第三部第三章(39)グダグダな話し合い(没)
最後まで書いて没になったのですが、折角なのでこちらに上げてみます。
最初の区切りの次の段落までは本編と全く一緒です。
シュミットが直接セイチュンに来たことで、<神狼の牙>の事に関してはほぼ考助の手を離れることになった。
考助としてもクラウンが関わってくることが決まった以上、これ以上直接の関与は控えるつもりになっている。
とはいえ、コウヒの事と、塔の調査に関してはまだやることが残っている。
中途半端なままでいなくなるわけにもいないし、そのつもりもない。
コウヒに関しては、ハルトヴィンに勝って以降対戦申し込み者が殺到している状態らしい。
最終的に相手を決めるのは闘技場ギルドの役目なのでコウヒが関与することが出来ないが、闘う頻度などは口出しすることが出来る。
その権限を使って、コウヒは出来るだけ短期間のうちに大量に闘う事を宣言していた。
さっさと相手になる者がいないことを知らしめるつもりなのだ。
さらに言うと、考助の塔攻略が佳境に差し掛かっているので、早く合流したいというのもある。
闘技場ギルドは最後まで渋っていたが、コウヒの強い主張が効いたため、たった数日のうちにランカーたちと闘うという異例の事態になっていた。
ちなみに、コウヒの強い主張というのは、「そうしないとさっさと引退する」というものだ。
それを聞いた考助は、若干呆れた表情になっていた。
そんなやり取りはともかくとして、コウヒが戦いをしている間、考助たちは第五十五層から第六十層までの調査をくまなく行っていた。
結果としては、今まで見た他の階層と同じように<アエリスの水>と<ラスピカの水>は見つけることが出来たが、他のものはなかった。
更に、その二つも全ての階層にあるわけではなく、あったとしても非常に見つけにくいような場所にあった。
それらを見つけたときの考助たちの感想は、間違いなく他の冒険者達には見つかっていないだろうというものだった。
何しろ、泉がある場所の周辺は、荒れ果てた場所でモンスターすら近寄らないような場所だったのだ。
それでなくとも周辺のモンスターを狩るだけで高額な素材が取れる冒険者が、わざわざ近づいてくるとは思えなかった。
考助たちのように、全ての階層をくまなく調査するようなギルドなり組織があればまた別だが、集めた情報を含めるとそんなことをしているような団体があるとも思えない。
結局、もともとそこにあると知っているギルドなりが、それらの水を独占しているのが実態だろうと考助は考えている。
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦
考助がそんな結論を出している頃。
ギルドでお留守番をしていたエクが、訪問者を相手していた。
今回は相手が相手なので、コウヒとたまたま準備に来ていたシュミットが同席している。
相手というのが個人ではなく、団体としての訪問だったのであえてコウヒを同席させたのだ。
「それで、皆様お揃いでどうされましたか?」
エクが代表してその団体に話しかけた。
彼らは、セイチュンの代表として来たのだ。
勿論、<神狼の牙>が街の中で存在感を増してきているのと無関係ではない。
はっきり言えば、いまセイチュンで一番注目されている<神狼の牙>が、ほとんど何処との関係も持たずにやっていることに対して、意見を言いに来ているのだ。
彼らの中には、塔攻略ギルドや公的ギルドの代表まで来ているのだ。
それが、今回の話し合いの本気度を示していた。
それだけの大物を前にしていつもと変わらない様子を見せているエクに、一人が苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「どうもこうもない。いい加減、あんたの話に付き合っている意味もないんだ。そろそろ返事を聞かせてもらいたい」
いきなりそう言って来た相手に、エクは本気で首を傾げた。
「返事と言われましても・・・・・・。何か私どもに言われたことはありましたか?」
エクのその様子に、誤魔化していると勘違いしたその男がさらに続けた。
「とぼけてもらっては困る。<神狼の牙>が、今後どういう立場でいくのか、それを表に出してほしいと散々言って来たではないか!」
若干興奮したようにそう言った男は、街でも一、二を争うほどの規模を誇るギルドの代表だった。
その男の言葉を聞いたエクは、本気で驚いた表情になった。
「えっ!? 私どもは、今までそのような問い合わせをいただいたことは、一度もありませんが?」
