第45話 新米捜査官は、邪神に一泡食わす!
「おう、余は、待ちくたびれたのだぞ」
「皆、お疲れ様でした」
扉が開き、遺跡の中枢部、宇宙規模の転送システム中枢部が僕達の眼にはいる。
「これは……。すごいですねぇ」
「此方も初めてみるのじゃ!」
僕達は、システムに見入った。
それは直径1m程、未知の素材で作られている球体が、システムが納められている円周20m程、高さ10m程のドーム上の部屋の中央部に浮かんでいる。
その周囲を直径数cmくらいの小さな球体が複雑な軌道を描いて公転をしていた。
「おい、システムばかり見ずに余を見よ。これだから、田舎者は困るのだ」
無視されてぷんすかしている少年皇帝。
「あ、陛下。申し訳ありませんでした。お待たせしましたが、とりあえずの解決に到りました」
僕は陛下に即時謝り、状況を説明した。
「なら良い。では、もう地上へ上がるぞ。いつまでも穴倉に居らずに、余は指揮をせねばらなぬのだ。このイルミネーターは便利だが、直接見ぬと分からぬ事も多いしな」
「はい。では、皆撤収ね」
マムが僕達に撤収命令をした時に、状況は大きく動いた。
「なにぃぃ!」
いきなり床から影が動いて、少年皇帝の身体に巻きついたのだ。
「また、このパターンかよ、こりねぇなぁ。這い寄る混沌よ!」
布状の影は陛下をぐるぐる巻きにした後、先を宙に伸ばし、その先が膨らみ漆黒の魔族男性の上半身となった。
「毎度で悪かったな。全員動くな! 特にコウタ、オマエは1mmも動くなよ。前回はオマエに切られたからな。さあ、オマエ達、この坊やの命が惜しかったら、システムの起動権限を我に渡すのだ!」
魔族、いや邪神は陛下を人質に取ったのだ。
「オマエ、そんな手を今回も取るという事は、正真正銘ネタ切れかよ。なさけねー邪神だねぇ」
「コウタよ、勝手に言うが良い。我にはもう後が無いのだ。しかし、これで外界へ繋がれば、我は本体に繋がりオマエ達なぞ一瞬で滅ぼしてくれよう」
コウタの悪態に文句を言う邪神。
確かに表情に、今までの張り付いたような嘲笑は無く、焦りが感じられる。
それに、どうやら以前も人質を同じように取って、コウタに退治されたらしい。
「分かった、俺は1mmも動かないさ。剣も離すぞ」
コウタは剣を床に突き立て、手を離した。
……この状況は不味い。どうにかして邪神に隙を作らせなきゃ。そうすれば強い人がなんとかしてくれる。
僕は腕に抱えた大砲の重さ、そして陛下の命の重さを考える。
……くそう、どうすれば……。ああ、陛下にはもっと美味しいもの食べさせてあげたかったよぉ。
僕は焦りから陛下の、美味しいものを食べていた時の子供っぽい笑顔を思い出してしまう。
……ああ、次はマトンとかポーク系やスープカレーが……。!? あれ、今アレを僕は持っていたよね。もしかしたら……
僕は、落ち着いて陛下と陛下を締め付けている邪神を眺める。
「オマエラ、早く起動権限をよこせ!」
焦っている邪神、よく見ると陛下が小石を蹴ってこっちに転がそうとしていて、数個の小石は僕達の1m前まで転がっている。
……僕達と邪神との距離は5m程、マムと邪神の間は3m、そして小石は僕達の前まで転がってきている。
僕は気がついた。
邪神に、もう次元防御結界は無い。
なんでも攻撃が通るのだ。
だから、人質を使って自分の身を守っている。
……なら、アレを使えば逆転できるかも。でも、どうやって皆や陛下に伝えて作戦を実行しようか?
