第29話 砂塵吹き荒れるエリア51!:その7 実を避けて虚を討つ
「ど、どうしてリーレンカがそんなところにいるんだ!? さっきまで私と一緒にデビット様の処にいたはずなのに?」
「それは影武者なのじゃ。随分と前から此方は入れ替わっておったのじゃ、レニューシカや」
悲しげな表情でレオニードを見るリーヤ。
「なんだって! じゃあ、私はずっと騙されていたのか! ソフィアは正々堂々って言ったのに」
「戦さとは、騙しあい。虚を討つのが定石なのじゃぞ、レニューシカや。チエ殿が言ったのは、暗殺なぞせぬというくらいの意味なのじゃ」
ようやく擱座した機体のコクピットから出てきたレオニードは、自分が騙されて居た事に驚き怒る。
……チエさんは正々堂々ってデビットに言ったらしいけど、戦うのに何も策を弄しない訳ないじゃん。こういう駆け引きも知らないとは、レオニードは戦いの素人だね。
「さて、レニューシカや。どうじゃ? タケに負けた感想は」
「そんなの、デビットが作ったおもちゃの性能が足りなかったからだ!」
僕に負けたことを認められないレオニード。
負惜しみに機体の性能差を言う。
……そりゃチエさんは、そっちの機体性能を全部知ってて、それを上回る様に設計したのだから当たり前だけどね。
「ふむ。此方も乗ったのじゃが、確かにデビット殿の機体よりはチエ殿の方が上じゃな。じゃが、タケはその強い兵器でレニューシカを殺す事も出来たのに殺さずに倒したのは、どう見るのじゃ?」
「それは……。わ、私が強かったからだ!」
「それは違うのじゃ。手加減をする余裕があったのじゃよ。手加減も出来ないほど敵が強いなら殺すしかないのじゃ。大体敵を殺さずに無力化なぞ、此方の知り合いのお人好し集団以外は普通せぬのじゃぞ」
「くっ……。あ、ああ。わ、私の負けだ。」
リーヤの説明で、やっと自分が負けた事を認めたレオニード。
悔しいのか、その頬に涙が流れる。
「タケとやら。嬉しいか? 私からリーレンカを奪えて!?」
レオニードは僕の顔を見て、卑屈な表情をする。
それを見て、僕は複雑な心境になった。
「うーん、嬉しいというより悲しいかな?」
「なんじゃ? タケは此方が欲しくないのかや!?」
レオニードに対しては、1年間僕からリーヤを奪った恨みはある。
けれども、そのおかげでレオニードが20年間もリーヤと離れていた寂しさを十分理解できたからだ。
「あ! リーヤさん。言い方が悪かったです。ごめんなさい。リーヤさんを取り返したのは嬉しいことです。でも、リーヤさんを愛する者同士が争うのは悲しいと思っちゃったんです」
「それはどういう意味なのじゃ?」
「確かにリーヤさんを奪い合って戦ったのは事実ですけど、そのくらい僕もレオニードさんもリーヤさんが好きだったって事でしょ? それにリーヤさんと離れていて寂しかったのは僕も同じです。ですよね、レオニードさん?」
リーヤの疑問に、僕はレオニードの顔を見ながら話す。
「ああ。20年間、ずっと寂しかったよ。そして、奪い取りたい。リーレンカを絶対自分のモノにしたいと何度も思ったよ」
「なら同じですね。ただ、レオニードさんの間違いは自分の心を押し付けるだけ、リーヤさんの気持ちを見なかった事です。愛は押し付けるものじゃなく、与えるもの。僕はそう皆に教えてもらいましたし、その通りだと思っています」
僕は銃を下ろし、静かにレオニードに語りかける。
戦場は既に静かとなっており、僕達の声だけが聞こえる。
〝今、こちらはデビットと対峙中なのじゃ。もう戦闘は起きないのじゃから、安心してレオニードを説得するのじゃ!〟
チエからの念話で、僕は安心する。
「私は、愛をリーレンカに押し付けていたと?」
「はい、レオニードさんはリーヤさんを大事に思ってはいましたが、リーヤさんがどう思うかまでは考えていませんでした。20年ぶりに会って舞い上がっていた事もあるでしょうし、過去のいきさつもある事でしょう。そこに僕という恋敵が出て焦ってしまったのでしょうね」
「ふむ。確かにレニューシカは慌て過ぎておったのじゃ。魔族種貴族らしく保守的な事を言いながらも、此方への事は急進的じゃったな。第一、帝国を裏切って此方を手に入れた後は、どうするつもりじゃったのかや?」
僕達は話し合う。
せっかく落ち着いて話せる機会を作れたのなら、真摯に話し合うに限る。
「そ、そんな事は……。確かに私は、リーレンカを手に入れる事だけを考えていて、そこから先を考えていなかったよ」
「あわてんぼうなのじゃ、レニューシカ。でも、昔から欲しいものは直ぐに手に入れたがっておったのじゃ。ふむ、全部変わった訳じゃないのじゃな、レニューシカ」
