第18話 事件解決、ドワーフ娘は、感謝する。
「かんぱーい!」
僕達は、ポータムで祝杯をあけていた。
「タケっち、今回はほんとうにありがとー。おかげで村の皆が助かったし、お父ちゃんやお母ちゃんも元気になって……ぐすん」
「あー、ギーゼラさん。今日は湿っぽい話はナシですよ。事件解決したのですから、明るく行きましょうね」
僕は、うれし泣きしそうなギーゼラを慰めた。
「まだ、地域の浄化には随分と時間が掛かりますし、病気だってすぐには治りません。もう暫くは様子見が必要ですが、地球から医師と技術者が派遣されていますので、御安心下さいね」
事件発覚後、トカゲの尻尾切りをしてある意味逃げたRHPグループ。
しかし、ザハールらの動きや地球マスコミの報道で逃げ道を封じられ、医師や鉱山技術者を派遣してきた。
「アタクシも確認していますが、一応は大丈夫みたいですわ。ドワーフ族のメディカルデータを研究目的で持ち帰っている様ですけどね」
キャロリンは、ビールジョッキ片手に僕が作った料理を堪能中。
今回は、贅沢なクラフトビールを呑んで貰っている。
しかし、企業たるもの、儲けのネタは掴んで離さない。
RHPグループ、今回は損して得取れという方針であろう。
「お父様にもコンタクトがあったのじゃ。アレ、いつかウチの領地にもやってくるのじゃ!」
まさしく抜け目が無い、流石は金属メジャーだ。
リーヤの言う通り、今後は何処にでも脚を伸ばす事だろう。
「しかし、沖合いの島は酷いものじゃったな。草木の一本も無く、従業員も真っ青な顔じゃった」
あの後、僕達は沖合いにある精錬所にも行った。
そこではヒト族、ドワーフ族など近隣の若者が狭いタコ部屋に押し詰められていて、酷使されていた。
「精錬時には亜硫酸ガスが出ますし、石炭からは一酸化炭素も出ます。亜硫酸で周辺の草木は枯れますし、一酸化炭素は怖いです。たぶん、今までも死人が出ていたはずですよ」
実にブラック度がとんでもない精錬所であった。
現地法人社長解任後、僕達が島へ査察に入る際にもひと悶着はあったが、本社からの通達で銃撃戦には幸いならなかった。
「あそこの工場は廃止じゃな。もっとマシな工場に作り直しで貰わねば困るのじゃ!」
「ええ、せめて日本の平成初期くらいの工場並にはして欲しいものです。いくらお金儲けても公害病しちゃうのは悲しいですもの」
昭和の時代、日本では数々の公害病が発生した。
その轍は異世界で起こってほしくないと僕は思う。
「タケの言っている『へいせい』とやらがナニか分からぬが、綺麗にしてほしいのは確かじゃ。青い空と青い海、せせらぐ小川、どれも大事なのじゃ!」
僕達は、リーヤの発言にニコリと笑った。
因みに捕まえた方々は全員地球送り、向こうで裁判に掛けられている。
僕が地球人を射殺した事に関しては職務上やむを得ないという事で、地球へ詳細な説明書類提出と、僕が定期的なカウンセリングを受講するという形で解決した。
「あれ、ギーゼラさん? 今日は無礼講で、仕事は終わっていますのに、どうしてお酒を呑まれていないのですか?」
ギーゼラの前のコップは、さっきからお茶しか入っていない。
因みに今日のお品書きは、鶏肉の竜田揚げ。
この間から大活躍の小豆島産醤油に瀬戸内の味醂、そこに料理酒、砂糖、摩り下ろしたニンニク、生姜等で下味をつけた鶏肉に片栗粉をつけて、180℃の油でカラリと揚げた一品。
さっきから皆の箸が止まらない様だ。
……ヨシ! これで揚げ物も制覇。……あれ? 僕の本職は化学捜査員だよね。間違ってもスナイパーでも料理人でも保安官でもないよね。(笑)
「……あ、うん。この鶏肉美味しいよね。アタイは、ご飯がもっと欲しいや」
……あれ、誤魔化した? そういえば、この事件が発覚する前、マムが何か言っていた覚えが?