「何を言っている! ・・・・・・おい?」
エクがとぼけていると思ってさらに続けようとした男だったが、周囲の様子を見ておかしなことに気付いた。
その男は今まで一度も<神狼の牙>に来たことは無かったのだが、他の者たちの中には直接来たことがある者もいある。
そうした者たちが、わざとらしく視線をそらすような仕草をしていたのだ。
それを見て、男はようやくエクの言葉が本当だと気付いたのだろう。
コホンと一つ咳払いをして続けた。
「まあ、その、なんだ。こちら側で行き違いがあったようだ。だが! 今日ここで、お前たちの立場をはっきりさせてもらう!」
宣言するようにそう言った男だったが、先ほどのやり取りで若干空回りをしていたように見えたのは、決して気のせいではなかった。
そんな雰囲気には気づかなかったふりをしたエクが、僅かに首を傾げて答えた。
「立場と仰いましても・・・・・・。私どもは特にどこかと手を組むとかはしないと話したことがあると思いますが?」
以前に来たミネイル商会のバルナバスにもそうだが、幾人かにはそのことは伝えてある。
今更何をいっているのだという表情になったエクに、男が馬鹿にしたような顔になった。
「お前たちは、本気で一人でやっていけると思っているのか? セイチュンにあるどの商会とも手を組まずに? 他のギルドの手を借りずに?」
言外にそんなことは絶対に無理だと言っていたが、エクは気にせず小さく頷いた。
「ええ。そのつもりですが?」
「・・・・・・本気で言っているのか?」
男はまるで狂人を見るように、エクを見た。
男にしてみれば、<神狼の牙>は商会とも手を結ばずに、ただただ塔で手に入れた素材だけを依頼で処理していくように見えているのだ。
第六十層に到達できるだけの能力があり、しかもコウヒという最高の戦闘能力を持っているギルドが、そんな小銭を稼いているのが信じられないのである。
もっともそれは、あくまでも男が知っているだけの情報で考えているからそうなるのだ。
そんな男に対して、エクはため息を吐いた。
どうやら目の前にいる男は、この中のメンバーで一番何も知らない状態で来ていると分かったのだ。
折角なので、情報を開示する意味でも<神狼の牙>について教えることにした。
「どうやらあなたも含めて何人かわかっていないようですからお教えしますが、<神狼の牙>にはしっかりと後ろ盾がいますよ?」
エクのその言葉に、関係者以外のその場にいた全員が驚いた。
まさかこうまではっきりと断言すると思っていなかったようだ。
「それはそうでしょう。あれだけ短期間でこれだけの建物を建てたり、たった数か月で塔の六十層まで攻略したり。個人の力だけでそんなことが出来ると思っていたんですか?」
エクのその言葉に、話し合いに来た者たちが沈黙した。
実際には、考助であればそれだけのことをする財力も力もあるのだが、わざわざそんなことは言ったりはしない。
そのくらいのことは気づいてほしかったという表情でエクはさらに話を続けた。
「中には、そのことを分かっていて、色々と裏で動いていたりするところもあるようですがね」
そう言いながらエクが数人に視線を飛ばすと、その者たちは視線をずらすように顔をそむけていた。
それぞれの組織で自らの持つ情報を独占しているがゆえに、<神狼の牙>のそうした裏事情も大きく広まらなかったのだが、今回はそのことが裏目に響いていた。
勢い込んで<神狼の牙>に乗り込んできたのはいいが、完全にエクに手玉に取られている状態だ。
そもそも何をしに来たのかすら分からなくなっている。
中にはわざとそうした方向にもっていっている者もいるのかもしれない。
だが、どうにもしまらない話し合いに、これまで黙って話を聞いていたシュミットは内心でため息をつくのであった。
一話を書ききって没にしたのは久しぶりだったので、こっそり上げてみました。
以前やらかした分は残念ながら残っていないので、要望があっても上げられません><
この話を書き上げて布団の中で悶々として、朝起きて考え直してスパッと書き換えることを決めました。
没の理由。
・あまりにグダグダすぎて、無駄に話が伸びそうだったので。
・仮にも長年独立を保って来たのに、ここまでグダグダな上層部はあり得ないよ。
・その他
予定ではこの話のあとに本編のように二つの水の話を入れる予定でした。
グダグダに関しては、本編の方も似たり寄ったりというご意見もあるかも知れませんが、一番の理由は二話に分けたくないという理由で没になっております。




