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お友達

226


 ギルドの方は特に用件はないとのことだったので、今回は早めにまーてんに戻る。


 種弾の補充や薫製果実を作りながら、まだ魔術のことを考える。

 彼らは結界を大きくしたい。自分は小さくしたい。矛盾しているようだが、「規模」を扱うという点では一致している。自分の術弾を彼らが使用できないとなれば、やはり魔法陣に手を入れるしかない。


 ペルラさんたちが「起動できなかった」魔法陣は、『防陣』のような結界をつくろうとして、同じような効果を持つ他の魔法陣から、抜き書きして組み合わせてみたものだ。

 魔法陣の記述を完全に解読してはいない。そんな時間もないし。教授がやっているのも同じ方法だろう。

 自分で起動できない限り、街の魔術師に協力してもらうしかない、か。


 それから、いくつもの魔法陣を書き起こしては、王宮に実験を手伝ってもらった。そのうち、ペルラさんから「申し訳ありません! 忙しくなりましてお手伝いすることができません!」と泣きが入った。自分の実験に付合っているうちに、いろいろと思うところができたらしい。


 ん〜、困った。


 自分の研究の方は、少しずつ成果が見えてきている。なぜか、記述を増やすほど、規模の調整がしやすくなった。魔法陣では逆なのに。

 まあ、専門家じゃないし。こっちは自分が使えればいいか。


 そう、魔法陣では、記述を減らせば規模が広げられることがわかってきた。ただ、減らしすぎると、効果が単純すぎて使い物にならない。そのへんの兼ね合いをつめていきたいんだけど。



「こんにちわ。変わりありませんか〜」


 いつものように、ローデンのギルドハウスの受付のお姉さんに挨拶する。ほんと、いつ見ても綺麗なんだよね。


「いらっしゃいませ、顧問様。ぼんくらなら、奥にいますよ」


「・・・いい加減、その呼び方、やめてあげましょうよ」


 ついでに、自分の呼び方も変えて欲しい。


「ぽんこつの方がいいですか?」


「なんか、ここのギルドって、ギルドマスターの扱いが酷くない?」


「ちゃんと働いてくれるなら、考えます」


「・・・それを言ったら、自分はどうなるの?」


 ほぼ、二ヶ月に一回しか顔を出してないし。


「「「姉御は姉御ですから!」」」

「顧問になられた方は、働かないのが当たり前なんです!」


 受け付け周りにいたハンター達まで唱和する。

 ヴァンさんが、かわいそうになってきた。


「じ、じゃぁ、執務室にいきますね」


「「「はい!」」」 


 執務室には、トリーロさんだけでなくヴァンさんもきていた。


「もう、ずいぶん立つのに、あの呼び方、治らないんですね」


「・・・それだけ、みんなショックだったんだよ」


「だーかーらーっ、ただの猟師がどうして注目されるというか、大騒ぎされるというか!」


「お嬢だからな」

「顧問殿ですから!」


 この街の人の思考回路は、未だによくわかんない!


