第15話 新米保安官は、望んで人を殺す!
「タケや、苦しくないのかや?」
「ぜんぜん、逆に申し訳ないですよ。リーヤさんの胸に抱かれて運ばれていくなんて」
僕は、高速で飛翔するリーヤの胸に抱かれている。
いつもと同じ甘い匂いと、いつもより柔らかく暖かい肌。
任務でなかったら、こんな事は恥ずかしくて出来ないと思う。
「それなら良いのじゃ。何故タケは此方を怖く無いのかや? この姿は古来より伝わる異形異界の悪魔、魔神の似姿じゃ。此方人等の先祖は、力を得る為に魔神と契約し魔神の血を身に取り入れた。そして強大な魔力、寿命、そしてこの姿を得たのじゃ。じゃが、この似姿は呪いにも近いのじゃ。この姿を長時間使えば寿命は減り、最悪元に戻れぬまま死ぬのじゃ」
リーヤは、僕に魔神フォームの説明をしてくれる。
「ふーん、そうなんですか。僕にとってリーヤさんを好きなのは外見だけじゃないですし、美人に成長するのなら大歓迎。もちろんリーヤさんの寿命が減るのはイヤですから、とっとと終わらせましょうよ」
僕は、気楽にリーヤに答えた。
……リーヤさんが悩む姿は見たく無いから、簡単に流さなきゃ。それに正直この姿美人すぎて僕としては長時間見ていたら危ないよ。
僕は、必死に理性を総動員する。
今、僕の背中に触れている大きく柔らかい双球、こんなのを長時間押し付けられていたら、マジで溜まりません。
「アリガトウなのじゃ! さあ、もうすぐじゃ!」
進行方向に風除けの魔力シールドを貼っているのか、何事も無く音速近いスピードで飛翔するリーヤ、僕にも微弱な加速G以外なにも影響が無い。
あっという間に、村の上空に到着、問題のズリ山が見えてきた。
「見えたのじゃ! どうするのじゃ? 近付いて戦闘も良いが、自爆されてはそれまでじゃ」
「うーん、ある程度の距離から狙撃して起爆装置とコントローラを片付けますか? 電子雷管ですから、起爆装置無しでは絶対爆発しないですし」
◆ ◇ ◆ ◇
「オイ、てめえら急げ。さっきから本部との通信が途絶えた。こちらに気が付くまでに爆弾仕掛けてとんずらするぞ!」
「へい。先程、所定の場所に爆弾は設置完了。今はコードを伸ばしていまっさ。後は時限起爆装置に繋げばOKです」
「分かった。しかし、パワードスーツやハンフリーでも時間稼ぎできないなんてどういう奴らだ。俺達は戦争の犬、プロだぞ。なんで異世界田舎の警察もどきがそんなに強いんだ!」
PMSCの代表、ロイドはぼやく。
今までの自分達に出来ない作戦は無かったし、いつも圧倒的に勝っていた。
なのに、今回に限って全く思うようにいかない。
アフガンでもイラクでも、南アフリカ、そして東南アジアでも自分達は無敵だった。
米軍特殊部隊とも遜色なく戦えるつもりだった。
「はい、コード準備できやした。今から時限装置に繋ぎやす」
「ああ。頼む」
「へ……」
次の瞬間、ロイドの目前で作業をしていた男の頭がスイカの様に破裂した。
「な?」
そしてロイドの目に光が届く。
その後、ロイドが発射音を聞き、光った方向、空中を見た瞬間、ロイドの意識は消し飛んだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「ファーストキル、OK! セカンドキル、OK!」
僕は冷徹に銃弾をターゲットの中に写る男達の頭に叩き込んだ。
初弾を起爆装置へコードを繋ぐ男に、次弾をその横に居た指揮官らしき男へ。
どちらの頭蓋もライフル弾を喰らい破裂する。
そしてダメ押しに起爆装置へもダブルタップで銃弾を打ち込み、破壊した。
◆ ◇ ◆ ◇
「う、うわー! 狙撃だ。逃げろー。こんな仕事やってられねー!」
指揮官を失った男達は逃げ惑う。
しかし、彼らも逃げる事は適わない。
全員下肢、膝下を撃ち抜かれ、その場に転がった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅぅ。状況終了。全員の無力化を確認」
僕は、空中で大きく息を付いた。
僕は、リーヤさんに身体を空中で支持してもらいながら狙撃を行ったのだ。
「タケ、お疲れ様じゃ。すまぬ、今日は沢山其方の手を血で汚させたのじゃ。此方がもっとしっかりしておれば、其方に嫌な思いをさせなかったのじゃ!」
リーヤは、僕にすまなそうに謝った。
「大丈夫、僕はリーヤさんと皆を守る為に手を血で汚す事に後悔は無いですよ。そりゃ出来れば殺したくは無い。でも、そうしないと守れないのなら、僕は躊躇無く銃を手にとって皆を守ります」
僕は、何事もなかった様にリーヤに話す。
「大丈夫なら、タケや。今、其方が泣いて居るのは、どうしてなのじゃ? タケは、此方にいつも泣いて良いと言っておるのじゃ。せっかく今は此方がタケにつりあう姿になっておるのじゃ。今くらい此方に甘えるのじゃ」
僕を背中越しに抱いているリーヤは、空中で僕を優しく抱擁する。
……リーヤさん、背中越しなのに、どうして僕が泣いているを気が付いたんだ?
