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085 例の真実、その時ソルジャーは。



「人族の猛者達、武器を収めてくれてまずは礼を言う。今から告げることは、人族の代表と魔族が取り決めた話だ。嘘偽りを疑うのであれば各国の主要人物に連絡を取るがいい」


「取り決め? 人族と? 連絡を取り合うことがあるのか」


「今から話す。まずは聞いてからそれぞれの判断を聞こう」



 魔王は厳粛な雰囲気を醸し出し、精一杯恐ろしい魔族のトップを演じている。ジタの事で拗ねていた時とはまるで違う。



「なんか、魔王っぽいね。さっきまでの魔王様と全然違う」


「シーッ! 余計な事言わないの」



 魔王っぽいも何も、魔王その者なのだが、あまりの差にエインズがそう言いたくなるのも分かる。人族よりもオーガなどの鬼と呼ばれる種族に近い見た目は、本来の魔王を知らなければやはり恐ろしい。



「魔族と人族の大きな争いの後、互いに疲弊し数を減らした両者は、協定を結んだ。協定書は保管されている。ジタ、すまないが俺の部屋から協定書を」


「分かった」


「お……おい、あいつは? まさかあいつも魔族か!?」


「嘘だろ? あの小僧達とジュナイダ国境を越えたのは俺も見た。でも何で魔王の部屋に……」


「おれは息子だ」



 黒い肌、金色の目、人族でも見かけない容姿の少年だとは思っていたが、まさか魔族だったとは。そう驚くソルジャーたちに構わず、魔王は話を続ける。



「ソルジャー……いや、殆どの人族は、本来の魔族と人族の関係を知らないだろう。それを我々は咎めるつもりはない。戦いによって互いを憎み、かつての歴史を灰にしたのだから無理もない上、協定により真実を隠す事を選んだのは魔族だ」


「協定とは、協定とは何だ! 魔族が人族を襲うことを許可するとでも書かれているのか! そんな事を人族が認めているとでも言うのか!」


「そ、そうだ! 魔族に襲われた村、魔物を恐れる人々がいるから、俺たちソルジャーという職業があるんだ!」


「その事実を棚に上げて、今更命乞いをしようなど……む、無駄……はい、すみません」



 ニーナに耳打ちされ、エインズとチャッキーが反論するソルジャーを睨む。そうすればたちまちソルジャー達は口を閉じる。


 未だかつて見たこともない程の威力で初級魔法のファイアを放ったエインズ。彼から目をつけられ、なおそれ以上口を開く度胸はないのだろう。


 紙袋ごときであっさりと懐柔された魔獣も、次また言う事を聞いてくれるとは限らない。


 しかし、ニーナは抗議を鎮めるためにエインズへと睨んでと頼んだが、エインズとチャッキーがそれを正しく汲み取っているとは限らない。



「魔王様が喋ってるんだから、人の話は最後まで聞かなきゃ駄目なんだよ。終わってから口を開くって、小さい頃教わった事なのに」


「エインズ様。大変申し上げ難いのですが、魔王様は人ではございませんので、もしかしたらあの者たちは、人ではないから魔王様の話を遮っても良いと考えたのかもしれません」


「あっ、そういう事ならちょっと言い返せないね……そっか、でも俺はたとえチャッキーが喋っていても最後までちゃんと聞くよ」


「エインズ様ほどお利口な方はそうそうおりませんから……おや、なぜかニーナ様がこちらを睨んでおられますが」


「とびきり怖いね。自分で睨むなら最初からそうすればいいのに」



 ソルジャーたちに睨みを利かせたはずが、ニーナに睨まれたエインズたち。おそらくなぜ睨まれたのかは分かっていない。全く声を潜めていない1人と1匹の会話が終わったところで、魔王は1つ咳払いをして、続きを再開する。



「魔族は、人族とこう約束した。魔族は人族に恐怖を与え、また恐怖を吸い取り、人族は魔族を危険から守り、住む土地を与えると」


「恐怖を与える? 吸い取る? 人族が魔族を守るだと?」



 エインズは魔王が話しているのにまた遮ったと、ソルジャーに対して睨む。どうも真意が伝わっていないと分かったニーナは、エインズに対し、もう魔王の話を聞くことに集中するようにと伝えた。



「魔族はこの世に恐怖の感情がなければ消える存在。そして、人族は恐怖が溢れたなら破滅する存在だ。世界には均衡というものがあり、それが崩れたのが先の大戦だ」



 魔王は具体的な事例も交え、丁寧に説明をしていく。


 魔族は人族を襲うふりをし、少なくとも実際に人族を傷つけたり、殺したりはしない。人族は魔族への恐怖を人々に抱かせながらも、魔族に危害が無いように討伐や拘束を妨害する。


 そうやって真実を隠し、必要な恐怖を煽り、同時に討伐されないように人族から情報を得ていたのだと。


 そして時々起きている人族が殺されるなどの被害は、言わば魔族の禁則を破った奴の仕業なのだ。


 そのようなならず者の魔族の取り締まりに頭を抱えている事などを伝えると、ようやくソルジャーたちは理解が追いついた。



「確かに、俺が生まれ育った村も魔族の襲来はあったが、攫われた子供は無傷、被害は家畜が1、2頭に畑が少々……」


「そういえば、集団で襲われるよりも、街道で1、2体の魔族に襲われて負傷、もしくは死ぬ事件ばかり耳に入るな」


「集団で襲われて誰一人死なないなんて、よく考えたら変だわ。相手は村人よ? 戦いも知らないのに追い払えるなんて……じゃあ、私たちは騙されていたの?」


「恐怖そのものが目的で、私たちはむしろ襲われてもいなかったのね」


「お、俺……魔族と戦って、斬った事がある。魔族は悪い奴なんだろ? なあ、そうだろう!? じゃなきゃ、俺が斬ったあの魔族の悲しそうな目は……」



 ソルジャーとしてのアイデンティティーは崩壊だ。魔族は人族の多くが真実を知らないと分かっていた。対して、今までソルジャーが斬ってきた魔族の中には、本当は罪もなく殺されていた個体もあっただろう。


 それを、多くの魔族は仕方のない事だと受け入れていた。魔王は僅かにある批判を抑えつつ、いわば世界を守って来たことになる。



「人族への復讐心で襲われても、俺たちは何も言えない立場だった……」


「好戦的な魔族がいるのも事実だ。殺されるくらいなら人族を殺す、そう考える者もいる。だが、魔族もまた死にたくはないのだ。長年守ってきた協定も、その歪な嘘のベールがいつかは剥がれただろう。それが今、この時だっただけだ」



 信じきれていない者も勿論いる。だが武器を持たない丸腰のソルジャー達を狙う魔族もいない。もう、この期に及んで魔王討伐を声高に叫ぶつもりは誰にもなかった。


 だが。



「この真実を知らされ、魔族を憎まず、恐れず、怯えない暮らしを始めたら……魔族はどうなるんだ?」


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