第66話 「海ほたる」での戦闘:その7「美幼女は、舞い降りる!」
「ままぁ、ぱぱぁ」
胸に抱いた息子の温かさを感じる千歳。
「まーくん、大丈夫だからね。パパとママが一緒に居ますから」
「そうだよ、まーくん。もうちょっとの辛抱。絶対正義の味方が助けに来てくれるよ」
金森 千歳は、親子連れで「海ほたる」に観光に来ていた。
そこで、テロ事件に巻き込まれて、今は人質として銃口を向けられている。
「ほんとーにきてくれる? かめんらーださんとか、れんざーさん?」
「うん、絶対ね。ママはまーくんに嘘言った事無いよね。だから、心配ないわ」
そう言うチトセも、恐怖に震えている。
「ママ、もしもの時は僕が盾になるから、キミはまーくん連れて逃げるんだ」
チトセの夫は、チトセの肩を抱き、耳元で囁く。
「パパぁ」
涙目のチトセ。
しかし、無力な自分では息子も夫も救うことが出来ない事を悔やむ。
……こんな時、あの子達が来てくれたら良いのに。
チトセの脳裏に、海水浴で仲良くなった異世界の女の子の顔が浮んだ。
そんな時、人質に銃口を向けていた男達の動きが慌しくなり、落ち着きが無くなった。
Shit! とか、What! 等、明らかに異常が発生している事が、それほど英語が堪能では無いチトセにも分かった。
「ママ、どうも何かアイツらに何かあったらしいよ。直ぐに動ける用意をして。まーくんは、僕が抱くよ。さあ、まーくん。パパが抱っこするよ」
チトセは頷き、チトセの夫は己の息子をチトセから受け取り抱いた。
「さあ、我らが『千年王国』よ!」
男がそう叫び、チトセに銃口を向けたまま、何かスイッチを押そうとした瞬間、2発の銃声と共に窓ガラスが割れた。
「そうは、させぬのじゃ!!」
そして、幼い女の子の声がフロアーに響いた。
それは、先ほどチトセの脳裏に浮んだ声。
チトセは、思わず叫んだ。
「リーヤちゃん!!」
「あら、チトセ殿かや? 待たせたのじゃぁ!」
大きな羽を生やした美幼女は、武装兵達を前に、チトセ達を背に仁王立ちをした。
◆ ◇ ◆ ◇
「タケシさん! アイツら、このまま追い詰めたら自爆しそう。爆弾は人質の中央にあるの。コイツがスイッチを持っているっぽい。どうにか出来そう?」
ルナからの映像付き情報がイルミネーター越しに送られてくる。
「そうですねぇ。では、ギーゼラさん達の戦闘が開始する前にこちらから仕掛けますか? ちょうどリーヤさんと攻める相談をしていたので」
僕は映像を見てCPに相談してみる。
「CP、これは普通のC4系でしょうか?」
C4、コンポジット4。
プラスチック爆薬の一種、粘土状の可塑剤の中にRDXを主成分として含む爆薬。
TNT爆薬の1.34倍の威力があり、仕掛けた場所次第では建物を崩壊させる事も可能。
ギーゼラの故郷で、ボタ山を崩そうとしたPMSCも使っていた。
「CPコトミです。ちょっとお待ちくださいな。こういうもの詳しいチエちゃんに繋ぎます」
「こちら、チエじゃ。ふむ、この映像なら破壊力を増す為にネジ釘を入れただけのC4じゃな。だとすれば、起爆信管の線を切るだけで、もう爆発はせぬのじゃ! 京都のデットマンスイッチと違うから、処置は簡単なのじゃ。タケ殿、仕掛けるのじゃな。ならば、こうするのじゃ!!」
CPのコトミは、軍事兵器に詳しいチエに繋いでくれた。
そしてチエは具体案を念話での映像込みで送ってくれた。
「リーヤさん、これで行けますか?」
「大丈夫なのじゃ。此方に任せるのじゃ! その代わり敵兵の無力化はタケに任せるのじゃ!」
リーヤは、僕の顔を見上げニッコリと笑ってくれる。
「はい、姫様の仰せのままに!」
……リーヤさんの笑顔と皆の平穏の為なら、僕はいくらでも強くなれるよ!
そして僕達は行動を開始した。
◆ ◇ ◆ ◇
「ナニぃ! これはもう追い詰められたのか!」
テログループ指揮官は狼狽する。
下層階から銃撃音が激しく聞こえてくる。
その音はどう聞いても自分達が使っているAK系では無く、そちらの銃声のほうが多く優勢に聞こえる。
時々聞こえる悲鳴も仲間達のものだ。
「どうする? このままではオレ達は全滅だ。アイツら異世界のバケモノにやられてしまう」
「人質を盾にすれば時間は稼げるぞ」
「くそぉ! 逃げ道も無い上に、作戦も失敗だ。時間を稼いでどうする?」
仲間達は、動揺して大声で言い争う。
「落ち着け! さっきも言っただろう。ここが死地なのだ。我らは死しても『千年王国』に導かれるのだ。バケモノ共を引きつけて、ここで自爆をしよう。そして細菌兵器もここで撒き散らせば、異教徒がはびこる日本へもダメージを与えられるのだ!」
指揮官は大声で叫ぶ。
「おう!」
仲間達は落ち着き、銃口の一部を下層へ続くエスカレーターへ向けた。
「C4の起爆装置は何処だ?」
「はい、これです。二回押せば爆発します」
C4の横に居た男から電線に繋がったスイッチを、指揮官は受け取る。
「さあ、我らが『千年王国』よ!」
指揮官はスイッチを持つ手に力を込め、異世界のバケモノが来るのを待ち受けた。
その時、2発の銃声と共に窓ガラスが割れた。
そして、銃弾は起爆装置のケーブルと指揮官のスイッチを握った左手を撃ち抜いた。
「うぁぁ!」
指揮官は右手に握っていたAKを取り落とし、打ち抜かれて掌が半分消し飛んだ左手を抱え込んだ。
そして破れた窓から飛び込んできた「塊」に吹き飛ばされ、テナントを区切る壁にぶつかり、意識を失った。
「そうは、させぬのじゃ!!」
それは指揮官が意識を手放す前に聞いた最後の声だった。
「リーヤ殿、カッコいいのじゃ。これで天使の羽なら綺麗なのじゃが、そこはしょうがないのじゃ! しかし、これはまるで「種」屈指の名エピソード『舞い下りる剣』なのじゃ! ワシも主役物語作ってもらって、こういうシーン貰いたいのじゃ!」
確かにあのシーンの「自由」はカッコいいですよね。
ふむ、チエちゃん主役の外伝ですか?
案外悪くないですね、考えて置きましょう。
「これで後はバカモノ達を殲滅するだけなのじゃ。リーヤ殿がんばれー!」
えいえいおー!
では明日の更新をお楽しみに。




