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ガーブリア

304


 街門で身分証を見せ、街に入る。


 街門を入ったところで、隊商と分かれた。

 商人さんは、この街で取引した後、またローデンに行くのだそうだ。護衛代を渡そうとしてきたが、馬車に乗せてもらったからといって断った。


「お気を付けて」


「お嬢さんこそ。また、お会いできるといいですな」


 そういって、握手をした。


 ガーブリアの街は、ローデンとは雰囲気が違う。「おっとり」している、と言ってもいいだろう。人々は、ゆったりと街中を行き交う。異国の衣装をまとう人も多い。

 のんびりと観光してまわりたいところだったが、そうもいかない。特に温泉! ほんとうに、こんなときでなかったら〜。


 ギルドハウスの場所を教えてもらい、そこに向かった。


「はじめまして」


「ようこそ、ガーブリア・ギルドへ。ご依頼でしょうか?」


 受付のお姉さんがそう聞いてくる。このお姉さんもすごい美人。じゃなくて!


「いえ、ローデン・ギルドからの使いなんです。これをギルドマスターに渡していただけますか?」


 紹介状と被害予想リストを預ける。


「身分証を確認させていただいてもよろしいでしょうか」


「はい」


 通常のカード確認装置ではなく、受付カウンターの上に紋章を映し出す。


「! 失礼致しました! こちらの部屋へ!」


 他の街の人にも、「ギルド顧問」というのは別格、なのかな?


 応接室らしきところに案内され、お茶をいただいた。お、緑茶だ。お茶請けは羊羹。これはいい!


 和風のおもてなしを堪能しているところに、背の高い、貫禄ある女性がやってきた。


 立ち上がって迎える。


「どうぞ、お楽に。私が、ガーブリアのギルドマスター、グレスラです。どうぞよろしく」


「はじめまして。猟師のアルファといいます。縁あって、ローデンのギルド顧問を押し付けられています」


 そう挨拶した。本当だもん。


 席を勧められたので、着席する。グレスラさんも向かい合って座った。お茶のおかわりが用意された後、二人きりになる。


「あ〜のポンコツが、何の冗談を言ってきたのかと思ったけど。噂はほんとうだったか」


 あれ? 口調がさっきと違う。


「えと、ヴァンさんとお知り合いで?」


「腐れ縁よ! まあ、そのうちにいろいろ教えてあげるから。それより、持ってきた書類、どっちが本物?」


「紹介状が建前で、本命はもう一つの方です」


「ふむ・・・」


 羊羹をいただいている間、書類とにらめっこしている。


「うあ〜、肩凝った!」


 感想が、それ?!


「ポンコツの字は汚すぎて読むのが大変なんだ〜」


 あ〜、理由はそれですか。


「ま、とにかくそういうことですので」


 と、席を立とうとする。が、


「なにが「そういうこと」よ。来たからには、ちょっとぐらい手伝ってくれてもいいじゃない!」


「え〜、知らない街でこんな大事にどんな手伝いが出来るって言うんですか!」


 そもそも、ローデンを追い出されたのが、その手のごたごたに巻き込まれないようにするためだとゆーのに。


「アルさん、で、いいよね。足は速い?」


「? ええ、まあ、それなりに」


「出張ってる野郎どもに、伝言頼みたいの」


「出張ってる?」


「ほら、この辺からは、魔獣が狩れるところって遠いからさ。採取拠点の村があってね、そことここを行き来してるんだわ。今、手頃なやつがここにいないもんだから。ね? 頼まれてくんない?」


「村って、どの辺にあるんですか?」


「北西に馬車で三日って所ね」


「それって!」


「そ。アルさんの言う「火山」のお膝元。だから! お〜ね〜が〜い〜っ」


 両手を会わせて拝むグレスラさん。


 コンコン。


 そこに、扉を叩く音がした。


「どうぞ」


 とたんに、お澄ましモードになるグレスラさん。うわぁ、切り替え速いわ。


「失礼します。王宮より「アルファさま」のお迎えが参りましたが」


「「?」」


 ここの王宮にゃ、なんの用もないはずだけど。そもそも、なんでここに居ることを知っている?


