第58話 新米騎士爵は、戦いに出向く前に、父母や妹に約束をする!
「チエさん、一体何があったの?」
「うみゅ、まだ確定情報では無いのじゃ。一旦移動しながら話すのじゃ。タケ殿のお父上、また正式に参りに来るのじゃ。今は、ワシらの無事を上から見守ってくださいなのじゃ!」
チエは緊張した顔をして異空間から取りだしたイルミネーターを装着して歩きながら情報収集をしている。
「おにーちゃん、一体何があったの?」
カナが不安そうに左手でリーヤの右手を繋ぎ、僕に聞く。
「カナ、母さん。もしかしたら僕達は戦いに行かないといけないかもしれないんだ。でもそうなっても必ず無事に皆一緒に帰ってきて、旅の続きを愉しむよ。これは今、父さんにも約束したから」
……この感じ、どこかで大きな事件が起こったのかな。まさか、京都でのテログループが再び活動したのか?
「カナや、此方がタケを必ず守るから安心するのじゃ! もちろん、此方も無事にお母様やカナの元に帰ってきて、また楽しく遊ぶのじゃ!」
リーヤ、カナだけでなく、空いている左手で母の手と繋ぐ。
「リーヤちゃん、くれぐれも無茶はダメよ。陛下、マムさん。皆様もお気をつけて」
緊張の為に言葉少なめで固い表情の皆であるが、表情を少し崩し母の言葉に頷いた。
◆ ◇ ◆ ◇
「今までの情報を整理したのを提示するのじゃ。皆、良く聞くのじゃ!」
僕の実家の広間に集まった皆、前に立ったチエは、異空間から取り出した情報端末を操作し説明を始めた。
「本日、日本時間午前10時30分頃、東京湾「海ほたる」周辺で同時多発テロが発生したのじゃ。まずは東京湾アクアトンネル内浮島・『風の塔』間の中間部で車輌の爆発・大規模火災が発生したのじゃ。そして、ほぼ同時に木更津側アクアブリッジ上でも同じく車輌が爆発・火災が発生。これにより『海ほたるPA』は完全に孤島となったのじゃ。そして、そこに大型輸送船が強制的に座礁しつつ『海ほたる』に揚陸、中から多数の完全武装した戦闘員と、なんとドラゴンが3匹出てきたのじゃ!」
母やカナを含めて全員イルミネーターで情報を見る。
「それは一体どういう事なのじゃ!!」
リーヤは、事件の大きさに驚く。
……『海ほたる』を狙ったテロに見えるけど、あそこは普通の観光施設。別に重要な施設は……!? いや、横にある次元門が狙いか!!
「チエさん、敵の狙いは次元門ですか? しかし、ドラゴンまで使うとは一体どういう武装組織なのでしょうか?」
「おそらくタケ殿の読みは正解じゃな。現在、海ほたる部分は制圧されて、多数の観光客や従業員が人質になっておる。次元門側は、すぐさまゲート及び各出入り口の閉鎖及びワシ開発の警備オートマトンが対応しておる。まだ、しばらくは時間稼ぎは出来よう。ただ、問題はドラゴンじゃ」
僕達が装備しているイルミネーターに竜の姿が見える。
「タケ。余の見間違いでなければ、2匹はドラゴンでは無く、亜竜だな。腕はあるが羽が大きめで胴体が小さく細めだ。ドラゴンの幼体とも違うな。しかし一匹は正真正銘のドラゴン。体色からして、毒ガスを吐くグリーンドラゴンだ。」
ドレイクとは、ドラゴン族の中でも下級に分類される。
ワイバーンよりも一回り小さめの3mクラスだが、腕があるのがワイバーンとの違い。
ドラゴン程では無いものの火球を吐き、12.5mmクラス以上の機関砲で無いと、その鱗を貫く事はできない。
「亜竜はさておき、真なるドラゴン、それもガスドラゴンとな。これはワシやコウタ殿が戦わねば苦しいのじゃ!」
ドラゴン、そのパワー、知性、スピード、装甲。
モンスターの頂点に君臨する最強のもの、倒した者には「竜を倒したもの」の名を与える程のもので、今回のドラゴンは8mと比較的大型。
伝え聞く範囲では、戦車砲や同クラス以上の火砲を使わないと鱗に弾かれるらしい。
そして年嵩になれば高位魔法すら使うらしい。
「陛下、毒気竜や亜竜は、帝国等の異世界からのものでしょうか?」
「うむ、飛竜の時の事もある。もしかすると帝国外から送られてきたのやも知れぬ」
陛下は、イルミネーターの映像を食い入る様に見る。
「敵の情報は、とても助かるのじゃ。さっそく警察・自衛隊ラインに情報を流しておくのじゃ。現在、竜は『海ほたる』、亜竜2匹は『風の塔』周辺を滞空警戒中、うかつに接近が出来ない状況なのじゃ」
