第5話 新米捜査官は、領主に謝られる。
「さて、コレどうしようかな」
僕は、泣き疲れて寝てしまったリーヤを見て困惑する。
リーヤの腕は僕の部屋着をしっかりと握り、その体重を全部僕に押し付けている。
その高い体温と、どこか甘い匂いは僕に気持ちよさを与えてくれる。
「このまま男の部屋で朝まで一緒という訳にはいかないよね。と、言って側仕えの方とか呼ぶにしても、僕が動けない以上どうしようもないし」
とりあえず、リーヤが寝冷えしないように毛布を二枚重ねてリーヤに被せる。
「さて、思案のしどころだぞ、タケ」
僕にとってリーヤは、大事な宝石みたいな子。
日頃の姉みたいな時、さっきみたいな妹の時もある。
そっと触れる事は出来るけど、汚すことなんて一切考えられない。
……どうやってリーヤさんを起こさず、かつ体面を傷つけずにリーヤさんの寝室まで運ぶか?
「深夜遅くにすまない。ウチのバカ娘がお邪魔しているのだが、大丈夫かな?」
僕が困り果てていた時、ノックと共に聞こえてきたのが、領主ザハールの声だった。
◆ ◇ ◆ ◇
「す、すいません。自分はリリーヤ様には指一本触れては、いや結構撫でちゃっていますし、今も膝枕状態ですが、一切やましい事は致しておりませんです!」
僕は部屋に1人で入ってきたザハールに、リーヤが起きない限界の声で混乱しつつも謝罪をした。
「大丈夫だよ。すまないが、さっきからキミ達の会話は聞かさせてもらっている。だから、事情は全て理解しているよ。まあ、日本語で話されていたから翻訳が大変だったけれどね」
苦笑いをしつつ、僕とはリーヤを挟んでベットに座るザハール。
その眼は娘を溺愛する父親のものに見えた。
「あ、あの、ザハール様。差し出がましいかと思いますが、リリーヤ様をお叱りにならないで下さいませ。確かに幼子の姿とはいえ、深夜に男の閨に忍び込み、泣き疲れて寝てしまうなんて事は本来あってはならない事。しかし、お母様に追い詰められて実家で孤独に感じてしまった結果、甘えられる自分へと逃げてしまっただけです。咎を受けるのであれば、それを許してしまった自分です」
僕は、リーヤを庇う言葉をザハールに言った。
「おいおい、そこまで私は度量が狭くは無いぞ。第一キミ達を咎めるつもりなら、1人でお忍びなぞして、この部屋までは来ないさ」
そう言って、リーヤに優しく触れるザハール。
「この子に重圧を掛けすぎていたのが分かっていた。だから、逃げる事も認めて逃げ先を与えたのだ。その先でキミのような甘えられる存在、それも異界地球人に出会うとは私も想定外だったがな」
僕の眼を見て微笑しながら話すザハール。
やはりこの人は、リーヤを大事に思ってくれているのだ。
「しかし、地球人と縁が出来るとはな。もちろんキミが思っている通り、リーヤとキミでは文字通り世界が違う。しかし、リーヤを大事に思うなら、ずっと横に居てリーヤを見守っていて欲しい。立場がある私では、もう幼子としてリーヤを構う事は難しいのだ」
真摯に地球人の平民に語って娘を託すザハール。
僕は、その思いに答えなくてはならない。
「ザハール様。先程、リリーヤ様に直接お答えしましたが、自分は生涯をかけてリリーヤ様にお仕え致しますから、ご安心くださいませ。まあ、こんな若造で大した魔力も武勲も無い地球人ではありますが」
「何、こうやって娘が最大級警戒を解いて、寝姿まで見せる相手だ。キミ自身が思うよりも随分と『強い』と思うよ。だって、今もリーヤの心を守ってくれたじゃないか。タケ殿、今後とも娘を宜しく頼む」
「はい」
僕はザハールに娘を守る「盾」として見初められたのだ。
その期待には必ず答えないといけない。
「そうそう、リーヤはキミの事を随分と褒めていたぞ。ペット扱いっぽかったけれどね。なんでも美味しいご飯を作ってくれたとか、震える足で前に立ち塞がってくれたとか。ルーシエンからも色々と聞いているね。まさか、リーヤがあれだけ日本語が上手くなるとは思わなかったよ」
……僕、一体皆に何言われているんだろうか?
「でね、リーヤの事は、今まで通りリーヤって呼んであげて欲しい。その呼び方で娘を呼んでくれるのは、今や私とキミ達だけになってしまったんだ。昔、姉や兄からそう呼ばれて可愛がられていたし」
「あ、あのぉ。不敬では無いのですか? ファーストネームを愛称で呼ぶのは、貴族社会では余程親しい関係か家族だけのはずですが」
僕は、ちょっとおどおどしながらザハールに聞いた。
「大丈夫、キミ達は十分家族同然さ。従者以上、恋人未満を守ってくれて、友人としていてくれるなら私は一切関与しないよ」
ザハールの、いたずらっ子っぽい表情。
その裏には娘を泣かすような事をしたら、また手を出したら許さないぞってのが見えた気がした。
「は、はい。絶対リーヤさんを悲しみで泣かすような事は致しませんから」
「ぷ! じゃあ喜びの涙は今回みたいに、いっぱい泣かせてあげてくださいね」
僕の慌てた感じが可笑しかったのか、笑ってしまうザハール。
「これ以上私やリーヤがお邪魔したらキミが寝られなくなるよね。じゃあ、私がリーヤを寝室に連れて行くね」
そうザハールが言うと、テレキネシスでふわっとリーヤが空に浮かんだ。
「では、若きナイト君。おやすみ。良い夜を」
そう言ってザハールはリーヤを連れて僕の部屋から去った。
「ふ、ふぅぅぅぅ!」
僕は最大級のため息をついた。
「もう、僕はリーヤさんとは離れられないのね」
でもその束縛は甘くて優しいもの。
こんな束縛なら、ずっとでも構わない。
そんな思いと、ほのかなリーヤの甘い匂いに包まれて、僕は眠りについた。




