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9 三人で暮らそう

 ■


 秋山=エルフィーネ=陽華は両手を口元に当て、「はっ!?」と息を飲んでいる。

 霧はニヤニヤと笑みを浮かべ、隠しきれない高坂の股間に視線を送っていた。


「あれェ、先輩、何やってたんですか~~~?」


 明らかに別のことを想像している霧を睨み、高坂が叫んだ。


「で、出ていけ、お前らッ!」

「う、うむ……邪魔をした……あっ、シャンプー……」

「い、今渡すから、とにかく出てってくれ!」


 高坂は後ろを向いたまま、白い容器に入ったシャンプーを秋山に渡して防水カーテンを閉めた。自分が耳まで真っ赤になっているのが分かる。

 霧は完全に誤解をしていたし、秋山だって暫くすれば気付くだろう。そうでなくとも、霧が何かを話すかもしれない。


 だからといって誤解だと自分から言えば、逆に怪しすぎる。

 高坂は八方塞がりな現状を自覚して、またも両手で頭をガシガシと掻きまわした。そうしているうち股間に集中していた血液は別の場所へ流れ、通常のサイズへと戻っていく。それを恨めしそうに眺めたあと、全身を洗って彼はバスルームを出るのだった。




 予備のスウェットを着てビールを片手に部屋へ戻ると、二人は何事も無かったかのように笑っていた。どうやら地上波のバラエティ番組を見ているようだ。

 高坂はテーブルの前にある座布団に腰を下ろし、ビールをグイッと飲んでから言った。


「霧――お前、まだ帰らないのかよ」

「帰らないよー。てか、怒ってる?」

「別に、怒っちゃいないけどさ……みんな心配してるぞ」

「みんなって誰よ?」

「バンドメンバーとか、事務所の人とか――両親とか」

「ああ……みんなね、あたしが居なくなって心配してんのは、お金のことでしょ。嫌なんだよね、そういうの」


 テレビから流れる笑い声が、空しく響いている。秋山は霧の横顔を見つめ、キョトンとしていた。それから彼女は何かに納得したように頷き、超有名バンドに所属するボーカルの手を取って言う。


「よくわからんが家出ということなら、わたしと同じだな。良かったら家へ来ないか。何も無いが、歓迎するぞ」


 高坂はこの時、思わずあんぐりと口を開け、秋山の顔を見つめていた。


 ――家出だったのかよ!


 しかし声には出さず、口に付けたビールの缶を軽くあおって誤魔化した。炭酸が口の中で弾け、苦みを伴った液体が喉の奥へと流れていく。


 ■■■■


「ありがとう、陽華ちゃん。でもあたし、ここで暮らすから大丈夫だよ」


 霧は秋山に手を握られた状態で、苦笑しながら答えている。

 高坂は「それ、ぜんぜん大丈夫じゃねぇから……」と思いながらも、話の行方を見守っていた。霧が家に帰りたくないという気持ちが、本気だということも伝わっていたからだ。


 ここで霧を無理やり家に帰せば、せかっくの友情に亀裂が入るだろう。

 逆に言えば、霧は既にバンドメンバーを友人として見ていない。さっきの言い分を思い出せば、彼等は皆、霧を金づると思っている――少なくとも彼女は、そう考えているらしかった。


「それはいかんぞ、霧様。ここは高坂の家で、高坂と霧様は恋人同士ではあるまい?」

「そうだけど……それが何か?」

「なにか、ではないぞ、霧様。不純ではないか!」

「……は? そもそもあたし、先輩とセックスしに来たんだけど」

「セックス!?」


 秋山の顔が途端、真っ赤になる。そのまま湯気を吹きそうな程だった。


「うん」

「したのか!?」

「いやぁ、それがね……恋人でもないのにしないって言われてさ。だから恋人になってセックスするまで、ここにいようと思ってるのよ」

「こ、高坂は、それでいいのか?」


 秋山が新緑を思わせる瞳を高坂に向け、もじもじと問うている。


「恋人になる気はないけど、いま霧を家に帰すのは可哀想だなって思えてきた」

「同情はいらねぇよ――先輩」

「じゃあ、さっさと帰れよ。俺は止めないから」

「すみませんでした、ここに置いて下せぇ……」

「てかさ……秋山の家は嫌なのかよ。家出したいなら、女同士で住む方がいいんじゃないのか?」

「いや、それじゃ先輩と恋人になるってミッションが……」

「――何で今更、俺なんだよ?」


 高坂の言葉に、ぐっと唇を引き結び何も答えない霧。


「そういうことなら、わたしもここに住もう。どうせ隣同士だしな。それでどうだ?」


 いかにも名案を思い付いたとばかりに幾度も頷きながら、秋山が言う。霧と高坂が同時に目を丸くして、金髪のエルフを見つめていた。


「陽華ちゃん、どうしてそうなるの!?」

「そうだぞ、秋山! 全然意味が分からないッ!」

「え……、いや、だって霧様は家に帰りたくないわけだろう? それで高坂は、霧様と恋人になる気は無い。それでわたしは……えーと、若い男女が結婚もせず二人で暮らすのは不純だと思うから、三人でって思ったのだが……」


 二人に見られて困ったのか、秋山は視線を宙に彷徨わせ、右手の人差し指を立てて言う。理屈が通っているようで、かなり穴だらけな理論なのであった。

 しかし霧は何故か納得したように頷き、「そっか、そっか、なるほど!」と言っている。


「陽華ちゃんも一緒なら楽しそうだし、いいね!」


 高坂は、怒るべきか――と悩みながらも、美女二人と暮らす生活というものに興味があった。それに霧はともかく、秋山は高校生の頃に好きだった女性である。

 だから高坂は、秋山と一緒に暮らしてみたい――という欲望に負けたのかも知れない。あるいは霧を女性として見たとき、ここまで自分のことを求めてくれる人はいない――と少しだけ折れたのかも知れなかった。


 そうして結局のところ高坂は、こう言ったのである。


「三人で暮らすには、この部屋狭いぞ……」

「知ってる」

「うむ――でもまぁ、最悪わたしの部屋を使ってくれても構わないしな」


 こうしてエルフと超有名な女ボーカル、そしてしがないサラリーマンの共同生活が始まるのだった。

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