お友達
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ギルドの方は特に用件はないとのことだったので、今回は早めにまーてんに戻る。
種弾の補充や薫製果実を作りながら、まだ魔術のことを考える。
彼らは結界を大きくしたい。自分は小さくしたい。矛盾しているようだが、「規模」を扱うという点では一致している。自分の術弾を彼らが使用できないとなれば、やはり魔法陣に手を入れるしかない。
ペルラさんたちが「起動できなかった」魔法陣は、『防陣』のような結界をつくろうとして、同じような効果を持つ他の魔法陣から、抜き書きして組み合わせてみたものだ。
魔法陣の記述を完全に解読してはいない。そんな時間もないし。教授がやっているのも同じ方法だろう。
自分で起動できない限り、街の魔術師に協力してもらうしかない、か。
それから、いくつもの魔法陣を書き起こしては、王宮に実験を手伝ってもらった。そのうち、ペルラさんから「申し訳ありません! 忙しくなりましてお手伝いすることができません!」と泣きが入った。自分の実験に付合っているうちに、いろいろと思うところができたらしい。
ん〜、困った。
自分の研究の方は、少しずつ成果が見えてきている。なぜか、記述を増やすほど、規模の調整がしやすくなった。魔法陣では逆なのに。
まあ、専門家じゃないし。こっちは自分が使えればいいか。
そう、魔法陣では、記述を減らせば規模が広げられることがわかってきた。ただ、減らしすぎると、効果が単純すぎて使い物にならない。そのへんの兼ね合いをつめていきたいんだけど。
「こんにちわ。変わりありませんか〜」
いつものように、ローデンのギルドハウスの受付のお姉さんに挨拶する。ほんと、いつ見ても綺麗なんだよね。
「いらっしゃいませ、顧問様。ぼんくらなら、奥にいますよ」
「・・・いい加減、その呼び方、やめてあげましょうよ」
ついでに、自分の呼び方も変えて欲しい。
「ぽんこつの方がいいですか?」
「なんか、ここのギルドって、ギルドマスターの扱いが酷くない?」
「ちゃんと働いてくれるなら、考えます」
「・・・それを言ったら、自分はどうなるの?」
ほぼ、二ヶ月に一回しか顔を出してないし。
「「「姉御は姉御ですから!」」」
「顧問になられた方は、働かないのが当たり前なんです!」
受け付け周りにいたハンター達まで唱和する。
ヴァンさんが、かわいそうになってきた。
「じ、じゃぁ、執務室にいきますね」
「「「はい!」」」
執務室には、トリーロさんだけでなくヴァンさんもきていた。
「もう、ずいぶん立つのに、あの呼び方、治らないんですね」
「・・・それだけ、みんなショックだったんだよ」
「だーかーらーっ、ただの猟師がどうして注目されるというか、大騒ぎされるというか!」
「お嬢だからな」
「顧問殿ですから!」
この街の人の思考回路は、未だによくわかんない!
「もう、いいです。またしばらくこないから、その連絡にきただけですから!」
「お嬢、先、頼んでいいか?」
「?」
「ロックアントだろ」
「よく覚えてますね」
「俺は、ギルドマスターだぞ?」
「・・・そういえばそうでしたね」
いけない、お姉さんたちの呼び方に、慣らされてしまった。
「ひでえ!」
「すみません、ヴァンさん。冗談です。さっきの話なら、去年と同じ数なら多分大丈夫です」
「頼むわ」
「騎士団はどうするんでしょう?」
「・・・団長も訊いといてやれよ」
「手紙でいいでしょ?」
「王宮じゃ、しにくい話もあるだろうしな」
ってもしかして。
「・・・あれ、聞いたんですか?」
「いや、騎士どもが率先して吹聴してたぞ。「さすが賢者殿だ!」とかなんとか」
うわぁ。体育会系、まっしぐら。あれから数回、訓練に付合っちゃったら、なんというか、懐かれた。
「おかげで、団長の株が上がったり下がったり」
「? どっちなんです?」
「だからさ」
わからん。
「じゃ、今日でないといけない、ってこともないですよね? 一度[森の子馬亭]にいって、手紙でも出して返事を待って、それからでいいですか?」
「お手紙でしたら、ここで書いていかれてはいかがでしょうか? 表に侍従殿が来ておられますし」
「・・・早いな〜」
「頼んじまえよ。ついでに、久しぶりに一杯どうだ?」
「団長さんも?」
「だから、誘ってやれって」
さらさらっと手紙を書いて、トリーロさんに渡す。いや、直接侍従さんに渡すっていったんだけど、取り上げられた。ぶぅ。
「じゃあ、あとでな」
「・・・はぁい」
「なんだよ、その気の抜けた声は」
「王宮の自分の扱い方がまだ納得できない〜」
「世話してくれるっていってるんだ。ほっとけほっとけ」
「ヴァンさ〜ん!」
そのまま、ギルドハウスから放り出された。
[森の子馬亭]に、王宮から返事と手紙が届いた。団長さんと殿下からだ。団長さんの「すぐに伺います!」は、いいとして。
「また、難しい顔をしちゃって〜」
「アンゼリカさん、これなんですけど、どうしましょう」
すっかり、アンゼリカさんに相談する癖がついてしまった。申し訳ないとは思うが、頼りになるんだもん。
「あら、王太子殿下からかしら」
「相談に乗ってほしいって」
「無視しなさい」
命令形、ですか。
