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捕らえた獲物の使い方

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 翌日、アララさんの農場周辺には、ウサギの影も形もなかった。

 ユキ達は、昨晩、逃げるものはそのままに、なおも残っていたウサギをすべて狩り尽くしていた。これらも、血抜き処理をしたあと便利ポーチにしまう。もう一度、消化液入りの水を撒いておいた。

 トータルで五百羽弱。一年間毎日ウサギでも食べきれない。


「どうも、お世話になりました」


「こちらこそよ! 今年はあなたが来てくれたおかげで、本当に助かったわ! でも、報酬は、本当にあれでよかったの?」


「大丈夫です!」


 報酬は、狩ったウサギその他を現物支給、で話をつけた。それと、牛乳どっさり。

 搾りたてでは便利ポーチに保存できず、鍋でいっぺん沸かしてから、ふた付きマグカップに小分けにした。・・・自分で設定しておきながら、こいつの分別基準も謎かもしれない。

 それはともかく。これで、ミルクシチューなどのレパートリーが増やせる。うれしい。


 報酬とは別に、売れ残り予定の半分の人参を、予定価格の三分の一で買った。葉は、無料で貰った。二人に手伝ってもらった加工賃も無料。

 ガーブリアから、予定価格のままでも買えるだけの金額をもらっている。しかし、グリンさんは「買い取ってもらえるだけでも助かるから」といって、受け取ってくれなかったのだ。

 残りは、アララさんがジャムにするそうだ。


「また来ることがあったら、是非寄ってくれ」

「教えてもらった料理の腕を磨いておくから!」


「はい! では、お二人ともお元気で!」


「「あなたの旅路に幸いのあらんことを!」」



 グリンさん、アララさんの農場を出発した。

 一日かけて、ハナ達が狼を追いかけ回していた辺りを探索する。農場だけでなく本集落周辺にも多数出没していたようだが、その彼らも、いなくなっていた。特定地区に、毎年集合するウサギと狼。有りなのかなぁ。どうなんだろう?


 翌日、シンシャの北の街門から見えない位置まで迂回して、[魔天]領域に向かう。


「やー、四日間、皆お疲れさんでした〜だもんね〜」


 人目につきにくい場所を見つけた。近くに沢もある。ムラクモの鞍を外し、沢で水浴びさせる。


「うーん、ぴかぴか。馬っぷりというか男前が上がったよ〜」


 ユキ、ツキ、ハナも、順番に洗ってやる。ウサギや狼の血を浴びているはずだからね。清潔にしてやりたい。

 今回も、『温風』を掛けてふかふかになった。


「これから、いろいろと作業するから、呼ぶまでは好きにしてていいよ〜」


 これでよし。


 下準備に『桶』を作っておく。

 次に、薫製箱を据え付ける。


 ユキ達の【風刃】は、ほとんどのウサギの首を一刀両断していた。なんというか、職人技? ということで、まず頭から。耳をとほほ肉を切り取る。残りは『桶』へ。

 胴体は、皮を剥いでから、内臓を取り出す。抜いた内臓は、『桶』に入れる。胴を水洗いしたあと、水気を切る。適当な大きさに捌き、塩を振り、しばらくおいておく。その間に、次のウサギに取りかかる。


 数羽の処理済みの肉がたまったところで、薫製箱に入れる。トレントの根をくべて、薫製開始。

 出来上がれば保存容器に移し、次の肉を薫製箱に仕掛ける。


「ユキ〜、ツキ〜、ハナ〜。食べる〜?」


 一頭に一羽分を差し出す。最初、匂いを確かめていたが、すぐにかぶりついた。


「ムラクモのはもうちょっと待ってね〜」


 すまん。ウサギの数が半端無いんだよ。


 すぐに薫製にしないウサギは、皮と内臓の処理が終わったら、そのまま便利ポーチにしまっていく。皮も、一旦は便利ポーチにしまう。

 ウサギの皮剥ぎと内臓の処理が終わったのは、丸一日経ってからだった。・・・よく、一日ですんだものだ。


 

