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228


「俺たちに、話したのはなぜだ?」


「訊かれたから」


「「「それだけ?!」」」


 妄想とも思える自分の予測なんぞ、訊かれもしないのにぺらぺらしゃべるわけないでしょーが。人によっては、偏執狂とか被害妄想とか言われかねないし。


「〜〜〜賢者殿。この、テーブルの、上の、ものは・・・」


「内緒話をする術具」


「魔法陣ではないのですか!」


「練兵場で最初に結界を張る時に見てませんでしたっけ?」


「あれも?!」


「自前でいじりすぎて、既存の魔法陣とはまるっきり別物、といってもいいようで。自分の術具、ほかの魔術師さんには使えなかったんですよ。だからこそ、魔術師さんにも使えるように、あれこれ実験してたんですけどねぇ」


 くそう。どこが足りないんだ?!


「そうだ、団長さん?」


「な、なんでありますかな?」


「魔法陣は魔術師でないと使えないものですか?」


「そうでありますが?」


「魔道具は使えますよね?」


「あれには、ごく単純な魔法陣と魔石が組み込まれておりましてな」


 トリーロさんが、湯沸かしの魔道具を取ってみせてくれる。底が二重になっていて、ふたのようになっている。開くと、本体側には図形とその中心に小さな石がはめ込まれている。


「誰にでも作れそうに見えますが」


「本体にも何やら細工されているそうでしてな。工房の秘中の秘だそうですぞ」


 慎重に構造を探ると、確かに、側面の構造体内部に、なにやら「線」が走っている。


「もっと大きな魔道具だと、どんなものがありますか?」


「肉を冷やして保管する箱とか、もっとたくさんの湯をあっためるやつとか、ほかはなんかないか?」

「王宮の大広間の灯は、壁や天井にあるものも含めて一式になっていて、まとめて明るくしたり消したりできますぞ」


「全部、魔石が必要なんですか?」


「そうだよな?」

「使っておりますぞ。ただ、大広間の灯に使われる魔石は、滅多にない大きなものなので、すばらしく高価でしたが。しかも、魔石は消耗品でしてな。時間が経てば使えなくなるものなのです」


「う〜ん」


 できるかどうかは、やってみなくちゃ判らないが、ネックは「魔石」かぁ。

 紙を取り出して、いくつかの図形を書く。


「お嬢?」


「団長さんの話を聞いて、こんなのを考えてみたんですけどね」


 離れたところの輝石を同時に光らせられるのだから、ほかの術の起動もできるだろう。魔法陣一個で大きな結界を作るのではなく、小さな魔法陣をたくさん並べて、同時に起動する。全く同一の魔法陣ならば反発はしないはず。それを、図にしてみせてみる。


「ほう」

「こりゃぁ」

「綺麗な図ですね」


「規模の小さい結界なら、複雑な魔法陣は必要ない。離れたところからの指示で、同時に起動するための術式だけ追加すればいい。それは、すでに魔道具で実績があるし。あとは、持続時間とか、魔法陣の数とか、それと、使いどころとかを検討すれば・・・」


 小さな円が魔法陣だ。黒丸が魔石。黒丸を取り囲むように、小さな縁を並べたもの。小さな円を六角形になるよう配置して、そのうちのいくつかを黒丸にしたもの。


「丸いのは平面図、もう一つは横から見たもの。街壁に取り付けたと仮定してみました。六角形の所々に入れた魔石で結界を維持し、丸い円の中央にある魔石で、結界の起動、停止を指示する。どうでしょう?」


「・・・」

「おれは魔術師じゃねえ! わかるか! こんな理屈!」

「でも、これ、実行できそうな説明ですよね」

「説明だけで信用するか?」

「顧問殿の言うことですから」

「そりゃ、説得力はある程度はあるだろうがよぅ」

「問題は、魔石、ですよね? 賢者殿」


「そのとおり。さっきも言ったように、結界をどくらいの時間維持するか、によりますけどね。ただ、数さえそろえば、さほど大きくない魔石でもできると思うんですよ」


「実行可能かどうかの実験と、その材料の調達。それなりに費用が必要ですな」


「自分の研究だから、出しますよ」


「「「!」」」


「だって、無駄にいっぱい貰っちゃってるし。他に使い道も思いつかないし」


 お金は天下の回りもの! 貯めとくだけじゃ、経済は活性化しなーい!