チエは苦しそうな顔をして、説明を続ける。
「自衛隊は、木更津の第4対戦車ヘリ部隊よりAH-1Sが1個飛行隊8機フル装備で、そして百里基地から第3飛行隊のF-2、1個小隊4機が対艦ミサイル各機2本背負って発進準備中だそうな」
自衛隊は首都に現れた怪物退治&対テロ作戦ということで、かなりの戦力を投入するつもりだ。
「自衛隊・警察の方針としては、まずは『風の塔』を守る亜竜を撃破、そこから強襲揚陸艇及び輸送ヘリにて機動車輌と陸戦部隊・警察特殊部隊の混合部隊を投入、トンネル内の避難民救出及び『海ほたる』を強襲・奪還するつもりらしいのじゃ」
トンネルの中間点にある川崎人口島、「風の塔」はトンネル換気用に作られた人工島で普段は関係者以外立ち入り禁止だが、避難ルートの一部としてヘリポートと小型船舶用の港を持っている。
今回の火災現場は、「風の塔」よりは川崎側。
火災でトンネル内に取り残された避難民を救出するには、そこからの進入しかないであろう。
「とりあえず、現在の情報は以下の通りじゃ。ワシはまもなく実家に帰り、そこからコウタ殿達を連れて現場に行くのじゃ。さあ、陛下、タケ殿どうなさるか?」
チエは僕の眼を、その知性に溢れた綺麗な黒い眼差しで見る。
……これは、一緒に戦うよねってご案内だよね。
「タケや、其方なら行くのじゃろ? 此方は、タケの行くところ何処にでも一緒に行くのじゃ!」
「タケ、わたくしはモリベ公安保安官の命令に従うわよ」
リーヤとマムは、僕の方をワクワクしながら見てくる。
他の仲間達も同様だ。
……こっちもそうだよねぇ。
「タケ、余から命ずる。帝国が日本に迷惑をかける訳には行かぬ。竜殲滅の命を与える。また、民草を害するテロリストやらに帝国の力を見せつけ、民を救うのだ! なお、戦力として皇帝及びその側近を使う事を認める。さあ、僕も使ってバカ共を退治に行こうよ!」
少年皇帝は、自分も戦力として使えと宣う。
……はー、皆ったら。僕の性格を読みすぎだよぉ。
「タケシ、お前の事だから絶対行くんだよね。ホント、パパそっくりね、しょうがないわ。でも一つだけ約束して。さっきも話したけど、必ず皆でここに無事に帰ってくること。また美味しいご飯を皆で食べましょう」
「そうだよね。おにーちゃんやおねーちゃんが、困った人を助けに行かないはずないもん。他の皆もそう。だから、絶対無事に帰ってきてね」
母は苦笑しながら、妹は泣きそうになりながらも、僕の出陣の無事を祈ってくれている。
「皆、ありがとう。僕のワガママで、また戦いに行くことになるけど、宜しくお願い致します。全員無事に事件を解決して、またここに帰ってきましょう!」
「おー!!」
……父さん、僕は行くよ。こんなの見て見ぬフリは出来ないから。でも、約束するね、父さんみたいに母さんやカナ、そしてリーヤさんを泣かすような事は絶対にしないよ。必ず生きて帰ってくるんだ。せっかくリーヤさんという可愛いお嫁さんが出来たんだ。父さんには悪いけど、そっちのは100年くらいは行かないからね! 完全勝利して笑って帰ってくるぞ!
僕は誓った、完全勝利してこの家に再び帰ってくることを。
「今回は、大規模なテロを起こすヤツラなのじゃ。これは前回の飛竜事件と関係ありじゃし、もしやすると京都での同時多発自爆テロにも関係があるやなのじゃ!」
普通、手口が一致していたら犯人は同一グループと考えられますよね。
「それにワシの持ち物たる次元門に手を出すとは許せないのじゃ! 全員、とっ捕まえて折檻して、反省させてから国際裁判所送りにするのじゃ!!」
あれ、犯人を殺さないの?
「こういうバカ者達は、簡単に殺すと殉教者扱いになるのじゃ。生かして捕まえて、命乞いをする様な情けない姿を全世界に公開するのが、一番効果的なのじゃ。それに死は彼らにとって福音になりかねないのじゃ。生き地獄の方がテロリストにはお似合いなのじゃ!! また、親玉の情報が欲しいのじゃ。親玉こそ、とっ捕まえたいのじゃあ!!!」
どうやら、チエちゃんは自分で犯人達を虐めたい様です。
「じゃって楽しい観光を台無しにして多くの人々を苦しめたのじゃ。簡単には許せないのじゃ!!」
お怒りプンプンのチエちゃんでした。
物語は風雲急を告げました。
明日からの展開をお楽しみくださいませ。
「ワシ、暴れたるのじゃぁ!!」