「用件は何か聞いてますか?」


 真面目な顔でグレスラさんが確認する。


「是非、相談に乗って欲しい、としか。こちらをお預かりしてます」


 手紙だ。その場で読ませてもらう。が、脱力した。


「? どうかしましたか?」


「グレスラさん、どうぞ」


 手紙を見せる。


「・・・あんにゃろうども。ちったあ仕事しろい!」


 グレスラさんが、握りつぶした手紙を床に叩き付ける。


 ことが起きた後の対応策を指示して欲しい、とかなんとか。

 被害予想と各種対応策までがっつり書き込んでおいたはずなのに。まして、なじみのない初めての街で、これ以上、自分に何が出来るってんだ。


「え〜と、返事を書きますので、待っててもらってください」


 トレント紙を取り出し、間接的表現を駆使して「自分の頭で考えろ!」としたためる。下手に関わったりしたら、あとでアンゼリカさんの雷が落ちる。まちがいなく、落とされる。ぶるぶる。


 ついでに、湯治客は、大至急、避難させることも付け加えておく。


「他所の国からも来ているんですよね?」


「そうだよ。大事なお客様」


「彼らが被害にあっちゃったりしたら、評判、ガタ落ちになりますよね?」


「このまま、なんの対策も採らなければ、ね。避難しても何も起きなかった、というのはまだいい。ごめん、で済ませられる。だけど、人命がかかってる。被害を被ってからでは手遅れよ」


 グレスラさんも、そう判断したか。


 湯治、というだけあって体の弱っている人も多い。彼らを連れ出すためには、何台もの馬車が必要だ。避難指示もそういう物の手配も、自分には手出しできない仕事な訳で。

 手紙には、その辺も懇切丁寧に説明もとい言い訳しておく。


「ポンコツが街から放り出すわけだ。アルさんは、さっさとここから出た方がいいね。あたしの指名依頼ってことで、狩猟村にいってもらおう。ついでで、野郎どもへの伝言も頼むわ」


 同じテーブルで、グレスラさんも手紙を書き始めた。仕方がない、けど、伝言するだけだからね?


 ほぼ同時に書き終える。

 自分は、依頼書と手紙を受け取った。かわりに、王宮宛の手紙を渡す。


「アルさんに、これを預ける。狩猟村の責任者のノルジに渡して。裏口から街門まではあたしが案内するから」


「ちょっと待って! 自分、この辺の地理を知りませんよ。せめて地図見せてください!」


「ああっ、すまない! 使者にはこれを渡して、「すでにお発ちになられました」と言っといて。それから、この辺の地図を裏口に持ってくるように誰か頼んで! もちろん、使者にばれないように!」


「了解しました!」


 お姉さんが部屋から飛び出していく。自分たちは、足音を立てないようにこっそりと裏口へ向かう。途中、こそこそ話をする。


「(ヤバい書類はまだ数がある?)」


「(はい、それなりに)」


「(一部、ノルジに渡してもらえる? あいつなら、それがあれば、途中で巻き込まれても対処できるから)」


「(わかりました。グレスラさんには、これを渡しておきます)」


「(? なに?)」


「(変なあだ名のついたナイフなんですけど、お近づきのしるしに)」


 変なナイフ、通称「不殺のナイフ」を渡す。


「(へえ、結構いいもんもってるじゃないの)」


「(まあ、有効に使ってくださいな)」


 裏口にきた。年配の男性が、丸めた地図を渡してくれる。


「(地図の返却は?)」


「(そんなひま、ないからね。アルさんにあげるよ。

 あいつらに連絡してくれたら、そのまま北に向かって。一応「調査」って名目があるわけだし、王宮も無理は言えない。こっちでもフォローしておくから)」


「(ありがとうございます。よろしくお願いします)」


 ギルドハウスから裏道をかいくぐり、街門まできた。ギルドマスターの顔で、押し通る。


「あいつらを頼むね」


「みなさんも、ご無事で」


 そういって、分かれた。


 なぜ、案内のハンターを付けてもらわなかったか? 