「ただ、自分で起動実験ができないんです」


「「「え」」」


 借りた魔法陣の本を、片っ端から複写して全部試した。そして、全滅した。どの魔法陣も、うんともすんともいわなかった。ばっきゃろーっ。


「王宮からは、「もうできません!」って泣きが入っちゃったし。組合は、多分、まともに取り合ってもらえないだろうし。どうしましょ」


「「「学園・・・」」」


「しかないですよねぇ」


「ただ、持っていき方によっては、全部、あいつらの手柄になるぞ?」


「別に構いませんよ? 名誉とか手柄とか、そんなもん要りませんから」


「・・・お嬢、団長の前でそりゃねぇだろぅ」

「いえ! さすがは賢者殿! 感服のいたりです!」


「それよか、ちゃんと成果を出してくれるかどうか、そっちの方が大事です!」


「それもそうか」


「アンゼリカさんに、相談してみますか」


「「「!!」」」


 男三人が、思いっきり引いた。


「なにか?」


 みんな、顔色が悪い。


「・・・すげえことになりそうだな」

「あ、めまいが」

「私も腹痛が〜」


「だいじょ〜ぶ、だいじょ〜ぶ〜」


 魔法陣の配置図を回収し、術を解除する。


「賢者殿〜」


「はい? なにか」


「今の話を、王宮に報告「しないほうがいいですよ」・・・なぜでありましょうか?」


「だって、まだ机の上だけの話ですから」


「それは、防御の結界だけでは?」


「ギルドでまとめているのは、採取記録だけ。いつ起こるか、そもそも起こるかどうかもわからない。そんなもんに、真面目に取り組む王族が、今、いますか?」


「〜〜〜、王太子殿下なら」


「けっこうしたたかですよ? せめて、結界術が実行確実になってからでないと、逆に潰されかねません。自分は逆に踏みつぶした方ですが」


 ぶふぉっ。


 ちょうど、トリーロさんが入れてくれたお茶を飲もうとしていたところだった。


「ちょっと! ヴァンさん!」


「す、すまん!」


「団長さんと、ヴァンさん、トリーロさんも、ちゃんと話が通じるから説明しましたけど。あと、むやみやたらに暴走の話を広めちゃうと、かえって街中から暴走しかねないし。判っている人だけが判ってればいいんです」


「顧問殿。さっきの話と矛盾しませんか?」


「備えるべき人が備えていれば、あとは彼らを信じて邪魔をしない。騎士団と街の人の関係なんて、そんなもんでしょ?」


 がふぁっ。


 今度は、団長さんが吹いた。


「せっきにん、じゅうだーい。がんばってくださいね〜」


「・・・賢者殿。もしかして、私が嫌いですか? 嫌いなんですね?」


「いやよいやよも好きのうち」


 げへっ。


 トリーロさんまでむせた。


「お嬢、それ違う。絶対違う!」


「さーて、これで、本の借りは返せるよね。あー、すっきりした!」


「まて! お嬢!」


「では、アンゼリカさんのところに、いってきま〜す。トリーロさん、あとよろしくお願いしますね」


「賢者殿! お待ちを〜」


「そうだ! 団長さん? いいアイデアを貰ったお礼です!」


 秘蔵の蜂蜜酒を取り出して、強引に瓶を握らせる。これで、こちらも支払済、と。


 三人があたふたする中、ギルドハウスをあとにした。

 いやぁ、やっぱり、人に相談できるっていいよね。



 昼過ぎの[森の子馬亭]で、くだんの件についてアンゼリカさんに相談した。


「あらまあ、そういうこと」


「学園が、率先してやる気になれる持ちかけ方って、どうしたらいいですか?」


「そうねぇ、大量の寄付金とか、学生たちの不祥事をほじくり返してみるとか、もう一度どかんと見せつけてみるとか」


「・・・それじゃ、単なる脅しじゃないですか」


「その教授なら、文句いいながらでも、ものにしてくれると思うわ。あとは、彼の邪魔になりそうなものをなぎ倒す!」


「どうしちゃったんですか? 過激になっちゃって」


「だって、それくらいしないと、学園なんて欲ぼけじじいの集まりだもの。他人の足を引っ張るのが趣味というか標準というか」


「貴族みたいですね」


「確かに、どちらも似たようなものね。王宮からの賞与か、研究費かの違いぐらいかしら」


「王宮からの圧力とかでも駄目ですか?」


「う〜ん、同じ穴のむじなだし」


「・・・」


 辛口に過ぎます、アンゼリカさん。


 王太子殿下のルートは、完全に無視するようだ。信用を失う時って、一瞬だもんねぇ。


「ロロさん? 使えそうな情報はないのかしら?」


「ちょっと、アンゼリカさん? ロロさんは王宮の人でしょ? そんなこと教えてもらえるはずが」


「いえ、賢者様が必要とされているのであれば、何なりと」


「いやいやいや、いくら何でもそれはまずいでしょ!」


「何を置いても、賢者様に関することを最優先にするように、という命令は撤回されていませんから」


 ・・・王宮よ、これでいいのか?



 その後、学園長には、ロロさんが集めまくったオモシロ話をちりばめた手紙が、教授には「個人的研究費の寄付」という餌をくっつけた研究依頼書が、それぞれ送られ、どちらも「快諾」の返事を頂いた。



 学園の皆様、あとは頼みます!

 やっと、研究にめどがつきました。


 ちなみに、作者もこの話をまとめるのに苦労しました〜。

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