「う、ごめん。今だけ泣かせて。僕、本当は人殺しなんてしたくないんだ。実は夜寝ていたらユーリが夢に出てくることがあるんだよ。今も今日殺した焼け焦げて吹き飛んだ人や頭を吹き飛ばした人が頭の中いっぱいで……」
僕の頭の中で、僕が殺した人々の無残な姿が踊る。
「そうかそうか。大丈夫、此方はずっとタケと一緒に居るのじゃ。タケの怖いもの、嫌なものは此方が一緒になって立ち向かうのじゃ。タケが此方を一生守るのなら此方もタケを一生守るのじゃ。じゃから安心するのじゃ」
リーヤは僕の抱いている向きを変え、綺麗な顔を僕の顔に向けた。
そして僕の頭を、いつもの逆で優しく撫でる。
「タケの心の中に此方はずっと一緒におるのじゃ! じゃから此方は何者からもタケを守るのじゃ!」
そう言ってリーヤは僕の唇に自分の唇を付けた。
リーヤの唇から僕の中に暖かいものが広がる。
僕が驚いて離れようとしたが、リーヤは僕をより強く抱き、舌をちょっとだけ僕の口の中に入れた。
……ん――!
「さ、おまじないはこれでお終いじゃ。元気が出たかや?」
何事も無かった様に、僕の唇を解放したリーヤ。
「ちょ、ちょっと――! リーヤさん、なにするんですか――!」
「お、元気になったのじゃ。効果抜群じゃな! こりゃ、あんまり暴れると落ちるのじゃ」
リーヤは、その綺麗な顔に満面な笑みを湛えた。
予想外の出来事で、僕の脳内から殺人の感覚が吹き飛んだ。
そして暖かいもの、リーヤさんの笑みが心に宿る。
「あ、うん……」
「もう落ち着いたかや。キスは皆にも内緒じゃぞ。お父様にバレたらタケが殺されるのじゃ!」
リーヤは、小悪魔的な表情をして僕をからかう。
「もう、リーヤさんたらぁ。でも、ありがとうね。お陰で僕立ち直れそうです」
「なら良かったのじゃ!」
その時、イルミネーターから皆の声が聞こえた。
「もうリーヤにタケ、そういうラブシーンする時は通信回線を切っておくものよ。しょうがないからザハール様には内緒にしておくわね」
「リーヤ姉さん、タケ殿、お疲れ様でござる。また、おめでとうでござる!」
「リーヤん、タケっち、村を救ってくれてありがとー。あと、おめでとー!」
「お姉さん、お兄さん、おめでとうございますぅ」
「タケくん、一つ貸しにしてあげるから、ワタクシにレシピと新作アニメちょうだいね」
……あ、僕死んだかも。はずかしーよぉ!
「皆にバレたのならしょうがないのじゃ。タケや、口封じに美味しいご飯作るのじゃ!」
犯人殺害によるPTSDに陥る寸前の僕の心は、リーヤによって別の意味で砕かれたのだった。
タケくんはリーヤちゃんの身体を救い、リーヤちゃんもタケくんの心を救いました。
この2人、お互いを思いあっているんですね。
作者、2人がとっても愛おしくなりました。




