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前兆

新章、始まりました。

301


 新しい砦は、元々建築予定だったところに、複合魔法陣の為の設備を追加しただけだったので、予算的にはさほど苦しくはなかったらしい。ただ、工期を短縮させた分、石材を供給する採石場は大変だったそうだ。


 国内外のお偉いさん方は入れ替わり立ち替わり訪れ、その度にお披露目会が催された。もちろん、自分はそのお誘いをぶっちぎった。やってられるか!


 それなら、と、さらに大量の財宝が届けられる。いやほんと、いい迷惑だ。


 頭にきたので、強硬手段を取ることにした。


 ロロさんを説き伏せて、王宮の宝物室に案内してもらう。

 彼女は、本当に国王陛下直筆の「賢者殿御免状」を与えられていた。それを宝物室の監視兵士さんに見せて、入室許可を得た。自分は『隠蔽』をかけた状態で同行し、宝物室の一角にすべての「ご褒美」を並べ立てた。目録もちゃんと添えておく。


「・・・よろしかったのでしょうか?」


 さすがのロロさんも、宝物室への侵入は予想外だったようで、かなり不安そうだ。だが、


「自分が強権を発動したといえば、ロロさんへのお咎めはないでしょ? ここに入ったこと自体が問題だ、ってなれば、それこそ自分の身分を取り上げてローデンから放り出してしまえばいいんだし。・・・いっそ、そうしてくれないかなぁ」


「・・・」


 ついでに、一番大きな水晶の石臼も、でーんと据えてきた。ふふん。


 全部放り込んだ後、王宮関係者に「あまりにも分不相応な品々に不安がありますので、是非そちらで預かっていただきたい」という手紙を送りつけた。「管理を任せるので、好きに使ってくれてかまわない」、という一文も付け加えてある。


 ギルドハウスの執務室で、ヴァンさん、トリーロさん、侍従さんロロさんコンビにも報告する。共犯者にさせられたロロさんも含めて、皆、絶句している。


「先日、お預かりしたお手紙が、もしかして」


「もしかしなくても、です」


 ふんぞり返って開き直る自分。


「お嬢・・・」


 ヴァンさんはそれしか言わない。


「顧問殿、いくらなんでもやり過ぎでは・・・」


「片っ端から粉砕するよりはいいと思ったんだけど」


「! それこそやり過ぎだ!」


「だから、穏便な手段にしたんですよ?」


「「「どこが!」」」


「自分の魔術研究は趣味です。本職は猟師! 光り物ぶらさげて狩は出来ません!」


「あれを、「趣味」と言われるとは・・・」


「そりゃそうなんだろうがよぅ・・・」


 侍従さんとロロさんは、なんかもうふらふらしている。そんなに変なこと言ったかな?


「侍従さん、ロロさん? 次に、どっかから届けられたら、即、宝物室に入れといてくださいな? はい、これが指示書。トリーロさんは、返事にはさっき渡した手紙をだしてもらえますか?」


「「「・・・」」」


 これで、片はついた!


「そういや」


「なんです?」


「お嬢、さっきから東の方ばっかり気にしているようだが。やっぱり、砦の実物が見たいんじゃないのか?」


「あれ? そうでしたか?」


「僕にもそのように見えましたけど」


「お披露目のときにも、魔法陣に問題はなかったんでしょ? なら、別に行く必要はないですよね」


「じゃあ、なんなんだ?」


「さあ、なんなんでしょ?」


 無意識に顔を向けているようだが、自分でもよくわからない。ふむ、ごたごたも一段落ついたし、調べにいってみようかな。



 初めて、ローデンの東の街門から出る。それでも、門番さんはどこかで見知っていたようで、「お気を付けて」と声をかけてくれた。


 砦には向かわない。見る気もしない。森に入ってから、足の向くままに東に進む。



 ハンターが狩をするときぐらいの速さで歩く。森の様子もうかがうが、それほど異常は感じられない。それでも、自分の足は止まらない。何かにせかされるような、追い立てられるような気分。


 さすがに、自分でもおかしいと感じ始めた。


 そのとき


 ぎぎゃぎゃぎゃぁ。


 辺り一帯から動物達の絶叫が響き渡る。強烈な魔力のうねりが自分自身をもかき乱す! 思わず、変身して所構わず暴れたくなる衝動に襲われた。


 まさか、これが暴走の引き金?!


 しかし、さほど時間をおかずに変動は治まった。森も、普段の落ち着きを取り戻す。


「・・・さっきのは?」


 軽く、息があがっている。

 まーてんの濃厚な魔力の影響をものともしない自分が、我を忘れてしまいそうになるなんて、始めての経験だ。なんていうか、嵐の中の小舟に乗せられていたかのような感じ。しかも、うねりは地下から立ち上がっていた。


 絶対に何かがおかしい。


 まだ、小刻みな変動がやってくる。地震ではない。魔力の振動、魔震とでも言えばいいのだろうか。慎重に、うねりのきた方角を探る。どうやら、東の方に震源があるようだ。


 森のまだその先、山脈の山裾をさらに登る。もう少しで森が切れる地点まできた。


 また、大きな魔震がきた。


 震源に近いところにいたせいか、今度は衝撃で気絶しそうになる。しかも、周り中の魔獣達は狂ったように転げ回っている。このままでは、本当に氾濫が始まってしまうかもしれない。


 なんとかしなくちゃ!