 気分転換も兼ねて、人参でグラッセを作り、ムラクモに食べさせる。待たせた分、よりおいしく感じるのは馬でも同じなのか。ほくほく顔で食べている。取り分けておいたグラッセと、できたての薫製肉で、自分も一休み。


 作業はまだまだ終わらない。


 どのモグラも、運良く頭に槍が刺さり、よい毛皮がとれた。モグラも、内臓を抜いた。試しに、一体を薫製にしてみる。癖はあるものの、ヘビ酒のつまみにちょうどよかった。ので、半分は薫製することにした。残りは、時間が空いた時に、別の料理に挑戦してみよう。

 狼の肉は、自分には臭みが強すぎて食べられない。ハナ達も見向きもしなかった。ので、毛皮だけを残して、『桶』に入れた。


 あとは、『昇華』を起動して、不可食部位の処分は終了。


 でもなかった。今度は、皮の鞣し作業だ。


 まあ、便利ポーチに入れておけば劣化しないから、生皮でも売れるけど。今のうちに鞣し作業をしておいた方が、すぐに使えて便利だし。

 ということで、今度はロックアントの大鍋を用意。鞣し作業で出てくるくずは、それに入れる。

 狼の皮は、さくっと加工をすませた。ウサギの皮の鞣しは初めてだ。魔獣よりも薄くて、慣れないうちはあちこち破いてしまった。モグラも同じく。


 まだ残っている。ウサギの耳だ。体が大きい分、耳の大きさもそれなりにある。毛質もいい。つまり、捨てるには「もったいない」。


 ものは試しで、やってみた。

 耳の中と外を慎重に切り離す。内側は、廃棄。外側の皮に残っている血管などを丁寧にはぎ取る。ただ、力加減が難しい。ウサギ本体よりも丁寧に作業する。あとは、他の皮と同じように鞣す。これまた、力加減が〜


 これも「技」、ですよね? 師匠。


 やはり数枚は失敗した(破れた)が、なんとか使えそうなものに仕上がった。お嬢様方のドレスを飾るのによさそう。半端ない枚数があるので、これだけでもドレスにできそうだ。自分じゃ、豚に小判、だけどね。


 鞣し作業は四日かかった。ぜいぜい。


 とにかく! 無駄にはしなかった!


 ロックアントの大鍋の中身は、途中で食べたウサギやモグラの骨も追加してから『焼滅』で処分。

 前は焼け残っていた骨が、さらっさらの灰になった。

 

 鞣し作業の最中にも薫製は作り続けた。トレントの根を使った薫製など、人前では絶対にできないし。時間のある時に作っておかないと、すぐに食べられないからねぇ。でも、まだまだウサギは残っていたりする。・・・気長に行こう。


 グラッセと葉のバター炒めも、作った。だって、あれば、すぐにご褒美あげられるでしょ? 自分も食べられるし、一石二鳥!


 ・・・一通り、料理を作り終わるまで、「調査」のことをすっかり忘れていた。



 ウサギ事件の後始末が終わってから、四頭に声をかけた。


「これから、[魔天]の奥に調査に向かうけど、どうする?」


 自分の魔力をうけた影響で、他の魔獣から警戒ないしは襲撃される可能性がある。自分一人なら、樹上などに退避できる場合でも、彼らは逃げ切れないかもしれない。できれば、ここで待っていて欲しい、そう、説明した。

 とたんに、ユキ達は自分にべったり張り付いてきた。ムラクモは、鞍に付けられた鞍袋をちら見する。


 そうだった、卵を預けたまんまだった。

 ムラクモが影に入る時、鞍や手綱は持っていけるのに、卵の入った鞍袋だけは取り残された。自分の影は、相棒達以外のナマモノを拒否するようだ。・・・う〜ん、便利ポーチの親戚だったか。


 というわけで、卵の袋を新調する。

 内袋はモグラの毛皮、外袋はウサギの毛皮にエト布(エルダートレントの略!)を内張りした。エト布はロックアント同様に魔力を通さないし、トレントよりも丈夫なはずなので、中の卵の保護になるだろう。内側の毛皮はクッション代わり。

 外側は、なんていうか、おしゃれ? ほら、小さい子はふわふわもふもふが好きだし、ちょっとでも、気分が明るくなるっていうか。いや、卵の話だから。自分が身に着けたい、とかじゃないから!



