表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/192

苦悩

222


 迷子事件その二から十日後、ローデンのギルドハウスに向かった。迷子に会う前に、何しに行こうとしていたのか、ようやく思い出したのだ。・・・歳かな?


「こんにちは〜」


 窓口のお姉さん達に、声をかける。


「! お久しぶりです。もう、お体は大丈夫なんですか?」


「あらら、お姉さん達、誰から聞いたんですか?」


「「うちのぽんこつマスターからです!」」


 ・・・その形容詞は、何?


「ええと、森に帰ったら、すっきりさっぱりよくなりました! なんか、心配かけたような、心配させちゃったと言うか・・・」


「だって、うちの大事な顧問様ですから」

「お顔も明るくなられたようで、ほんとうによかったです」


「う、あ、はい。アリガトウゴザイマス」


「「はい!」」


 お姉さん達の笑顔の方がまぶしいです。


「し、執務室にいきますね?」


「はい」「ぽんこつにもれんらくしてきます!」


 とうとう、敬称も省かれてしまった。


 鍵を開けて執務室に入る。机の上の書類は少ない。う〜む、あんだけ無精していたのに、この量はどうしたことだ?


「! 顧問殿!」


「あ、トリーロさん、またまたご無沙汰です」


「〜〜〜お元気になられたようで、ほんとうに、ヨカッタ・・・」


 ぼろぼろ泣き出した。って、なんでそこで泣く!


 ソファーに座らせて、お茶を入れる。ここには、湯沸かしの魔道具ポットがあるのだ。かなり高価らしい。贅沢だが、この場では使わせてもらう。


「す、すみません〜〜〜」


「いいから、おちついて。ていうか、泣くほどのことでもないでしょ?」


「・・・お、お嬢?」


 そこに、ヴァンさんがきた。おそるおそる部屋の中を覗き込んでいる。


「ヴァンさん。こんにちは」


 またまた、土下座を始める。もういいってのに。


「女将から言われてな。なんか、お嬢はなんでも出来そうにほいほいやるから、こっちも調子に乗ってた所があった、と、あとから気づいてな。そもそも、来たばっかりでいきなり押し付けられた役職だってのに・・・」


「はい、そこまで!」


「でもよぅ」


「本当にいやだったら、頻繁に森から出てくるわけないでしょ?」


 そういうことだ。ローデンの王宮から「街にいてもいい」とお墨付きを貰っただけでなく、なにかしらのつながりできたわけだから。ささやかな縁だけど、大事にしたい。

 と思ってなければ、こんな面倒ばっかり起こるところに自分から来るわけない。


「・・・お嬢は、なんていうか、もう」


 ヴァンさんは、まじまじと自分の顔を見たあと、大きくため息をついた。なんなの? 


「なあ、トリーロ」

「なんです?」

「お嬢だよなぁ」

「そうですよね」


 だから、二人で通じ合っちゃって、なんなの?!


「えっへん! けっこう留守にしてたわけですが! なにか連絡とかあります?」


「いきなりそれかい」


 来る理由はそれだもん。


「学園からだけですね」


「学園? 研究員の話?」


「そうです。それと、なんか、感謝状が来てるんですが」


「感謝状? なんだ、それは?」


 内容を読んで、納得した。


「う〜ん。内緒ですよ? 十日ぐらい前に、学園の学生を森で保護しまして、街門近くまで送ってきたんです。それの件ですね」


「また、迷子か!」


「そのまま一緒に街に入ったら、また騒動になりそうだったので、時間をおいたんですけど」


「お嬢はよく引っ掛けるよな。そういうの」


「引っ掛けてるわけじゃありません。それに、ガレンさん達と知り合ったのも似たり寄ったりですよ?」


「・・・そうか」

「顧問殿らしいですね」


 らしい、なんて言われるのは心外だけど!


