンの屍はリーヤが魔法で綺麗に焼き払った。
「野火焼きじゃ。次は凶悪な魔物に生まれるでないのじゃ!」
「なんまんだぶ、なんまんだぶ。化けて出てこないでござるよ」
「うんたらかんたら、じょうぶつしなよ!」
ヴェイッコやギーゼラが怪しげな経文を唱える中、僕は可哀想なゴブリン達に黙祷をした。
……お互いに生存競争の敵ではあるけど、成仏を祈るくらいは良いよね。
「あ、ボクにイイ手があるかも。リタちゃん、朧さん呼べないかしら?」
「朧さんなら連絡できるよ。一応、わたし達の警護で近くに居るはずだから。あ、朧さんの無限回廊送りなの? あそこなら問題ないよね」
姉妹は、僕達が知らない人の話をし出した。
「すいません、リタ様。朧様とは一体何方かしら? その方が解決策を盛っていらっしゃるの?」
マムは不思議そうに姉妹に聞いた。
「はい、朧さんはチエお姉ちゃんの配下の上位魔神ですの」
……はい――!? 今、魔神って言ったよねぇ!!
「え、一体何を言ってますの? 魔神なんて、過去魔族種と契約を行った以降は世界から消えたはず……」
「マムさん、ボクから補足説明しますの。たぶんその契約をした魔神さんはチエ姉ぇの伯父様か伯母様だと思います」
……ますます話が分からなくなるぞ。確かリーヤさん魔族種は異界の魔神と契約をして今の力を得たはず。で、チエお姉さんの伯父か伯母がその魔神だとすると……。チエお姉さんの正体は!?
「まさか、チエお姉様とは魔神なのかじゃ?」
「ええ、そうなの。とっても綺麗で、とっても賢くて、とっても優しくて、とっても強い魔神将さんなの!」
「え――!!」
全員がハモって叫んだのは、言うまでもない。
◆ ◇ ◆ ◇
「えーっと、話を総合するとリタ様のお父上の敵がチエお姉様のお兄さんで、チエお姉様とご両親の助けで全て解決させたのね」
「はい、そうなの」
「そして敵の首魁たる異界の邪神に対しても魔神さん達は辺境伯と一緒に戦って討ち取ったのね」
「そーです。ウチの旦那は強いんです!」
マムが聞くたびに姉妹は自慢げに、姉と兄の事を話す。
なんか神話になってもおかしくない冒険談を聞いて、僕はもうお腹一杯だ。
……コウタさんが強くなった理由に魔神将自らのシゴキがあったなんて。あまりに何でもありだし、その上敵の首魁があの有名な神話に語られる邪神とは。神話の一ページが目の前にあるなんて、びっくりだよ!
「そしてチエお姉様の配下の朧さんは、今もリタ様やナナ様を影ながら警護してるはずなのね」
「ええ、朧さんってスタイルから入る人だから、今もこっそりと登場タイミングを見ていると思いますよ。さっきの戦闘時にも、さりげなく支援していましたし。ね、朧サン!」
ナナが虚空に対して叫ぶ。
「ナナ様、私の登場タイミングを壊さないで欲しかったのですが……」
虚空から空間跳躍して現れた黒ずくめ執事風の優男がナナに愚痴る。
「朧さん、イイタイミングですよ。紹介します。この人、いや魔神が朧さんです」
ナナが皆に魔神を紹介した。
「皆様、お初にお目にかかります。私、魔神将チエ様の配下にして姫様達の警護担当の朧と申します。今まで姫様達を警護頂き、ありがとうございます」
一見優男のヒトに見えるが、僕ですら分かるくらいの圧倒的な魔力量。
その外見も本来のものではないだろう。
「其方が魔神殿か。此方は魔族種、リーリヤ・ザハーロヴナ・ペトロフスカヤと申すのじゃ。此方らの先祖が其方の御先祖にお世話になったのじゃ!」
リーヤは口調はいつも通りだが、気品ある礼を朧にした。
「これはこれは。丁寧なご挨拶ありがとうございます。私、詳細はチエ様からは聞いておりませんが、ご縁があるのは嬉しい事でございます。また、そのお姿やお話の仕方、チエ様を連想させますです。今後とも宜しくお願い致しますね」
朧も華麗に返礼をした。
……魔神族ってちゃんと話が出来る存在なのね。魔といっても神様だからかな?
「そうだ、朧さん。今回用があって呼んだの。この悪党さん達を回廊内で隔離してくれない?」
「ナナ様、私は四次元ポケットではございませんよ。まあ、貴方様やリタ様の御願いであるのなら聞きますが……」
苦笑しながらナナからの頼みを聞いている朧。
話し方からして長い付き合いの関係が見受けられる。
「ありがとー。ボクうれしー」
「朧さん! わたしからも、ありがとー」
姉妹は朧に抱きついた。
「ちょ! お2人とも、はしたないでございます。特にナナ様は人妻、コウタ様以外の男性に抱きつくのは、おやめ下さいませ」
「えー、だって朧さんも大好きなんだもの、ボク。ね、リタちゃん」
「ね、そーだよね。わたしにも朧さんみたいな完璧な彼氏居ないかなぁ」
美人姉妹に抱きつかれて困惑する魔神を見て、困惑してしまう僕達であった。