 その日は、夕飯にウサギの丸焼きを作った。

 ユキ達肉食組は、喜んでかぶりつく。う〜ん、今あるウサギを食べ尽くしてしまったら、どうしよう。西側では、こんな大きなウサギはいなかったし。また、獲りに来るしかないかな? でも、当分は必要ないな。まだまだある。


 翌朝、広げていた道具達をすべて片付け、キャンプ地を離れた。ムラクモがいるので、薮の深いところには入らない。また、[魔天]東部をくまなく調査する気もない。調査地点は、火山に近い地点、南東、今いる辺り、北部に絞った。


 『隠鬼』を発動しつつ、移動する。

 ムラクモの先に立ち、一気に火山の方に駆け抜ける。乗ったら、頭ぶつけそうな気がして。不満そうだが、我慢してもらおう。ユキ達は影に入っている。


 火山の麓までは行かない。[魔天]領域には、火山灰は降ってきていないようだ。


 夕方に到着し、そこで一泊した。

 翌朝、調査を行う。トレントとドリアードの生息数を調べる。どちらも西側よりやや少ない。獲りすぎている様子はない。多分、これが平常の状態なのだろう。


 午後から、領域南東側に移動し、周辺を調べる。昨日の調査地点とほぼ変わらない。そこでも一泊した。


 翌朝、今度は、北に向かった。

 自分だけなら、その日のうちに予定地点に到着していたけど、さすがのムラクモも自分の全速にはついてこられなかった。

 暗くなる前に、その日のキャンプ地を決める。そこで、ムラクモはがっくりとうなだれていた。自分に追いつけなかったことがショックだったようだ。


「ほら、森の中だし。足場がよくなかったから。ムラクモ、草原ならどんとこいだよね? 生ものをたくさん運べるのもムラクモだけだし〜」


 目に涙を浮かべている。

 まあ、草原だろうがどこだろうが自分はムラクモより早いし、かさばるのが嫌なだけで、生ものの運搬だってできるんだけど、そう言って慰める。


「大丈夫、みんな自分の相棒だから。置いていかないから」


 とうとう、顔をすりつけてきた。頭をやさしくなでる。


「うん、大丈夫。ついてきてくれるんだよね?」


 ぐしぐしと、顔を押し付ける。ああもう、かわいいやつ!

 その晩は、グラッセとかバター炒めを食べさせた。ハナ達にも、薫製肉を出してやる。

 翌朝、ムラクモはけろっとしていた。・・・昨日のしおらしさはどこにいった?


 キャンプ地周辺を調査することにした。ここは、おそらく、まーてんよりもやや北に位置している。土地の魔力は「周縁部」程度。そして、トレントとドリアードの分布は、今までの調査結果とほぼ同じ。

 

「じゃ、領域に入った地点まで戻ろうか」


 ムラクモが首を傾げている。


「そこで調べたあとは、シンシャに行って、レウムさんの奥さんに挨拶しておこうと思って」


 納得したようだ。そうだよ〜。君たちの命の恩人の奥さんなんだよ。できれば、会わせておきたい。・・・それとも、絶叫されるかな?


 そんなことを考えながら、出発した。


 夕方前に、最初のキャンプ地に無事到着した。

 一泊して、翌朝、調査を行う。ここも他と変わりなし。


 調査期間中、魔獣達に襲われることはなかった。『隠鬼』がうまく効いたようだ。よかった。


 結界の中から、魔獣達の種類を見て取る。西側で見かけない種類がいた。三翠角などその筆頭だ。逆に、東側には見つからない種類もいた。

 二千から三千メルテの山脈は、それなりに影響があるってことか。


 密林街道は、それらをやり取りする重要な存在だ。早く、火山の活動が収まるといいな。

 毛皮の鞣し作業は、主人公が魔力を駆使した結果とても短くなった、ということにしておいてください。普通は、もっとかかるはずです。


 #######


 内臓の処理

 [魔天]では、魔獣が内臓や血の匂いで集まって来るのを防ぐためにロックアントの消化液で分解している。その習慣と、大量に出たこともあり、森に返すのではなく魔力で分解した。

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