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8 防水カーテン

 ■


 酒を飲み蕎麦を食べながら、高坂達は話をしている。といっても会話の大半は秋山=エルフィーネと霧の二人で担っていたが。

 

 何しろ秋山は生粋の「シルヴラウ」ファンということで、霧の話を大いに聞きたがったのだ。


「こんな機会は滅多にないからな。あ、良かったらサイン下さい」


 耳を下げ、トロンとした目で言う秋山。彼女のこんな姿を見るのは、高坂にとっても初めてのことであった。


 一方、霧もエルフに関心がある。「耳を触らせてほしい」とか「髪を触らせて欲しい」といった要望を経て、「胸も触らせて欲しい」などと言い始め、ついに高坂は「いい加減にしろ!」と叫ぶのであった。


「霧、秋山はお前のおもちゃじゃないんだよ!」

「そんなの分かってるよ! でも気になるんだもん! おっぱいも人間と同じなのかって!」


 そういって口を尖らせる霧は、小柄で童顔なことも合わさり不貞腐れた子供に見えないこともない。ただ耳に無数のピアスがあるから、背徳的に見えてしまうだけのことで。


「別にいいが、わたしも霧様の胸を触ってみたい」

「いいよ! じゃあさ、一緒にお風呂――入らない? そしたら触りっこできるし!」


 ビールの缶をタンッとテーブルに置き、とんでもない提案をする霧。秋山は少し考えているのか、顎に指を当てている。


「構わないが、このアパートの風呂は狭いしユニットバスだぞ」

「気にしないよ!」

「待て、俺が気にするッ! 霧は昨日泊ったから風呂を使うのはいいとして、秋山、何でお前までッ!」

「なんだ、高坂。わたしが風呂を使ったら汚いとでもいうのか? それはエルフ差別だ、問題だ」


 秋山は結構酔っているのかも知れない。三白眼で高坂を睨んでいた。


「そういうことじゃないって!」

「むぅ? では霧様。わたしの部屋の風呂に入るか?」

「ここでいいよ。移動するの、面倒じゃん」

「しかし高坂が――……」

「先輩は照れてるだけだよ。だってさ、こんな美女二人がじぶん家のお風呂に入るなんて、そうそうないからね」

「そうなのか、高坂?」


 高坂は図星を言われ、両手で髪をグシャグシャとかき回している。


「ああ、そうですよ! 気が変になっちまいそうだ! ちょっと外行ってくるから、その間に入っとけよな!」


 そう言って立ち上がり上着を着て部屋を出る高坂の後を、秋山が追う。彼女は着替えを取りに、いったん自室へ戻るつもりだった。

 

「おい、高坂」


 秋山が高坂の背中に声を掛ける。


「ん?」


 振り向き、高坂は秋山を正面から見た。アルコールによってほんのりと色づいた桜色の頬が愛らしく、彼女は小さな口元に笑みを浮かべている。


「人間とこんなに話したのは、初めてだ。ありがとう」


 ぺこりと頭を下げて、秋山は自室へ入って行った。「そう、なんだ……」という高坂の声が、夜の中に消えていく。


 それから彼は階段を下りて、もう一度コンビニへ行った。風呂上りには、やっぱりビールが必要だよな……と思ったからである。

 

 高坂はサラリーマンだが、元はと言えばバンドマン。一度箍が外れてしまえば、際限なく沼にハマってしまう人種なのであった。

 

 ■■■■


 高坂がたっぷり一時間ほども潰して帰宅すると、ちょうど秋山が金色の髪をドライヤーで乾かしているところであった。霧の方はタブレットで動画サイトを呼び出し、ホラー系のチャンネルを見ているようだ。


 どうせならテレビと接続して大きな画面で見れば良いものを――と思わなくもないが、高坂も面倒だから、いつもタブレットで動画を見ている。気持ちは理解できるので、何も言わなかった。


 それより二人とも湯上りのせいか、ほんのりと顔が赤い。

 高坂は若干目のやり場に戸惑いつつ、コンビニ袋から取り出した六缶パックのビールを掲げて見せた。


「おーい、お前ら……風呂上りにビールはいるか?」

「いる!」


 真っ先に飛びついてきたのは、やはり霧だ。秋山はドライヤーの風を髪に当てながら、首を小さく傾げている。さらさらとそよぐ金髪が、何とも言えず美しかった。


「秋山は?」

「……まだ飲むのか? 人間というのは、凄いな」

「いらないなら、お茶もあるぞ」

「いや、飲む。人間に負ける訳にはいかん」


 そう言ってドライヤーの電源をいったん落とし、五百ミリリットルの缶に白魚のような手を伸ばす秋山。

 残りを冷蔵庫に入れると、高坂も急いで風呂に入った。


 二人が風呂に入ったと言っても、シャワーを浴びただけである。トイレと一体型のユニットバスに湯など張れば、必然的に身体を洗う場所が無くなってしまうからだ。


 しかし高坂はつい先ほどまで、この空間に二人の美女がいたのだと思えば、どうしても身体の一部に血が集まってしまう。沈まれ、沈まれ――と念じてみても、中々思うとおりにいかないのが男の辛いところなのであった。


 そんな時、ガチャリと風呂場の扉が開く音がして。

 

「すまん、高坂。シャンプーを置いたままにしてしまった。取って貰えると助かる」


 秋山の声だ。


「い、今じゃないとダメなのかよ!」

「うん? いや今じゃなくてもいいのだが、霧様がな、今行けと煩いものだから……」

「それ、霧の悪戯に巻き込まれてんだよ! ドア閉めてくれよッ!」


 いま高坂と秋山を隔てるのは、防水カーテンが一枚だけである。

 流石に彼女も、カーテンを開けようとはしていない。だがそこに、青髪の暴風が現れた。悪戯の主犯である。


「いいんだよ、陽華ちゃん! 先輩に遠慮なんかしてたら――いつまでもシャンプー取れないんだからッ!」


 ――シャッ!


 鋭い音がして、防水カーテンが開かれた。

 そして高坂の前には、二人の美女がいて――。

 高坂は股間を押さえ、しゃがみ込むのが限界なのであった。

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