 近くにいたトレントの根元に座り込み、竪琴を取り出す。自分自身を落ち着かせるためだ。自分が正気を失って暴れるようなことになってしまったら、もうとんでもないを通り越した事態になってしまう。


 指先を動かすことだけに集中する。


 思いつく限りの子守唄をつま弾いた。乱れ飛ぶ魔力の大波をそっと撫でさするように、自分の魔力ものせて奏でていく。暴れるな、落ち着け、大丈夫だ・・・。


 

 泣かないで

 傍にいるから

 もう、おやすみ


 まーてんにもこのうたが届くかな


・・・・・・・・・・・・・


 いつの間にか気絶していた。気がつけば、竪琴を取り落としている。全身が重く、だるい。指先は震えて、竪琴を取り上げることも出来ない。


 自分の魔力は、ほぼ、空になっている。魔力枯渇症を自分で体験することになるとは、思ってもいなかった。


「うわぁ、こりゃひどい」


 苦笑しつつも自分で出した声さえ、掠れ、震えている。今の魔力の枯渇状態では、結界を張るのも無理だ。便利ポーチから、非常食を取り出すことさえ出来ない。


 変動は、治まっている。


 そして、じきに、正気を取り戻した魔獣達が自分に気づくだろう。猟師としてたくさん食べてきた自分が、今度は食べられる番になっただけだ。


 ・・・まあ、いつかは死ぬものだし。


 借りていた魔術書は、実験終了直後に返却した。殿下の私本は、「ご褒美」と一緒に宝物室に放り込んである。

 なにも、問題はない。


 力を抜いて、地面に横になる。


 ここは、まーてんではない。大地から魔力を貰うことは出来ない。ただ、疲れたから、寝転がった。


 トレントの枝葉を透かして、空が見える。もう夜だ。兄妹の月が、昇っている。きれいだな。


 ぽとん


 ?


 自分の上に、何か落ちてきた。気力を振り絞って、手に取る。それはトレントの実だった。


 思わず、齧りついた。


 種を残して食べ終わると、また一つ、落ちてくる。


 自分を食べるつもりなのかな?

 トレントも、エルダートレント同様、移動前にすべての実を落とす。動き回るときには、蔦を生やし、近くの魔獣をとらえて食べる。


 まあ、いいか。今は、ありがたくいただこう。


 落ちてきた実を、その都度食べる。食べ終わると、次の実がまた落ちる。偶然なのか、どれも自分の膝の上に落ちてくる。


 やがて、そのトレントの実をすべて食べてしまった。


 それでも、トレントは動かない。蔦一本、生やさない。


 ・・・もしかして、助けてくれた?


 魔力量は、それなりに回復していた。まーてんに戻るくらいは出来そうだ。


「ありがとう」


 幹に手を当てて、礼を言う。竪琴を拾って便利ポーチにしまう。


 そういえば、魔獣達も襲ってこなかったな。


「ありがとう」


 もういちど、礼を言って、ふらふらと歩き出す。何度も休憩し、数日かかって、ようやくまーてんにたどり着いた。


 帰り道の途中でも、だれも、襲ってこなかった。



 まーてん山頂に登る元気はなく、麓の岩壁に背中を預けて回復を待つ。薫製果実やドリアードの煮汁をすべて平らげても、なかなかよくならない。

 なんとか飛べるようになって山頂に向かった後も、ずいぶん長いこと横になったままだった。手足に力が入らないし、頭を起こすと目が回る。


 普通に動き回れるようになるまで、山頂から降りなかった。

 魔力量に限界があったことに驚いた。それよりも、そこから復活してしまう自分の生態が一番の驚きだ。


 動けるようになって、麓に降りて、そして、魔力量が倍増しているのに気づいた。

 慌てて、魔術の威力や筋力を調べる。脱皮後並にコントロールが狂っていた。このままじゃ、街に入れない!

 そりゃもう念入りに、毎日くたくたになるまで修行し直した。


 修行の合間に、魔震について考える。

 あれは、結果であって原因ではない。あのときは、森の乱れた魔力を落ち着かせるのが精一杯だった。詳しく調べるためには、もう一度、あそこに行く必要がある。


 怖くない、と言ったら嘘になる。魔力量が大幅に増えたからといって、あの衝撃に耐えられる保証はないから。だけど、原因が判れば、今の自分の全力で対応できるかもしれない、と、希望を持つことにした。



 コントロールも復調したところで、再び、東へ向かう。


 あのトレントのところまで来た。また、ちゃんと実を付けている。


「こないだは、助かったよ。ありがとう」


 もう一度、声をかけた。どう致しまして、と言わんばかりに、手の上に実を一つ落とす。ありがたくいただいた。


 前回ほどではないが、微弱な魔震を感じる。震源のある方向を、慎重に魔力で探る。・・・魔力って、こんな使い方も出来るんだねぇ。


 それはともかく。


 震源は、麓ではなく、山体の奥深くにあった。さらに探ってみる。魔岩ではなく、巨大な熱源体を見つけた。


 数日間、観察を続けた。


 それは地下深くから、山頂に向けて移動している。


「・・・マグマだ」


 観察していて、先日の魔震の原因は、地下の魔岩を上昇中のマグマが打ち壊したことで起った、と推測した。今も続く魔震は、くだけた魔岩が溶かされるときに発せられている。

 魔震だけではなく、ごく弱い地震も起き始めている。


 マグマの上昇は止まらない。この調子なら、いずれ地表に達するだろう。



 火口が出来るであろう山に登って、山体東側を見る。


 なだらかに続く斜面には、たくさんの集落があった。

 いきなりな展開です。


 #######


 魔力による地下の探索

 【地】系統の魔術で調べられる。普通は、魔法陣を使っても、十メルテぐらい。主人公は、地下十数ロメルテ(キロメートル)まで探った。

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