リーヤは、落ち込むレオニードが可笑しくて、彼に笑いかけた。
「あ、リーレンカ。久しぶりに私に笑ってくれたんだね」
「そうじゃな。状況が状況じゃて、すまなんだ。今まで笑えずに、ごめんなさいなのじゃ」
何処かすっきりした表情のレオニードに、微笑み謝るリーヤ。
「そうか。レオニードさんはリーヤさんが幼い頃を詳しく知っていらっしゃるんですね。それは羨ましいです。今でも美人で可愛いのに、幼い頃は更に可愛かったのでは無いですか?」
「ああ! 今もだが、リーレンカの魅惑の笑顔は昔も凄かった。私は、初対面時の笑顔にやられたんだよ」
「そうなんですか。実は僕もそうなんですよ。あれは致命的でした」
「やはりか。お互い、この魔女にしてやられた訳だ。ははは!」
「はい!」
僕がリーヤの幼少期の話を振ると、レオニードも食いついた。
彼も僕同様に、天真爛漫で魅惑的なリーヤの笑顔にドキュンと胸を貫かれた「犠牲者」らしい。
僕達は顔を見合わせて苦笑しあった。
「なんじゃ? さっきまで戦い殺し合っておった2人が此方を魔女扱いにして、ふざけあうとはどういう事なのかやぁ!」
そんな様子が可笑しくて、リーヤも笑いながら怒る。
「だって、可笑しいんですもの。やっぱりレオニードさんを御怪我させずに倒せて良かったです。万が一殺してしまったら、こんなバカ話も出来ませんし。それにリーヤさんもレオニードさんの事を心配していて、貴方が死ぬ事は望んでいませんでした。レオニードさん、同じ女性を愛した仲間として頼みがあります」
「リーレンカ、私を心配してくれていたんだ。さて、なんだい、タケ?」
僕は表情を真剣に戻して、レオニードに問う。
「僕は、この先100年は生きていないでしょう。僕が亡くなった後、もし何かあったらリーヤさんの事を御願いできますか?」
「タケ、お前は負けた男にオンナを頼むのか?」
「はい。貴方も命をかけてリーヤさんを愛していた事は間違いないですもの。僕も『前の貴方』には頼めませんでしたが、『今の貴方』になら頼めます」
僕に負ける前のレオニードは、何かに取り憑かれた様な狂気を感じたが、今はすっかり普通の青年に見える。
「全くオマエ、いやタケ殿はどこまで度量が広いのだ。普通、勝者は敗者を踏みにじって当たり前。殺すのが普通だぞ」
「僕はただ、甘いだけ。殺すのが怖くてイヤなだけの弱虫なだけですよ」
レオニードは、すっかり呆れ顔だ。
「うむ、タケは甘すぎなのじゃ。それに此方の意見を聞かずに勝手に此方の行く末を2人で決めるで無いのじゃ! それこそ、レニューシカと同じじゃぞ」
「あ、痛! ごめんなさい、リーヤさん。でも僕は地球人、どうやってもリーヤさんと同じ時の歩みは出来ませんから。僕が居なくなった後の事、やっぱり心配になりますもの」
リーヤは、僕の背中をパンと叩く。
確かに勝手に自分の動向を勝手に決められるのはイヤだろう。
「それは此方が決めるのじゃ! まあ、昔の此方が好きじゃった頃のレニューシカに戻れたのなら、考える事も無いのでは無いのじゃ。もちろん、今はタケからは離れないのじゃ! すべては未来の事、今決める事じゃないのじゃ!」
「そうだね、リーレンカ。今はタケ殿の元に居ると良いよ。僕のものにならないとしても、リーレンカが幸せなら僕も嬉しいからね」
僕達がふざけ合うのを見て少し寂しそうな、しかし笑顔でリーヤを見るレオニード。
「レオニードさん。後から奪う形になってすいません。僕は一生をかけてリーヤさんを愛し守ります。もし僕が不甲斐ない事をしてリーヤさんが僕から離れた時は、容赦なく僕からリーヤさんを奪ってください。あ、でも殺し合いはもう勘弁です」
僕はレオニードに謝った。
どうしようも無い事だとは言え、リーヤの人生100年は僕が貰ったのだから。
「ああ、そうさせてもらうよ。リーレンカ、幸せになるんだよ」
「まったく困った2人なのじゃ! 此方は、こうまで愛してもらえて幸せなのじゃ!」
僕達3人は顔を見合わせて笑いあった。
「まったく、最後はノロケ合いになるとは、ワシ想像もせなんだぞ?」
私もロボ同士での闘いまでは、すっきりとした終わり方には出来ない気がしていました。
しかし、レオニードも歪んだとはいえ、リーヤちゃんが好きなのは確か。
同じ女性を愛したタケ君とレオニード、歩み寄れるのでは無いかと思ったのです。
「確かに手加減されて、更に心配されて倒されるのなら、調子も狂うのじゃ。その上、リーヤ殿の可愛さ自慢し始めたら、争うのもバカに思うのじゃ」
愛で憎しみ合うのはイヤですもの。
さて、もう一方の愛憎劇はどうなるのか、明日の更新をお楽しみに。