「学園長と教授から、もう一度だけ話し合ってほしい、とありました」


「ギルド宛?」


「あと[森の子馬亭]にも、手紙が送られているそうです」


「なんでそんな所に」


「女将さんから、逐一報告が届いてまして。「次はありませんから」の忠告付きで返事を出したそうです」


「・・・う、あ、そうですか」


「顔、出しとけよ? 頼むから!」


「しかし、殿下経由じゃないんですね」


「「顧問殿に無理はさせない」という点で、王宮は完全に信用がおけないから、と、全部突っぱねているそうです」


「アンゼリカさんが?」


「はい」


 アンゼリカさん、やっぱり最強。


「それじゃ、これから、いってきましょうか」


「そうしてください」

「ギルド関係の細かい話は、トリーロがまとめてくれた。宿で読んでやってくれ」


「ここで読まなくてもいいんですか?」


「はやく、宿に行ってくれ! 頼むから!」

「何かあれば、手紙で指示してください」


「え? 直接話した方が早いでしょ?」


「それだと、顧問殿がまたすすんでいろいろ始めてしまうでしょう?」


「それも?」


「女将さんの指示です」


「・・・そですか」


 もう、過保護にもほどがありますよ? アンゼリカさん!


「さ、行ってください」


「わかりましたぁ〜」


 ギルドハウスをあとにした。



 [森の子馬亭]でも大騒ぎになるか! と覚悟していったが、ふつうに「おかえりなさい」を言われただけだった。


「アンゼリカさん?」


「なにかしら?」


「何も言わないんですね」


「ちゃんと帰ってきてくれたんだもの。それだけで十分よ?」


 うわぁ、なんか気恥ずかしいというか、むずがゆいというか。


 その夜は、アンゼリカさんのおすすめメニューをお腹いっぱい頂いた。



 翌朝。


「アルちゃん!」


 なぜか、フェンさんが泣きついてきた。


「お願い! 相談に乗って!」


「あら、フェン。珍しいわね」


「母さん! アルちゃんに無理はさせないから! お願い!!」


「アルちゃん? フェンはこう言っているんだけど?」


 お二人にはいろいろお世話になっているからね。


「今からでいいですか?」


「! ありがとう!」


 すぐさま、すごい勢いでフェンさんのお店に引っ張られていった。なんだなんだ?


 「準備中」の看板がぶら下がった店を通り抜けて、奥の縫製室に入る。またも、従業員のお姉さん達がそろって待っていた。今度は何事?


「あのね?」


「はい?」


「「「「服を作らせて!」」」」


「いきなりなんですか! って、服?」


「そう、アルちゃんの生地で、服を作らせてほしいの」


「前に作ってもらった服、すごくいいですよ?」


「そうじゃなくてね?」


 お姉さん達の一人が説明し始めた。アレで自分の服を作ったあと、他の依頼品とかの出来が見違えるほどよくなって、お客さんにも喜ばれたそうだ。その評価をうけて、お姉さん達もさらに腕を上げようとがんばった。のだが、


「あの時ほどの実感というか、ここがよくてここがわるかった!みたいなはっきりとしたことがわからなくなっちゃって。確かめようにも、布地も道具もないし」

「お願いします! 秘密は絶対に他所に漏らしません!」

「わがままだとわかっているけど、このままだと、自分の腕に自信が持てなくなっちゃうの!」


 つまり、店の技術力を確かめるために、もう一度アレに挑戦したい、と。


「わかりましたから! 生地と裁縫道具と。これでいいですか?」


「新作の生地があればそれも!」


 フェンさん、あなたも千里眼ですか?

 またも、あるだけの生地をならべて、何を何枚作るとか数え上げる所から始まった。


「そんなに要らないって、言ってるじゃないですか!」


「いろいろなテクニックを確かめるためよ!」

「大丈夫です! デザインは前回と同じくシンプル路線で決まってます!」


「そうじゃなくて! 多過ぎ、多すぎますって!」


「私たちを、助けると思って!」


「論点が違います!」


 裁縫道具の借料とかも含めて、前回以上の怒濤の交渉となり、話が決まるのに夕方までかかった。


「ほんとに、アルちゃんも、強情よ、ね」


「みなさん、に、きたえられ、ました、から」


 そろって、息も絶え絶えな状態だ。


「今日は、とにかく、英気を、養わなくちゃ」

「「「「賛成!」」」」


 そして、[森の子馬亭]に繰り出し、多いに食べて飲んだ。

 そうか、ああいう交渉を毎回やっていれば、これだけ食べとかないと身が持たないよね。よーく、わかりました。

 フェン達があんな過激な交渉をするのは、主人公だけですってば。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