「どうしたのじゃ、ギーゼラ? 此方に気を使う必要なぞ無いのじゃ。無礼講なのじゃから、気にせず呑むのじゃ! そこのワンコはさっそく出来上がっておるのじゃから」
リーヤの指摘通り、ヴェイッコは完全に酔っ払いモード。
ご依頼のあった熱燗向きの大吟醸をご馳走したら、もうヘベレケだ。
「うまーい。こんな酒、拙者はじめてでござるぅぅぅ。タケ殿にかんしゃぁぁぁ」
「確かにおいしいわね。お米のお酒なのに香りもフルーティなの」
マムは上品に呑まれているけど、耳が真っ赤で色っぽい。
「いいなぁ、大人の人は。このジュースも美味しいけど、わたしももう少ししたらお酒呑みたいよぉ。」
「まあ、お子様組はコレで我慢じゃ! でも、これはこれで美味しいのじゃ。ミカンジュース侮れないのじゃ!」
リーヤとフォルのお子様組は、四国は愛媛のまじめなジュースをご賞味頂いている。
ミカン以外にも様々な柑橘系でジュースを造っている会社、これも絶品だ。
「じ、実はアタイ……。ドワーフなのにお酒呑めないんだ!」
しばらく言い淀んでいたギーゼラは、突如衝撃的な発言をした。
その内容に捜査室の一同、驚く。
「アタイ、精霊術なんて使うからドワーフ仲間から浮いていたんだけど、他にも理由があって、種族の仕事に就けずに困っていたんだ。それがお酒が呑めない事」
ギーゼラは、ぽつぽつと話し出す。
「ドワーフ族って無限にお酒が呑める酒樽ってイメージだよね。実際その通りで必ずお酒の話があるんだ。でもアタイは呑めないんだ。少しでもお酒に触れると肌が真っ赤になるし、呑んだら倒れちゃうの」
話からすれば、ギーゼラはアルコールアレルギーがあるらしい。
「そんなんだから仲間になかなか入れてもらえずに、仕事も無くて困っていた時に同じ精霊術師のエルフの友達からマムを紹介してもらったんだ」
マムがギーゼラの事情に詳しかったのは、理由があった訳だ。
「お父ちゃんも、あまり呑める方じゃないから、そういう席ではお母ちゃんが呑んでいたの。アタイはもっとダメなんだけど」
ギーゼラは、目じりに涙を浮かべた。
僕がギーゼラを何か慰めようと思ったとき、
「別にいーじゃねーか、ギーちゃん。拙者も銀や魔法は、からっきしダメでござるよ。でもな、ここの皆はそんなのかまわねーって言ってくれる。それどころか、苦手なものに頼らなくても良い方法を教えてくれるんでござるよ。だから、そんなのきにしなくていーんだよぉ!」
ヴェイッコはギーゼラの背中をバンバン叩きながら慰めた。
「こまけーことはどーだっていいのでござるぅ。拙者は拙者。ぎーちゃんはぎーちゃん。他の皆だってそーでござるよ。ここにいるのは、はみ出し者だけれども優しくて強いんでござる。だからいままでどーり、元気娘でいろって!」
ギーゼラは、俯いてぷるぷる震える。
「ギーゼラさん。誰にでも弱点はあります。僕も今回の事件でイヤになるほど自分の甘さに困りました。でも、皆さんの励ましで克服できそうです。だから、お酒が呑めないくらい問題ないです。僕、今度はお酒が呑めなくても美味しいご飯作りますから」
「そうじゃ、何もかも今更じゃ。さあ、此方とジュースで乾杯じゃ!」
「ええ、アルコールを無理やり押し付けるアルハラは時代遅れ。健康が一番だとワタクシも思いますの」
「ギーゼラお姉さん、大丈夫だよぉ。皆優しいもん」
「ギーゼラ、だから言ったでしょ。ここの皆なら大丈夫ですって。だからお母さんに全部任せたらいいの!」
皆口々にギーゼラを励まし、マムは酔っ払っているのか、ギーゼラを乱暴気味にハグした。
「みんな、みんな……、ありがとー!」
そう言って、ギーゼラは涙塗れの笑顔で目の前にあったグラスを掴み、一気に呑み乾した。
……あ、あれ? お猪口じゃ足りないって用意していたヴェイッコさんのグラスだぞ!!
その後、僕達はギーゼラが呑めないって言った本当の理由を、身を持って知った。
◆ ◇ ◆ ◇
翌朝、
「あ、あたまいてー。皆おはよう。あれ、何かアタイの顔に付いてる?」
頭を抱えながら捜査室に出勤してきたギーゼラ、
「い、いえ何も無かったですよ。ね、タケ」
「は、はい、マム。そうですよね、リーヤさん」
「そ、そうなのじゃ! の、ヴェイッコや?」
「せ、拙者も問題ないと思うでござる。ですよね、キャロ殿」
「け、健康一番ですわ、アタクシそう思いますです。そうよね、フォルちゃん」
「は、はいですぅ。お、お姉さん、お水どうぞですぅ」
フォルから貰った水を飲むギーゼラ。
「夕べ、何かあったのかい? アタイ、途中から全然覚えていないんだけど?」
「な、何も無かったわよね。ね、皆さん」
「あい、マムゥ!」
ギーゼラが呑めない理由、いや呑んではならない理由。
それは絡み酒&暴れ酒&泣き上戸、その上記憶を飛ばす。
捜査室の一同、もうギーゼラには酒を絶対勧めないと心に誓ったのであった、どっとはらい。
(第4章 完結)
これにて第4章完結です。
元気っこギーゼラちゃんにも弱点(?)はあった訳です。
さて、次は閑話として、にゃんこ娘のフォルちゃんの話を。
また、続いて第5章となります。
では、お楽しみに。