「もう、いいです。またしばらくこないから、その連絡にきただけですから!」


「お嬢、先、頼んでいいか?」


「?」


「ロックアントだろ」


「よく覚えてますね」


「俺は、ギルドマスターだぞ?」


「・・・そういえばそうでしたね」


 いけない、お姉さんたちの呼び方に、慣らされてしまった。


「ひでえ!」


「すみません、ヴァンさん。冗談です。さっきの話なら、去年と同じ数なら多分大丈夫です」


「頼むわ」


「騎士団はどうするんでしょう?」


「・・・団長も訊いといてやれよ」


「手紙でいいでしょ?」


「王宮じゃ、しにくい話もあるだろうしな」


 ってもしかして。


「・・・あれ、聞いたんですか?」


「いや、騎士どもが率先して吹聴してたぞ。「さすが賢者殿だ!」とかなんとか」


 うわぁ。体育会系、まっしぐら。あれから数回、訓練に付合っちゃったら、なんというか、懐かれた。


「おかげで、団長の株が上がったり下がったり」


「? どっちなんです?」


「だからさ」


 わからん。


「じゃ、今日でないといけない、ってこともないですよね? 一度[森の子馬亭]にいって、手紙でも出して返事を待って、それからでいいですか?」


「お手紙でしたら、ここで書いていかれてはいかがでしょうか? 表に侍従殿が来ておられますし」


「・・・早いな〜」


「頼んじまえよ。ついでに、久しぶりに一杯どうだ?」


「団長さんも?」


「だから、誘ってやれって」


 さらさらっと手紙を書いて、トリーロさんに渡す。いや、直接侍従さんに渡すっていったんだけど、取り上げられた。ぶぅ。


「じゃあ、あとでな」


「・・・はぁい」


「なんだよ、その気の抜けた声は」


「王宮の自分の扱い方がまだ納得できない〜」


「世話してくれるっていってるんだ。ほっとけほっとけ」


「ヴァンさ〜ん!」


 そのまま、ギルドハウスから放り出された。



 [森の子馬亭]に、王宮から返事と手紙が届いた。団長さんと殿下からだ。団長さんの「すぐに伺います!」は、いいとして。


「また、難しい顔をしちゃって〜」


「アンゼリカさん、これなんですけど、どうしましょう」


 すっかり、アンゼリカさんに相談する癖がついてしまった。申し訳ないとは思うが、頼りになるんだもん。


「あら、王太子殿下からかしら」


「相談に乗ってほしいって」


「無視しなさい」


 命令形、ですか。


「具体的な内容も書いてあるので、無碍にするのもどうかと」


「読んでもいいかしら?」


「お願いします」


 今までも、さんざん読んでたと思うんですが。それはおいといて。


 内容は、自分の実験に付合わせてきた魔術師さん達が、半分うつ病っぽくなってしまったので、これをなんとかできないか、という「お願い」だ。


 しかしなぁ。


 自ら志願して実験に付合ってきた人たちなのだ。それを「なんとか」といわれても、ねぇ。


「もう少し、実験の成果がみえてくれば、「こんな実験に協力できてたんだ!」とかなんとかいって、自力で復活するとは思うんですが」


「どうしたの?」


「だから、王宮の魔術師さん達にはこれ以上協力は頼めないんです」


「あらまあ、そういうこと」


 ペルラさんの自主避難だけでなく、王宮として協力「できない」とさりげなく断ってきたわけだ。


「組合は?」


「最初が最初だし、誰も手を挙げてくれるとは思えません」


「・・・それもそうね」


「まあ、焦ってもしょうがないですね。実験はしばらく棚上げにしときます」


「それがいいんじゃないの?」


 棚上げ用件が、また増えた。



 団長さんが来るまで、まだ時間があったので、久しぶりに竪琴を出した。


「まあ、また聴かせてもらえるのね? うれしいわぁ」

「ほんとうに、いつきいてもいい曲ばかりで」

「また、新しい曲はないんですか?」


 従業員さんたちが、口々に喜んでいる。


「え〜と、こんなのはどうでしょう」


 森のお化けと女の子達の冒険物語。


「あら、楽しいわぁ」

「仕事もはかどりそう」


 なんて会話をしているところに、三人連れがやってきた。おや。


「またまた、偶然だねぇ」


 声をかけられてびっくりしたのは、学園の三人組だ。


「あ!」

「こんなところに!」


「失礼ねぇ。こんなところ、だなんて」


「「「! すみません」」」


「アルちゃん、お知り合い?」


 苦笑して三人を見る。


「森で怪我したところを助けてもらいました」


 プンタレッラが、自分で言った。おや、いいの?


「知ってるやつは知ってるし」

「恥ずかしくても、自分のやったことだしな」


「あらあら、いい子達ねぇ。今日は、何の用なのかしら?」


 アンゼリカさん? 笑顔が怖いですよ。


「いや、仕事の先輩が「急用だ!」とかいって、いなくなったもんだから、どうしようかって相談をしていたんだ」

「前にも、数日いなくなることがあってね」

「だけど、勝手に仕事を引き受けるわけにもいかないでしょう?」

「そーなんだけどなー」


 君たち! もう少し危機意識持とうよ!


 そこに、


「お待たせしましたな、って失礼! 客人でしたか!」


 団長さんが走ってきた。


「ヴァンさんがまだですから。こちらはちょっとした知り合いです」


「何か、ご用でしたか?」


 今度は、いきなり侍従さんが声をかける。だからね、いるのは知ってたけどさ、声をかけるタイミングというものが〜っ


「おう、やっと終わったぜ、ってどうしたんだ?」


 学生三人は、団長さん以下が次々と自分に声をかけるのを見て、硬直している。ちょうどいい、アンゼリカさんから、引き剥がさなくっちゃ。


「混ぜてやってくださいな」


 早めの時間だったけど、お酒もつまみもじゃんじゃん注文する。アンゼリカさんは、大忙し。ほっ、一安心。

 

 

 自分が紹介しようとする前に、団長さん達が先に自己紹介してしまった。ギルドマスター、騎士団長、王宮付き侍従という、そうそうたる顔ぶれに、学生たちは恐慌状態に陥っている。名前を言うのが精一杯。せめて、学生たちが先に挨拶できていれば、といっても後の祭り。


「・・・仕事を始めれば、遅かれ早かれ、こういう場面になることもあるって」


 と、慰めるが聞いちゃいない。


「と、討伐の、こう、功労者、で」

「そうだぞ」

「王宮にも、たくさん、知り合いが、いて」

「そうですぞ!」

「まじゅつ、も、すごいのが、つかえるって」

「まったくもってすばらしいものでした!」


 三者三様に、学生達にとどめを刺していく。


 そうか! 扇動事件で目をつけられてたか。しまった。帰しておけばヨカッタ・・・。


 目で、「ごめん。失敗した」と謝っておく。


 それに気づいて、少し力が抜けたようだ。


「・・・いえ、僕らこそ間違ってました。あの時は、済みませんでした!」


 カーボロネロが、立ち上がって頭を下げる。残る二人もあわててそれに習う。


「「済みませんでした!」」


 大人三人は、それをみて引き下がる。


「わかりゃいんだよ」

「どこで、知り合ったのかな?」

「最近の学園はどんな様子ですか?」


 それぞれに声をかけてくれる。おお、おとなじゃん。


 話はそれぞれに任せて、自分は竪琴に逃げる。自分の自慢話(それも、全然実感もないやつ)を人から延々と聴かされるのは、もう飽きた。


 あれこれ、聞かされているうちに、学生達の目もだんだんとキラキラとしてくる。お〜い! ちょっと! 乗せられるのが早すぎ! そんなんだから、うわさなんかに踊らされるんだって。ちょいと、聞いてよ!


 ・・・だれも、聞いちゃくれない。


 そのうちに、乾杯まで始めてしまった。


 誰か、自分の話も聞いてよ!

 誰が誰とお友達?


 #######


 学園三人組の先輩たちは、主人公が街に来たのを知って、雲隠れしている。

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