第14話 幼女は、油断から誘拐される!
「うー! もー我慢の限界なのじゃ。お父様が危ないのじゃ。あのような問答なぞ悠長に聞いてはおられぬのじゃ!」
そう叫ぶとリーヤは、イルミネーターを被って機動要塞指揮車の後部ドアから飛び出した。
「ちょ、ちょっと待ってよー! マム、ヴェイッコさん、ギーゼラさん! 緊急事態発生! リーヤさん御乱心!! 御乱心して、ザハール様の部屋へ突撃しに行きましたぁ! 僕はリーヤさんを追いかけます。ギーゼラさんは車の方へ戻って護衛、ヴェイッコさんは、マムの応援へよろしく! キャロリンさんは、お留守番お願い!」
僕は皆の返事を聞くまでもなく、リーヤを追って走った。
「タケ様、娘をよろしくお願い致します!」
走る僕の後ろから、娘を心配するお母様の声が聞こえた。
◆ ◇ ◆ ◇
「病み上がりのお父様にナニをしてくれるのじゃぁ!!」
僕がリーヤに追いついたのは、彼女が賊に球電を叩きつけた直後だった。
「何ぃ!」
ユーリが振り向いて、リーヤを睨む。
「このバカたれがぁ。お前のような側仕えがおるから、イワンはバカになってしもうたのじゃ。大人しゅう縛に付くのじゃ!」
お得意のドヤ顔で叫ぶリーヤ。
「これはこれはリリーヤお嬢様。良くぞ我がイワン様の元へお越しなさる気になって頂きました。では、ご足労願えますか!」
ニヤリと気味の悪い声で話すユーリ、そして彼の口から呪が放たれる。
『昏睡雲』!
……しまった! これは眠りの魔法だ!
皆の周りに怪しげな煙が発生した。
僕は、ガスと判断し息を止めたのだが、それでも強烈な眠気に襲われた。
それは、魔法耐性が強いはずのリーヤやザハール、マムすらも眠りにさそう呪術。
「眠りの雲」の上位魔法。
……くそぉ!
僕は手からPDWが零れ落ちるのを感じた。
そしてユーリ以外の全員が倒れるのが見えた。
僕も意識が遠くなり立っていられなくなる。
……このままではリーヤさんが危ない! あんなヒキガエルにリーヤさんが汚されても良いのか!!
その時、ふとリーヤにキスをされた頬に熱を感じた。
その熱に押されて、僕は消えそうな意識を保つためにある事に挑戦した。
◆ ◇ ◆ ◇
ぱん!
軽い破裂音がしたが、それはユーリには向かってこなかった。
昏睡に陥る前の、ただの悪あがきか?
そう、ユーリは思った。
領主、エルフ、ヒト、そして姫が床に倒れ伏す。
「そうだ。そうして頂ければ、イワン様は喜ぶのだ! イワン様の喜びは私の喜び! 皆、イワン様にひれ伏すのだ。イワン様こそ、いずれは帝国皇帝になられる御方なのだぁ!」
ユーリは狂気に満ちた笑いを、その顔に浮かべる。
「さあ、姫を回収するか。うん? なんだ、このヒトは」
ユーリの眼に姫のスカートを握りしめたヒトが写る。
「そうか、コイツが地球から来たとか言うガキか。イワン様のプロポーズを邪魔したのも、ザハールを殺せなかったのも、襲撃を台無しにしたのも全部オマエのせいだ。せっかく揃えた手下が全滅ではないか!」
ユーリは、自分が連れてきた手下達を一瞥する。
ソレらは雷撃を受けて真っ黒に焦げ、一目で息をしていないのが分かった。
「他の部屋を襲撃したものも生きてはおるまい。それもこれもオマエが来たせいだ。死んでイワン様に詫びろ!」
ユーリはヒトを蹴り転がした。
ぱん!
再び軽い破裂音がする。
そして、灼熱がユーリの腹部を襲った。
◆ ◇ ◆ ◇
僕は、「昏睡雲」により消え去りそうな意識を繋ぐためにバクチに打って出た。
右腰横に差していた拳銃を右手で握り、セーフティを解除してホルダーに差したまま引き金を引いた。
ぱん!
拳銃から放たれた9mm弾が、僕の身体の側面を削る。
……う!!
抉れた傷が灼熱、そして激しい痛みを僕に与える。
しかし、その痛みが僕を昏睡から守った。
倒れる前に、僕はリーヤのスカートを左手でしっかりと握った。
そして背を上に向けて床に倒れる。
……この手を簡単には離すもんか!
今度は痛みで消えそうな意識を根性で耐え、ユーリの動きを横目で観察する。
「イワン様こそ、いずれは帝国皇帝になられる御方なのだぁ!」
ユーリの発言は狂気じみている。
そこまで、あのバカを崇拝出来ることが僕には理解できない。
……リーヤさんになら、僕も理解できなくもないけどね。
「それもこれもオマエが来たせいだ。死んでイワン様に詫びろ!」
そして僕はユーリに蹴り転がされる。
……ここだ!
僕はリーヤのスカートから手を放し、ころんと転がった。
そして右手に握った拳銃を両手で握りしめ、トリガーを絞った!
ぱん!
拳銃弾が、ユーリの腹部に血の花を咲かす。
「なにぃ?」
自分が撃たれた事に気が付かないユーリ。
僕は、そのまま続けて2回トリガーを引いた。
ぱん、ぱん!
更にユーリの胴体に2つの血の色の花が咲く。
「お、おまえぇぇぇ」
よろよろと後ずさりながら、呪詛をかけるような声で僕に問うユーリ。
……トドメを刺さなきゃ!
僕は、身体を起こして追撃をしようとした。
「イワン様ぁぁ! お届け物ですぞぉ!」
しかし、銃撃を受けた老人とも思えぬスピードでユーリは走る。
「ま、待てぇ!」
僕は拳銃をユーリに向けた。
「あ、しまったぁ!」
ユーリは、昏睡したままのリーヤを軽々と担ぎ上げ、とても半死人とは思えぬスピードで寝室から走り去った。
「リ、リーヤさぁぁん!」
僕は起きだしてユーリを追いかけようとした。
「う!」
しかし、銃創からくる痛みと「昏睡雲」の影響が僕の意識を蝕む。
……リーヤさん、僕のリーヤさんがぁぁぁ。
そして健闘むなしく、僕の意識は暗闇の中に落ちていった。
誘拐されてしまったリーヤちゃん。
タケ君はどうやってリーヤちゃんを救うのか、続きをお楽しみに。