そんな時、僕の手をチエの小さいけど温かい手が握った。
◆ ◇ ◆ ◇
「ここは?」
僕は、いきなり今までとは別の場所に転送された。
「安心せい。ここは魔剣殿のチャットルームじゃ。ここでは時間経過無しに相談や特訓が出来るのじゃ。『時と精神の部屋』と言えば、日本人なら分かるのじゃ!」
チエが、自慢げに一切膨らみのない胸を張ってドヤ顔で説明をしてくれた。
……うん、その一言でアニメにそんなに詳しくない僕でも理解できたよ。
「此方は一瞬で理解したのじゃ!」
「拙者は守備範囲外でござるよ」
「アタイも分かんない」
ウチの面子で、理解したのはリーヤのみ。
「毎度、このルームは便利だよね。お姉ちゃん!」
「そうだね、リタちゃん。ここ悪巧みにぴったり!」
異種族姉妹は、慣れた様子だ。
「すまない。今回、俺は警戒されすぎていて動けない。そこで皆に何か良い案が無いか聞こうと思って、この場所に招待したんだ」
コウタは両手を合わせて拝むようにして、僕達に謝る。
「コウタさん、邪神に隙を作らせて陛下を引き離したら、貴方が邪神を仕留めてくれますよね」
「ああ、そうだね」
……なら、この手はどうかな?
「僕が思いついた策がありますが、どうですか? 何故か今、僕はこんなモノを持っているんです。邪神はシールドを満足に貼れない様ですし、これなら油断して被ってくれませんか?」
僕は胸元から、小瓶を出した。
「それは、……! ぎゃははは! タケ殿、お主やるのぉ。そうか、ソイツなら無様に邪神は被ってくれるのじゃ。後は、如何にして陛下をその範囲から逃してしまうかじゃ」
チエは大笑いをして、僕の差し出した小瓶を見た。
「あー、それは眼に入ったら邪神でも死にたくなるよねぇ」
「うん! わたし、大学サークルの罰ゲームでソレの類似品舐めて死に掛けた子知っているよ」
ナナとリタも苦笑しながら、僕の手の中の小瓶を見た。
「タケや、それは何じゃ?」
「タケ殿、何でござるか?」
「アタイ、イヤな予感がしたよ。今度のカレー、無茶苦茶辛いの?」
ウチ組は、ギーゼラのみが真相に気がついた。
「ええ、効果抜群ですよ。だって、これは世界最強の一品ですから」
◆ ◇ ◆ ◇
「さあ、早くしろ! 我は気長に待てないぞ!」
場面は、再び邪神の前に戻る。
「システムの管理権限は、ワシが触らねばどーにもならぬぞ。それに急に変更なぞ出来ぬのじゃ。ちょっと待つのじゃ!」
チエが邪神とコンタクトを取り、時間稼ぎをする。
その間、僕はハンドサインをする。
それは、先日陛下と「暴れん坊皇帝」ごっこをする時に決めたものだ。
コクっ。
陛下は僕の眼を見て、頷いてくれた。
……よし、これで勝利条件は整った。
「では、ワシがそちらに近付くのじゃ。良いな」
「しょうがない。ゆっくり近づけ!」
チエが邪神に近付く旨を話す。
それを邪神は許可し、チエはゆっくり前に歩み出した。
……後二歩。もう少し。ヨシ、今だ!
僕は胸元から小瓶を出して邪神へ目掛けて、そしてチエの頭上を通る様に投げた。
……良いぞ! 上手くラインに乗った。
僕は自分が持つ弾道予測を使い、完璧なコースで小瓶を投げたのだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「何?」
邪神は、タケが投げた小瓶を見つめた。
「ホイな!」
その小瓶はチエの頭上で真っ二つに切断された。
そして瓶の内容物は、リーヤの風の呪文により流されて邪神に降りかかった。
これが武器なら警戒していた。
また死亡するような毒物は人質が居るから使えない。
眠り薬や麻痺毒も自分には効果が薄い。
そう邪神は考えていた。
その内容物、赤い液体が眼に入るまでは。
「ぎぃやぁぁぁぁ!!!!」
邪神は絶叫した。
その赤い液体はたった一滴しか眼に入らなかった。
しかし、次の瞬間とてつもない激痛が眼から発生し、前が一切見えない。
激しい涙が眼から溢れるが、どうにもならない。
また肌が液に触れた部分も熱くて激しく痛む。
「見たか! これこそが世界最強、スコヴィル値710万のザ・ソースだぁ!」
タケは大声で思わず吼えた!
さて、良い子の皆さんは絶対真似したらダメですからね。
「しかし、ご都合主義にもホドがあるのじゃ。ワシは今回知らぬぞ。そりゃ異世界へ輸出したのはワシじゃが」
チエちゃん、ご都合主義の塊の貴方が文句言わないで下さいな。(苦笑)
では、明日の更新をお楽しみに!