「具体的な内容も書いてあるので、無碍にするのもどうかと」
「読んでもいいかしら?」
「お願いします」
今までも、さんざん読んでたと思うんですが。それはおいといて。
内容は、自分の実験に付合わせてきた魔術師さん達が、半分うつ病っぽくなってしまったので、これをなんとかできないか、という「お願い」だ。
しかしなぁ。
自ら志願して実験に付合ってきた人たちなのだ。それを「なんとか」といわれても、ねぇ。
「もう少し、実験の成果がみえてくれば、「こんな実験に協力できてたんだ!」とかなんとかいって、自力で復活するとは思うんですが」
「どうしたの?」
「だから、王宮の魔術師さん達にはこれ以上協力は頼めないんです」
「あらまあ、そういうこと」
ペルラさんの自主避難だけでなく、王宮として協力「できない」とさりげなく断ってきたわけだ。
「組合は?」
「最初が最初だし、誰も手を挙げてくれるとは思えません」
「・・・それもそうね」
「まあ、焦ってもしょうがないですね。実験はしばらく棚上げにしときます」
「それがいいんじゃないの?」
棚上げ用件が、また増えた。
団長さんが来るまで、まだ時間があったので、久しぶりに竪琴を出した。
「まあ、また聴かせてもらえるのね? うれしいわぁ」
「ほんとうに、いつきいてもいい曲ばかりで」
「また、新しい曲はないんですか?」
従業員さんたちが、口々に喜んでいる。
「え〜と、こんなのはどうでしょう」
森のお化けと女の子達の冒険物語。
「あら、楽しいわぁ」
「仕事もはかどりそう」
なんて会話をしているところに、三人連れがやってきた。おや。
「またまた、偶然だねぇ」
声をかけられてびっくりしたのは、学園の三人組だ。
「あ!」
「こんなところに!」
「失礼ねぇ。こんなところ、だなんて」
「「「! すみません」」」
「アルちゃん、お知り合い?」
苦笑して三人を見る。
「森で怪我したところを助けてもらいました」
プンタレッラが、自分で言った。おや、いいの?
「知ってるやつは知ってるし」
「恥ずかしくても、自分のやったことだしな」
「あらあら、いい子達ねぇ。今日は、何の用なのかしら?」
アンゼリカさん? 笑顔が怖いですよ。
「いや、仕事の先輩が「急用だ!」とかいって、いなくなったもんだから、どうしようかって相談をしていたんだ」
「前にも、数日いなくなることがあってね」
「だけど、勝手に仕事を引き受けるわけにもいかないでしょう?」
「そーなんだけどなー」
君たち! もう少し危機意識持とうよ!
そこに、
「お待たせしましたな、って失礼! 客人でしたか!」
団長さんが走ってきた。
「ヴァンさんがまだですから。こちらはちょっとした知り合いです」
「何か、ご用でしたか?」
今度は、いきなり侍従さんが声をかける。だからね、いるのは知ってたけどさ、声をかけるタイミングというものが〜っ
「おう、やっと終わったぜ、ってどうしたんだ?」
学生三人は、団長さん以下が次々と自分に声をかけるのを見て、硬直している。ちょうどいい、アンゼリカさんから、引き剥がさなくっちゃ。
「混ぜてやってくださいな」
早めの時間だったけど、お酒もつまみもじゃんじゃん注文する。アンゼリカさんは、大忙し。ほっ、一安心。
自分が紹介しようとする前に、団長さん達が先に自己紹介してしまった。ギルドマスター、騎士団長、王宮付き侍従という、そうそうたる顔ぶれに、学生たちは恐慌状態に陥っている。名前を言うのが精一杯。せめて、学生たちが先に挨拶できていれば、といっても後の祭り。
「・・・仕事を始めれば、遅かれ早かれ、こういう場面になることもあるって」
と、慰めるが聞いちゃいない。
「と、討伐の、こう、功労者、で」
「そうだぞ」
「王宮にも、たくさん、知り合いが、いて」
「そうですぞ!」
「まじゅつ、も、すごいのが、つかえるって」
「まったくもってすばらしいものでした!」
三者三様に、学生達にとどめを刺していく。
そうか! 扇動事件で目をつけられてたか。しまった。帰しておけばヨカッタ・・・。
目で、「ごめん。失敗した」と謝っておく。
それに気づいて、少し力が抜けたようだ。
「・・・いえ、僕らこそ間違ってました。あの時は、済みませんでした!」
カーボロネロが、立ち上がって頭を下げる。残る二人もあわててそれに習う。
「「済みませんでした!」」
大人三人は、それをみて引き下がる。
「わかりゃいんだよ」
「どこで、知り合ったのかな?」
「最近の学園はどんな様子ですか?」
それぞれに声をかけてくれる。おお、おとなじゃん。
話はそれぞれに任せて、自分は竪琴に逃げる。自分の自慢話(それも、全然実感もないやつ)を人から延々と聴かされるのは、もう飽きた。
あれこれ、聞かされているうちに、学生達の目もだんだんとキラキラとしてくる。お〜い! ちょっと! 乗せられるのが早すぎ! そんなんだから、うわさなんかに踊らされるんだって。ちょいと、聞いてよ!
・・・だれも、聞いちゃくれない。
そのうちに、乾杯まで始めてしまった。
誰か、自分の話も聞いてよ!
誰が誰とお友達?
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学園三人組の先輩たちは、主人公が街に来たのを知って、雲隠れしている。




