第29話 新米騎士爵は、海で遭難しかける。
「ふー、此方は少々疲れたのじゃぁ。でも今から泳ぐのじゃぁ!」
海の家での写真撮影の後、僕達は沢山の観光客に囲まれ、質問攻め。
写真撮影の許可で大変だった。
「あ、あのコ、エルフの姫様だぁ!」
「あの子も天才猫少女よぉ!」
過去、地球のマスコミで顔が知られたリタ、フォルも捕まってしまい大変。
「あの男の子、まさか……」
「ええ、まさか皇帝が、いくらなんでもこんなところに居ないわよね。他人の空似かしら?」
「でも、もしかして?」
「もしそうなら、そっとしてあげましょう。せっかくのお忍びなんだもの」
少年皇帝も、最近顔が地球に知られたものの、似ているというレベルで落ち着いている。
……普段立てている頭髪が、今は濡れてべったりだから陛下だって気が付かれていないんだ。でも、何人かはワザと気が付かないフリしてくれているみたいだね。助かるよ。
「あー、冷たくて気持ちが良いのじゃ! タケ、こーじゃ!!」
リーヤは、ぱしゃぱしゃと水しぶきを上げる。
そして僕目掛けて魔法で大波を作りぶつける。
「あぁー、リーヤさん。魔法は禁止ですよぉ」
僕は波に飲まれ、ぐるんぐるんと水中で回転した。
「げほげほ。もー、いきなり何するんですかぁ」
僕は、なんとか波間から顔を出して、リーヤに抗議する。
「なれば、ワシはこーじゃ!」
そして僕は、何故かチエによって空中へ飛ばされる。
「あれぇぇ」
「わたしもぉ」
更にリタの打ち上げ水柱にソフトキャッチされて、水柱の中で混ぜられた僕。
「きゅぅぅぅ」
そのまま、僕の意識は遠のいた。
◆ ◇ ◆ ◇
「チエちゃん、リタちゃん、タケシ君に恨みでもあるのぉ! 2人ともやりすぎです! リーヤちゃん、うれしいのは分かりますが、戦闘時・緊急時以外で魔法は禁止! 皆さんも、他のお客様のご迷惑にならないようにしてね。わかったぁ!」
僕の耳に、迫力満点のマユコの声が聞こえる。
「ごめんなのじゃぁ」
「はいなのぉ」
「此方もやり過ぎたのじゃぁ」
僕は3人がマユコに叱られているのを聞いて、眼を覚まして起きだす。
「あ、タケ大丈夫なのかや?」
「はい、なんとか」
早速、僕が気絶から復活したのに気が付いたリーヤ。
座っている僕の横に来て、その小さな手で背を撫でてくれる。
「すまんのじゃ! あまりに楽しかったから、ふざけすぎたのじゃぁ」
「もう気にしていないですから、大丈夫。リーヤさんは、そんなに楽しかったのですね」
僕はリーヤの頭の上に手を載せ、いつもの調子で撫でる。
「おう、良い眺めなのじゃぁ!」
いたずら娘の魔神将は、僕とリーヤの様子をHDカメラで撮影する。
「チエちゃん! 貴方には反省っていう概念は無いのかしらぁ」
「そんなのは、自重と共に古の彼方へと捨ててきたのじゃ……。あ! 冗談じゃ、冗談に決まって居るのじゃ。ワシ、まだ死にとうないのじゃ! 母様、タケ殿、リーヤ殿、ごめんなさいなのじゃ」
「オフザケ」が治らないチエに、途轍もない殺気を掛けるマユコ。
それに恐怖を感じて、撮影を止めて土下座する魔神将。
異世界以上の異空間に笑ってしまう、僕とリーヤであった。
なお、後から聞いたところによると、マユコは殺気だけで低級魔神やら雑魚妖怪なら粉砕できるらしく、本気なら魔神将はおろか、魔神王すら殺気だけで倒すんだとか。
……どんだけ、常識ハズレの家族なんだろうねぇ。僕もイイ加減異世界になれたけど、地球は日本にもっと『異世界』が存在したよ。
◆ ◇ ◆ ◇
「タケ、あの沖合いの大きな船はナンじゃ? 距離が分からぬから正式な大きさが分からぬが、タダモノでは無いのじゃ!」
今、僕はリーヤと共にビーチパラソルの下で休憩中。
リーヤが指差した先には、巨大な豪華客船らしきものが見える。
「あれは、超国籍企業、ケラブセオン・エンタープライズ、アジア支社の社屋兼アジア地区マネージャーの家たるリコリス号じゃな」
僕が説明する前に答えてくれるチエ。
まるで波間に浮かぶ城とも見える巨体な船。
僕は、その威容に何処か禍々しいものを感じた。
「ケラブセオンは、ワシの技術の一部を買うてくれたのじゃが、軍事分野で使いすぎなのじゃ。どうやらパワードスーツやら、サイバネ技術を開発中らしいのじゃ!」
チエは、ぷんぷんモードで沖の巨大客船を睨む。
ケラブセオン、ギリシャ語で神々の雷という意味らしい。
情報によるとアメリカに本社がある超国籍企業、コンセプトは「ゆりかごから墓場まで。宇宙から砂漠の戦場、そして全ての家庭へ」
服飾、食品、重工業、自動車、家電、医療医薬品、宇宙に軍事。
数多くの分野に手を伸ばしている超大企業だ。
「確かアジアマネージャーは、華僑系と聞くのじゃ。また日本で大きな商売でもする気なのかや? ワシ、また動く必要があるのじゃ。ワシの技術を悪用するのは許せないのじゃ!」
チエは、僕達に初めてイラつく姿を見せた。
……楽しい事好きで、いたずらっ子のチエさんが、ここまで怒りを見せるなんて。どういう会社なんだろうか?
僕は、妙な感覚を感じながら沖の巨大船を眺めた。
もうちょっと続く海水浴シーン。
書きたいシーンやら、後への伏線やら。
第6章は、第5章以上に長編になりそう。
では、今後とも宜しくです。
「ワシ、まだ活躍できるのじゃ!」
はいはい(笑)。
チエちゃん、もう少し宜しくです。




