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6 金髪エルフと青髪美女に挟まれて……

 ■


 時刻は午後六時の少し前。周囲は夜の闇に覆われていて、アパートの蛍光灯が明滅している。いかにもうらぶれた築年数の古い建物には、似合いの光景だ。

 そんな中で高坂良は狭い部屋の玄関に立ち、この場に似つかわしくないエルフの美女を見つめている。しかも彼の後ろには、超有名バンドの女ボーカルが立っていた。


「霧様」と秋山エルフィーネが憧れに目を見開けば、後ろで霧が「うわぁ、この子エルフじゃん……肌、めっちゃキレイ」と呆気に取られている。

 それから女子二人は互いを見つめ合い、息を飲んで無言となった。


 この沈黙を破ったのは、まったく望まない状況に陥った高坂良である。女子二人に前後を挟まれて、何故かいたたまれない気持ちになっていた。


「お、おお、秋山。引っ越し蕎麦な、ありがとう。コイツはまぁ、霧様っちゃ霧様なんだけどさ、大学の後輩で、ちょっと遊びに来ただけなんだよ」

「そう、なのか。しかし、その服は……」


 眼鏡の奥で秋山の目がぐっと細まった。翡翠を思わせるキラキラとした緑色の瞳が、不審の色に染まっていく。


 男物のスウェットに身体を包みダボッとした霧の姿は、どう見ても友達という範疇を逸脱しているし、二人のボサボサとした髪を見れば、同棲しているカップルにしか見えなかった。

 

 しかし人間の文化風俗にイマイチ疎い秋山=エルフィーネは、高坂の言葉を信用するしかない。

 エルフであれば年頃の男女が同じ服を着まわすなど、絶対にあり得ないことだ。同棲しているなどとばれたら長老連中に「不純だ!」とどやされ、一月は監禁されてしまうだろう。


 だが一方で、人間には男女の友情があることも秋山は知っていた。それで高坂と霧がそういう関係なのだと自分を納得させて、彼女は小さく頷いている。

 何より彼等が同棲していたのだとして、わたしには彼等を咎めるべきいかなる理由もない……と彼女は考え、納得をしていた。


「初めまして~~! あたし鍋島貴理子! エルフの人って一度だけテレビで共演したことあるけど、あなたも堅苦しい話し方するんだねぇ!」

「あっ、あっ……、わたしは秋山=エルフィーネ=陽華だ。はじめまして。そ、そのっ、遊びに来たというのなら、邪魔する意図は無かった。これで失礼させてもらう……」

「あ、待って! 先輩の同級生なんでしょ? ――せっかくだし上がってよ! エルフの人と、一度ちゃんと話してみたかったんだ!」

「む……どうしてわたしが同級生だと知っているのだ?」

「さっきね、モニターで確認した時に先輩が言ってたの」


 ここで霧は言葉を切って、高坂の袖を摘み「ねぇねぇ」と甘えた声を出す。


「先輩――陽華ちゃんがあたしのことを知ってるってことは、ちょっとこのまま帰って貰っても困るから……入って貰っていいでしょ?」

「困るって、どういうこと?」

「世間的には、あたしがここに居ることって内緒なんだしぃー」

「……ああ、そういうことか」


 狭い玄関で高坂の横に並び、秋山を手招きする霧。彼女はニンマリと笑って高坂の横顔を見つめ、「そ、いいでしょ?」と許可を求めた。

 高坂は少し悩む素振りを見せてから、秋山に問う。


「このままじゃ変な誤解もされそうだし、なあ、秋山――時間があるなら、ちょっと寄っていかないか? 俺も、その――十年ぶりにお前とさ、少し話したいっていうか。まあ十年前に、そんなに話していたかっていうと微妙だけどさ」


 この時、高坂は顔に血が上り熱くなるのを実感した。幸い周囲が暗い為、赤面したことに気付かれることは無かったが――やはり高校生の頃に憧れていた女子を家に招くというのは、非常に緊張する。しかも相手はエルフで、だから容姿が当時のままなのだ。


 ――だが高坂がそんな風に思っているとも知らず、霧が彼の脇腹を肘で小突く。


「変な誤解ってなによ、先輩」

「え、あ、いや……その」

「言えないの?」

「言えるかよ」


 狭い玄関で言い争う高坂と霧を見て、秋山が思わず噴き出した。「ぷっ」


「二人は、とても仲が良いのだな」

「そうなのよ、へへ……分かっちゃうかー」


 霧が「どうぞ、どうぞ」と秋山の手を取り、彼女を玄関の中へ入れた。


「せっかくお蕎麦を持ってきてくれたんだし、三人で食べようよ。あたし達も朝から何も食べていないし、お腹ぺっこぺこ!」

「時間はあるが……良いのか、本当にわたしなどがお邪魔して?」

「いいって。どうせあたしも押しかけて来ただけだし、自分の家だと思って寛ぎなよ」


 秋山の手を引きながら霧が部屋の奥へと入っていく。テレビにはまだストIIの画面が映し出されていて、音楽も流れていた。


 そんな女子二人の行動に完全に取り残された高坂良は、静かに玄関の扉を閉める。鍵を掛けようかと暫し迷ったあとで、そのままにした。あれほどの美人二人を部屋に入れて鍵を掛けたら、自分の劣情を認めてしまうような気がしたからだった。

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