 自分の足が速すぎるから。馬さえもぶっちぎりで走っていける。人前ではやらないけど。ノーンからローデンに戻った時、みんな、早い早いって言ってたから、うわさはその話なのかな?

 ちなみに、馬の全力疾走はそう長時間続けられない。自分は多分丸一日いける。こないだの魔力増量後、持久力も増えてしまったらしい。自分の体は、どこまでいくんだ?


 そんなことを考えながら、道を急ぐ。狩猟村への直通らしく、行き交う人は誰もいない。それなら、と一気にスピードをあげた。


 ガーブリアの街門を出た日の夕方に、狩猟村に着いた。


 門番替わりに立っていたハンターさんに、グレスラさんからの伝言を伝える。すぐさま、人が呼ばれてきた。


「初めまして。ノルジです。うちのギルドマスターからの伝言ですか?」


「これを」


 手紙と資料を渡す。


 近くの家に上がり込み、詳しく読み始める。


「今、何人ぐらい滞在しているんですか?」


「たしか十八人、だったよな?」

「おう、もう夜だし、全員そろってるぜ」

「ハンター以外の人はいませんか?」

「一応、魔獣が襲ってくるかもしれない場所だからな、めったにはこないぜ」


「アルファさん!」


「はい」


「あなたの見立てでは、どのくらい猶予がありそうですか?」


「西側からの観察では、もう、いつ活動が活発になってもおかしくなかったです」


「では、明日の朝にでも出発します」


「素材は、全部持っていってくださいね」


「おい、荷物にならねえか?」

「足が遅くなるぞ?」


「たぶん、これから収入は減りますよ? 少しでもお金になる物は確保した方がいいです。薬草類は、絶対に街で必要になりますし。

 皆さんなら、大丈夫!」


「おだてるのがうめえや」

「だが、もっともな話だ」

「もうけを捨てて帰っちゃ、姐さんに殴られるしな」

「そういや、そうだ」


「自分はこのまま山に向かいますから、あとはよろしく」


「「なんだと!」」

「一緒に戻らねえのか?!」


「東側の様子も見ておきたいんですよ。これも、調査の一環てことで」


「・・・死ぬぞ?」


「大丈夫。逃げ足だけは速いから♪」


「「「そういう問題じゃねぇ!」」」

「やぁ、姐さんが単身こっちによこすわけだ」


 ノルジさんが感心している。


「とにかく、今夜はここで休んで。おい、日持ちのしない食料は全部使え! 手すきのものは荷造りを急げ!」


 その晩は、狩猟村での宴会にお呼ばれした。ついでに、近辺の情報も教えてもらった。


 翌朝、彼らと別れた。

 


 あたりの魔力もさぐりつつ、火山の方へ足を進める。西側のこのくらいの標高ならまだ[魔天]領域内だが、ここは全くの普通の森だ。柔らかな腐葉土を踏みしめて、さらに奥へと向かう。


 やがて、あの山が見えてきた。手前に、小さな丘をいくつも従えている。たぶん、昔の火口跡だろう。その丘と、山頂の中間ぐらいから、白色の煙がいくつも立ち上っているのが見える。

 地下を探ってみた。魔岩のかけらは見当たらない。魔震による暴走は避けられそうだ。マグマは、上昇途中で、二本に分かれている。西側の火道の方が細い。


 ぎりぎりまで、ここで観察を続けることにした。


 翌日、西側斜面で噴火が始まった。

 山頂を超えて、火口から噴石が飛んでくる。火山灰は風に流されて、山脈の東側に降ってくる。やがて、火口から溢れた溶岩が、斜面を流れ始めた。

 直接見たのではなく、魔力で溶岩の動きを読んでいる。なので、どんな被害が出始めているかは、わからない。


 あのトレントが無事だといいんだけど。

 ガーブリアからも、遁走。


 #######


 ガーブリア王宮が主人公の居場所をつかんだ理由

 街門で身分証を見せた上、訪問目的も正直に応えてたから。さらに、門兵は、万が一主人公が訪れたら、すぐに王宮に知らせるよう命令されていた。

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