第8話 幼女は、見えぬ敵と戦う!
「つまり、騎士団の騎士は此方達の尋問で犯人が高位術者だと思ったという事なのじゃな?」
「はい、どう考えても普通の野良術者では無いと判断しました。それにウチには高位術者も多いですし」
わたくしは、ごつい感じのヒト族男性騎士団員から事情聴取をしている。
「で、術者連はどうして暴れたのじゃ? 本当に犯人が其方らの中におるのかや?」
「いえ、滅相もありません。わたし共にはそんな悪の魔術師などおるはず無いです。それに聴取内容からして犯人は凍結系の術者。実は当方には火炎系は多く居るものの、凍結系を得意とする者は居ないのです」
耳の尖り方からハーフエルフだと思われる女性の術者は、わたくしに少し怯えながら話す。
確かに団長から貰っている団員名簿の記載されている術者情報によると凍結系の術の使い手は誰も居ない。
実は高熱系と凍結系は表裏一体。
地球科学でいうところの「えんとろぴー」とか言うものを逆転したにすぎない。
モノを急いで動かすと熱くなり、動きを止めると冷たくなる。
わたくしは、以前帝都の魔術学校教授に教えを請うた時の学習内容を思い出した。
……其方ら、固定概念で固まっておるのじゃ。おそらく知らぬのであろうよ、火炎系と氷結系が実は同じなのを。
「ならば慌てずに凍結系の術者がおらぬ事を説明したら良かったのじゃ。どうしてそうせなんだのじゃ?」
「わたしもそう思ったのですが、仲間達の中からそんな事では頭の固い騎士は信じない。元々術者をないがしろにしがちなのだから、ここで力を見せればいいと言う意見が出まして、そのまま……」
「ほう、ではその意見を言ったのは一体誰じゃ?」
「あれ、そういえば誰だったのでしょうか?」
何かおかしい。
「騎士の方も、もしかすると誰かが内部の術者が怪しいとか言ったのでは無いかや?」
「はい、そういえばそうです。誰だったのか?」
……これは扇動者がおるのじゃ!
「うぐぅ!」
そんな時、急に騎士団長が喉を抑え苦しみだした。
「なんじゃ!」
団長の苦しむ様子は、わたくしの脳裏にお父様を襲った毒気を思い出させた。
「『風よ!』 皆の衆、敵襲じゃ! どこかに犯人がおるのじゃ。騎士団は術者と一緒になるのじゃ。術者は騎士団ごと風の結界を張るのじゃ!!」
わたくしは、団長の顔の周囲に風を吹かせた。
……これで毒気が飛べば良いのじゃ。もしかすると、これがタケの話しておった二酸化炭素攻撃かや? なら次はドライアイス攻撃かもなのじゃ!
「マム。此方から離れてはならぬのじゃ! 今から毒気や氷攻撃から全員を守る為に周囲に暴風の壁を作るのじゃ。此方の援護を頼むのじゃ!」
「ええ、まかせて!」
「うなれ疾風、吹き荒れよ風の竜、『暴風!』
しかし、騎士団全員を覆う暴風の壁が形成される前に、わたくし目掛けて氷の砲弾が飛んできた。
「危ない、リーヤ!」
急に目の前の風景がスローモーションになる。
マムがわたくしの前に立ちはだかる。
しかし砲弾はとても大きく、マムが全身を盾にしてもわたくし毎餌食になるだろう。
……このままではマム諸共串刺しになるのじゃ! 怖いのじゃ!
わたくしは恐怖に塞ぎそうになる眼を見張り、自分達にせまりくる砲弾を凝視した。
そして平凡で、どこにでもいそうでいない平和で無害な顔を脳裏に浮かべた。
……タケェ! 助けて、タケぇ!!
パキン!
次の瞬間、わたくし達を狙った砲弾は砕け散った。
「毎度遅くなってごめんね、リーヤさん!」
絶妙のタイミングで、わたくし達を助けに来てくれたのは、タケ。
その姿は、地球の童話に出てくる白馬の王子様をわたくしに連想させた。
「毎度、美味しいタイミングでの登場じゃ! タケ!!」
◆ ◇ ◆ ◇
「つまり騎士団が内輪もめ状態でござるか」
「ばっからしい。こりゃホシに踊らされているんじゃねーの?」
ヴェイッコとギーゼラは、イルミネーターからフォルが送る情報を得て愚痴る。
「ええ、僕もおそらくそうだと思います。なので、今回犯人が攻撃してくる可能性が高いでしょう。犯人は少なくとも騎士に恨みがある人物、騎士を一同に集めて暴動をコントロールし、そこを襲って一網打尽を考えているかもしれません」
僕は、悪路に揺れる車内で一生懸命に車を走らせる。
もし僕の予想通りならリーヤが危ない。
「お2人とも呼吸器装備を忘れなく。それとおそらく遠距離勝負になるので、ヴェイッコさんはグレネードの追加装備を、ギーゼラさんはPDWをメイン火器で御願いします」
「了解でござる」
「おーよ、タケ!」
そして詰め所に乱暴に車を止めた僕達は装備を手に暴動が起こっている中庭を目指した。
「あ、もう戦闘状態だ! 2人とも気をつけて!」
中庭中央に騎士団長らしき人が倒れている。
その横にマムとリーヤ。
そして周囲に2つに分かれて騎士とローブ姿のおそらく術者達がいた。
呼吸器とイルミネーターを装備した僕は、庭石を壁に2脚を展開、マークスマンライフルを射撃体勢にした。
同じ装備で窒息攻撃から身を守るヴェイッコも、横にある庭石にバイポットグリップを設置して軽機関銃を準備する。
PDWを抱えたギーゼラも僕達のフォローに入る。
……どこに敵は居る? 術者の中にいるのか?
僕は意識を後頭部に集中して戦場を俯瞰的に見た。
とある武術の極意に、後頭部に「みかん」が浮遊しているのをイメージする方法がある。
そうすることで意図的に意識を分散させて「観の眼」を使いやすくするのだとか。
ピカリ。
中庭から約300mほど離れた高台にある小屋の方で光を感じる僕。
急いで8倍スコープで光の方向を見た。
「あ、狙撃!」
その光は、氷の砲弾。
そしてその向かう先にはリーヤとマムが居る。
「南無三!!」
僕は砲弾の軌道を瞬間的に脳内にイメージし、その向かう先に銃口を向けた。
そしてイメージと砲弾が重なる点目掛けてライフルを連射した。
ぱんぱん!
パキン!
僕の撃った弾は狙い通り氷の砲弾に突き刺さり、リーヤの目前10mくらいで砕け散った。
そして僕は叫んだ。
「毎度遅くなってごめんね、リーヤさん!」
「毎度、美味しいタイミングでの登場じゃ! タケ!!」
リーヤは涙を隠す事無く、僕に毒付いた。




